ダンジョン魔法少女、ただし子持ち 作:鉄板フライ
◇ ◇ ◇
一度協会本部に戻り、ドローンを引き渡したらひとまず今日の業務は終了という運びになった。
ブレイクについてはまた調査するとも。
あと、ステッキについても。今度詳しく話を聞きたいと言われた。
「未里花、ただいまー」
いつもよりも少しばかり早い帰宅。
日が完全には落ち切っていないうちに帰れたのは珍しい。
「ママっ!」
私の声を聴くなり、リビングの方から声が聞こえる。
愛しい愛しい、私の一人娘の声が。
「おかえりなさい!」
元気いっぱいの笑顔を見せてくれれば、それだけで今日の疲れは吹き飛ぶようだ。
そのまま、靴を脱ぐまで待ってから、ぼふんと抱き着いてくれる。
あぁ~。なんて可愛いんだ私の娘は。
あれこれ色々あったけれど、全てを許せる気持ちになれる。
「ちゃんとシッターさんのお話聞けた?」
「うん! いい子でいたよ!」
「お昼寝もした?」
「ちゃんとした!」
「よーし、いい子いい子」
「えへへ……」
そっと抱きしめれば、子供特有の高い体温の温もりが伝わってくる。
さらさらの髪の毛も、撫でるとするりと指が通る。
本当に愛おしい。
「シッターさんは?」
「こちらに」
「わあっ!」
びっくりした。未里花に癒されてたら、もうすでに帰宅準備を済ませたシッターさんが立っていた。
あれ、私が頼んだ人じゃない……。
「会長からお聞きとは思いますが……」
「ああ、なるほど」
協会側が派遣してくれたシッターさんってことなのね。
ううん。でも前のシッターさんとの契約とか諸々残ってた気がするんだけれど……。
そこら辺をぬかる狸爺じゃないし、お金積んで黙らせたんだろうなぁ。
協会はとにかく金だけはあるからね。金だけは。
「ママ今日早かった!」
「そうだねぇ。お仕事早く終わったんだぁ」
「遊ぼ! 遊ぼ!」
さっきまでずっと遊んでいたのか、テンションが最大値だ。
これは……しばらく振り回されちゃいそうかな?
でも夜中はきっちり眠ってくれそう。
「では、私はこれで」
「はい。ありがとうございました」
「今後は私がシッターとして対応しますので、お見知りおきを」
シッターさんは名前も名乗らずにそのまま出て行ってしまった。
うーん、仕事人間っていう感じの人。
協会の人たちってそういう人多い印象がある。
探索者は荒くれ……っていうと聞こえが悪いけれど、良くも悪くも人との繋がり商売だから、付き合いが良い人が多いんだよね。
逆に協会の人たちはそんな人たちを冷静に管理しないといけないから、そうなるんだろうね。
会長は逆に現場上がりだからフレンドリーだけど。
さて、それじゃあ遊ぼうか。
遊ぶためにリビングに移動して、座る。
と、したところでスマホが鳴った。
「……っとごめんね。遊ぶ前にお仕事の連絡だ」
「えー?」
こっちは……成瀬ミルナとしてのスマホだ。
成瀬ミルナの正体が久留実理子だとバレないように、会長から成瀬用のスマホを貰った。
そっちに、連絡が入ってきている。
誰からだろう。
あっ、兎島ちゃんからだ。
メンバーチャットに連絡が入ってる。
「……嘘でしょ?」
「ママ?」
可愛い未里花の声も一瞬聞こえなくなるほど、その知らせは衝撃的だった。
メッセージは短く一文。
『さっそく私たちのPVが出たみたいです!』
録画用ドローンで撮った動画を編集した動画が、アップロードされていると。
URLが張り付けられていた。
早すぎるでしょ。
編集ってそんな簡単にできるものなの?
大変なイメージあるんだけれど。
実際にURLを開いてみる。
動画は誰でも見られる動画サイトに、協会公式のアカウントで投稿されていた。
タイトルは――新成、魔法少女探索者グループ!
「……あははは」
「ママ、大丈夫?」
「ううん、大丈夫だよ。ありがとう」
ついに、私の恥が全世界に公開されたというわけか。
ざっくりと動画を流してみる。
満遍なく、私たちの戦闘が流れているようだ。
活躍シーンなんかはアップされて、それぞれのメンバーが頑張っている様がよく映し出されている。
あの地味な戦いで、よくもまあこれだけ演出を盛れるものだね……。
「ん?」
ちょっと待った。ブレイクの亀裂が見えたんだけれど。
もしかして、いや、嘘だよね?
『き、煌めく魔法は正義の証!』
……。
ふぅ。
ぬわあああああああああああああああ!
「ママ、痛い痛い?」
「ううん、大丈夫、大丈夫だから」
「本当?」
心配気に覗き込んでくれる未里花、本当に愛おしい。
じゃなくて、よりにもよってドアップで、私のあの魔法詠唱シーンがPVに使われている。
そして、魔法でブレイク現象を終結させたところで、後日詳細の動画を公開という煽りで終わっていた。
嘘でしょ。私の恥が、こんな風に全面的に全世界に……?
再生数は……現時点で五万越え!? まだ投稿されて三十分経ってないのに!?
コメント欄は大盛り上がりだ。
あの魔法少女誰だよ。
魔法と剣術両用の探索者なんていたか?
他の四人はスクールで見おぼえある。あの強い子誰?
などなど。
「わあ! 魔法少女さんだ!」
「未里花!?」
相手されなくて退屈だったのか、気がつけば私の横からスマホを覗き込んできていた。
まずい。本当にまずい。
こんなこと、未里花に知られたら生きていけない。
お前の母さん魔法少女だなんて、虐めの原因にされてしまう。
「ママ、魔法少女さんのお仕事してるの?」
「いや、その、ちょっとね。知り合いがね」
「おおぉー!」
すごいすごいと部屋の中を駆け巡る。
この子も魔法少女好きなんだよなぁ。
衣装とかも結構買ってるし、玩具も色々とある。
残念なことに、私にはあまり違いは判らないけれど。
おかげで毎回、違うの! って言いながら詳しく説明してもらう羽目になっている。
「ママ! 私魔法少女さんに会いたい!」
「会うのは難しいかなぁ。ごめんね」
「むう、どうしたら会えるの?」
未里花はまだ三歳だ。
協会に連れていくのは……ちょっと憚られる。
「大きくなったら、きっと会えるよ」
「わかった! 私も探索者になる!」
「!?」
想定外の回答が飛んできた。
いや、娘の進路をどうこうするつもりはないけれども。
ないけれども!
魔法少女衣装の探索者会いたさで探索者志望になるとは思わなかった。
会長が目指していた効果がこれ……?
「そして、私も魔法少女さんになるの!」
「探索者になったからといって、魔法少女になれるわけじゃないんだよ」
「ええー! じゃあどうやったら魔法少女さんになれるの!」
……件のステッキは一応持って帰ってきている。
許可が出たのもそうだし、万が一があった時のためだ。
少し考えたのだけれど、私が使えば若返るのだから、ひょっとしたら子供が使えば年を取るんじゃないか?
いやいや、流石に危なすぎる。
あれだけの力を持ったダンジョン産デバイスを未里花に触らせるわけにはいかない。
……複製品、もらえないかだけ聞いてこようかな。
あれなら衣装変えるだけっぽいし。
「今度、協会の人にステッキを貰えないか聞いてきてあげるね」
「本当っ! 約束だからね!」
「うん、約束」
約束を取り付けたら上機嫌になったのか、今度は先ほどの動画を食い入るように見るようになってしまった。
未里花。それは成瀬用のスマホだから、こっちつかってね。
ってことで、別のスマホを渡す。
動画を見られる分には、いや、凄い恥ずかしいけれど。
バレなければいいんだよ。と、自分に言い聞かせることにした。
――そんな中、私が気が付いていないうちに。
コメントが一つついていた。
『この剣筋見覚えあるぞ。誰だっけ、女性のタイトルホルダーだった気がする』