ダンジョン魔法少女、ただし子持ち 作:鉄板フライ
◇ ◇ ◇
「これで良し、と」
動画にコメントを残したことで、ひとまず満足する。
注目されてるのか、さっそくいいねが集まり始めた。
「本当にそれで情報が集まるの?」
「当たり前でしょ」
比嘉を誘って、カフェで二人話す。
兎島と束村は誘わなかった。
あの二人はもう、成瀬をリーダーとして認めてしまっているから。
「嘘でも気のせいでもいいのよ。成瀬に注目してもらうのが目的なんだから」
ネットの集合知はすごい。
今や、SNSで何か間違ったことを言えば、凄い勢いで指摘が飛んでくる時代だから。
なので、一つの呼び水があれば、きっと気になった誰かが調べてくれる。
私のやるべきことは、そのきっかけを作ること。
「それに、まるっきり嘘ってわけじゃないからね」
「……日比谷の憧れの人だっけ?」
「伝説の人よ! 知らないなんて信じられない!」
日本最古参探索者、久留実理子さん。
現在探索者の年齢は十五歳って定められているのは、ダンジョンができた当時に潜っていた最年少――理子さんが十五歳だったから。
それを踏襲しているだけって言うのは、少し調べればわかること。
スクールでは別のそれっぽいことを並べ立ててたけれど、私からしてみれば子供騙しだった。
だって、私が探索者になろうって思ったのは……あの人に憧れたからだもん。
「ダンジョンができた当時から活躍している人なんだから」
「ふーん」
比嘉は大して興味なさそうだ。
それはそう。この子はお金のために探索者志望になったからね。
人の事に興味なんてない。
「で、その人が今回のにどう関係してるっていうの?」
ドライだなぁ。
それが比嘉の良いところでもある。
うるさくなく、いつも冷静に物事を見れる。
兎島は全肯定botだし、束村はノリと勢いでかなり適当だから。
「あの成瀬の剣筋。凄いよく似てるんだよね、理子さんに」
何百回も見たから覚えてる。
なんなら、スクールの教材にもされてるぐらい有名な人だよ理子さんは。
ダンジョン内の立ち回りから何まで、本当に完璧なんだから。
しかも女性! 男ばっかりの探索者業で、初の女性探索者で有名人。
これはもう推さないのが無理ってものでしょ!
「で、もしもその理子さんの関係者だったらどうするの」
「悔しい!」
成瀬が理子さんの弟子だった場合、純粋に悔しい。
どういう伝手で教えてもらったのか気になるし、スクールを通してない縁故採用の可能性が高いから妬ましい。
だから、リーダーとして認めたくない。
純粋にムカつくから。
「ただの嫉妬じゃん」
「そうだよ?」
「うわ、認めた。性質悪いタイプのオタクだ」
性質が悪いっていうのは自覚している。
本当に、これはただの嫉妬心だ。
「でも、実力は確かだよ」
「それは、そう」
私たちと成瀬の実力差は明確だった。
あんなのを見せられたら、認めざるを得ない。
Cクラスだって紹介されてたけれど、正直Aでも全然おかしくないと思う。
あれは実績が足りないからこそCクラスに認定されているタイプの人だ。
「むかつくぅ~」
「ずっとそれ言ってる」
「だって、要するに私たちはお飾りでいいって言われてるようなものなんだよ!」
探索者として、今回の結果を見れば協会の目論見は分かりきっている。
実績は成瀬がいれば何とかなる。だから、私たちは魔法少女アイドルとして愛想を振りまいていればいい。
完全に、馬鹿にされている。
「私は楽にお金が入るならそれでいいけど」
「比嘉はそうだろうね。でも、私はプライドが許さない」
スクールでは常に上位の成績を維持してきた。
模範的な行動、ダンジョン内での判断基準。
全て、リーダーとして他の人を導くために練習してきたこと。
理子さんもパーティーリーダーを務めてることが多かった。
だから、私も当然リーダーを目指していたのに……。
「なのにさぁ! あんなポッと出、許せるわけがないでしょ!」
「はいはい」
比嘉はもう、いつもの癇癪が始まったみたいな雰囲気になっている。
スクールに入った時からの付き合いだから、もうわかる。
完全に、面倒くさがり始めた。
「それで? 動画に巻いた種はどう作用してるの」
「待ってね……。うん、SNSでやっぱり取り上げられてる」
成瀬ミルナについて。
既にトレンド入りもしていて、様々な憶測が広がっている。
その中には与太話が多い。
彼女は自分の娘だの、実は会長の隠し子だの、なんだの……。
石が多めな玉石混合の情報の中に、一つだけそれらしきものを見つけた。
あの出力、ダンジョン産デバイス使ってるんじゃね? という。
ささやかな疑問提起の声。
「……比嘉」
「なに」
「私たちが使っている変身デバイス。あれって、確かダンジョン産デバイスのコピー品だよね」
「そうだね」
衣装を変える機能だけを抽出した、変身ステッキ。
今後グッズとして売り出すことも視野に入れてると、説明を受けている。
正直恥ずかしいけれど、知名度を上げるためには必要なことだと分かってる。
「そのダンジョン産デバイス、オリジナルを成瀬が持ってるとしたら……?」
「……んー。可能性はあると思う」
ダンジョン産デバイスは、現代では再現できない能力を持っているものが多い。
例えば、劣化コピーが衣装を変化させるだけならば。
オリジナルは姿そのものを変化させることも可能なのでは?
「……許せない!」
つまり、中身はBクラスかAクラスの人が、見た目を偽って私たちの仲間面をしている可能性があるっていうことだ。
それも、年齢も同年代とは限らない。
これなら、成瀬ミルナって名前を聞いたことが無いのも納得できる。
「でもさ、仮に成瀬さんがそうだとして」
「そうだとして?」
「会長とグルなのは、確実じゃない?」
「うっ」
最大の問題点がそれだ。
何かあろうとも、会長に握りつぶされる可能性が高い。
事前に、今回のプロジェクトは失敗が許されないことは再三聞かされている。
だからこそ志願したってのもある。
注目が集まるプロジェクトで実力を示せば、誰も私を無視できなくなるから。
「協会ぐるみでもみ消されると思うなー、私」
「うぐぐ……」
ぐうの音も出ない正論だ。
結局探索者は探索者協会の意向には公には逆らえない。
大規模なギルド所属ならともかく、今の私たちは協会直属だ。
「だからって、比嘉も黙ってるつもりはないんでしょ?」
「そりゃね? アイドルってなると、センターの方がお金はもらえるでしょ」
「協会所属だからそこらへんはどうなんだろう……」
アイドルについて詳しいわけじゃないからね……。
「というか、比嘉はアイドルで稼ぐつもりなの?」
「んー、探索者で稼ぐには私は大した才能ないからね」
今後成長を続けたとしても、それこそCクラス探索者が限界だろうと。
比嘉は早いうちから見切りをつけているらしい。
確かに探索者は才能の世界だ。
モンスターを倒すと魔素と呼ばれるものを吸収して強くなれるらしいけれど、それでも人によって成長限界は違う。
「その点、日比谷は才能あるんだから頑張りなよ」
「当たり前よ。私は絶対にAクラスまで上り詰めてみせるんだから」
Sクラスは人外の域だ。
目指す目指さないの土俵にはない。
才能がありすぎる人、Sクラスになれる人は最初から分かる。
私にそこまでの才能はない。
「しかし、本当に何者なんだろうねぇ、成瀬」
「冷静に考えてみれば同年代ってことだし、本当に聞いたことが無いのが不思議……おっ」
「どうした?」
「また面白い書き込みがあった」
久留実理子さんに関する情報だ。
書き込みの内容はこう。
そういえば、あの人娘と夫がいたよな。
夫に剣教えてたし、そっちの関係者って節もあるんじゃね?
……最悪の考えが浮かんできた。
もしかして、あの成瀬って人。
理子さんの旦那さんなんじゃ……?
だとすれば、男の人が混ざってるってこと?
より一層、成瀬の正体を確かめなければ。