ダンジョン魔法少女、ただし子持ち 作:鉄板フライ
やばい。この誤解を解くのは非常に困難だ。
前提として、私の正体は明かせない。
でも、私の夫が行方不明だって情報は調べても出てこないはず。
私が彼ではないという証明ができないのだ。
「ほら、黙り込んで。図星ですか?」
勝ち誇った様子の日比谷ちゃん。
いや、待った。
日比谷ちゃんはどうしてそう思ったんだろう。
剣筋を見て判断したっていうなら、私を、久留実理子を除外する理由がない。
「……それで、どうして私がその人だという事になるの?」
「だから、あの人の剣技を使う人は限られてるんですって」
日比谷ちゃんは呆れたように腰に手を当てる。
あの人と濁してはいるけれど。
ここで指し示しているのは、間違いなく私の事だろう。
……日比谷ちゃんが自分でこの考えにたどり着いたのかな。
「私は成瀬ミルナであって、忠人さん? ではないよ」
「どうだか。偽名なんて幾らでも使えますからね」
ぐぅの音も出ません。
それは事実だから。
じゃあ黙って真実を話すのかと言えば、そうではない。
「……ただ剣の筋が似てるってだけでしょ?」
「それは……そうだけれども」
「なら、それは言いがかりだよ。偶然似通うことだってあるはずでしょ?」
男の人だと言われてとても困惑している。
そんな雰囲気を出しつつ。
ちょっと卑怯だなという自覚はあります。大人げない。
実際私が困っている感を出したことで、日比谷ちゃんは少し戸惑っている。
彼女の中では真実を突き付けて戸惑ったところを追い詰める。みたいな算段だったんだろうなぁって。
「それは、そうかも……」
ほら、すぐ不安になっちゃう。
「というか、どうして旦那さんの方なの? えーと、話を聞く限り剣の主はパートナーの方なんだよね?」
夫って発言してたから、これは不自然な発言じゃないはず。
というか、そうだよ。
普通は、いや、私としては好都合ではあるけれど、私の方を思い浮かべるのが自然だよね?
なのに、どうして回り道みたいな真似を――。
「あの人がそんなことするわけないでしょ!」
なんか怒られた。
日比谷ちゃんがぐいと前のめりになって、その分私は後ろに引く。
「知らないかもしれないから教えてあげるけれど! 久留実理子さんはね、凄い人なのよ!」
「へ、へぇ~」
なんだ。一体何が始まるんだろう。
藪を突いて蛇を出したのかもしれない。
「まだダンジョンが現れてから間もない時から活躍している、日本人最初の女性探索者! Aランク冒険者でありながら、タイトルホルダーでもあるんだから!」
「……」
「なによ、その微妙な表情は!」
い、いやあ。
目の前でそう熱弁されると、本人としては、ねぇ?
というか、随分と詳しいね日比谷ちゃん。
「今はスクールの講師をやってる元探索者の人でさえ、彼女にお世話になった人は少なくないわ。現在探索者資格が十五歳になってからってのも、当時最年少だった理子さんの前例を元にしているってのは有名な話なんだから!」
えっ!? そうなの?
今って十五歳からなんだ~。って思ったことはあるけれど。
あれって私がダンジョンに突っ込まれたのが十五歳からだったから、慣例的にそうなったってだけの話なの?
ちょっと会長? もっと安全に配慮した基準に作り直した方がいいんじゃないですか!?
「へ、へぇ。随分と影響を出してる人なんだねぇ~」
ちょっと、冷や汗が出てきたかも。
どんな羞恥プレイなんだろうか、これは。
さまよわせた視線をどこへ定めればいいのかもわからない。
少なくとも、日比谷ちゃんを正面から見る勇気はない。
「むしろ知らなかったの? どんなモグリなのよ! 女の子で探索者目指している人であの人を知らない人なんていないんだから!」
私って有名人だったんだぁ。
神格化されすぎな気はするけれど……。
その講師の人とかもレイドとかで一緒になったことがある程度だったりしない?
「そんな人が! 姿を変えて私たちを騙すような真似をして!」
「うっ」
耳が痛い!
「十五歳ぐらいの見た目になって魔法少女衣装できゃぴきゃぴして」
「うぐっ」
胸が痛い!
「挙句の果てに、引退したはずの冒険者業に戻ってくるはずがないでしょう!」
「あがっ!」
熱弁する日比谷ちゃんの目はキラキラと輝いていて、心からの言葉だってのが伝わってくる。
そっかぁ。うん、そうだね。そうだね……。
「……何をそんなにつらそうにしてるの?」
「いや、ちょっと。気にしないで……」
今自分がしていることの汚さに心を痛めてるだけだから。
ごめんね、日比谷ちゃん。
君の目の前にいるのは基本給五百万に釣られた心の汚い大人だよ……。
「ま、まあ何にしても、私の名前は成瀬だよ」
無理を通せば道理が引っ込むとまでは言わないまでも。
ここは引くつもりはない。
「剣筋に関してはあくまでも似通ってるって言い張るつもり?」
「そうだね」
うっ。やっぱり納得してくれなさそうな雰囲気。
じとりとこちらを観察する視線からは、納得できなければ逃がさないという意思を強く感じる。
あんまり後から齟齬が起きそうな嘘は言いたくないけれど、今を切り抜ける手段は他に思い浮かばない。
小さくため息を吐く。
「……ごめん、少しだけ嘘吐いた」
「やっぱり!」
鬼の首を取ったと喜ぶ日比谷ちゃんだけれど。
これから言う嘘を聞いたらどんな顔をするだろう。
「……実は、教えてもらったんだよね」
「――へ?」
一瞬だけ、理解できなかったという呆気にとられた表情。
やっぱりそうだよね。
「その、私の師匠なんだ。理子さんは」
「…………」
ああ、言ってしまった。もう飲み込めない。
「……なんで、すぐに言わなかったの」
責め立てるような口調。
無理もない。
今までの態度は全て隠し事をしていて、それを隠すための嘘だったという暴露なのだから。
まあ、それすら嘘なのは情けないにもほどがある。
「本人から少し口止めされてて。師匠なんて言える立場じゃないって」
軽く教えてもらえただけだと。
だから、口に出すのも本来は憚れる。公に認めてもらえたわけでもない立場だから。
やばい、これは後で会長としっかり成瀬のバックボーンについて相談しておかないといけない。
なんて考えているうちに、すっかり日比谷ちゃんは固まってしまっていた。
そ、そんなにショックを受けるような内容だったかな?
「――ずるい!」
「え?」
一言叫ぶと、日比谷ちゃんはそのまま出て行ってしまった。
私たちの番だと呼びに来た協会の人が入り口で呆然とその背中を見送っている。
ちょうど順番が巡ってきたみたいだ。
「えと、あの、順番……」
「ああ、はい。私は自分で向かいますので、どうか日比谷さんをお願いします」
困っている様子だから、私は立ち上がって、これから向かいますアピールをする。
そうすれば、彼は日比谷ちゃんに集中できるだろうから。
思い通り、彼はすぐに日比谷ちゃんが駆けていった方向へ進んでいった。
さて、一人になっちゃったわけで。
今のうちに、少し調べものをしておこう。
やっぱり、日比谷ちゃんが一人であの結論にたどり着いたとは思えない。
きっと、ネットか何かに……。
こういうのをエゴサっていうんだよね。私知ってるよ。
「うわっ、なにこれ」
私たちのPV動画に、大量のコメントがついていた。
それだけじゃない。SNSでも私もとい成瀬についての話題で紛糾している。
そのどれもが、成瀬の正体であったり、魔法少女ステッキについての考察だ。
もちろん的外れなものが多い。会長の隠し子とかなんとかまである。
ただ、さっき日比谷ちゃんが言ってた内容や、見事私が中身だと言い当ててる投稿まである。
これは……まずいのでは?
早急に対策を打たないと、まずい気がする。
この流れを放置するのは、本当に。
「これ、撮影終わったら会長に相談しないとだな」