ダンジョン魔法少女、ただし子持ち 作:鉄板フライ
撮影は撮影でまた一波乱あったけれども。
まあ、無事に、無事に? 終えることができた。
あれがネットの海に公開されることは……今は考えないでおこう。
今は撮影終わりの後、軽くメンバーに挨拶して解散となった。
その足で会長室に飛び込み、今後について話し合う予定だ。
「ほっほ。面白いものが見れた」
私の自己紹介、もとい成瀬の自己紹介動画撮影を眺めていた爺は大変ご満悦な様子だ。
こいつ……。
私が辱めを受けているのがそんなに楽しいのか。
楽しいんだろうな。にっこにこだもん。
「クソ爺……」
「成瀬の姿でそう口汚い言葉を発するものではない」
撮影現場にいたからこそ、そのままアポ取って今にこぎつけているんだけれど……。
そのままの足過ぎて、まだ変身を解いてすらいない。
今から変身を解くのも不自然だし、このまま話を進めることになるかな。
「まあ座り給え」
「……失礼します」
誘われるままに席へ着く。
対面には会長が座った。
彼は流れるように机の上においてあった急須からお茶を注ぎ、こちらへ渡してくる。
自分の分も注いでいる。
……あらかじめ私が来るってことでお茶を作ってのかな。
「それで? ネット上の問題についてだったかな?」
「そうですよ! 成瀬は誰なのかって話題でいっぱいですよ!?」
言いながら、私はスマホの画面を見せつける。
画面に映っているのはSNSのエゴサした呟き一覧。
成瀬は何者なのか。魔法のステッキで現役探索者の誰かが変身した姿じゃないかという話題でいっぱいだった。
「ふむ、ステッキの性能に関しては秘匿しているはずなのだが……」
「憶測だけでここまで広まってるっていうんですか?」
憶測にしては的を射すぎている。
そもそも、ステッキの変身機能に関しては日比谷ちゃんたち四人の様子しか見せてないはず。
なのに、私がオリジナルを持っていて、その変身機能が優れている前提で話が進んでいるのがおかしいのだ。
「誰かが扇動しているとみるべきだろうな」
「扇動? 一体誰が」
そんなことをして何の得があるというのか。
協会に睨まれるような真似をして得するところがあるはずがない。
だって、ダンジョン探索者協会は、今や社会基盤としてなくてはならない機関なのだから。
電力会社を相手にするようなものだ。
社会インフラを敵に回していいことなど何一つとしてない。
「おおよその検討はつくが……」
「つくが?」
まさか、何もしないっていうこと?
全てが露呈して、今回のプロジェクト自体が台無しになったら、私も協会側も大変困るっていうのに?
一瞬強張った体。手に持っていたお茶の水面が揺れる。
「今のところ、ただの噂なのだよ」
「実害が出てないと対処できないってことですか?」
「さよう」
深く静かに爺は頷いた。
「何も実害が出て居ない、噂のうちに動いては後ろ暗いものがあると言っているようなものだ」
「誹謗中傷とかでは……」
「残念ながら、推測を話しているだけにすぎん。名誉棄損や誹謗中傷として声をあげては、返ってイメージに傷がつく」
うぐ。そう言われると納得せざるを得ない。
今のところネット上のコメントは、いきなり出てきた新人探索者成瀬は何者なのか、という話題でしかないのだ。
その一端に、ステッキで変身して別人が成瀬を演じている、という説があるに過ぎない。
動けばその説が正しいと言ってしまうようなもの。
かえって逆効果になる、ということね。
「でも、放置もできないんじゃないですか?」
「もちろん。工作をして、鎮火させるように動いてはいるとも」
ほっ、と一息を入れる。
協会側も問題ではあると認識してくれているみたいだ。
「ただ、その工作をしても問題は紛糾するばかり。むしろ増えていると言ってもいいだろう」
「だから、誰かが扇動していると?」
「さよう。理解が早くて助かるとも」
なるほど。そこでさっきの話に戻ってくるのか。
じゃあ、私たちがやるべきことは一つ。
「誰が扇動してるのかを突き止めて、止めさせる」
「できるのならば、それが一番だろう」
爺は無理だと言いたそうにしている。
確かに、難しいかもしれない。
でもやるしかないんだ。
もしも私の正体がバレて、今回の計画がご破算にでもなったら。
未里花のためのお金も受け取れなくなってしまうのだから。
……こんな時でもお金の心配か。我ながら心が汚いなぁ。
いやいや、娘のためだから。
うん。
などと、無理やり自分を納得させる。
「ステッキの性能が露呈していることから、おそらく扇動者は身近なところにいると思うんですよ」
「それはそうであろう。だが、問い詰めて素直に言うわけでもあるまい?」
「そこは――、そう、何とか現場を抑えたり」
言ってて、無理だなこれって思ってはいた。
爺も残念な人を見る目を向けてきている。殴るぞ爺。
「無理筋な話を探すよりも、より無難な選択肢を選ぶのが長生きするコツだよ、成瀬君」
「はいはい、うるさいですねこの爺さんは」
無理筋な話を最初に持ち掛けてきたのはそっちだろうが。
なんて怒りは喉奥にしまっておく。
今考えるべきは噂への対処であって、腹が立つこの爺さんを合法的に殴り飛ばす方法ではない。
「それで、放置するにしかないとしても、このままだとイメージ的にまずいんじゃないですか?」
「しかり。それに関しては何かしら手を打つ必要があるだろう」
「何かしらってのは」
「何かしらだな」
うーん。要するに予定は未定ということだよね。
信頼性はゼロ。
「現状を受け入れる気はないってことでいいんですね?」
「すぐに動くのは難しいが、憂慮するべきことだとは認知しているとも」
将来的には何かしらしてくれる。
まあ良くて現状維持ぐらいはしてくれる。
っていう認知でいいのかな?
視線を交わして意思確認を行う。
どうやら、その認識で正しいみたいだ。
「……わかった。身内による可能性が高いっていうなら、メンバーの方は私が探るよ」
「うむ。協会員の方は私の方が受け持とう」
……まあ、十中八九メンバーだとは思うけれど。
兎島ちゃん、束村ちゃんは多分違うよね。
となると、日比谷ちゃんか比嘉ちゃんか。
日比谷ちゃんはあの様子からして違うと思うんだよなぁ……。
かといって、比嘉ちゃんが私の正体に固執しそうかと思うと、違う気もするし。
ううん、よくわからない。
因みに大穴はノリノリだった男性が、変身できなかった腹いせにやってる説です。
大穴過ぎてまともに検討する気も置きません。
当たり前ですね。
「とりあえず、私は正体がバレないように変身には今後気を付けますね」
「それがいいだろう。街中で姿を見られるのもまずい」
「出入りのタイミングとかで特定されるのもまずいので、協会への入出も姿隠した方がいいですよね」
私が入って、成瀬が出て、成瀬が入って、私が出る。
今の状況がそれだから、そこから特定されてもおかしくはないのだ。
まだ注目がそこまでだから特定されてないだけで。
今後は気を付けた方がいいよね。
……あっ、そうだ。
「会長」
「何かね?」
「レプリカのステッキもらえません?」
そのステッキで軽く見た目を変えて、それで協会に入出するようにすれば良いんじゃないか。
みたいに思ったのだけれど……。
「……なるほど、見た目を変える機能を調節すれば、魔法少女以外の見た目にもできるかもしれんな」
「でしょ? 当分はそれでやり過ごす感じで行きましょう」
「名案だ。技術部に連絡しておく」
後は犯人捜し。気が乗らないなぁ。
あっ、あともう一つ。
「会長会長」
「何かね?」
「ここだけの話なんですけれど、娘が魔法少女に変身したいって言ってるので……」
それ以上は口を噤む。
笑顔で、分かるよね? という圧をかける。
会長は少しだけ困ったような表情を浮かべる。
「これだけ心労かけさせてるんですから、手早く機嫌取るチャンスですよ?」
「……シッター役に次の時に持たせるようにしよう」
「交渉成立ですね」
要するに、シッターがいるときだけ、見ているところでだけ使用を許可するというものだ。
私としてはそれで結構。未里花の笑顔が増えるのならそれが一番重要なのだから。
「それじゃあ、変身用デバイス出来たら教えてくださいね」
「ああ。——それと、次の君たちの予定も伝えておこう」
次? ああ、アイドル活動の方かな。
自己紹介動画も取ったから、何をするんだろう。
「反響次第になるが――次は君たちに生放送をしてもらおうと思っている」
――はい?