ダンジョン魔法少女、ただし子持ち 作:鉄板フライ
結論から言うと、私たちメンバーの自己紹介動画は好評だった。
兎島ちゃんは元気キャラ、束村ちゃんは魔法少女好きギャル、比嘉ちゃんはおっとり系、日比谷ちゃんは気が強いツンツン系キャラとして受け入れられたようだ。
私? 私は……。
「ほらほら! 先輩のが一番伸びてるって!」
「あははは……」
束村ちゃんが隣に座って、私に成瀬の自己紹介動画を見せつけてくる。
再生数は二桁万に達している。
まだ駆け出しのグループにしては相当なものだと、ネットに疎い私にだってわかる。
この再生の幾つかは、成瀬の正体を知りたくて見てるんだろうなぁ……。
『えと、成瀬です。あまりこういうのは得意じゃないんですが……』
「初々しくていいってコメントいっぱい! 狙ってやれるものじゃないよこれは!」
「恥ずかしいから止めてよ束村ちゃん……」
正直な話、他の子たちがここまでメディア慣れしてると思わなかった。
なんでも、普段から結構動画を撮ってネットに投稿とかやってたらしい。
今の子たちの事は分からないよ。
おばさんになったなぁ。って実感する。
ネットに自分の顔を出して――私の場合は出してないけれど――活動するなんて、考えられないもの。
「ふん! ネット慣れしてなさ過ぎるのよ!」
「山で修行でもしてたの? って感じだね~」
日比谷ちゃんや比嘉ちゃんからも言われてしまう。
兎島ちゃんはどうフォローしようか迷ってわたわたしてる。可愛い。
「私はまだ認めてないけど、一応仮リーダーなんだからしっかりしてよね!」
なんと、これから私たちはこの部屋で生放送をすることになっている。
だからなのか、みんな少しばかりはしゃぎ気味だ。
「皆さん、準備はそろそろよろしいですか? 予定時間が近づいてまいりましたよ」
「「「はーい!」」」
スタッフさんがカメラの画角とかをセッティングして調整してくれている。
なので、私たちは予定の場所に五人並んで座る。
中央に私。右側から言うと、兎島ちゃん、束村ちゃん、私、日比谷ちゃん、比嘉ちゃんの並びだ。
当然、全員変身済みだ。
この並びに特に意図はないけれど、すぐ隣に日比谷ちゃんがいるのは少し気まずい。
あのずるい! は本当に何だったのだろうか……。
「三、二、一、始まります!」
スタッフさん達に囲まれて、私はごくりと唾を飲む。
生放送。予定とか、話すべき内容とかは教えてもらったけれど。
緊張で全部頭から抜けて行ってしまいそうだ。
「あれ、これもう始まってます?」
「そのはずですが……」
「見えてるコメントだと、真っ暗だとかなんとか流れてるわね」
私たちの目の前にはカメラ以外にも、生放送で流れるコメント? を見られるようにモニターが設置してある。
そこを見る限り、音も映像も映ってないようだ。
「……機材トラブルです! 少々お待ちください!」
少しだけ気が抜ける。
四人も顔を見合わせて苦笑いだ。
てんわやんわしているスタッフさん達を大変だなぁと眺めつつ、少しだけ雑談しよう。
このままじゃ息が詰まっちゃう。
「すっごい緊張する~」
弱音を吐くと、束村ちゃんが笑う。
「先輩、自己紹介でもガッチガチだったもんね。何回取り直したんだっけ?」
「私知ってるわよ」
「日比谷ちゃん知ってるの? 教えて教えて~」
え、なんで日比谷ちゃんが知ってるの。
あの時ずるい! って逃げてから私の収録終わりまでいなかったよね。
ちょっとスタッフさん!?
いや、ごめんなさいポーズされても困りますけど!
「十八回。十八回やってあの出来なの、逆にすごくない?」
「わあ」
そのわあ、はどんな感情をこめてるんだい比嘉ちゃん。
やめて! 憐れむような視線を向けないで!
「で、でも成瀬さんは強いですから!」
「ありがとう兎島ちゃん」
でも、フォローにはなってないよ。うん。
フォローしようとしてくれてるって気概は感じた。
うんうん。君は本当に優しい子だね……。
「何にしても、成瀬がこの調子だと今後が大変よ」
「そうだね。先輩がセンターなのに、人前が苦手だもんねぇ」
「……私からすれば、みんなの慣れっぷりが凄いよ」
いや、本当に。
この話を持ち掛けられて受け入れるって時点で覚悟は決まってたのかもしれないけれど。
「先輩今度一緒に踊ってみた動画出そうよ!」
べったりとくっつくようにしつつ、束村ちゃんが提案してくる。
「ええっ!?」
「ちょうどいいんじゃない? 束村は結構動画投稿してるでしょ」
「そうそう! 先輩がいれば再生数も爆盛り間違いなしだって!」
再生数目的なの!?
と突っ込もうとして、ふと目の前のモニターに視線を戻す。
そこには、私たちの映像と、一緒に流れているコメントがあった。
……一体いつから!?
「えちょ! スタッフさん!? いつから、いつからですか!」
回答はスタッフさんからではなく、コメントの方から返ってきた。
『取り直し十八回のところからです』
『結構すぐ治ってたよな』
『狙ってたら凄いなと思ったけれど、素なのか……』
……スタッフさん!?
そっちの方が面白そうだと思って? 私の恥が晒されただけなんですけど!
「えーと、えーと」
やばい。本当に頭真っ白だ。
何からやればいいんだっけ?
「先輩、まずは挨拶から!」
「あっ、そうだった。えーと、それじゃあ、せーの」
私の掛け声に合わせて、全員で決められたコールをする。
「「「魔法少女アイドル探索者グループ、エクスプラ・マギカでーす」」」
いえーいとノリノリでピースサインをする束村ちゃん。
兎島ちゃんもカメラへ向かって手を振っている。
日比谷ちゃんは私が段取りを忘れてたことを不満なのかこちらを睨みつけており。
比嘉ちゃんは既に眠そうだ。
「いやあ、いつ聞いても凄いコンセプトだよね!」
「とか言いつつ、束村は魔法少女って聞いて乗り気だったじゃない」
「束村ちゃんは昔から好きでしたよね、魔法少女」
あっ、やっぱりそうなんだ。
因みに、ここからは最低限のプランはあるけれど、基本的にはこちらの自由に雑談していいことになっている。
私たち自身に興味を持ってもらうのが大事、だそうだ。
「逆に私はやしろんやなっつんが魔法少女やるってのが未だに信じられないよ~」
「ふん、私はいずれAランク探索者になるんだから。名前を売っておくに越したことはないのよ!」
「ふわぁあ」
ん? 今ちょっと違和感があった。
「やしろん? なっつん?」
「あっ、やっばい」
束村ちゃんはやってしまった、という表情をした。
ため息をついて、日比谷ちゃんが補足してくれる。
「いいじゃない。成瀬が疎外感を覚えるから、成瀬がいる間はあだ名呼びは控えようなんて無理があるのよ」
「うう、ごめんね先輩~」
なるほど。日比谷八代でやしろん。比嘉菜月でなっつん。
「ううん、気にしないで。気遣ってくれてありがとうね」
「あーん。先輩やさし~」
「ちょちょ、近いよ束村ちゃん!」
隣だからと思う存分抱き着いてくる束村ちゃん。
私よりも向こうの方が背が高いのもあって、覆いかぶさられるような形になる。
『尊い』
『助かる』
『ちょうど切らしてた』
「意味が分からない単語の羅列やめて!」
困った表情を浮かべているあたり、他の子たちはなんとなく意味が分かってそうなのがまた。
「そ、それより、ほら、画面の向こうの人たちの相手しよう?」
「そっか。それも大事だもんね」
ほっ。手放してくれた。
おいこら、何がもっとしてくれなんだよ。
私にだって、コメントが人間が打ち込んでるものだって認識ぐらいはあるんだからな?
「じゃあコメント返ししよ~」
「じゃあ、私が読み上げますね」
兎島ちゃんが手を挙げてくれたので、任せることにする。
反対側では船をこぎ始めた比嘉ちゃんを日比谷ちゃんが引っぱたいて目を覚まさせていた。
『これ、成瀬以外は幼馴染な感じ?』
「これは、そうね。成瀬以外は付き合い長いわ」
そんな気はしてたけれど、やっぱりそうらしい。
最初っから仲良さそうだったもんね。四人とも。
『じゃあ成瀬は肩身狭い感じか』
「そんなことないよ。みんなよくしてくれてて、助かってるから」
『スマホの使い方とか教えてもらってそう』
「そこまでおばあちゃんじゃないから!」
周りから笑いが沸き起こる。
つい勢いで言ってしまったけれど、成瀬は十五歳。成瀬は十五歳。
アラサー女ではない。
「でも、この間チャットアプリ入れてなかったりしましたよね?」
「知ってる? こいつ、メールとメモぐらいしかまともにスマホ使ってなかったのよ?」
ぐぅの音も出ない。
写真は使ってるけど!
私用の方には未里花の可愛い写真がいっぱい収めてあるんだから。
成瀬のスマホには、まあ、業務用必要なものだけしか入れてないけれど。
「せっかく最新のスマホ貰ったのにね」
「束村なんかはさっそく動画撮って上げてたわよね」
「みんな見てくれた~?」
コメント欄は色々と大盛り上がりだ。
私の機械音痴を云々する声やら、質問を投げかけてたりやら、束村ちゃんは有名人なのかそれ関連のコメントもいっぱいある様に見える。
そして、比嘉ちゃんは寝た。
そんな感じで、コメントとおしゃべりしながら、比嘉ちゃんをちょくちょく起こしつつも、時間は飛ぶように過ぎていく。
いつの間にかに、放送の終了予定時間になってしまっていたようだ。
「もう三時間も経ったんですか?」
「案外時間って早く過ぎるものね」
楽しかったのか、兎島ちゃんも日比谷ちゃんもほくほく気だ。
視聴者数も、気がつけば十万人を超えている。
初配信でこれはすごいのではないだろうか。
「しかし、成瀬は何者だってコメントも多かったわね」
「先輩は先輩だよ」
「わ、私は成瀬さんが凄い人だって知ってますからね!」
「あははは……」
コメントのあれこれには私の正体を詮索するものも多かった。
色々と濁したりして躱してたつもりだけれど、わざとらしかったかもしれない。
「それじゃあ、次回の予定だけれど……うん?」
今回は大分好評で終われたと思う。
そうして、私がまとめようとした瞬間に流れたコメントだった。
『せっかくだからダンジョン内で配信してる様子を見たい。できるならだけど』