天堕とし   作:心ここにあらず

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ワンピース悲劇のヒロイン多すぎて辛い


ヤマト編

 ……暗い。何も見えない。身体が重い。息を吸うたびに肺が焼けるように痛む。

 

(……俺は……。)

 

 ぼやけた意識の中、最後に見た光景が脳裏をよぎる。泣き叫ぶハンコックと

歯を食いしばり奴隷たちを率いて走るタイガー。

 

そして――神の騎士団と世界最高権力達。

 

(……アイツら…逃げ切れたかな)

 

 あいつらは、無事に海へ出られただろうか。ハンコックは。サンダーソニアは。マリーゴールドは。奴隷たちは。タイガーは。

 

 俺が立ち塞がった意味はあったのか。あの一週間、あいつらを庇って痛めつけられた時間は無駄じゃ、なかったのか。

 

 頼む…生きていてくれ。俺なんかどうなってもいい。だから、お前たちだけは――自由になっていてくれ。その願いだけが、沈みゆく意識を繋ぎ止めていた。

 

 やがて身体は冷たい海へ沈んでいく。視界は暗く閉ざされ、音も消えた。

 

(……これで、終わりか。)

 

 不思議と恐怖はなかった。やれることはやった。後悔は一つだけ。

 

(……最後に、約束を守れなかったな。)

 

 『必ず迎えに行く。』

 

 そう約束した。なのに俺は、あいつらの前から消えた。

 

 また嘘をついちまった。ハンコックなら、きっと怒るだろうな。

 

 そう思うと、自然と笑みが零れた。その瞬間だった。どこか遠くで、人の声が聞こえた気がした。

 

「――ねぇ!!」

 

「生きてるの!!」

 

「大丈夫!!」

 

 誰だ……?タイガーか?いや女の声だ。ハンコックでもないな。こんな声は知らない。そして身体が何かに引っ張り上げられる感覚。

 

 温かいから海ではない。誰かが俺を抱き起こしているのか。

 

「ねぇってば!! 大丈夫かい!!」

 

 聞いたことのない、少女の声。俺は重い瞼を僅かに開く。

 

 逆光でよく見えない。白い髪が風に揺れていた。額には二本の赤い角。その姿は、まるで鬼のようで――

 

「よかった……まだ生きてる!!」

 

(……鬼?)

 

 そこで、俺の意識は再び闇へと沈んだ。

 

 

…どれくらい眠っていたのだろう。意識がゆっくりと浮かび上がる。最初に感じたのは、潮の香りではなく、焚き火の温もりだった。

 

「……。」

 

 重たい瞼を開ける。視界に映ったのは、岩肌が剥き出しになった天井。水滴が一定の間隔で滴り落ち、洞窟の中へ静かな音を響かせている。

 

(……ここは。)

 

 ゆっくりと身体を起こそうとした瞬間――

 

「っ……!」

 

 全身を激痛が駆け巡った。肋骨は軋み、腕は鉛のように重い。無理やり動けば、傷口が開くことくらい容易に想像できた。

 

(生きてる……。)

 

 思わず天井を見つめたまま、小さく息を吐く。あれだけの傷を負い、あの高さから海へ落ちた。生きている方がおかしい。

 

 だが、生きてしまった。そんなことを考えていると――

 

「あっ!!」

 

 洞窟の入口から、元気な声が響いた。

 

「起きたの!!」

 

 足音が近付いてくる。岩陰から現れたのは、一人の少女だった。

 

 長い白髪に頭には二本の赤い角。巫女を思わせる白い着物に、腰には大きな金棒。ハンコックにも負けず劣らずの超絶美少女だ。 昨日、朧げな意識の中で見た姿と同じだった。

 

「よかったー!! 三日も寝てたから、もう起きないかと思ったよ!」

 

「……三日?」

 

 掠れた声で聞き返す。

 

「うん!」

 

 少女は満面の笑みで頷いた。

 

「海岸で倒れてたんだ! 身体中ボロボロでさ! 死んでると思ったけど、息があったからここまで運んできたんだ!」

 

 ……海岸。やはり、あの後流れ着いたのか。レイは静かに目を閉じる。

 

(そうか……。)

 

 少なくとも、ここはマリージョアではない。追手の気配もない。

 

 なら――。

 

(ハンコック達は……。)

 

 あの後、無事に逃げ切れたのだろうか。タイガーならきっと守り抜く。そう信じたい。それでも胸の奥に残る不安だけは、どうしても消えなかった。

 

「おーい!」

 

 少女が目の前で手を振る。

 

「聞いてる?」

 

「……あぁ。」

 

「よかった! 喋れるんだね!」

 

 少女は豪快に笑った。

 

「僕はヤマト!」

 

 胸を張って名乗る。僅かながらに成長途中の素晴らしいものが揺れた。

 

「この島じゃ自由に歩けないから、この洞窟が僕の秘密基地なんだ!」

 

 レイは少しだけ眉をひそめた。

 

「……僕?」

 

「うん?」

 

「女……だよな?」

 

「そうだけど?」

 

「じゃあ何で僕なんだ。」

 

「おでんも男って言ってたからだ!」

 

「……誰だよ、おでん。美味そうな名前だな」

 

「食べちゃダメだよ!知らないの光月おでん!!」

 

 ヤマトは何故か誇らしげだった。レイは数秒沈黙した後、小さく肩を落とす。

 

「……なるほど。」

 

(なるほどじゃねぇけど。)

 

 心の中でだけ突っ込む。久しぶりだった。よく分からねぇが兎も角誰かと、こんな他愛もない会話をするのは。ヤマトはしゃがみ込み、レイの顔を覗き込む。

 

「そういえば、きみの名前は?」

 

 レイは少しだけ空を見上げるように視線を逸らしすべてを胸にしまい込むように一度だけ息を吐く

 

 

「……レイ。レイ・ヴァルハートだ。よろしくな、ヤマト。」

 

 その言葉に、ヤマトは太陽のような笑顔を浮かべた。

 

「ああ!! よろしく、レイ!!」

 

 それが――後に「天堕とし」と恐れられる少年と、「鬼姫」と呼ばれる少女の、運命の出会いだった。

 

 

レイが動けるようになるまで、さらに幾日もの時が流れた。

その間、ヤマトは毎日のように洞窟へ通ってきた。

 

「ほら、薬だよ!」

 

「……苦そうだな。」

 

「効くんだから我慢!」

 

 どこから摘んできたのか、和の国の薬草をすり潰した湿布を傷口へ貼り、火傷には冷ました薬湯を染み込ませた布を当てる。

 

「いってぇ……。」

 

「動くからだよ!」

 

 ぺちん、と額を軽く叩かれる。

 

「怪我人なんだから大人しく寝てなきゃ!」

 

「……お袋みてぇなこと言うな。」

 

「お、お袋!?」

 

 ヤマトは首を傾げる。

 

「何それ?」

 

「母親のことだ。」

 

「へぇー!」

 

 妙に感心したように頷くヤマトを見て、レイは思わず苦笑した。

天竜人の牢獄では、痛みを与えられることはあっても、誰かに手当てをされることなどなかった。

 だからだろうか。少し乱暴で、不器用でそれでも真剣に手当てをしてくれるヤマトの手が、不思議と心地よかった。

 

 食事も毎日運んできてくれた。

 

「今日は魚だよ!」

 

「……お前が獲ったのか?」

 

「うん!」

 

「一人で?」

 

「熊とも戦った!」

 

「いや、何やってんだよ……。」

 

 豪快に笑うヤマトを見ていると、自然と笑みが零れる。

こんな風に笑ったのは、いつ以来だっただろうか。ハンコックたちと話していた、あの短い時間以来かもしれない。

 

 そして、一週間ほどが過ぎた頃、レイはようやく一人で立てるまで回復していた。洞窟の外へ出ると久しぶりに浴びる陽の光が眩しかった。

 

「治った?もう大丈夫そ?」

 

「あぁ。」

 

 ゆっくりと拳を握るとまだ痛みは残る。それでも十分戦える。

 

「ならさ!」

 

 ヤマトの瞳が輝いた。

 

「勝負しよう!!」

 

「……は?」

 

「ずっと思ってたんだ!」

 

 金棒を担ぎ、嬉しそうに笑う。

 

「レイ、絶対強いでしょ!」

 

「いや怪我人なんだが。」

 

「もう治ったじゃん!」

 

「いや完全には──」

 

「細かいことは気にしない!」

 

「お前なぁ……。」

 

 レイは深いため息を吐く。

 

「頼むよ!一回だけ!強い奴と戦ってみたいんだ!」

 

 目を輝かせるヤマトを見ていると、断る気が失せてしまう。

 

「……分かったよ。ただし、怪我人相手に本気で来るな。」

 

「もちろん!」

 

 ヤマトは満面の笑みで頷いた。

 

「僕も本気じゃないから!」

 

「その言い方、嫌な予感しかしねぇ……。」

 

 洞窟の前に広がる開けた岩場。二人は十数メートルほど距離を取って向かい合う。潮風が吹き静寂が流れる。ヤマトは肩へ担いだ金棒を軽く振った。

 

「いくよ?」

 

「いつでも。」

 

 レイは両手を軽く下ろしたまま答える。その瞬間──ドンッ!!と地面が爆ぜた。

 

「はっ!?」

 

 一瞬で目の前まで踏み込んできたヤマトが、金棒を真横へ薙ぎ払う。

 

(速ぇ!!)

 

 レイは咄嗟に身を沈める。頭上を金棒が轟音と共に通り過ぎ、背後の巨岩を粉砕した。轟音が山へ反響する。

 

「うわっ!避けた!」

 

 ヤマト本人が一番驚いていた。

 

「本当に強いんだレイ!!」

 

「……今のは死ぬかと思ったぞ。」

 

「えへへ、ごめん!」

 

「笑って済ますな。」

 

 レイは口元を緩めながら拳を構える。久しぶりだ命を奪うためではない戦いは。

 

「今度は俺から行くぞ。」

 

「うん!」

 

 次の瞬間レイの姿が消えた。

 

「えっ──」

 

 ヤマトの真横へ、一瞬で回り込む。

 

「そこ。」

 

「!!」

 

 軽く放った掌底はドンッ!!とヤマトの身体が数メートル滑る。

 

「わぁぁぁ!」

 

 転びそうになりながら踏ん張るヤマトは、悔しそうではなく、むしろ目を輝かせていた。

 

「すごい!!今のどうやったの!?瞬間移動みたい!」

 

「いや、ただ走っただけだ。」

 

「嘘だぁ!」

 

 その日から──。ヤマトは毎日のようにレイへ勝負を挑み。レイは呆れながらも、その相手をするようになった。それは稽古であり、遊びであり、二人にとってかけがえのない時間になっていく。

 ある日、稽古が終わったあと、ヤマトにこの土地のことを聞く。

 

 

「"和の国"について?いいよ!僕の知っている範囲でいいなら!」

 

 

 

 俺が今いる国、それは"和の国"と呼ばれた鎖国国家であった。世界政府に加盟していない、世界でも数少ない独立国家の一つである。

四方を険しい断崖絶壁と荒れ狂う海流に囲まれ、外部からの侵入は極めて困難。その閉ざされた地形から「鎖国国家」とも呼ばれ、長きにわたり独自の文化と歴史を築いてきた。

 

 国土には四季折々の豊かな自然が広がり、高山や森林、広大な平野が共存する美しい島国として知られる。また、刀鍛冶や鍛冶職人の技術は世界最高峰とも評され、数多くの名刀を生み出してきた。和の国に暮らす人々は、着物を纏い、日本を思わせる独特の生活様式や文化を受け継いでいる。礼節を重んじる気風や武士道の精神が根付き、剣術を嗜む者も少なくない。

 

 また、この国は世界有数の侍(さむらい)の国として名高い。覇気や剣術に秀でた強者が数多く存在し、その実力は世界政府や海軍ですら容易に手を出せないほどだと言われている。世界との交流は極めて少なく、その実態を知る者も多くはない。しかし、その閉ざされた国には、外の世界では見ることのできない景色と文化、そして独自の誇りが今なお息づいている。

 

 

 ヤマトには色々聞いた。例えばヤマトが大好きなおでんの事とか。

 

「光月おでんはね!世界一自由で!世界一強くて!世界一カッコいい侍なんだ!!」

 

「……ずいぶん評価高いな。」

 

「当たり前だよ!」

 

 ヤマトは興奮した様子で続ける。するとヤマトは真剣な表情になり、腰に挟んでいた一冊の古びた日誌を大切そうに取り出す

 

「これ、おでんの日誌なんだ。」

 

 レイは視線を落とす。擦り切れた表紙に何度も読み返された跡。

ヤマトにとって、それがどれほど大切なものなのか一目で分かった。

 

「この日誌にはね、おでんが見た世界が全部書いてあるの。例えばこの国を飛び出して海へ出て、“あの海賊王”ゴール・D・ロジャーと一緒に航海したんだ!」

 

 レイの箸が止まる。

 

「……海賊王?」

 

「うん!」

 

「白ひげっていう大海賊の船にも乗ってたんだ!それで最後の島まで行って、世界の全部を見たんだよ!」

 

「世界の……全部。」

 

 レイは静かに呟く。マリージョアで見てきた世界など、ほんの一部に過ぎないのかもしれない。

ヤマトは目を輝かせたまま語り続ける。

 

「おでんは誰よりも自由だった!誰にも縛られない!やりたいことを全部やって!笑って!泣いて!仲間を守って!最後まで自分の信念を貫いた!」

 

 その瞳には憧れしか映っていなかった。

 

「だから僕は、おでんになるって決めたんだ!」

 

「…………。」

 

 レイは少しだけ笑う。あれでも…さっきの言葉的に

 

「なぁ」

 

「うん?」

 

「おでんはもう生きてないのか?」

 

「……」

 

 

 ヤマトの顔がみるみる俯いていく。あれ俺地雷踏んだ感じ?

 

 

「や、ヤマト?」

 

恐る恐る声を掛ける。しばらく沈黙が流れた後、ヤマトは小さく口を開いた。

 

「……死んだんだ。ちょっと前に。この国を守るために。」

 

 その声は震えていた。

 

「おでんは最後まで諦めなかった。みんなを守ろうとして……笑って死んだ。」

 

 レイは黙って耳を傾ける。

 

「おでんが死んでから、この国は変わっちゃった。」

 

 ヤマトは拳を強く握り締めた。

 

「今の和の国は……自由なんかじゃない。今和の国を牛耳っているのは"カイドウ"さ」

 

「カイドウ?」

 

 

"カイドウ"…"百獣のカイドウ"とはそれは、世界でも屈指の強大な力を持つ海賊であり、後に「四皇」の一人として数えられる存在である。

 

 かつてロックス海賊団の一員として名を連ね、その後自身の海賊団を結成。圧倒的な戦闘力と強大な軍事力を背景に勢力を拡大し、世界政府や海軍からも最も危険な海賊の一人として警戒されていた。

 

 その最大の特徴は、異常とも言える生命力である。何度捕らえられても処刑されることはなく、数々の死刑執行を生き延びたことから「この世において最も死に近い男」とも呼ばれた。

 

 また、個人の強さだけではなく、巨大な海賊組織「百獣海賊団」を率いる支配者でもある。その勢力は数多くの戦闘員によって構成され、強者のみが生き残るという弱肉強食の思想を掲げている。彼の支配下に置かれた者たちは、その圧倒的な力の前に逆らうことを許されず、恐怖によって統率されていた。

 

 カイドウが拠点として選んだ場所は、鎖国国家である和の国。かつて侍たちが誇り高く生き、独自の文化を築いてきたこの国は、カイドウと将軍による支配によって大きく姿を変えることとなった。

 

 彼は巨大な武器製造施設を建設し、国の資源を利用することで自身の軍事力をさらに強化。和の国の民は自由を奪われ、長きにわたり苦しい生活を強いられることとなった。

 

 しかし、カイドウは単なる暴君ではない。彼は「強者こそが支配する」という独自の思想を持ち、世界そのものを変えるほどの大きな野望を抱いていた。

 

 その目的は、巨大な戦争を引き起こし、世界中を巻き込むほどの混乱を生み出すこと。

 

 圧倒的な力。不死身とも呼ばれる肉体。巨大な軍勢。それら全てを兼ね備えたカイドウは、世界政府からも最悪の危険因子として認識される存在となった。

 

 人々は彼をこう呼ぶ。

 

 ――「百獣のカイドウ」

 

 世界最強生物…四皇…そして、和の国を支配する恐怖そのものとして。

 

 

 

「へぇ…そんな怪物がこの島にいんのか」

 

「うん。…あの…その…」

 

「んだよ」

 

 

 何故かもぞもぞしながらコチラを上目遣いで見つめるヤマト。…こんちきしょうめ。可愛いじゃねえか馬鹿野郎。

 

 

「…その…カイドウ…なんだけどね」

 

「あん?」

 

「父親…なんだ」

 

「誰の?」

 

「…」

 

 

 そう言うと無言で自分自身を指すヤマト。

 

 

「お前の!?」

 

「…うぅ。ついに知られてしまった…引くよね…絶対おかしいよね。カイドウの子供がおでんに憧れてるなんて」

 

「おかしい?なんで?」

 

「だっておかしいじゃないか!和の国を…おでんを殺したカイドウの子供がおでんに憧れるなんて…そんな資格あるわけないのに」

 

 

 ヤマトの声は聞こえないほどに小さくなっていった。

 

 

「お前はヤマトだろ?カイドウじゃない。カイドウと血が繋がってるからなんだ?何度でも言ってやるお前はカイドウなんかじゃない。お前は俺を助けてくれた優しい女の子…ヤマトだ」

 

「…レイ…あ、でも僕は男だ!女の子じゃない!」

 

「まぁいいや。もしそれでお前になんか言ってくる奴がいたら俺に言えよ。そんな奴俺がぶっ飛ばしてやる」

 

「…うん。…うんありがとうレイ!」

 

「ちょっ!おまっ!」

 

 

 レイの言葉にヤマトが勢いよく抱きついて2人揃って後ろに倒れる。抱きついた影響でヤマトの体の節々に柔らかい箇所がレイを刺激する。レイとヤマトは年齢的にもほとんど同じであるが互いに平均よりもかなり大柄な体格であるためか既に成人男性ほどの体格を持っている。…故に言動や脳まで幼いヤマトと違ってある程度ませているレイとしてはヤマトの言動に似合わない"良い匂い"だとか"女性らしい体つき"に反応しまくりなのだ。

 

 修羅にも及ぶ集中で煩悩を振り切ったレイはヤマトを連れて人里の方へと歩いていく。

 

鬼ヶ島へ続く険しい山道。夜の闇の中を、二人の影が駆け抜けていた。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

「ヤマト、まだ走れるか?」

 

「うん……! 大丈夫!」

 

 息を切らしながらも、ヤマトは決して足を止めなかった。その手には、大切そうに握られた一冊の本。光月おでんの航海日誌。

 

「これがあれば……」

 

 ヤマトは胸元に抱きしめる。

 

「僕はおでんの見た世界を知ることができる」

 

「……」

 

 レイはそんなヤマトを見る。出会ってからまだ長い時間は経っていない。

だが、分かったことがある。この少女は、ただの夢見がちな奴じゃない。誰よりも自由を求めている。誰よりも自分の運命に抗っている。

 

 だからこそ――

 

「…放っておけるかよ…」

 

「なんか言ったかい?」

 

「あぁ。ヤマト、お前って本当におでんって奴が好きなんだな」

 

「うん!」

 

 ヤマトは笑った。

 

「僕の憧れだから!」

 

「……そっか」

 

 レイは少しだけ口元を緩めた。その瞬間

 

「――いたぞ!!」

 

「ヤマト様だ!!」

 

「探せ!! カイドウ様に報告しろ!!」

 

 遠くからカイドウの部下達の怒号が響く。そもそも何故このような事になったのか経緯を説明しよう。俺とヤマトは人里へ降りて隠れて街の観光をしていたんだが事件はそこで起きる

 

 

「あれヤマト?」

 

 

 探せど探せどヤマトが見つからず、片っ端から探していくと

 

 

「あ、レイ!こっちこっち!」

 

「お前それ…どうした?」

 

「ふふ…貰った!」

 

 

 ヤマトの両手にはいっぱいの食料。本人は貰ったと言っているがそんな大量に貰うことなんてあるんだろうか。…と思っていると…ヤマトの背後から大量の町民達が追いかけてきた。結論だがやはりこいつ貰ったわけじゃなくてくすねて来やがった。本人は「だって食べてみたかったんだもん」じゃねぇよ!このバカ娘が!

 

 

結局、俺たちは町民に追いかけまわされて事態を知ったカイドウの部下達が現れ大往生…その行く末が冒頭に戻るってわけだ。

 

 

俺たちはあれから逃げに逃げた。山なんて3つくらい超えたかもしれん。そんで比較的大きな屋敷?城のような所に着いてしまった。

 

「あれここって」

 

「何だ来たことあんのか?」

 

その時突然空気が変わった。レイが足を止める。

 

 肌が震える。本能が告げていた。逃げろと。ここにいる何かは、自分が今まで戦ってきた相手とは違う。ここはまずい…

 

「レイ?」

 

「……ヤマト」

 

「?」

 

「後ろに下がれ」

 

 その瞬間。

 

「随分探したぞ」

 

 低い声が響いた。城の奥から月明かりに照らされながら、一人の男が歩いてくる。巨大な身体に鋭い角。肩に担がれた巨大な金棒。

 

 その姿を見た瞬間ヤマトの顔から血の気が引いた。

 

「……カイドウ」

 

 百獣のカイドウ。世界に名を轟かせる怪物。百獣海賊団総督であり幾度となく死刑に処されながら生き延びた、世界最強の生物。

 

「ヤマト」

 

 カイドウは娘を見る。

 

「また勝手に抜け出したか」

 

「……」

 

「しかも」

 

 視線がレイへ移る。

 

「知らねぇガキまで連れて」

 

 レイは自然と前へ出た。

 

「テメェがカイドウか。…こいつは物じゃねぇ」

 

「……」

 

「テメェの所有物じゃあねぇぞ?」

 

 カイドウの眉が僅かに動く。

 

「ガキ…名前は」

 

「レイ・ヴァルハート」

 

「レイか」

 

 カイドウは笑う。

 

「俺に向かってそんな口を利く奴は久しぶりだ」

 

「おまえが誰であろうと俺は言うことは変えねぇ」

 

 ヤマトが驚いた顔でレイを見る。

 

「レイ……」

 

「下がってろ」

 

「でも!」

 

「これは俺の役目だ」

 

 レイの周囲に冷気が集まる。空気中の水分が凍り始める。地面が白く染まる。

カイドウはそれを見て笑った。

 

「悪魔の実か」

 

「……」

 

「面白ぇ」

 

 レイは一瞬で距離を詰める。

 

「氷造形ーー氷刃!!」

 

 腕から生み出した氷の刃を振り抜く。しかし金棒で防がれる。 金棒で防がれる。

 

「……」

 

 レイの目が細まる。

 

(重い……!)

 

 ただ防いだだけ。それなのに腕が痺れる。

 

「まだだ!!」

 

 地面から巨大な氷柱が伸びる。

 

「氷造形ーー氷牢!!」

 

 カイドウの足元から氷が絡みつき動きを封じる。

 

「今だ!!」

 

 無数の氷槍が造形されカイドウの逃げ場を奪うように全方向から襲いかかる。

 

 ズドドドドド!!…と山中に轟音が響く。

 

「……やった?」

 

 ヤマトが呟くが…しかし

 

「悪くねぇ」

 

 煙の中から無傷のカイドウが現れる

 

「……嘘だろ」

 

 レイが呟く。

 

「能力の使い方は上手い」

 

 カイドウは笑う。

 

「だが」

 

 次の瞬間金棒に黒い稲妻が走った。

 

「力ってのはな」

 

 空気が震える。

 

「悪魔の実だけじゃねぇ」

 

 カイドウの纏う覇気。その圧力だけで周囲の氷が砕け散った。

 

「んだそれ……」

 

 レイは目を見開く。

 

「覇気だ」

 

 カイドウは言う。

 

「能力者は能力に頼りすぎるだが本当に強ぇ奴は違う」

 

 カイドウは拳を握る。

 

「己自身を武器にする」

 

 そして。一瞬でレイの視界からカイドウが消える。

 

「――っ!!」

 

 次の瞬間腹部に衝撃が奔りレイの身体が吹き飛ぶ。

 

「レイ!!」

 

 木々を薙ぎ倒しながら転がる。息が出来ないほどの一撃。もう一度喰らえば流石のレイでも危ないだろう。しかしそれでもなおレイは立ち上がった。

 

「……まだ立つか」

 

 カイドウが笑う。

 

「気に入った。お前、面白ぇな」

 

「……」

 

「その歳でそこまで能力を使いこなす奴は珍しい」

 

 カイドウは金棒を肩に担ぐ。

 

「覇気を覚えろ」

 

「…覇気…だと?」

 

「あぁ。それがなきゃ、この海の頂点には届かねぇ」

 

 レイは黙って拳を握る。

 

「……」

 

「今日は俺の負けだ。…でもな…いつか」

 

 俺は正面からカイドウを見る。

 

「お前を超えるぜ」

 

「ハハハハハ!!」

 

 カイドウは大声で笑った。

 

「いい目だ。その目……嫌いじゃねぇ」

 

 

それからの日々は、地獄だった。

いや地獄という言葉ですら、生ぬるい。

レイ・ヴァルハートという少年に待っていたのは、毎日のように訪れる敗北だった。

 

「……また来たか」

 

 巨大な岩場らそこに座る一人の男。

 

 百獣のカイドウ。世界最強の生物である。そんな怪物の前に、"今日も"傷だらけの少年が立っていた。

 

「……あぁ」

 

 レイは息を整える。身体中には昨日の傷がまだ残っている。肋骨は軋み、腕はまともに上がらない。それでもーー

 

「今日こそ……」

 

 目の前の男を越えるためレイは拳を握る。

 

「一発入れるぜ」

 

 カイドウは酒を飲みながら笑った。

 

「懲りねぇ奴だな」

 

「お前が言ったんだろ」

 

 レイは睨む。

 

「覇気を覚えろって」

 

 カイドウは口角を上げた。

 

「だから教えてやってるだろ。俺に勝ってみろ」

 

 レイは眉をひそめる。

 

「それが教えるってことか?」

 

「そうだ」

 

「一回教えるって言葉を辞書では引いてみやがれ。」

 

 カイドウは立ち上がる。

 

「俺に勝てねぇ奴が、どうやってこの海で生き残る」

 

 その言葉と同時に空気が震えレイの身体が本能的に警告を鳴らす。カイドウからの「教え」は、決して優しいものではなかった。

しかし、レイにとってはそれこそが必要だった。

和の国には頼れる師はいない。

覇気の扱いを知る剣士も、戦闘技術を教える達人も、レイのために時間を割く者もいない。

 

ならば――。

 

この海で最も強く覇気を極めた存在から、直接奪い取るしかない。

 

 

 

そもそも覇気とは何なのか… 覇気とは、この世界に生きる全ての人間が本来内に秘めている生命力や精神力を引き出し、特殊な力として発現させる技術である。

 

悪魔の実の能力が、実を食べることで得られる「外部から与えられた力」であるのに対し、覇気は自身の肉体・精神・意志を鍛えることで目覚める「己自身の力」とされている。

 

覇気の強さは、単純な身体能力だけでは決まらない。強い精神力、揺るがない信念、極限状態での経験によって大きく成長するとされており、長い年月をかけて鍛錬することでより高度な使用が可能となる。

 

現在確認されている覇気には、大きく分けて三種類が存在する。

 

見聞色の覇気

 

見聞色の覇気とは、周囲の気配や生命反応を感じ取る力である。

 

武装色の覇気

 

武装色の覇気とは、自身の肉体や武器に精神力を纏わせ、攻撃力と防御力を高める力である。

 

 

そして最後に覇王色の覇気

 

覇王色の覇気とは、数百万人に一人しか持たないとされる、生まれ持った特別な資質である。

 

この力を持つ者は、自身の強大な意志を周囲へ放ち、精神力の弱い者を圧倒することができる。

 

覇王色の覇気は、努力によって身につけることはできず、生まれ持った才能によるものとされている。コイツは運ゲーだから扱えるかどうかは運次第なんだよなぁ。てことで俺が鍛えるのは二つ目の武装色の覇気だ。

 

 

俺はカイドウとの数多の戦闘で武装色の覇気の鍛錬を始めた。

武装色の覇気を習得するために必要なのは、単純な筋力や肉体の強化ではない。

 

重要なのは――

 

「自分自身の力を、どれだけ明確な意思として外へ放てるか」である。

 

武装色の覇気は、肉体を硬化させる技術と思われがちだが、本質は違う。

それは、己の生命力や精神力を一点へ集中させ、肉体や武器へ流し込む技術である。

 

そのため、鍛錬には三つの段階が存在する。

 

第一段階:感知

 

初期段階では、まず自分の中に存在する力を理解する必要がある。

人間は誰しも無意識に覇気を持っている。

しかし、多くの者はその存在を認識できない。鍛錬では、極限状態の中で自分の身体が発する力を感じ取り、それを意識的に引き出すことから始まる。

 

例えば――

 

拳を握る。筋肉に力を込める。それだけではない。

 

「この拳で必ず届かせる」

 

「この一撃で相手を倒す」

 

という強い意志を肉体へ伝える。その精神と肉体が一致した瞬間、初めて覇気は形になる。

 

 

 

第二段階:纏う

 

覇気の存在を理解した者は、次にそれを肉体へ纏わせる。通常の拳では、鋼鉄を殴れば肉体が傷つく。しかし、武装色を纏えば、自身の肉体を鎧のように強化することができる。

この段階では、

 

* 攻撃力の向上

* 防御力の向上

* 能力者への対抗

 

が可能となる。しかし、未熟な者ほど「硬くすること」だけを意識してしまう。

 

本来の武装色とは、硬さではない。重要なのは、どれだけ強い意思を込められるかである。

 

 

第三段階:流す

 

熟練者が到達する境地。武装色の覇気を一点に集中し、自分の外側へ流す技術。

 

これは単純な硬化とは異なる。相手に触れることなく、自分の力を対象へ伝えることが可能となる。例えば巨大な敵と戦う場合ただ硬い拳で殴るだけでは、外側の防御を破る必要がある。

 

しかし覇気を流すことで、相手の防御の内側へ直接力を届かせることができる。

 

レイの場合、武装色の習得において最大の壁となったのは、悪魔の実への依存だった。

 

"コチコチの実"それは氷を操る能力。それは非常に強力な能力だった。

 

しかし――カイドウとの戦闘で理解する。

 

「強い氷を作れば勝てる」

 

それは間違いだった。カイドウが破壊しているのは氷ではない。

氷を作ったレイ自身の意思を打ち砕いている。だからレイは考える。氷を強化するのではなく氷に自分を乗せる。最初、レイは腕を氷で覆った。

 

しかしカイドウの拳は簡単に砕いた。更に氷の密度を上げたがそれでも破壊された。そしてようやく気付く。

 

「氷が弱いんじゃない俺の覚悟が足りないのかも知れない」

 

そこからレイの鍛錬は変わる。氷を操る前に拳を鍛える。能力を使う前に、自分自身を鍛える。傷だらけになりながら何度もカイドウへ挑み続ける。

敗北するたびに分析する。なぜ攻撃が届かなかったのか。なぜ防げなかったのか。何となくでやらない。全て理論とロジックを交えて分析するんだ。なぜカイドウの一撃だけが、自分の全てを上回るのか。

 

そして二年の月日が経った時レイの氷は変わる。それは単なる冷気ではない。

 

それは――「絶対に砕けない」というレイ自身の意志を宿した氷。

 

武装色の覇気によって、能力ではなく本人の存在そのものが武器となった瞬間だった。

 

 

それから二年。和の国の誰も知らない場所で、二人の怪物は今日もぶつかり合っていた。いや――正確には一人の怪物と、その背中を追い続けた少年。

 

荒れ果てた岩山にてかつて何度も砕かれ、削られた大地には巨大な亀裂が走っている。

その中心に立つのは、一本の金棒を担いだ巨大な男。百獣のカイドウ。

 

そしてその向かいには――

 

「……随分とマシな顔になったじゃねぇか」

 

「そりゃ二年も毎日殺されかければな」

 

 

レイ・ヴァルハート。

 

二年前とは違う。細身だった身体は、無駄のない筋肉に覆われている。

傷跡は消えていおらず寧ろ増加している。胸元、腕、背中とその全てが、過去に敗北した証。だが、その瞳だけは二年前と何も変わっていなかった。

 

「今日は……必ずお前を倒す」

 

「言うようになったな」

 

カイドウは笑う。レイのそばでは成長して美しくなったヤマトが見守る。

 

 

「…レイ」

 

「二年前は俺の覇気を見ただけで立ってるのがやっとだったガキが」

 

「……あぁ」

 

レイはゆっくり拳を握る。

 

「でも、俺はお前から逃げなかった」

 

瞬間レイの周囲の空気が変わる。

 

冷気いや――違う。ただ温度が下がっているだけではない。周囲に存在する水分に空気中の水蒸気、大地に染み込んだ水分それら全てが、レイの意思によって形を変えていく。レイの足元から白銀の氷が広がる。

 

 

「氷造形―― 氷牙千刃」

 

地面から巨大な氷の槍が無数に生まれた。放たれた氷の刃は、まるで意思を持つ獣の牙のようにカイドウへ殺到する。

 

だが相手は百獣のカイドウ。

 

「くだらねぇ」

 

カイドウは動かない。ただ、覇気を纏い金棒を振り抜くだけで放たれた氷牙が全て砕け散る。

 

レイの表情は変わらない。

 

二年前のレイなら、ここで終わっていた。

 

圧倒的な力の差を前にどれだけ考え、どれだけ工夫しようとも、真正面からぶつかれば届かない絶対的な壁。それが百獣のカイドウという男だった。

 

しかし――。

 

「……」

 

レイは砕け散った氷の欠片を見つめる。焦りも恐怖もない。ただ冷静に分析していた。

 

(武装色だけじゃ足りないか。俺の氷は強い。だが、カイドウの覇気はそれ以上だ)

 

レイの足元に再び氷が広がる。今度は槍ではない。周囲全てを利用し、瞬時に形を変える。

 

「氷造形――」

 

カイドウが目を細める。

 

「また同じ技か?」

 

「はっ…な訳ねぇだろ」

 

レイの周囲に無数の氷柱が浮かぶ。

 

「同じじゃねぇよ」

 

次の瞬間ーー

 

「氷鏡世界」

 

周囲一帯が白銀の世界へ変わった。氷の壁に氷の床、無数の鏡のような氷面。

そこに映るレイの姿が何十、何百にも増える。

 

「小細工か」

 

カイドウは笑う。

 

 

「そうかな?」

 

 

その瞬間レイの姿が消える。

 

「!」

 

現れたのらカイドウの背後。

 

「氷造形――零牙」

 

武装色を纏った氷の刃が、カイドウの肩へ叩き込まれる。金属がぶつかったような音がなりカイドウの肩には僅かな傷。

 

「なんで生身から金属音がすんだよ」

 

「やるじゃねぇか」

 

カイドウは笑う。「だが――」

 

次の瞬間。ドンッ!…と覇気が爆発する。

レイの身体が本能的に震えた。

 

(……っ!?)

 

今までとは違う。二年間、何度も戦った。何度も倒された。何度もカイドウの強さを見てきた。

 

だが――。

 

これは違う。

 

「これが……本気か」

 

カイドウは金棒を構える。

 

「お前はもう、俺の遊び相手じゃねぇ」

 

「……」

 

「だから見せてやる」

 

空気が歪む。

 

「怪物ってのがどういうもんか」

 

瞬間、カイドウの姿が消えた。

 

「雷鳴八卦」

 

――速い。しかし俺も見聞色で読んでいる。

分かっている。攻撃が来る場所も軌道も。

 

なのに――。避けられない。

 

「ぐっ……!!」

 

レイの身体が吹き飛ぶ。岩山をいくつも破壊しながら転がる。

 

「レイ!!」

 

遠くで見ていたヤマトが叫ぶ。

しかしレイは立ち上がった。足は震えて身体は限界に近づいている。それでもまだーー

 

「……まだだ」

 

カイドウは僅かに驚いた。

 

「まだ立つか」

 

「当たり前だろ……」

 

レイは血を吐きながら笑う。

 

「二年間……」

 

俺は拳を握る。

 

「毎日お前に負け続けたんだぞ」

 

「……」

 

「たった一回ぶっ飛ばされたくらいで……」

 

レイの周囲に氷が集まる。

 

「諦められるかよ!!」

 

巨大な氷の腕と巨大な氷の槍更には氷の龍に造形されレイの背後から構える。それはレイの全てを込めた造形魔法。

 

『氷造形――氷龍・白皇!!』

 

巨大な氷の龍が咆哮しカイドウへ襲い掛かる。

だがカイドウは逃げない。

 

「……いい根性だ」

 

金棒を握り

 

「だが――」

 

覇気が爆発する。氷龍がカイドウに噛みつきその体を持ち上げ地面へと叩きつける。しかしカイドウにダメージを与える事は叶わないのか。   

 

「まだ足りねぇ」

 

一撃…たった一撃の金棒でのカウンターで龍が砕け氷が舞う。

レイの視界が白く染まる。そしてドンッ!!とレイの身体が地面へ叩きつけられた。

 

「レイ!?」

 

「……」

 

「……」

 

ヤマトの悲鳴のような声が聞こえる。立てない。腕に力が入らない。視界がぼやける。

 

(……負けた)

 

二年間全てを懸けたはずなのに届かない。カイドウはゆっくりレイに向かって歩いてくる。そんなレイとカイドウの間に一つの影が飛び込む。

 

「レイ!」

 

「……ヤマ…ト」

 

「今更出て来て何のようだヤマト?男と男の勝負に割って入ってくんじゃねぇ!!」

 

「……っ!?…もうやめて。…僕が言う通りにするから…もう抜け出したらしないから」

 

「…何…を」

 

「だから…これ以上…レイを苦しめないで」

 

 

 両手を広げレイを守るように構えたヤマトの眼からは大粒の涙が溢れる。

 

 立て…立てよレイ・ヴァルハート…女を…また奪われるのか

 

 

「丁度いい。"リンリン"のババアから縁談の話が飛び込んできてたな。…お前にはアイツの息子と結婚してもらうぞヤマト」

 

「……っ…」

 

 何で何も言わないんだ…嫌なら嫌って言えよ…自由になるんじゃなかったのか…おでんになるんじゃなかったのかよ…ヤマト

 

 

「…っ…分かった。…レイ」

 

「…」

 

 何だよその眼は…まるでもう2度と会えねぇみたいじゃねぇか…なんで…何でお前がそんな顔しなきゃならない

 

 

「…ここでお別れだ……少しの間だったけどレイと過ごせて…人生で一番楽しかった…ありがとう…レイ」

 

 

 言うな…お別れだなんて…そんな事言わないでくれ。泣かないでくれ…ヤマト…何故だ…何故俺はまた奪われている

 

 誰だ…誰がヤマトを泣かした…アイツか…アイツのせいか…いや…全部…全部…弱い俺のせいだ

 

その瞬間レイの脳裏に浮かぶ。ハンコックや奴隷として苦しんでいた人々。そして自分を信じてくれたヤマトの姿。

 

(俺は……)

 

何のために力を求めた。

 

「……俺は」

 

震える腕を、ゆっくりと地面についた。立てるはずがない。

身体中の骨が軋み、指先にすら力が入らない。

 

 それでも――レイ・ヴァルハートは立ち上がった。

 

「……俺は……」

 

 

 カイドウが足を止める。倒したはずの男が、まだ立とうとしている。

その姿を見て、ヤマトの瞳が揺れた。

 

「レイ……?」

 

 レイの視界は滲んでいた。しかし身体の痛みなんてどうでもよかった。

今、目の前にいる少女が泣いている。自分を信じてくれた人間が、また自由を奪われようとしている。

 

折れているはずの指が、無理矢理力を取り戻す。

 

周囲の空気が震え始めた。

 

 

「……もう二度と……」

 

 

 レイの足元から、黒い稲妻が走る。それは今までレイが纏っていた覇気とはまるで次元が違うほどの覇気

 

カイドウですら、僅かに眉を動かした。

 

 空気が震える大雲が割れ島全体が、まるで一人の人間の怒りに怯えているかのように揺れ始める。

 

「誰かが理不尽に奪われる世界を……」

 

レイが顔を上げその瞳には、もう絶望はなかった。

 

黒い稲妻が爆ぜる。地面の亀裂から氷が広がる。

 

「俺は許さねぇ!!」

 

その瞬間――轟音と衝撃と共に世界が揺れ空が天を覆っていた雲が、真っ二つに割れた。

 

ヤマトが目を見開く。

 

「……レイ?」

 

カイドウの表情が変わった。

 

「……覇王色か」

 

レイの身体から溢れ出す黒い稲妻。氷の世界を覆うように放たれる圧倒的な威圧。周囲の岩が耐えきれず砕け散る。レイの身体から溢れる覇気。

 

 それはただ威圧するだけの力じゃない…己の信念を、己の存在そのものを世界に叩きつける王の資格。

 

動物達が逃げ出すし空気そのものがレイを中心に震える。

 

「……嘘」

 

ヤマトは呟く。

 

「レイが……覇王色を……」

 

レイ自身も理解していなかった。ただ守りたい。負けたくない。

その意思だけが、眠っていた王の力を叩き起こした。

  

カイドウはしばらく沈黙した後――。

 

「……ハハ」

 

豪快に笑った。

 

「ハハハハハ!!やはりか!!」

 

カイドウは嬉しそうに笑う。

 

「最初から思っていた。お前はただ面白ぇだけのガキじゃねぇ」

 

金棒を肩に担ぐ。

 

「やっぱ持ってやがったか。…レイよ。これでお前もこの海の頂点に立つ側の人間だ」

 

「決着をつけてやる」

 

レイは荒い息を吐きながら睨む。そして片膝を突き両手を地に合わせる

 

 

『氷造形ーー"神葬氷獄(しんそうひょうごく)"』

 

それは自身の能力を極限まで解放し、戦場そのものを巨大な氷結領域へと変えるレイの最終奥義

 

発動した瞬間、大地、空気、霊脈に至るまで全てが凍り付き、周囲一帯は逃げ場なき永久凍土へと変貌する。

 

敵味方の区別なく飲み込む絶対領域。

 

内部にいる者は極寒によって体温を奪われ、思考速度、判断力、能力までもが徐々に低下していく。そしてこの領域内では、レイが作り出す氷はただの氷ではない。

 

「造形された氷獄そのものが、レイの意志で形を変える」

 

敵が動けば氷壁が生まれ、攻撃すれば氷槍が伸び、逃げようとすれば足元から凍結が侵食する。

 

まさに世界そのものを造形する、レイの技の極致である

 

 

「テメェはもう逃げられねぇ」

 

「…ふっ…ウォロロロロロ!!」

 

 カイドウの咆哮共に大気が震えカイドウの身体から、凄まじい覇気が噴き上がる。黒い稲妻が周囲を走り、足元の大地が耐えきれず亀裂を広げていく。

 

カイドウの背中が大きく隆起し皮膚の下から龍の力が目覚め、青黒い鱗が一枚、また一枚と全身を覆っていく。

額からは巨大な角が伸び、腕はさらに太く変貌する。人間離れした筋肉の上に龍の力が宿り、尾が大地を叩き砕く。

 

吹き荒れる覇気の嵐と、もはやそこにいたのは、ただの大男ではない。

 

龍の力と人間の戦闘能力を併せ持つ――"怪物"

 

 

「ここからは本気で相手をしてやるぞレイィィィィ!!」

 

「…どんなに姿が変わろうが変わらねぇ…テメェを必ず倒す」

 

 

『氷造形ーー白氷龍(ホワイトドラゴン)・蒼獅子王(そうししおう)・白虎(びゃっこ)・氷凰天翔(ひょうおうてんしょう)』

 

 造形されたのは巨大な氷の龍、鋭い牙と爪を持つ氷の獅子、その牙は鋼鉄すら凍結させ、噛み砕く王虎、羽ばたくたびに無数の氷刃を撒き散らし砕かれても羽根一枚から再構築する再生能力を持つ、鳳凰

 

 

『氷造形・白皇氷帝剣(はくおうひょうていけん)』

 

 レイの右手には神すら斬り裂く"覇王色を纏った氷の皇剣"。

 

 舞台は整った。世界最強の個体である百獣のカイドウと"天堕とし"とまで呼ばれた少年…レイ・ヴァルハートの最終決戦が今開戦する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人の死闘はどれだけの時間を要しただろうか。2人からすれば永遠にも感じ、一瞬のことのようにも感じた。その衝撃は和の国全土に轟き、山は吹き飛び、地は割れ、雷鳴がこだまする。世界最強と呼ばれ、間違いなく世界一の鋼鉄の肉体を誇るカイドウの鱗を斬り裂き血飛沫が舞う。

 逆も然りでありカイドウの異次元の力はレイを吹き飛ばし、レイの氷造形で出来た怪物達とも正面からぶつかり合う。

 

 互いが満身創痍…しかしその表情はどこか晴れ晴れとしている

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ」

 

「…ふぅ…ふぅ…ふっ…ウォロロロ」

 

 

 故に互いが最後の一撃に思いを馳せる。この一撃で勝負が決まる。正真正銘、最後の一撃。この一撃で立っていたものが勝者となる。

 

 

『"大威徳雷鳴八卦"!!』

 

それは百獣のカイドウが放つ、雷鳴八卦の極致。

人獣型の肉体をさらに限界まで強化し、全身の筋肉を膨張させた状態で放たれる一撃。

 

巨大な金棒「八斎戒」に武装色の覇気、そして選ばれた王だけが扱える覇王色の覇気を極限まで纏わせ、振り抜く瞬間に全ての力を一点へ集中させる。

その威力は、触れることすら許さず金棒が振り抜かれる前から黒い稲妻が空間を走り、衝撃波だけで周囲の大地を粉砕する。

 

「最強生物」と呼ばれ続けた男が、自身の絶対的な強さを証明するために放つ――― 覇王の一撃

 

 

 

 

 

 

『氷造形・白皇氷帝剣――天極・皇龍煌牙』

 

 

レイ・ヴァルハートが、百獣のカイドウの最強奥義「大威徳雷鳴八卦」に対抗するためにこの土壇場で生み出した秘儀。白皇氷帝剣の刀身は、もはやただの氷ではない。

 

極限まで圧縮された氷晶が幾重にも重なり、光を吸収する純白の刃へと変貌。

刃の周囲には巨大な氷龍が纏わり付き、その姿はまるで――皇帝の剣を守護する天龍

 

振り抜く瞬間、氷龍は咆哮し、龍の牙を模した巨大な斬撃となって敵へ襲い掛かる。

 

その一撃は斬るだけではない。触れたもの全てを凍結させ、動きを奪い、存在そのものを氷の世界へ沈めるーー天帝の一撃

 

 

 

「…レイ」

 

 

ヤマトはただ1人…己が信頼した男の背を信じただひたすら祈るように見つめる

 

 

白き皇龍が天を駆ける。

 

黒き雷龍が大地を砕く。

 

二匹の龍が激突した瞬間――

 

空が割れ海が震える。

 

地形そのものが耐えきれず崩れ始める。

 

 

その日ワノ国の誰も知らない場所で――

 

後に「天龍決戦」と呼ばれる戦いが幕を閉じた。

 

百獣のカイドウと天堕とし、レイ・ヴァルハート。

 

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