「…ちょっと。そろそろレイから離れてよ!」
数年ぶりに再会したレイとハンコック。永らく生死がが不明だったレイに対してハンコックの想いは大きくなるばかりであった。そして今、再び再会した二人は大いに喜んだ。
しかし、この状況に対して面白くないと思う者が一人。
「む…なんじゃヤマト。妾は今忙しいんじゃ」
「もう良いでしょ。それに僕のレイにキスまでは許してないんだけど…」
「何を言っておるのじゃ。帰宅した夫を癒すのも妻の務めじゃ」
ハンコックとレイの抱擁の間に入り込み、ハンコックと再び言い合いに発展する二人。しかし先程と明確に違う点がある。それはこの場には二人をこのような女性にしてしまった主犯の男がいる事。
「…二人とも少しは落ち着いてーー」
「「レイはどっち(どちらの)味方なの!(なのじゃ!)」」
レイはしばらく黙っていた。左右から自分を見つめる二人の視線を受け止め、静かに息を吐く。逃げることは簡単だった。誤魔化すことも、「選べない」と曖昧に笑うこともできた。
だが、それだけはしたくなかった。二人に対してだけは、嘘をつきたくなかったから。
「……ごめん。」
その一言に、ハンコックもヤマトも息を呑む。
「俺は多分……二人が望むような格好いい答えは言えない。」
レイは苦く笑った。
「一人だけを選ぶって言えたら、きっと一番誠実なんだと思う。でもじゃあ俺は嘘をつく事になる」
真っ直ぐに二人を見つめる。
「俺はハンコックを愛してる。」
ハンコックの瞳が揺れた。
「長い間俺を待ち続けてくれたお前を、愛してる。」
そして視線をヤマトへ移す。
「ヤマトの事も愛してる。一緒に旅して、一緒に戦って、一緒に未来を見たいと思った。その気持ちも、本物なんだ。」
レイは拳を握る。
「だから……。」
一度目を閉じ、覚悟を決めるように言葉を紡ぐ。
「俺には、どちらかだけを選ぶことはできない。選べないんじゃない。選びたくないんだ」
静寂が流れる。
「欲張りだって分かってる。最低だって思われても仕方ない。それでも嘘だけはつきたくない。」
レイは深く頭を下げた。
「俺は……二人とも欲しい。」
その言葉には飾りがなかった。綺麗事も、もっともらしい理屈もない。
ただ、自分の最も身勝手な本心。
「ハンコックもヤマトもどちらも失いたくない。だから、もしそんな俺を許せないなら、それでも構わない。怒ってくれてもいい。呆れてくれてもいい。でも、俺は自分の気持ちだけは偽れない。」
ゆっくりと顔を上げる。その瞳には、一切の迷いがなかった。
「俺は二人を愛してる。だから二人が許してくれるなら俺は二人と一緒に生きたい。…それが俺の、本音だ。」
場が静まり返る。誰も言葉を発せない。それはきっと世間的には見たら可笑しいと笑われるような回答なのだろう。けれど、その言葉は誰よりも誠実だった。嘘で誰かを安心させることも、優しさを装って本心を隠すこともせず、自分の身勝手さまで含めてさらけ出した。
その覚悟だけは、二人にも痛いほど伝わっていた。
風だけが三人の間を通り抜け、誰も口を開かない。
やがて――。
「……ふふ。」
静寂を破ったのは、ハンコックだった。
小さく笑い、肩を震わせる。
「まったく……お主という男は。」
その瞳には呆れと、愛しさが入り混じっていた。
「普通なら、一人を選ぶと言って耳障りの良い言葉で誤魔化すところじゃ。」
「……。」
「じゃが、お主はそれをせなんだ。」
レイは何も答えない。
ただ真っ直ぐハンコックを見つめていた。
「自分が最低と言われることまで受け入れて、それでも本音を貫いた。」
ハンコックはゆっくりとレイの頬へ手を添える。
「妾が惚れた男は、やはりお主だけじゃ。」
その言葉に、ヤマトも困ったように笑った。
「本当にずるいよ。」
レイが視線を向ける。
「そんな顔で言われたら、怒れないじゃないか。」
ヤマトは頭を掻きながら苦笑した。
「レイってさ、自分が傷つく方ばっかり選ぶんだよね。」
「……そんな良いもんじゃないさ」
「誰かを騙いて幸せになろうとはしない。だから僕は、その優しさを好きになったんだ。」
ヤマトはレイの左手をそっと握る。
「だから、僕も本音を言う。」
黄金の瞳が真っ直ぐレイを映す。
「僕だって、レイを誰にも渡したくない。できるなら独り占めしたい。でも。」
そこで一度だけハンコックを見る。恋敵、譲れない相手、それでも、その女性もまたレイを心から愛していることだけは、もう嫌というほど理解していた。
「レイがこんなに覚悟を決めて言ってくれたのに、僕だけ自分の気持ちを押し付けるのは違うと思うんだ」
ハンコックも静かに頷く。
「妾も同じじゃ。」
そして二人は同時にレイの前へ立った。
「レイ。」
「レイ。」
二人の声が重なる。
「お主が二人を選ぶというなら。」
「僕たちも条件がある。」
レイは真剣な表情で頷く。
「あぁ。勿論だ。」
ハンコックは人差し指を立てた。
「妾を泣かせるでない。」
ヤマトも続ける。
「僕も泣かせないこと。」
「どちらか一人だけを特別扱いしない。」
「嘘をつかない。」
「隠し事をしない。」
「寂しいと思ったら、ちゃんと傍に来ること」
「忙しいを理由に逃げないでね」
「愛しているなら、その言葉だけじゃなく行動で示して欲しい」
次々と条件が並び、レイは一つも遮らず、最後まで聞いた。レイは頷いた。
「全部約束する。俺は口だけで終わらせるつもりはない。」
そう言って、右手でハンコックの手を、左手でヤマトの手を優しく握る。
「ハンコック。」
「……うむ。」
「お前が待ち続けてくれた時間を、これからは俺が埋めていく。」
ハンコックの瞳から、一筋の涙がこぼれた。
「ヤマト。」
「うん。」
「これから先も、お前と同じ景色を見て、一緒に笑って、一緒に旅を続けたい。」
ヤマトも嬉しそうに目を細める。レイは二人を交互に見つめ、穏やかに笑った。
「二人を選んだ以上、二人とも幸せにする。誰にも譲らない。俺の責任だ。俺の全てを懸けて守るよ」
その言葉に、ハンコックはそっとレイの肩へ頭を預けた。
「……ふふ。ならば、生涯をかけて証明してみせよ。」
反対側では、ヤマトも照れくさそうに笑いながらレイの腕へ寄り添う。
「期待してるからね。」
左右から寄り添う二人を見て、レイは静かに笑った。
「あぁ。」
その笑顔は、誰かを選んだ男のものではなかった。誰も捨てず、誰も偽らず、そのすべてを背負うと決めた、一人の男の覚悟そのものだった。
その日、ハンコックは甘えた。それはもうこれまでの年月を取り返すと言わんばかりにレイから離れなかった。ヤマトも譲る気はなかった。しかし、ハンコックとレイの過去も知り、自分が改めてレイに大事にされている事を知ったからかその日はハンコックに譲るようになった。
「久しぶりですレイ代表」
「あの時は本当にありがとうございました」
3年前、ハンコックと共に天竜人に奴隷にされそうなところを助けてもらったサンダーソニアとマリーゴールドだ。
「二人も久しぶりだな。無事でよかったよ」
「それは此方のセリフですよ。」
「姉様を…宜しくお願いします。」「宜しくお願いします」
二人はハンコックがレイに対してどのような想いを抱いていたのか知っていた。尚且つ相手は自分たちの命の恩人であるレイだ。応援はしても否定する気など一切なかった。
「あぁ。それにハンコックだけじゃねぇ。ハンコックの妹達、それに九蛇海賊団の皆んなも、ハンコックが大事にしている仲間は俺の家族同然だ。お前らも含め全員俺が守り抜くさ」
一番驚いたのは九蛇海賊団の面々である。
九蛇海賊団、そしてアマゾン・リリーの女たちにとって、ボア・ハンコックは「美」の頂点に立つ存在である。
その美貌は世界一と謳われ、誰もが一目見れば息を呑むほど。長く艶やかな黒髪、宝石のように輝く瞳、均整の取れた肢体、そして気高く堂々とした立ち居振る舞い。そのすべてが「女帝」と呼ぶに相応しく、九蛇の戦士たちは彼女を見上げるたびに誇りを抱く。
しかし、彼女が憧れられる理由は美しさだけではない。男に頼ることなく国を治め、誰よりも強く、誰よりも気高く生きる姿勢こそが、九蛇の女たちにとって理想の女性像そのものなのである。戦場では最前線に立ち、自ら弓を取り、国を守るためなら一切の恐れを見せない。その圧倒的な強さと揺るがぬ誇りは、若い戦士たちに「いつか女帝のようになりたい」と思わせるほどの憧れを抱かせる。
女帝として誰よりも気高く、誰よりも近寄り難い存在。そんなハンコックを知る九蛇海賊団の面々は、自分たちの目を疑っていた。普段の彼女なら、人前で感情を露わにすることなど決してない。弱さなど見せない。甘えるなど、誰一人として想像したこともなかった。
――だが。
「レイ……」
その声は、いつもの女帝の威厳ある声ではない。長年待ち続け、ようやく再び巡り会えた一人の女性の声だった。
ハンコックはレイの腕へ自分の腕を絡ませ、少しでも離れまいと身体を寄せる。歩けば隣を歩き、立ち止まれば自然と肩を預ける。レイが優しく頭へ手を置き、さらりと黒髪を撫でる。
その瞬間ーー
「……ん。」
ハンコックは心地良さそうに目を細め、普段なら絶対に見せない柔らかな笑みを浮かべた。
その姿に、周囲の九蛇たちは言葉を失う。誰もが憧れた絶対の女帝。その女帝が、一人の男の前では年相応の恋する女性になっていた。
大広場にある長椅子にレイの隣に引っ付くように座っていたハンコックは小さく微笑むと、指先で摘まんだ葡萄をそっと唇へ運んだ。艶やかな唇が果実を軽く包み込み、ゆっくりと一口で口に含む。そしてーー
「…ん」
「流石に恥ずかしんだが…」
ハンコックは潤むような瞳と赤くした頬でレイを上目遣いで見つめる。ハンコックの意図を理解したレイであるがこの場には二人以外に九蛇海賊団もいることから戸惑ってしまう。
「…っ」
「わかったよ」
しかし次第にハンコックの目尻に涙が溜まっていく様子に気づいたレイは覚悟を決めて顔を近づけ同じように果物を受け取る。
「ふふ…こんなにも甘いとはの」
「勘弁してくれ」
妖艶に微笑むハンコックと恥じらうレイ。
その日はこの居城を使い皆で宴を開催した。九蛇海賊団の面々は初めて見る食べ物や飲み物に驚き、こちら側の騎士団や住民達はあのアマンゾンリリーから訪れた美女集団である九蛇海賊団に鼻を伸ばしていたものが多かった。
賑やかだった宴も一段落し、一同は大広間へと場所を移していた。
レイは辺りを見渡すがそこにヤマトとハンコックの姿が見当たらない。
「姉様なら先程、ヤマト様と一緒にどこかへ行かれました。」
サンダーソニアが苦笑しながらそう告げる。
「仲が良いのか悪いのか分かりませんね。」
マリーゴールドも肩を竦める。レイは思わず笑みを零した。
「俺としては嬉しい限りだよ」
そんな和やかな空気の中、サンダーソニアが表情を引き締める。
「レイ代表。……少し、お時間をいただけますか。」
その声音だけで、雑談ではないことが分かった。広間にいた幹部たちも静かに耳を傾ける。サンダーソニアは一歩前へ出ると、深く頭を下げた。
「どうか、アマゾン・リリーをエデン連邦へ加盟させていただけませんか。」
その言葉に、室内は静まり返る。
マリーゴールドも姉に並び、頭を下げた。
「お願いします。」
レイは二人へ視線を向ける。
「理由を聞かせてくれ。」
サンダーソニアは静かに頷いた。
「現在のアマゾン・リリーは、姉様という絶対的な存在によって成り立っています。」
「ですが……それは裏を返せば、姉様一人に国の命運を背負わせているということでもあります。」
誰も口を挟まない。それは九蛇海賊団全員が理解している現実だった。
「姉様は世界でも指折りの強者です。ですが、もし世界政府が本気で国を潰そうとしたら。」
サンダーソニアは拳を握る。
「その辺の海賊団程度であれば、私たち九蛇の戦士でも迎え撃てます。ですが……。」
そこで言葉を切った。
「四皇クラスや海軍大将、彼等のような世界最高戦力を相手取れる者は、姉様しかいません。」
マリーゴールドも続ける。
「悔しいですが私たちは姉様ほど強くありません。姉様が倒れれば、アマゾン・リリーにはもう国を守れる者がいないのです。」
九蛇海賊団の幹部たちも、悔しそうに俯く。それは決して卑下ではない。
純粋な戦力分析だった。ハンコック一人が突出しすぎている。その一点に、国全体の安全保障が依存している。サンダーソニアは再び頭を下げる。
「エデン連邦と同盟を組めるのであれば、各国が互いに支え合える。誰か一人が倒れても、他国の戦力が補える。姉様一人に全てを背負わせる国ではなく、皆で守る国になりたいのです。」
その一つ一つに妹としての想いが滲んでいた。レイは腕を組み、少しだけ目を閉じる。しばらく沈黙が流れやがてゆっくりと口を開いた。
「……エデン連邦は、力の大小で加盟国を選ぶつもりはない。」
その一言に、二人が顔を上げる。
「俺が目指しているのは、互いを利用する同盟じゃない。困った時に支え合い、誰か一人へ負担を押し付けない国家連合だ。」
レイは穏やかに笑った。
「それに何度も言ってるだろ?俺はお前達のこともハンコック同様家族だと思ってる。お前達がアマゾン・リリーだけでなくハンコックの事も考えて発言している事も十分に理解した。」
レイはゆっくりと二人の前まで歩み寄る。深く頭を下げたままのサンダーソニアとマリーゴールドを見つめ、小さく息を吐いた。
「顔を上げてくれ。」
その優しい声に、二人はゆっくりと顔を上げる。レイは穏やかに笑った。
「アマゾン・リリーのエデン連邦加盟を、正式に認める。」
その一言が広間に響いた瞬間――。九蛇海賊団の面々の表情が一斉に明るくなる。
「本当ですか……!」
「ありがとうございます!」
サンダーソニアとマリーゴールドは再び深く頭を下げた。レイは首を横に振る。
「礼を言うのは俺の方だ。」
「……え?」
二人は思わず目を瞬かせる。
「世界政府に加盟していないにもかかわらず、長い間あの海で独立を貫き続けてきた国だ。女だけで国を築き、何百年もの歴史を守ってきた。その誇りと強さは簡単に真似できるものじゃない。」
レイは九蛇海賊団全員へ視線を向ける。
「エデン連邦は、お前たちのような仲間を歓迎する。これからはお前達だけで戦う必要はない。」
その言葉に、九蛇の戦士たちは互いの顔を見合わせる。
「もしアマゾン・リリーへ牙を剥く者が現れたなら。」
レイの声色が変わり穏やかだった空気が、一瞬で張り詰めた。
「その時は俺が前に立ちお前達を…アマゾン・リリーを守り抜くと誓おう」
その一言には絶対の自信があった。「これからは、お前たちも一人じゃない。」
その言葉を聞いた九蛇海賊団の戦士たちは、一斉に拳を胸へ当てた。それは九蛇流の敬意の表し方だった。広間には自然と拍手が広がる。
エデン連邦の幹部たちも、新たな仲間を迎えることを心から歓迎していた。
氷城の最上階――そこにはレイだけが使用する私室と寝室がある。宴を終えたレイは自室へと帰ってきていた。
結局、あの後ハンコックは帰って来ずヤマト一人だけ戻ってきていた。理由を問いただしても
『大丈夫!レイは何も心配しなくてもいいよ!』
としか答えてくれなかった。自室の扉を開けば、まず目を奪われるのは壁一面を覆う巨大なガラス窓。眼下にはエデン連邦の街並みが広がり、昼は青い海と白銀の街、夜は無数の灯りが宝石のように輝く。
室内は白と黒を基調に蒼を差し色とした、洗練された空間。高級感はありながらも派手さはなく、黒檀の家具や暖炉、窓際のソファが落ち着いた雰囲気を演出している。壁には本棚や世界地図が並び、王としての知性と品格を感じさせた。
奥の寝室にはキングサイズのベッドが置かれ、正面の大きな窓からは街並みと星空を一望できる。隣には専用のバルコニーもあり、夜風に当たりながら景色を眺められる造りとなっていた。
豪華でありながら気取らず、誰もが自然と肩の力を抜ける――そんな温もりと洗練さを兼ね備えた、レイらしい空間だった。
「ん?」
俺は自室の扉の前に見慣れない靴が脱ぎ捨てられていることに気づいた。居間には誰もいない。そして寝室の扉が少し開かれていることに気づいた。
レイは静かに寝室の扉へ歩み寄る。わずかに開いた隙間から、柔らかな灯りが漏れていた。
「……ハンコック?」
そっと扉を押し開ける。
そこにいたのは―― 大きな窓から差し込む月明かりを背に、ベッドの縁へ腰掛けるハンコックだった。
「……っ」
「…レイ」
ただいつもと違うのはその服装。白銀の月光に照らされたハンコックは、純白のロングネグリジェを優雅に纏っていた。絹のように滑らかな生地は歩みに合わせて静かに揺れ、胸元と袖口を飾る繊細なレースが、世界一と称される美貌に気品という名の彩りを添えていた。月光と繊維の薄さからハンコックの妖艶で豊満な果実が透けている。
レイの姿に気付くと、ハンコックはゆっくりと顔を上げる。
「……待っておったぞ」
その声音は、宴の喧騒とは対照的に静かで優しい。
「…驚いた。宴でも姿が見えなかったから」
レイが苦笑すると、ハンコックも小さく微笑む。
「ヤマトにも協力してもらっての…この時のために」
部屋には暖炉の火が静かに揺れ、窓の外ではエデン連邦の夜景が宝石のように輝いている。
ハンコックはその景色へ一度だけ視線を向け、再びレイを見た。
「この城の最上階……見事な景色じゃ。ここから国を見守っておるのだな。」
「疲れた時は、ここから街を眺めると少し気持ちが落ち着くんだ。」
レイも窓際へ歩み寄り、夜景へ目を向ける。しばらく二人は言葉を交わさず、静かな時間を共有した。宴の賑わいが嘘だったかのような、穏やかな夜。
やがてハンコックはレイの裾を掴み震える口を開く。
「…もう…良いのではないか」
その言葉にの意味が分からないレイではない
「…俺ももう我慢の限界だ」
「…んっ」
コートを勢い良く脱ぎ捨て上着を放り投げ露わになったその肉体は、まるで芸術作品のようだった。鍛え抜かれた筋肉は均整の取れた美しさを描き、力強さと気品を同時に宿している。
荒い息を吐いたレイが普段からはまるで想像もできない獣じみた瞳でハンコックを押し倒す。
夜風がカーテンを静かに揺らし、温かな空気が満ちる部屋には、数年の刻を経て再び巡り合った二人の姿があった。
失われた時間を埋めるように寄り添うその姿は、離れていた年月さえも忘れさせるほどに、互いを想う情熱と愛情に満ちていた。