カントーの潮風を追って 作:mochiato
ハナダシティに着いた。
クチバとは違う街並みだった。
街のあちこちに水路があり、橋が架かっている。
歩いている人も多い。
「ここがハナダか……」
ヤマトは辺りを見回した。
旅に出てから、まだ一日目。
それでも、クチバを出てからかなり歩いた気がする。
六番道路では、野生のポケモンと何度も戦った。
トレーナーとも何人も戦った。
その後は地下通路を歩いて、五番道路を抜けてきた。
途中では何度か休憩した。
それでも――。
「……疲れた」
ポケモンセンターを見つけたところで、急に力が抜けた。
ヤマトはそのまま中へ入る。
「ポケモンの回復をお願いします」
「はい。少々お待ちください」
二つのボールを預ける。
しばらくして、回復を終えたボールが戻ってきた。
「ありがとうございます」
受け取ったボールを眺める。
「よし」
まずは一安心。
椅子に座る。
背もたれに身体を預けた。
「……」
動きたくない。
さっきまでは街に着いた嬉しさの方が勝っていた。
けれど、座ってしまうと一気に疲れが出てきた。
「旅って、思ったより大変だな……」
ヤマトは天井を見上げた。
前世の知識では、旅の道中で何をするかはある程度分かっている。
けれど、実際に十歳の身体で歩いてみると話が違う。
今日はかなり歩いた。
しかも、何度もポケモン勝負をしている。
「……初日から飛ばしすぎたかな」
少しだけ反省する。
ふと、隣を見る。
エレキッドが元気そうに立っていた。
「……お前は元気だな」
「キッド!」
元気な返事。
「まあ、そうだよな」
ヤマトは苦笑した。
そして、腰にあるもう一つのボールを見る。
中にはギャラドスがいる。
あれだけ戦ったのに、こちらも問題なさそうだった。
「ギャラドスも平気そうだし」
ヤマトは小さく息を吐く。
「俺だけか」
「キッド?」
「なんでもない」
ヤマトは立ち上がった。
まだ旅は始まったばかりだ。
ここでへばっているわけにもいかない。
◇
少し休んだ後、ヤマトは荷物を整理した。
水筒。
着替え。
タオル。
道具。
そしてポケモン用の餌。
「今日はこれにしようか」
餌を取り出す。
まずエレキッドの分を用意する。
「ほら」
「キッド!」
エレキッドが嬉しそうに食べ始める。
「そんなに急がなくてもなくならないぞ」
ヤマトは笑った。
次に、ギャラドスの分を用意する。
ボールから出す。
狭い場所では大きすぎるので、少し離れた場所で食べさせる。
「ほら、ギャラドス」
餌を置く。
ギャラドスが近づく。
そして――。
「……」
食べ始める。
「……多いな」
ヤマトは思わず呟いた。
コイキングの頃とは比べものにならない。
「まあ、身体も大きくなったしな」
ギャラドスは気にする様子もなく食べ続ける。
「今日もいっぱい戦ったし」
そう言って、ヤマトは残りの餌を片付けた。
旅立つ前に準備しておいたものが、こうして実際に役に立っている。
それだけでも少し嬉しかった。
◇
食事を終えた後。
ヤマトは二匹を連れて、街の外れへ向かった。
人の少ない水辺。
ここならギャラドスを出しても問題なさそうだった。
「じゃあ、出てきて」
ボールから光が飛び出す。
巨大な青い身体が現れた。
ギャラドスは地面には降りず、宙に浮いている。
エレキッドがその姿を見上げる。
「キッド……」
昨日は進化直後の騒ぎだった。
落ち着いてギャラドスを見るのは、これが初めてかもしれない。
エレキッドが少しずつ近づく。
ギャラドスもエレキッドを見る。
「……」
「……」
二匹が見つめ合う。
エレキッドが首を傾げる。
「キッド?」
ギャラドスが低く鳴いた。
「まあ、そうなるよな」
ヤマトは二匹の間に入る。
「改めて紹介するよ」
ギャラドスを見る。
「こっちはギャラドス」
そしてエレキッドを見る。
「昨日から一緒に旅してるエレキッド」
「キッド!」
エレキッドが元気よく鳴いた。
ギャラドスがもう一度鳴く。
「うん」
ヤマトは頷いた。
「二匹とも、これから一緒に旅する仲間だから」
エレキッドはギャラドスを見上げる。
怖がっている様子はない。
むしろ興味津々だった。
エレキッドがさらに近づく。
ギャラドスの身体の周りを歩く。
尻尾を見る。
顔を見る。
そして大きな口を見る。
「キッド……」
「そんなに気になるか?」
エレキッドが頷く。
ヤマトは笑った。
「昨日はちゃんと見る余裕なかったもんな」
進化した直後。
ギャラドスは怒っていた。
エレキッドも何が起きているのか分かっていなかった。
あれが二匹の最初の出会いだった。
まともな顔合わせとは言えない。
「今度は仲良くな」
エレキッドがギャラドスを見る。
ギャラドスもエレキッドを見る。
しばらくして、ギャラドスが少しだけ身体を下げた。
エレキッドが手を伸ばす。
大きな身体に触れる。
「キッド!」
嬉しそうな声。
ギャラドスは動かなかった。
「大丈夫そうだな」
ヤマトは安心した。
◇
しばらくすると、エレキッドがヤマトのところへ戻ってきた。
今度はヤマトの隣にいる。
ギャラドスは少し離れた場所で浮かんでいる。
ヤマトはエレキッドの頭を撫でた。
「今日、ギャラドスがいっぱい戦ってくれたんだぞ」
「キッド?」
「六番道路で、野生のポケモンとも戦ったし、トレーナーとも戦った」
エレキッドがギャラドスを見る。
「いつものたいあたりも使った」
ギャラドスが低く鳴く。
「かみつくも使えた」
また鳴く。
「りゅうのいかりも」
ギャラドスが少しだけ身体を揺らした。
「それから、じしん」
ヤマトは笑う。
「これは昨日覚えたばかりなのに、かなり強かった」
エレキッドが目を輝かせる。
「キッド!」
「お前も戦いたい?」
エレキッドが大きく頷く。
「そうだな」
ヤマトも頷いた。
「じゃあ、明日から少し鍛えようか」
「キッド!」
嬉しそうにエレキッドが跳ねる。
ギャラドスがそれを見ている。
「君も頼むぞ」
ギャラドスが鳴いた。
「先輩としてな」
ギャラドスが少しだけ胸を張ったように見えた。
「……分かりやすいな」
ヤマトは笑った。
◇
日が傾き始めた。
ヤマトたちはポケモンセンターへ戻った。
今日一日だけでも、かなり歩いた。
部屋に戻ると、ヤマトは荷物を置いた。
「……疲れた」
今度は素直に口に出した。
ベッドに腰を下ろす。
窓の外を見る。
ハナダの街が夕暮れに染まっている。
クチバを出た。
六番道路を歩いた。
たくさんのポケモンと戦った。
トレーナーとも戦った。
地下通路を抜けて。
五番道路を通って。
そして、ここまで来た。
「初日から結構やったな……」
ヤマトは笑う。
大変だった。
足も重い。
けれど、不思議と嫌ではなかった。
むしろ、少しだけ楽しかった。
これが旅なのだろう。
「明日はエレキッドだな」
そう呟く。
まずは新しい仲間を強くする。
その先のことは、それから考えればいい。
ヤマトはベッドに横になった。
旅立ってから、最初の夜。
ハナダシティの静かな夜が、ゆっくりと更けていった。