カントーの潮風を追って   作:mochiato

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第18話 小さな電気ポケモン

 ハナダシティの朝。

 

「……疲れた」

 

 ヤマトはベッドの上で天井を見つめていた。

 

 昨日はクチバシティを出てから、六番道路を歩いた。

 

 野生のポケモンとも何度も戦った。

 

 道中のトレーナーとも戦った。

 

 そこから地下通路を抜け、五番道路を通って、ようやくハナダシティまで辿り着いたのだ。

 

 ポケモンセンターに着いたときは、それほど疲れているつもりはなかった。

 

 だが、一晩眠ってみると分かる。

 

 身体が少し重い。

 

「……思ったより歩いたんだな」

 

 十歳の身体。

 

 前世の記憶があるとはいえ、今の身体はまだ旅に慣れていない。

 

 ヤマトはゆっくりと起き上がった。

 

 窓から外を見る。

 

 ハナダシティの朝は、クチバシティとはまた違った雰囲気だった。

 

 水路が街の中を流れ、その向こうには青い空が広がっている。

 

「さて……」

 

 ヤマトは隣を見る。

 

 そこにはエレキッドがいた。

 

「おはよう」

 

「キッド!」

 

 エレキッドは元気いっぱいだった。

 

「……お前は元気だな」

 

 思わず苦笑する。

 

 昨日マチスから仲間になったばかり。

 

 まだ一緒に過ごした時間は短い。

 

 昨日は移動が中心だったこともあり、エレキッドについて分かっていることはほとんどなかった。

 

「そういえば……」

 

 ヤマトはエレキッドをじっと見る。

 

「お前、何ができるんだ?」

 

「キッド?」

 

「いや、俺も知識としては分かるんだけどさ」

 

 ヤマトは腕を組んだ。

 

 前世ではエレキッドというポケモンについて知っていた。

 

 どんなポケモンなのか。

 

 どんな技を覚えるのか。

 

 そういった知識はある。

 

 だが、それと目の前にいるエレキッドが、実際に今どの技を使えるのかは別問題だ。

 

「実際に使える技を確認しておこう」

 

「キッド!」

 

「じゃあ……お前ができることを、順番に見せてくれ」

 

 ヤマトがそう言うと、エレキッドは少し考えるような仕草をした。

 

 そして――。

 

 シュッ!

 

「うおっ!?」

 

 エレキッドの姿が一瞬で消えた。

 

 小さな身体が部屋の端まで駆け抜け、そのまま急停止する。

 

「速っ……!」

 

 ヤマトは目を丸くした。

 

 エレキッドが振り返る。

 

「今の……」

 

 ヤマトは記憶を探る。

 

「でんこうせっか、か?」

 

「キッド!」

 

 エレキッドが元気よく頷いた。

 

「なるほど」

 

 ヤマトは頷く。

 

「じゃあ、次は?」

 

 エレキッドが今度はその場で構えた。

 

 そして、じっと前を睨みつける。

 

「……これは」

 

 ヤマトはエレキッドの表情を見る。

 

「にらみつける、だな」

 

「キッド!」

 

「よし」

 

 ヤマトは頷いた。

 

「もう一つ」

 

 エレキッドが両手を前に突き出す。

 

 バチッ!

 

 小さな電気が両手の間で弾けた。

 

 次の瞬間。

 

 バチィッ!

 

 電撃が前方へ飛んでいく。

 

「おお……!」

 

 ヤマトは思わず身を乗り出した。

 

「でんきショックだな」

 

「キッド!」

 

「これは遠くから攻撃できる、と」

 

 ヤマトは頭の中で整理する。

 

 でんこうせっか。

 

 にらみつける。

 

 でんきショック。

 

 今のところ三つ。

 

「あと一つくらいあるか?」

 

 ヤマトが尋ねる。

 

 エレキッドが頷いた。

 

「じゃあ、見せてくれ」

 

「キッド!」

 

 エレキッドが右手を握る。

 

 すると――。

 

 白い冷気が拳の周囲に集まり始めた。

 

「……ん?」

 

 ヤマトが目を細める。

 

 冷気は次第に強くなり、拳の周囲に白い霜が浮かんでいく。

 

 パキッ。

 

 小さな氷が拳を包んだ。

 

「……れいとうパンチか」

 

 ヤマトは目を丸くした。

 

「そんな技まで使えるのか」

 

 エレキッド自身も、自分の拳を不思議そうに眺めている。

 

「これは俺の知識にもあるな……」

 

 ヤマトは腕を組む。

 

 ただ、エレキッドが実際に使えるとは思っていなかった。

 

「なるほどな」

 

 ヤマトは四つの技を頭の中で整理する。

 

 でんこうせっか。

 

 にらみつける。

 

 でんきショック。

 

 れいとうパンチ。

 

「とりあえず、これで今使える技は分かったな」

 

「キッド!」

 

「でも、実際の戦いでどう使うかは……」

 

 ヤマトは少し考えた。

 

「やってみないと分からないか」

 

「キッド!」

 

「よし」

 

 ヤマトは立ち上がった。

 

「ちょっと外に行こう」

 

     ◇

 

 ハナダシティの水辺。

 

 ヤマトとエレキッドは、人の少ない場所までやって来ていた。

 

「ここなら大丈夫そうだな」

 

 水面を眺める。

 

 しばらくすると、水面が揺れた。

 

「ん?」

 

 何かが近づいてくる。

 

 やがて、水面から触手のようなものが伸びた。

 

「メノクラゲか」

 

 まだ小さい。

 

 動きにも、それほど力強さは感じられない。

 

「ちょうどいいな」

 

 ヤマトはエレキッドを見る。

 

「さっき確認した、でんきショックを試してみよう」

 

「キッド!」

 

 エレキッドが前へ出る。

 

 メノクラゲが水面から顔を出した。

 

「でんきショック!」

 

 エレキッドが両手を前へ突き出す。

 

 バチィッ!

 

 電撃が一直線に飛んだ。

 

 メノクラゲに命中する。

 

「おお……!」

 

 メノクラゲの身体が大きく揺れた。

 

「かなり効いたな」

 

 やはり水タイプ。

 

 電気は相性がいい。

 

「もう一回――」

 

 ヤマトが言いかけた、そのときだった。

 

 メノクラゲの触手が動く。

 

「!」

 

 先端から小さな針が飛んできた。

 

「どくばり!」

 

 ヤマトが叫ぶ。

 

 エレキッドが一瞬、動きを止める。

 

「左!」

 

 ヤマトは反射的に指を差した。

 

「でんこうせっか!」

 

「キッド!」

 

 エレキッドの身体が弾けるように動いた。

 

 シュッ!

 

 直前までいた場所を、どくばりが通り過ぎる。

 

「よし!」

 

 ヤマトは思わず拳を握った。

 

「そのまま距離を取れ!」

 

 エレキッドが後ろへ下がる。

 

 メノクラゲとの距離が開いた。

 

 ヤマトは一度深呼吸した。

 

「……よし」

 

 今度は迷わない。

 

「でんきショック!」

 

「キッド!」

 

 再び電撃が放たれる。

 

 バチィッ!

 

 メノクラゲに直撃。

 

 小さな身体が大きく揺れ、そのまま水面に浮かんだ。

 

 戦意を失ったようだ。

 

「……勝った」

 

 ヤマトは呟いた。

 

 エレキッドも、自分の両手を見ている。

 

「キッド……」

 

「どうだ?」

 

 ヤマトが近づく。

 

「今の、結構よかったんじゃないか?」

 

「キッド!」

 

 エレキッドが嬉しそうに両手を上げる。

 

 ヤマトも笑った。

 

「よし」

 

 ギャラドスとの戦いとは、全然違う。

 

 ギャラドスなら、圧倒的な力で一撃で終わることが多い。

 

 だが、エレキッドは違った。

 

 相手を見て。

 

 距離を取って。

 

 相手の攻撃を避けて。

 

 自分の技を使う。

 

「……面白いな」

 

 ヤマトはエレキッドを見る。

 

「お前との戦いは」

 

「キッド!」

 

「今日のところはこれで十分だ」

 

 ヤマトは水面を見る。

 

「れいとうパンチは、また今度だな」

 

 メノクラゲは水タイプ。

 

 今ここで使う必要はない。

 

 せっかく覚えているのだから、もっと相性のいい相手に試した方がいい。

 

「俺も勉強しないとな」

 

 エレキッドが隣に並ぶ。

 

 二人はしばらく水面を眺めていた。

 

     ◇

 

「さて」

 

 ヤマトは立ち上がった。

 

「帰るか」

 

「キッド!」

 

 エレキッドもついてくる。

 

 ハナダシティへ戻る道を歩きながら、ヤマトは考えていた。

 

 昨日はギャラドス。

 

 今日はエレキッド。

 

 仲間が増えたことで、戦い方も変わってくる。

 

「明日からは、もう少しちゃんと鍛えるか」

 

「キッド!」

 

「今度はトレーナー戦もやってみたいしな」

 

 エレキッドが元気よく返事をする。

 

 ヤマトはその様子を見て笑った。

 

「でも今日は休もう」

 

 昨日の疲れは、まだ完全には抜けていない。

 

「俺も疲れてるし、お前も休んどけ」

 

「キッド……」

 

 エレキッドが少しだけ残念そうな顔をする。

 

「明日な」

 

「キッド!」

 

 今度は元気よく返事をした。

 

 ハナダシティの街並みが、二人の前に広がっている。

 

 まだ旅は始まったばかり。

 

 知らないことも多い。

 

 それでも――。

 

 少しずつ、仲間のことを知っていけばいい。

 

「明日から、もっと強くなろうぜ」

 

「キッド!」

 

 小さな電気ポケモンの声が、ハナダの街に響いた。

 

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