「どう?ものに出来そう?」
「精進致します・・・」
魔剣の使い方指導もそこそこに解散、もとい久条運命の部屋に部屋主直々に案内されていた。
これからの働き先に緊張する間もなくレントはうちひがれていた。
「まさか使うだけであそこまで差が出るなんて・・・」
同じ魔剣使いとして指導を受けるにあたり頭を悩ませていた。
「ただの切れ味の良い剣では無かったんですね。」
「贅沢な勘違いだね。」
魔剣とは世界そのもの。
世界の中に小さな世界を生み出し、果てには全ての世界を歪めるまさに魔剣。
レントはそれを本当にただの剣としか使えていなかった。
運命は魔剣を使い、物を飛ばしてみたり、時折自身を早く動いてみたりと小さな神域を生み出し操っていた。
「まだまだ若造には負けんよ。魔剣だけに。」
「運命様が何歳かは分かりませんが、十分にお若いと思いますよ。」
お茶目なギャグを通そうとして、真面目なフォローを返された上にギャグ部分をスルーされ、運命の心に少しヒビが入った。
だがこんなもので砕けていてはリンドヴル厶との会談でもやっていけない。
ようはモチベーションなのだ。
「ほ、ほらほら!そこの扉の先が私の部屋さ!
日当たりも良くて開放的な空間が広がる部屋だよ!」
おふざけが通じないと分かるや否や、話を変え目的の部屋について話し始める。
レントも言葉の通り、廊下に続く先の扉に目をやる。
運命が自慢の部屋の紹介をすればまだ心の安定が保たれる。
そう思い、扉に近づくと。
prrr「運命様?コートから何か音が・・・」
「あぁこれ?後でレント用のものを手配しておくよ。
ちょっとゴメンね・・・もしもし、メイズママ?
忘れ事?・・・・・・今日提出!?
あ、あれ?終わってる筈・・・?
ちょっと確認するからぁ!!」
運命は急に走り出し、扉を開け入っていく。
慌てているせいか中でこけるような音も響いた。
「いったい!あ、ゴメン!シオン起こしちゃったね。
ゴメン今急いでて・・・あ、あったあ!
メイズママ、あったよ!今すぐ持っていくから!
うん、ありがとう!
シオン、今度ちゃんと埋め合わせするからレントって子に部屋の紹介お願い出来ないかな?
そんな目しないで、お願い!
ラーメン無料券とトッピング券渡すから!
ホント?ありがとう!よろしくね!」
運命が部屋から書類を持って出てくると、レントをスルーして走り去っていく。
「ごめん!後は中のシオンって子に聞いてー!」
エレベーターに乗り上がっていく。
どうやら今日提出の書類を出し忘れていたらしい。
先程、渡せば良かったのでは?と思ったが
おそるおそる主不在の部屋に入ってみる。
「失礼致します・・・」
返ってくるのは静寂。
壁1面ガラス、
十何人と入ろうが余裕のありそうな広さ、その上で中央に置かれた大きい机とソファ。
自分の知る皇帝と呼ばれる私室では無かったが、普通の人の生活ではなくまさに上流階級の部屋だと感じる。
夕焼けが差し込む部屋は人の気配など無く静かだった。
『・・・・・・』
「えーと、あの・・・」
太陽が差し込むソファの上のクッションに持たれ込むように黒猫がいた。
猫の心など読めはしないが、心なしか半目だ。
・・・・・・寝起きなのだろうか。
「こ、こんにちは・・・」
『・・・ニャ』
言葉が分かっているかのように、短く鳴いた。
とても賢い猫だ、しっかり自分の目を見て確かめている。
数秒、見合っていると運命の言葉を思い出した。
「あー・・・えっと、シオン様という方が部屋にいると聞いたのですが・・・知りませんか?」
猫に話しかけたのは始めてだが、他に人はいないのでそこまで恥ずかしくない。
「にゃ、ニャーン。にゃにゃーん、ニャーン?」(す、すみません。シオンって方、知りませんか?)
伝われと願いつつ猫語で喋ってみるがやはり伝わらない。
「こんなとこ、カノン様やソナタ様に見られたら恥ずかしいですね・・・・・・」
『・・・ニャーオ』
その時何故かレントは、その鳴き声は笑っているように聞こえた。
「運命様、シオン様、遅いですね・・・」
結局、レントはシオンを見つけられずにいた。
部屋内の階段を登った先の談話室らしき空間、トイレ、ベッド内、下など隠れられるような場所を探した。
もちろん隠れる意味などないだろうというのは分かっていたが、たった3日のGARDEN内での経験により自身の常識を真っ先に疑うようになっていた。
ただし、まだ気づいていなかった。
疲れてソファに座り込んで運命を待つ自身の膝の上で撫でられている猫が
『ニャーン♪ニャ』
(オマエ、ナデルノ ウマイ。)と言われた気がして、撫でる手を一層優しくする。
途中、黒猫に指し示されたおやつの一欠片を口に運ぶ。
ゴロゴロと音を鳴らす猫を横目に窓に目を向ける。
気づけば空は暗がり途中で黄色が無くなりかけている時間。
そうなるとお腹が空き始めた事を実感し、食事をどうしようかと空案し始める。
すると、
「おーい、うんめーい。
うちのシオンさん見なかっ・・・おっと、来客だったか。」
部屋の入口から人が現れた。
いや、人なのか一瞬迷った。
身長は自分より拳1つ程高い、髪は夕焼けのような黄色で眩しい。
先程の台詞からこの部屋主に用事があったようだ。
「えーと、ガーデナーの人?」
疑わしそうな顔で見てくる。
レントは思わず立ち上がり自己紹介をする。
「あ、ち、違います。
私は本日・・・じゃなくて先日より運命様からGARDENの騎士としてBUTLERを拝命しました、レント・バラードです。
所属はブレイドラインとなっていますが、運命様の直下の執事として従事する所存です。」
突然の獣の人に話しかけられた動揺があったが、持ち直し紹介を終える。
すると、男は疑念の顔から人懐っこそうな顔に変わった。
心なしか尻尾が揺れた。
「おぉ!お前が新人さんだったのか!
悪かったな、不躾な視線を送っちまって!」
肩を掴まれ揺さぶられる。
あまりの勢いに頭が揺れる。
「おっと悪ぃ、自己紹介がまだだったな。
俺の名前はレアリザスだ。
第七軌道人類史、アクシオンゲートのQUEENさ。」
落ち着いて離れた後、自己紹介を受け右手を差し出してくる。
レントは慌てて握手する。
「驚きました、貴方も騎士だったのですね。」
「おう!お兄ちゃんって呼んで貰っても構わないぜ。」
「・・・・・・」
耳を疑った。
「・・・なんて?」
「お兄ちゃんって呼んで貰っても構わないぜ!」
なんだろう、
いや、あの方は無闇矢鱈に人を姉扱いさせようとするお方ではないな。
「申し訳ありません、私には実兄がいますので・・・
それはそうと、シオン様をお探しなのですね。
生憎、席を外しているのかこの部屋には居ないようで・・・・・・」
話を変え戻す。
何故か、あのままだと宜しくない事が起きる気がしてしまった為だ。
「私も探したのですが、おそらくこの部屋には」
「こーらシオン、夕食前のおやつはダメだっていつも言ってるだろ。
運命も何処に隠してたんだか。」
レアリザスは黒猫に話し怒りかける。
・・・・・・え?
「あの・・・シオン・・・様?」
レントは信じられないもの見る目で固まる。
「ん?なんだシオン。
自己紹介もしてなかったのか?
初めましてなんだからちゃんとしような。」
『・・・ニャ』
黒猫は顔を背ける。
じゃあ何だ。
「仕方ないなぁ。
レント、こいつはうちの騎士団のKINGのシオンだ。
これから宜しく頼むな。」
「てかシオン。
初対面なんだからちゃんと人型になって挨拶しような。
ほらお兄ちゃんと一緒に、な?」
レアリザスは黒猫を起こすように揺する。
黒猫は鬱陶しそうに唸ると、その場でぴょいと飛び跳ねた。
その瞬間、
小さな黒猫が煙に巻かれる。
「はい!?」
レントは驚愕した。
爆発した事もだが、煙が晴れると
身体より大きめの黄色い服、レアリザスと似た黒い髪と同じ色の耳。
「あくしおんげーと、きんぐ、しおん。」
それだけ告げると少女はまた横になり始める。
「違う違う!シオンさん、夕食の時間だぞー!
起きろー!運命んとこに行くぞー!」
それを聞くとシオンがぅん、と唸りながら起き上がる。
「うんめーからラーメンとトッピングのむりょーけん、もらう予定。」
「そうだな、皆で使おうな。」
レアリザスは起きた事に満足するように頷く。
シオンはこちらを見て微笑む。
「カノンとソナタも誘おうか?」
レントは血の引く気がした。
そうだ、シオンが黒猫なら当然全てを見ていたのだ。
「・・・黙っていて下さい。」
「貸しひとつね。」
「何の話だ?」
三人で部屋を出て第六層の街並みを横目に歩く。
エルスタニアの城塞並に高い建物が続く。
少々、飲み込まれかける気持ちがある。
レントが先程の台詞に引っかかりを覚える。
自身の心情を誤魔化す為にレアリザスに質問する。
「運命様のところ?」
レアリザスは運命様にシオン様の居場所を尋ねる為にこの部屋に来ていたのではないか。
そして、この部屋にいない事を知っていたのか。
「うっ。」
しまった、と言わんばかりの顔を浮かべる。
その横でシオンが半目でレアリザスを見る。
「あー、えーと、そのー。」
「レアリザス、今日ダメダメ?」
その言葉にガックリと項垂れる。
「いや、そうなんだよな・・・
朝から玉の入りがちょっと悪かったよな・・・
台を選んだのは俺なんだけど。
そんな運でやっぱ隠しきれる訳が無かったよな・・・・・・」
シオンがレアリザスの腰をはたく。
小さな衝撃で腰を真っ直ぐになり、レントに向き合う。
「いやーホントは運命から連れてきて欲しいって連絡貰ってて、来たんだよ。
その為にシオンも探してたんだが、丁度良く一緒にいるからさ。」
申し訳なさそうな顔で説明する。
「聞いてた話だと神域から来た人だと聞いてたから個人的に怪しんでいたんだが・・・
シオンがそこまで懐いているなら何も言わないさ。」
懐っこい笑顔を向ける。
俗に言うイケメンスマイルというやつか。
柔らかい笑顔に自分の心も少し溶かされていくのを感じる。
お兄ちゃんと言っていたが
「なんか申し訳ございません。」
実験室でわざとでは無いが怪しまれていた事実を知らされた上で、真っ直ぐに言われるとやはりショックだ。
そんなレントをレアリザスは肩を優しく叩く。
「そんな顔しないでくれよ、悪かったな。
今からちょっとした歓迎会なんだから許してくれ。」
「歓迎会?」
レントは首を捻る。
「ないしょ。だけど着いた。」
先を行くシオンが止まって指を指す。
そこにはガラス張りの店があった。
店先には赤い文字が描かれたランタンらしきものがぶら下がっていた。
店の扉の前に前垂れがかかり文字が書かれていた。
「運命屋?」
「そ、運命屋。」
シオンはそれだけ告げると扉を開けて入っていく。
扉の横の張り紙には『本日貸切』と書かれている。
「まさかここで歓迎会を?」
「そうさ、入ろうぜ。」
レントはレアリザスに背中を押され、店に入る。
「いらっしゃいませー!」
「いらっしゃいませー♪」
「ぁああああ!!カワイイ!!カノン!!可愛いぞぉ!!」
目に入った瞬間、一度扉を閉めた。
見覚えのある方達が、
「ラーメン?」
「エルスタニアには無かったからな、麺料理だ。」
自分と話し相手になったからか落ち着いたソナタに事の経緯を説明されていた。
二人は少し離れた席で、カノンが店員の格好をして運命の手伝い。
その前の席で箸を両手で持ちながらソワソワと待つシオンをレアリザスが諌めていた。
運命とカノンが慎ましやかだが、歓迎会をしたいとの事。
カノンがサプライズにしたいとの事。
その時に近くにいて、関係の無いレアリザスにヘルプを呼んだ事。
そして、私室にいたシオンをラーメン券と引替えに偶然巻き込んだ事。
レアリザスに連絡してシオンと一緒に運命屋に連れてきて欲しいとの事。
さらに、そこまで3時間程で計画したという事。
レントはそこまで聞いて慎ましやかという言葉にある確信を得ていた。
「・・・もしかして
「ああ、運命から掻い摘んでだが聞いている。
・・・辛かったな。」
魔剣を背負った者なんてGARDEN内で一気に噂になれば立場が悪くなる。
そう考えた運命は情報を規制し少しづつ慣れさせていく。
その形で楽園聖典は納得した。
その監督責任として運命とブレイドラインはそれに了承した。
ただ、ブレイドラインは二人(ブルーはトロイの説得により)を除いて納得できていない部分があるようで。
「・・・本当に申し訳ありません。」
「君は謝ってばかりだな。」
頭を下げるレントにソナタは頭を撫でる。
この方にはよくカノンと遊んでいる時に一緒に撫でて貰っていた。
「・・・私はもう大人ですよ。」
「私にとっては弟のようなものだ。」
されど皇族と執事。
壁を取り払うなど、未だに出来る想像すら出来ない。
「ゆっくりでいいさ、トロイ達もきっと分かってくれる。
君の性格を誰より知っている私達が言うんだ、私を信じてくれ。」
その言葉に心臓を貫かれた気がした。
見抜かれた、信じられないのは自分自身だったと。
見抜かれた、自分達に信を置けていない従者なのだと。
「申し訳・・・ございませんっ!」
「もう謝ってくれるな、我らは同士だ。」
涙を流すレントにソナタは慰める。
「こーらお姉ちゃん!レントを虐めちゃダメだよ!」
「え、いや、虐めている訳じゃない!」
ソナタが慌てて弁明する。
その間に運命がラーメンをカウンターの上に上げている。
「みんな!特別ラーメンが出来たよ!」
「ふむ美味そう。健康に良さそう。」
「おいおい!美味そうだなぁ!」
「歓迎会だからね、奢りだし赤字覚悟の自信作だよ。」
四人がワイワイと歓迎会の為のラーメンに口を付けようとしている。
「さぁ食事の準備が出来たようだ。
一緒に食べよう。」
「ソナタ様・・・私は・・・」
「だが、君が命令された方がやりやすいというならそうしよう。
命令だ、一緒に食べよう。レント。」
分かっていた。
命令された方が楽だという事。
だが、
魔剣の事を知られてなお、自身に関する違和感。
それを考えないようにソナタについていく。
「・・・はい、そちらが正しい形なのです。
私は正しく、皆様の
「・・・大丈夫?レント。」
「・・・このハシという棒でどうやって食べるんですか!?」
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書き方を変えたら絶妙に完成さにくくなっちゃった。
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