翌日、自分に割り振られた部屋から運命様の私室に出勤する。
服を着替えて。
「おお、実際に見ると確かに執事っぽいね。」
「仰る事は分かりますが、確かにも何も執事ですよ。」
私は執事服を着ていた。
先日の歓迎会の中でレアリザス様の仲間に執事服を好んでいる人がいると聞き、手配してもらった。
・・・不思議な人だったな、絶妙に話が通じているような感覚がする人だった。
その方はベストタイプの執事服を来ていたが、私の服は服の裾が足まで伸びている。
所謂、燕尾服と呼ばれるタイプだ。
ネクタイは黒、ワイシャツと手袋は白。
これこそ、エルスタニア皇族に仕えたバラード家の正装そのものだ。
「では何から始めましょうか、私としましては部屋の掃除から始めたいのですが。」
「うん、お願いね。
それに、こっちの書類整理もお願いしたいかな。
あと、多分途中でもう1人の騎士が手伝いに来てくれる筈だから。」
「承知しました。」
簡単な掃除はなされている部屋ではあるが、運命の執務机の周りには書類や束ねるバインダー類が散乱していた。
その真ん中では運命が「アァ…メンタルガ…ケズラレテイク…」と呟きオモイカネなるものに縋ろうとしていた。
それを横目に関係のありそうな書類毎に分類していると、扉が開いた。
「はろはろワールドへいかー!」
「Hello World、陛下。
寝坊したバカを連れてきたわ。」
扉が開くと同時にオレンジ色の少女が飛び込んできた。
その後ろには明るい彼女と真反対な冷たさすら感じる少女が。
「昨日パイセンと
「言い訳しないの、今日の予定は昨日の朝にリマインドしてたでしょ。」
「え〜でも私だけ怒られるのおかしくない?
パイセンも実験室で寝てたじゃん。」
「陛下の手伝いを自ら打診しておいて寝坊したのはバカブレムでしょう!」
言い合いをする二人に呆気を取られ、書類を抱えたままのレント。
その視線に怒られるのが嫌で目を背けるオレンジ色の少女と目が合った。
「あれ?誰ー?」
「あ、あぁ、申し訳ございません。
BUTLERの騎士、レント・バラードと申します。」
突然に矛先が向き、自己紹介をする。
「本日より運命様の執事としt・・・」
「あー!キミが例の新人クンかー!
よろしくよろしくー♪」
また突然に握手をして、手を激しく振る。
その光景にもう1人の少女が肩を掴み剥がす。
「何やってるの、名乗られたのだからあなたも名乗りなさい。」
「あぁゴメンゴメン。
オホン、私達は第八軌道人類史が生んだ天才集団!
その名を『O-RANGE』!そしてそのKING!
私こそが天才集団の大天才、存在自体が超難問!
プロブレムちゃんっなのだー♪」
腰を手に当て、指を天に突き刺し名乗る。
その横の少女は頭に手を当て痛そうに首を振る。
「ほらほら、モノもモノも!」
「あなたが名乗っては意味が無いでしょう!?」
勧められた少女は怒りながら一つ歩を進めた。
「・・・同じく『O-RANGE』のQUEEN、コードネームはモノよ。
宜しく。」
モノはぶっきらぼうに言い切る。
「ちょっとーモノー、冷たいじゃん。」
「黙って、私はまだこの人を信頼していないから。」
モノはプロブレムを諌める。
その目でこちらを睨んでくる。
淡麗な顔からの睨み目は相応に怖いものがある。
だが、その目からは悪意や嫌悪感は無かった。
「勘違いしないで。
私達は初対面、ましてや今会ったばかりなのだから。
信頼が0のままでどうやって仲良くしろなんて言うの?」
・・・怒られているのだろうか。
いや違う、これは
「分かりました、ありがとうございます。」
「・・・なんで感謝されているのかしら。」
そう言いながら、顔を背けるが仄かに頬が赤い。
「さ、早く始めましょう。
陛下の姿書類に埋もれる前に。」
「そこまでじゃ無いよ!?」
「
昼時、
ディスプレイの下からサンドイッチを送り込む姿は驚愕の一歩前だ。
「私は関係していない実験ね、興味はあるわ。」
モノは最低栄養素を含んでいるというパン、そしてスイーツが大量に。
コーヒーを飲みながら『食事なんて手間、糖を頭に送り込めば良いの。』とは本人の談。
「私達、グレイゴーストでナノマシン・ヴェノムに苦労させられたじゃん?
私達の中のナノマシンを利用して他の人のナノマシンを制御させられないかって。」
プロブレムはハンバーガー、ポテトといったジャンクフードを大量に。
コーラを飲みながら『美味しかったらなんでもいいじゃん♪』とは本人の談。
私は分からずに運命様と同じサンドイッチを食べている。
私にとっては少し量が足らない気がした。
「グレイゴーストは非ナノマシン利用地区。
そのせいで霊子ナノマシンも上手く多用出来ずに、ヴェノムに感染するリスクを負う事になった。」
モノは口をモグらせながらも器用に話す。
「そう!私達のナノマシンを使って他のナノマシンにハッキングさせるように出来ればいいなって!」
「それって君たちが危険なんじゃないの?」
運命は困った顔で聞き返す。
それにモノは即座に返す。
「危険よ。」
「私達の武器や動力、それだけじゃなくて体の全てを回しているナノマシン。
そんなものに余計な物を挟ませるリスクを負わせるのは刃物を突きつけられてる状態と一緒。」
モノは否定する、しかし。
「ただ、そんなリスクは当然オーバーフローも考えついている筈。
それを回避出来るプランを用意しているのでしょう?」
「私もちゃんと考えてるんだけどなぁ・・・」
モノの横で不貞腐れるプロブレム。
説明を求められ、渋々座り直す。
「早い話さ、こっちとオフラインな回路を組んで操作させようって事なんだよね。」
「・・・・・・何言ってるのかしら?」
レントは呆けていた。
あまりに何もかも分からない速度で話が進んでいる。
これまで説明の上で話された物は理解出来れども、やはり初見の話しになれば追いつけない。
その様子に運命が気づいてフォローを回す。
「ごめん、レントがついていけてないや。」
「ん?ああ!ゴメンゴメン!
勝手に話し込んじゃったね♪
えーと、だからね・・・えーと?」
モノは溜息を吐き、手の平の上から冷気を出す。
「私達、騎士はそれぞれ違った戦闘方法があるけれど私達は体を巡っている機械を通じて色んなものを操るの。」
冷気はやがて収まり・・・収束した後にウサギの形をとった。
「それが霊子ナノマシン。
これは呪術的な要素を足したものだけど、その一例。
プロブレムはそれを使って他人や物体と繋がろうと計画しているの。
当然、ナノマシンにも悪性のものが存在する。
それと自分が繋がろうというリスクを背負う事なんて馬鹿げてる。」
モノの説明は続く。
「けど、プロブレムはオフライン・・・分かるかしら。
用は繋がっていない状態で繋がって操作をしようという計画らしいわ。」
レントは自身の頭の中で噛み砕いていく。
モノは自分に分かりやすく説明してくれている。
顔やトーンには『そんな事も分からないのか。』と感情が含まれているが、それでも優しい色も含められている。
レントは理解をしようと質問する。
「それは手を使わずに物を操って食事をする様な事ですかね。」
そう言った瞬間、モノの眉が動いた気がした。
「・・・そうよ。
もちろんその中で
繋がりを持たない中で操作をする。」
プロブレムは鼻を高くし、立ち上がる。
「その説明は間違ってるんだよ、モノ。
危険なのは人とのリンクだけ。」
胸を張り宣言する。
「つまり、デバイスにハッキングからコントロールまで任せるんだよ。
全部デバイス任せでナノマシンを操作出来ればオールオッケー♪」
指で輪っかを作りこちらに笑顔を向ける。
どこまでも明るい少女だ、と印象が揺らがない。
「だからオーバーフローなのね。
彼なら
モノは頷く。
「そそ!パイセンのおかげで理論完成までは割と早めに行ったんだけど・・・」
「何か他に問題が起きたんですか?」
曇っていくプロブレムにレントは心配する。
奔放な少女という印象が知的な発言が多い。
天才集団O-RANGEという紹介は伊達では無いということなのか。
「私達の悩ませる問題の六割を占める問題ね。」
「そう〜なの〜、私達は世界が追いつかない技術を追い求めるチームなんだけど。
いつだって理論に追いつく
プロブレムは机に倒れ込む。
「具体的にはどういう素材なの?」
「ナノマシンに耐性がある鋼材。
ナノマシンを制御、操作をするデバイスなんだけど
プロブレムがどんどん沈んでいく。
「どうにか絶縁しようと調整してもコネクトがある限りどうしたって影響があるし、影響がないレベルに抑えたら
プロブレムは遂に床にまで沈む。
「床に寝転ばないの。」
「慰めてよ〜!」
「はいはい。」
作った氷のウサギを操って、プロブレムの頭を撫でる。
『ちべたっ』と小さな悲鳴を上げてなお沈んだままだ。
「そういうのに詳しいオッター貿易には相談しているんでしょう?」
「それはパイセンに一任してもらった。
そっち方面でも上手い人だし。」
何処から引っ張って来たのかデカイぬいぐるみを抱く。
「なんか・・・こう・・・変化しない鉱石とかに心当たりない〜へいか〜。」
「・・・
その時、顔のディスプレイが怪しい笑顔を浮かべた気がした。
「・・・・・・あるよ、プロブレム。」
「え!!ホント!!」
ガバッと起き上がり思わず詰め寄る。
「本当なの?」
モノも思わず怪訝そうに尋ねる。
「ああ、私ではなくてレントに、だけどね。」
思わずレントは運命に顔を向ける。
そんな物は知らないし、知るはずも無い。
「昨日の訓練を思い出してみて。
君になら恐らく作れるはずだよ。」
運命は笑顔で応援している。
そこまで言われて得心がいったものの出来るかもしれないで発言しないで欲しい。
出来ないかもしれないのに。
「本当本当!?新人くん知ってるの!?」
プロブレムは詰め寄るが、モノに肩を掴まれ静止させられる。
「プロブレム。
気持ちは分かるけど、時間よ。
仕事に戻るわよ。」
「えー!早くラボに戻りたいよー!」
「そうだそうだー!またひとつ時代が変わる世紀の発明かもしれないんだぞー!」
プロブレムと運命が腕を上げ抗議を始めた。
プロブレムは早く発明に。
運命は仕事をサボりに。
挙げられた声に耳を閉じさせていたモノに限界が来たようで、青筋を立てたながら二人に向き合う。
「そう、そうなのね。
そんなに早く行きたいなら効率良く仕事をするとしましょう。」
そう言われた二人は先程とは打って変わって顔を青ざめる。
「え、いや、そこまでは・・・」
「モ、モノ?そこまではしなくても・・・」
モノは二人の目の前に立つと告げる。
「今から貴方たちの行動の全てを管理してあげる。
安心して、スケジュールは全て最適化しているわ。
サボろうとなんて思わないでね、お仕置は『氷冥桜』で許してあげる。
ケツに火を付けて頑張りなさい、最後には冷やしてあげるから。
いいわね?」
「「は、はい・・・」」
二人は縮こまり返事をする。
先程の勢いは何処かに吹っ飛んでしまった。
「あなたも!!」
「は、はい!」
突如として指を指され、思わず気をつけの姿勢になってしまう。
「これから陛下の側近として働くなら、こんな愚行を諌める立場として頑張りなさい!
いいわね!!」
「Y,Yes,ma'am.」
彼女の勢いに押され、頷く。
レントは、確かにこの方はQUEENの称号に相応しいと思ったのだった。
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お盆中、一切筆が動きませんでした。
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