「なるほど、君が閣下から聞いていた
ソナタ様に依頼してから2日経過した。
運命様から『明日、第七層外周部七番地に行ってみて。以前、ソナタに聞いていた件だよ。』
と言われたのだ。
第七層は工業や流通が盛んの区層だったはず。
そこにいけと言うことはソナタ様は運命様を通して依頼してくれたのか。
翌日、GARDENの外側寄りの場所の為、風が少し強い第七層を歩いていた。
行ってみてと言われて正確な場所を聞かなかったのは自分の落ち度だなと嘆いていると、男性に声を掛けられた。
白髪眼帯、胸ベルトに用意された火器、黒いフォーマルな服装の下の筋肉が分かる格好。
何より、自分を新人と呼んだ。
「貴方がオッター貿易様ですか?」
「ああそうだ、QUEENのスリー=スターズ。
閣下の命令で君の取引を査定しにきた。」
スリーはレントと握手を交わし、挨拶する。
その言葉の意味を一度問いかける。
「取引?」
「?閣下から何も聞いていないのか?」
「ええ、いや調達の依頼を持ち掛けていたのは事実なのですが・・・」
スリーは手元のバインダーを確認する。
「では、今日の予定の擦り合わせから始めよう。
着いてきてくれ。」
踵を返し、物送エリアに同行する。
「君はまだ
それ故に依頼物を引換に出来る、つまり資金が無い。
そう閣下から聞いている。」
それを直接言われると心にくるものがあるが、事実だ。
「故に取引として君には3日間の雑用をお願いしたい。
それが終われば依頼物を引き渡そう。」
なるほど。
「それが私が渡せる品物ということですか。」
「ただ、雑用といっても君にしか出来ない用事だ。
君の
さらに得心を得る。
自分にしか出来ない用事とはそういう事なのだろう。
「今日は共に依頼物の収集、検品。
明日から労働、最終日に依頼物の引渡し。
この内容に異議はあるか?」
「丁寧にありがとうございます。」
分かりやすいスケジュールだ。
「なら、
速やかに履行に移るとしよう。」
バインダーを閉じ、こちらを向く。
「とはいえ、君の依頼物は少々特殊でな。
専門家を呼んでいる。」
少し歩き、コンテナが並ぶエリアに来た。
その中に大きな機械がコンテナを持ち上げ、四輪車で行き来している。
「このような場所は初めてか?」
周りをキョロキョロと見渡す姿にスリーは声を掛ける。
「そう・・・ですね、人が物流を担ってる光景は見た事がありますがこれ程の機械が動いている所は初めてです。」
「第一と第二人類史の人は皆、そう言う。
これ程の物流倉庫は他のGARDENでも無かった。
君も何かあれば我々オッターに任せてくれ。」
そう言うとスリーは目を閉じ笑う。
ただその動作だけでも自らの仕事に向けた誇りと情感が伝わってくる。
すると、
目の前に黒い髪を二つに結んだ少女が立っていた。
それはどこかで見たような・・・
「む、マイナス、どうかしたのか。」
「あ!スリー!」
少女は呆然と立ったままからこちらに駆けてくる。
「・・・っと、こちらの方は?」
レントを見つめ不思議そうに見上げる少女。
それはやはり以前リハビリの為にと打ち合った少女、叢裂とそっくりだった。
「朝のミーティングで話した客人兼臨時に雇う職員だ。
レント、君に着いてもらう予定の騎士だ。」
「あ、私は明日より臨時で勤務させて頂くレント・バラードです。
宜しくお願いします、先輩。」
「っ先・・・っ輩!?」
その言葉に少女は顔を輝かせ頬を赤くした。
ツインテールまで少々膨らんで見えて、猫みたいだと思った。
「初めまして!私はオッター貿易株式会社のマイナス=コードです!
階級はJOKERです!
明日から安心して先輩に任せてもらっていいですからね、後輩っ!」
「いえ、私が働かなければ意味がないのですが・・・宜しくお願い致します。」
胸を張る彼女の頭を撫でそうになるが、先輩と言った手前よしておいた。
「そういえばマイナス、ここで何をしていたんだ。
君は確か神度汚染物の検査を担当していた筈だが。」
「あ、そう!そうでした!
大変なんです!スリー!」
疑問を呈したスリーに興奮した様子で返した。
「さっき流れ星が見えたんです!」
「流れ星?こんな昼間にですか?」
空を見ても雲が少しあるだけの青空だ。
風があるが気温も低くなくピクニックでも行ける気分だ。
「その流れ星がですね、8の字旋回をしていたんです!」
「・・・冗談だろう?」
スリーは訝しげな顔をした。
流れ星が旋回とはおかしな話ではある。
「その後、どっかに飛んでっちゃいました!
きっとこの後、何処かに落ちてドカーンと!」
ドカーン
その瞬間、轟音が鳴り響いた。
周りを見渡せば、コンテナの並ぶ先の向こうで煙が立っていた。
火は見えないが、煙の量で被害は甚大だと分かる。
「マイナス!」
「はい!」
「私も行きます!」
三人は一斉に駆け出した。
この惨状の原因を知る為に。
走り抜けた先で現場を確認した。
どうやら本当に空から何かが降ってきたらしく、煙の隙間から地面が陥没している。
「本当に流れ星が落ちてくるなんて・・・」
マイナスは大きな銃を構えながら、自分の先程の言葉を思い出していた。
《神滅戦略兵器『エピローグ』》彼女が持つ拳銃は拡張モジュールによって
その対応力によって周囲の確認が出来る後衛を務めていた。
「爆撃か?いや、それにしては被害が少ないな。
天使達が攻めてくるにしても後詰めが無い。」
スリーは前を見据え現場を分析しようとしていた。
《万能無限弾倉ラストダンスIV 》マイナスとは異なり
「煙が晴れます、警戒をお願いします。」
レントは既に魔剣を引き抜いており警戒を強めていた。
《魔剣デュランダル》唯一の近接のため前衛を務めアタッカーとタンクを任命されていた。
三者三様の役職はスリーの指示によるもので、それにすぐ対応したマイナスと共にレントは感嘆すると同時に自分の練度の低さも感じていた。
『まるで軍隊のようだ』と思ったが、貿易会社と言っていた事も思い出し混乱を深めた。
その時、
「痛ったーい!!うぅここどこ〜!!」
女性の大きな声が響いた。
出元は陥没した穴の中心から。
「む、この声は。」
「あれ、この声。」
二人は聞き覚えのある声のようで構えを解いた。
すると、
「あぁ!・・・ひゅへへ、オッターの皆さん、どうもー・・・」
着物姿の女性が現れた。
「ああ!こんな荒らしちゃってごめんなさい!
あ、あの!この事は輝夜には言わないで下さい!
もう既に今月二度目なんです!」
そして、犯人か問う前に言い訳が始まった。
「・・・はぁ。」
「楓さん!今度は何をやらかしたんですか!?」
スリーは嘆息を吐き、マイナスはぷんぷんと怒っている。
その時にレントと女性が目が合った。
そして、
「ひょえぇえ!ま、魔剣!?」
右手に握られた漆黒の大剣を見た女性は驚き立ち上がる。
「スリー、マイナス、離れて!
ウチが倒してあげるかんね、お覚悟!!」
そう言うと彼女は自身の手に長物の武器を顕現させた。
「な、おい!待て楓!」
「楓、ちょっと落ち着いて下さい!」
《咎凪ぐ神燦なる者》彼女と同じ桃色を基調とした薙刀。
そして、
「はあああああああああ!!!」
彼女自身からも桃色のオーラが出始め、微かに見える額からは角が見え隠れしている。
「よくも・・・よくも・・・
ですがこの八積楓!ここからは一歩も通しません!」
「え、ちょ!話を・・」
「命乞いですか!?聞く訳あります!!?」
ついにレントの方へ向けて突進を仕掛ける。
その様子を見ていたオッターは静止しようと武器を向けるが時遅し。
彼女の持つ力により踏み締められたコンクリートの石は砂となり、レントの目前へと迫った。
「喰らいなさい!《八積流奈落薙》!」
彼女は薙刀を立ち上るオーラと共に横に振り抜いた。
振り抜いた、のだ。
が、咄嗟に防御の姿勢を取ったレントの魔剣に阻まれていた。
その体勢はあの一撃を耐えられそうも無く無様だったが、鍔迫り合いする事なく剣を受け止めた。
「・・・っっっっ!!でら痛ぁああぁあ!!」
楓は薙刀を落としそうになりながら、たたらを踏むも耐えた。
「ふぅ・・・良かった。」
レントは魔剣の能力を解除した。
これにより強力な攻撃にも受け切る事が出来た。
また、楓が突然痛がったのにも関係していた。
鉄棒に足をぶつけてしまった事はあるだろうか。
壁に体をぶつけてしまった事も多々あるだろう。
その時と痛みと言えばまちまちだ。
これがぶつかったものが水やスライムなら痛みなどであれば形を保てず、振り抜いて足も体も進むことが出来る。
しかし、これが鉄やコンクリートなどであれば破壊するはずだった速度×質量のエネルギーが自分に跳ね返ってくる事で痛みがある。
つまり、速度も質量も増やした状態で移動や破壊不可な魔剣に攻撃した結果。
「あぁあ・・・腕が・・・肩がぁ・・・」
涙を流しながら腕を弛緩させ立ち尽くす置物となった。
「楓さん、聞いて下さい。
この方は、我々の客人です。」
「落ち着いてくれ楓。
このまま暴れるなら
オッターの二人は楓を諌める。
「いや、諦められんですよ・・・!」
楓は立ち上がり、武器を構える。
「敵が目の前にいるのに・・・っ!
諦められる訳・・・!」
「いえ、諦めてください。」
突如、頭上から男の声がした。
見ればコンテナの上に人が立っていた。
その男は言うや否や跳躍し、
「ひょえ?ひぶしっ!!」
楓に向けて刀の峰で後頭部を振り抜いた。
・・・顔からコンクリートの地面に沈んだのだが大丈夫だろうか。
「まったく・・・
スリーさん、被害状況を輝夜さんに連絡お願いします。
後日、相応の賠償金が届くと思います。」
「・・・分かった。」
黒の着物、白の袴、黒髪に白の線が入っている。
刀を納刀した男がレントに向き直る。
「貴方がレントさんですね。
叢裂から聞いてます。
俺は千紫刃塞、
千紫の皆共々、宜しくお願いします。」
「ああ、千紫の方でしたか。
宜しくお願いします。」
確かにあの叢裂様と格好が似ている。
「さて、不躾ですがこれで失礼します。
この人を持ち帰らないといけないので。」
そういうと斬は楓を片手で肩に担いだ。
「聞いておきたいんですけど、何で楓は空から降ってきたんです?」
マイナスの質問に斬は溜息一つ吐いてから答える。
「紫亜です、飛行呪式で悪戯していたようです。
それが暴走しちまったようで、輝夜さんの付き添いをしていた最中に打ち上げられた楓さんを見かけて止めるように命令されたんでさ。」
申し訳ございやせん、と一言。
一飛びで三段積みのコンテナの上へ、姿を消してしまった。
「大変でしたね。」
一息ついた所でマイナスがそう零した。
「大変だったな。」
「大変でしたね。」
スリーとレントが続いた。
「そういえば、話を戻しましょう。
確か、専門家を呼んだと仰っていましたが。」
当初の目的を思い出し、スリーは顔をハッとさせる。
「確かに、まだ見かけないな。
待っていてくれ、連絡を入れる。」
そう言うとポケットから通信端末を起動させ、電話をかける。
「カハル、今何処にいる?」
『もしもし?私は実験室の中よ?』
気怠げな女性の声が通話口から聞こえた。
「カハルさん?あの実験室で起きて働いて寝て起きるで有名な?」
「専門家の方なのですか?」
「今日は例の絶滅植物と現存植物の照合を依頼していた筈なのだが・・・」
『スリー?陛下からは何も聞いてないの?』
電話口から疑問の声が返ってくる。
「・・・閣下には報連相をリマインドをする必要があるな。」
『私は陛下からリスト渡されたわ、それは第一軌道人類史に存在していた植物だと。
けど、今は絶滅しているものもあるから現存している代替品はあるのかと。』
女性から淡々と出来事が話される。
『で、その代替品のリストがまとまったから陛下に渡しておいたのよ。』
「陛下に?そんな事聞いてませんが・・・」
昨日の時点ではこの場所に行ってみて以外何も無かった。
「・・・私からも運命様に聞く事が出来ました。」
『しかし、一体何の為にコレを欲しがってるのかしら。
まさか、新しい味の調査でもするつもり?
それはアズライトだけで十分なのだけど。』
「味?」
『ええ、
これらは全て絶滅種となってはいるけれど、永続神域のお陰で研究は終わっているわ。
その他諸々の成分を合わせると、
私たちが普段飲んでるエナドリと大差ないわね。』
「え?」
普段飲んでる?帝国で禁制になったものが?
『これを調合なりするつもりなら完成品はありふれているわ。』
「オッターでもかなりの主力商品だ。」
「私は白色が1番好きです!」
飲めば不眠で動ける、目が冴えて作業が倍の速度で進める。
そんなものが常用化されている。
自分の常識が覆る事は何度かあったが、一番の驚きだった。
「・・・・・・355ml×24本入り、明日から働く気があるなら安くしておこう。」
「・・・お願いします。」
着任以降、1番疲れた日となった。
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