「うぅ・・・・・・なんで乗り心地は良かったんでしょうか・・・」
レント・バラードはうつ伏せで倒れていた。
意外と揺れが少なく安定していたキーティの腕の上だったが、移動のスピードが早かった事。
そして、目的地の訓練室に着くや否や急ブレーキをかけられ、放り出すかの様に投げられた事。
状況を理解して尚、情報が整理出来ず投げられた状態のままフリーズしていた。
「私が・・・一体・・・何をしたっていうんだ・・・」
「まぁ騎士様のやる事だ、考えるだけ無駄ってことさ。」
唐突に聞き覚えの無い声がした。
見ればバインダーを手に持った男性が一人、微妙な笑顔で笑っていた。
「アンタがアズライトさんが言ってたウワサの騎士様か?」
男がレントに向かい、手を差し伸べてくる。
寝転がったままなのを見られる事に恥じらいを感じながら手を掴み立ち上がる。
それと言われた事が気になり質問してみる。
「ウワサ?」
「神域にて生まれた50人目の騎士様だって話が広がってるのさ。
GARDENはもちろん、俺たちガーデナーの中でもな。」
どうやら先程の出来事の筈の騎士拝命が既に広まっているらしい。
「色々と聞きたい事はありますが・・・・
失礼しました、私は恐れ多くもBUTLERの階級を授かりましたレント・バラードと申します。」
「おう、ガーデナーのガランだ。今は後方支援部だが元戦闘部門に就いていたからリハビリについても安心して受けてくれ。」
中年の男性が自己紹介を込めて挨拶してくれる。
後方支援、その名に自分は
しかし、失礼になるかと思い会話を続ける。
「失礼、ガーデナーとは?」
「GARDENってのは広いし、外部作戦でも多岐も多岐に渡る。
それを騎士様だけで対応するってのは無理無謀ってな訳だ。
その為のガーデナーで、その部門も多岐に渡る。」
GARDENの職員ということだろうな。
後方支援、戦闘。
いや、もっと部門分けなんてされているのだろう。
それで
「・・・その・・・
そう、彼の両足が義足になっていた。
「ああ、何年か前に作戦中に
もはや、戦闘は無理だと確信し異動したのさ。
こんなナリにされたが命がある分儲けもんさ。
今はガーデナー達の教員を主に担当している。」
何を。誰を指しているのかは分からない。
それでも何故か、いやそれは分かってる。
「まぁ、これから騎士様が一人増えるってんだ。
期待、してますよ。」
ガランが握手を求めてくる。
「・・・はい、宜しくお願いします。」
何故か、分からない。
それに酷く安心したのだ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「しかし、あれですな。」
あれから徹底的に調べられた。
決められた距離を走る時間を。
何やら機械で握る力を。
木剣にてガランと模擬戦を。
「事前申告調査書には『戦闘技能:基本のみ』と書かれていたが、本当なのですかな?」
ガランは汗を流しながら、座り込んだまま聞いてくる。
「いくら騎士様でもそのような方にはまだ負けないと自負していたものなのですが・・・・・」
そう、体力測定や筋力測定には上振れがあるものの平均的な男性の記録を出した。
測定前に書かされたこれまでの記録や戦闘経験をほぼ全てを覆す結果となったのだった。
早い話。
「素振りや稽古だけでは有り得ない、実践的な動きも見えたのですが?」
レントは模擬戦で戦闘のプロとも言える相手に全勝していた。
「本当ですよ。一応は。」
少し濁した答えをする。
「・・・まあ、分かりました。」
ガランは頷き、立ち上がる。
自分の役割を思い出し果たそうとする。が。
「その代わり、自分では役不足ですかな。」
この模擬戦はレントに高負荷な運動を目的としていた。
それなのに汗ひとつかかず相手が潰れてしまった。
「仕方ない、2か3対1とでも良ければ続けましょう。」
確かに今の負荷を考えればそれでイーブンとなるだろう。
「分かりました。それで宜しくお願いしま・・・・・・」
その時だった。
何だ、
視線の先、訓練室の扉には
「・・・・・・・・・・・・ぷみっ?」
呼吸が止まる。汗が吹き出る。
どうにか息を吸うとその代わりに動悸か激しくなるのを感じる。
その緊張のせいか
「・・・・・・・・・ぷみっ!?」
彼女も気づいたのだろう。
両手を刀に添え、鯉口を鳴らす。
両者の間の空気が一瞬変わる。
「おお、叢裂様じゃありませんか!!」
その時、ガランが彼女に気づき大声をあげる。
声が挟まれ、空気が霧散していく。
自分も酸素を取り込もうと呼吸が荒くなる。
「あぁ!えぇと!こ、こんにちは・・・・・・
えーと、ガーデナーの人・・・ですよね・・・?」
少女は大声に驚きつつも声を返した。
「珍しいですな、
いつもなら千紫の館で稽古積まれている筈の貴方がどうしてここに。」
ガランが顎に手を当て、質問する。
少女は少し言いづらいのか目を背けながら言う。
「叢裂もそうするつもりだったんだけど・・・
お、御館様が騎士団に新しい人が来るって話を聞いた途端にね、『それは正に僥倖!!祝わなくては駄目だな!!』って言いながら紫亜ちゃんと一緒に館を紅白で滅茶苦茶にしちゃったんだ。
それしたらね、輝夜が来て二人を正座させた後にね、朝から片付けに千紫の皆でしてたの。
そしたら叢裂と楓ちゃんがいっぱいドジしちゃって・・・・・・
輝夜が『二人共、外で過ごしてくる事。良いですね?』って
ちょっと怖い顔にさせちゃったから・・・・・・」
「なるほど、それでここに来たと。」
ガランは納得のいったように頷く。
「そうなの・・・・さっき陛下のお部屋に行ってもいなかったから、何しよっかなって考えたらお稽古しか無かったの!」
少女はこちらに目を向ける。
「えーっと、こっちの人も初めまして・・・だよね?」
少し肩が跳ねる。
大丈夫、落ち着けばなんてことは無い。
先程までの緊張は無いし、呼吸も落ち着いた。
「・・・・・・初めまして、運命様より騎士としてBUTLERの階級を授かりましたレント・バラードと申します。
先程は申し訳ございません。」
頭を下げながら、名前を告げる。
先程の御館様なる人を巻き込んで迷惑をかけてしまった謝罪も含めて。
「え・・・・・・ぷみぃ!!
あ、新しい騎士の人!?
え、え、ど、どうしよう!?
え、どうしたらいいの!?」
少女が目に見えて慌てふためいている。
右往左往している。
「・・・・・・えぇと、でしたら貴方様の自己紹介をお願い出来ますか?」
レントは優しく落ち着かせる様な声音で話しかける。
とはいえ、レントはこの少女の名前と立場は会話の中でほぼ確立している。
「ああ!そうだった!?
叢裂、自己紹介もしてなかった!
えぇと、ちょっと待ってね・・・」
大きく深呼吸をしたのちに、
「初めまして、叢裂は叢裂って言います!
天上天下百花繚乱の騎士団、千紫の第六席の武器です!」
少女、叢裂は笑って答える。
「武器?」
「ああ、補足しておくと叢裂の言う第六席ってのはJOKERの階級さ。」
ガランが何気なく補足してくれる。
それでも自身を武器という事は何も言ってくれなかったが。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「なるほど、レントさんはお稽古相手を探してるんだね。」
背の低い少女は見上げながら会話する。
「なら、叢裂がお相手を仕ります!」
それもウキウキとした様子で。
「はぁ騎士様に相手をお願い出来るならしたいのですが・・・」
ガランはどこか不安そうにしながら聞き返す。
「叢裂様、本気は駄目ですよ。
訓練室を壊さないように手加減をちゃんとお願いしますね。」
「ぷみぃ!失礼だよ!
ちゃんと斬くんとお稽古する時も稽古場を壊さないようにしてるよ!」
叢裂は頬を膨らませながら怒る。
それは見た目相応の少女に見えながら、
そして実力を知っている筈のガランが、
「レント様、相手を見た目通りの少女と思っていると駄目ですよ。
彼女も確かに騎士なのですから。」
意気揚々と訓練室の模擬戦場に入る叢裂を横目に、ガランから忠告を受ける。
「私も全騎士の実力を知っている訳では無いですが、彼女はその中でも上澄みの方です。」
自分も模擬戦場の開始位置に立つ。
逆側には木刀を二本、両手に構えた叢裂。
先程の忠告、受けずとも油断する気などレントの中には無かった。
彼女が部屋に入った時から只者の気配など感じていないのだから。
「では、宜しくお願いします。」
自分も構える。剣を前に半身。
横になりながらも前にも後ろに移動できるよう足を浮かせる。
さっき実践的と言い当てられられたレントが初見の相手に対応する《自ら産んだ構え》である。
レントは気を引き締め、相手を見つめる。
だが、気を引き締めたのは自分だけではなかった。
彼女もまた、気を引き締めた。
「・・・・・・九 叢裂。
不躾で申し訳ございませんが・・・推して参ります。」
先程までの気弱な少女は何処へ。その目は敵を見つめる目へ。
足が踏み込んだ。その1歩で自分との距離が半分になる。
そうなれば当然、もう1歩を踏み込むと同時に構える。
こちらに切り込んで来る構え。
早すぎたのか。又は呆気にとられたのか。
直ぐさまに頭を切り替える。
こうも
受けるしかないと。
《半身のまま剣を水平に構える》。
彼女の木刀が動く。
「
叢裂が切り込む。
傍目のガランには叢裂がレントを通り過ぎた様にしか見えなかった。
レントが構え直した後、叢裂が斬りかかった。
ガランにはレントが反応しきれずに木刀に打たれたと思った。
その結果。
目を疑った。折れる、斬れるではなく砕ける。
何があったのか。そう口にしようとすると。
「ひぇ?今、
叢裂が困惑した声音で告げる。
そう、つまり・・
『構えた剣に刀が触れた刹那、刀を上に弾いた。
その反動に木が耐えられず砕けた。』
言うが易し行うが難し。
コンマ数ミリ秒ズレれば変わっていた結果に、土壇場の対応で追いついた。
レント自身もマグレという訳でも無かったが、狙って出来たかと言われればそうでもない。
最初は剣で逸らし、そのまま突く。
弾くよりも簡単な逸らすという方法で突破するつもりだったが、剣を合わせた瞬間に少女の体躯からは想像できなかった膂力で押され逸らす事が間に合わず、仕方なく上に弾いた。
結果だけを見れば普通より難しい方法で突破したのだが、それに付随したのが耐えられなかった武器の破壊。
それにより模擬戦が中断を余儀無くとなる。
「凄い!凄い!叢裂の剣を初見で弾かれるなんて始めてだよぉ!
皆、受けることで精一杯の人がほとんどだったんだよ!」
叢裂がぴょんぴょんと跳ねながら喜んでいた。
「い、いえ別に全てが見えていた訳でも無く。
それに殆どたまたまの行動の結果です。」
「いやいや、あれを見てたまたま弾いたなんて考えれんさ。
普通の戦士なら反応する暇など無いだろうさ。」
賞賛を否定しようとも浴びせられ少し照れ臭くなる。
「戦士ではなく執事のつもりではあるのですが・・・」
「それにまだ執事さん、本気じゃなかったでしょ!」
叢裂が突如として暴露した。
悪意ではない。打ち合った相手として。
至極当然の感想を吐いただけなのだ。
それがガランの耳を疑わせた。
結果としてはレントがなんとか喰らいついたようなものかと思っていた。
それが叢裂の口から引っくり返す言葉が出た。
「そんな事・・・ありませんよ。叢裂様。」
レントは震える声で絞り出す。
触れて欲しくない場所を守るかの様に。
「え、でもレントさん」
「叢裂様、分かっています。どうか。」
「・・・・・・・・・そっか。」
叢裂は笑って答える。
いつか話さなさければいけないのだろう。
しかし、運命様は質問会の時に笑って見て見ぬ振りをして下さった。
それに甘える、という訳でも無い。
ただこの
いつか必ず、必ずいつか。
「じゃあ、始めよっか!!」
・・・はい?
「え、夜8時まで訓練なんだよね。
じゃあ時間を無駄には出来ないよね!」
え、いや夜8時には寝所には戻らないと動けなくなるという話で・・・
「はい、レントさん。新しい木剣だよ!
頑張って元気百倍になろうね!!」
アズライト様からの薬は普通の状態に戻す薬だったのですが・・・
「よし、じゃあお願いします!」
「分かりました、叢裂様。」
いやあの、ガラン様。
貴方は詳細内容を知ってますよね。
止めるべきじゃ・・・
「すまない、自分じゃ止めれそうにはない。」
「よし、行くよ!」
「え、もう構え・・・あ、ちょ、いっ。」
どうにか夕食を取る時間が叢裂にもあるという事を説明し、ギリギリの時間で解放された。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
これから騎士団紹介回がちょくちょくあります。
誤字脱字がありましたら報告お願いします。