“北方四子爵”の一人。汎ゆる能力が皆無に等しく、エウロイ郡で悪政の限りを尽くした
統率:7
武勇:2
魔力:8
知略:11
政治:13
魅力:9
ナラーン・ズンモン
スケィビィの配下。決して無能と言うほどではないが、その怠惰さ故にスケィビィ指揮下の小悪党であり続けることを是としてしまった。
統率:58
武勇:67
魔力:13
智略:61
政治:15
魅力:22
誰一人、声を上げなかった。
ナラーンも、アイリーンも、リナも、他の女衆も、ナラーンの部下連中も、スケィビィ自身でさえ。
まるで挨拶でもするように気軽に振り下ろされた信長の刃に、当初、場の全員が“気づけなかった”。
「いっ、ぎゃああああああああああ!!!!?!?!?」
「すまんなぁ」
遅れて訪れた激痛。次いで、ほとばしる大量の血液。それらが、ようやく“本人”には現実を認識させる。のたうつスケィビィに向かって、剣を振り下ろした体勢のまま信長は嗤う。
「その女、既に俺のものだ。この信長、金も民も領地も女も、“自分のモノ”に手を付けられることは我慢ならぬ」
「ひ、ひぃ……!!!」
「なっ、なっ…!?」
「おい、てめえなにやって………うおっ!?」
こちらの変事に気づき武器を構えようとしたナラーンら敵勢の只中に、即座に魔法を発動。火球を叩き込んで陣列を組むのを阻害する。
スケィビィは既に動脈を手首ごと断ち切られ、多くの血を失っている。放置していても、遠からず死ぬだろう。………しかし、どうせ死ぬなら、その死は無駄なく“使いたい”。
「リナ」
「っあああ!!!」
信長が促す。なんなら、その声より一瞬速いぐらいに間髪を容れず、アリスのすぐ後ろでリナが足元から取り上げた槍を構えて立ち上がり、スカートを翻しつつ女衆の列の中から飛び出す。
「死ね………この、クソ野郎ーーーーーーーーーーっ!!!!」
「げうっ………」
突き下ろされた槍穂先が、スケィビィ・クシャローの贅肉に取り巻かれた喉笛を差し貫いた。
「うむ、良き哉!!」
怒りを込めたリナの一撃に、信長は大きく頷く。
単に、その一突きが元より筋は良かったとはいえ実に見事だったのもある。だが、村人たちに…………それも選抜した中ではシャームと並んで最年少のリナに“人殺し”の口火を切らせたという事実に、信長は内心で冷徹にほくそ笑む。
これで信長は改めて、明確にこの世界で、50余名の“兵”を得たのである。
「なぁっ、スケィビィが殺られた……!!?」
「ネイブ、てめぇ…………!!」
「ま、だろうな」
一応は主が殺られたと言うのに、ナラーンら護衛部隊に動揺は見られない。寧ろ、馬車の御者以外は全員怒りに満ちた表情で信長の火球で乱された陣形を整えつつ戦闘態勢をとる。
それも義憤や忠誠から来るものではなく、明らかに“ハメられた”ことに対する私的な怒りによるもの。
だがその事態は、信長にとっては予想通りだ。ナラーン・ズンモンら金で雇われただけの護衛部隊が、スケィビィへの個人的な忠節など持ち合わせているはずもない。
「放てぇい!!」
「う、撃て、撃て!!!」
「ぎゃっ」「がふっ」
「なぁっ…………!?」
───故に、既に準備は出来ている。ボロい村で雇用主の付き人という退屈な立ち位置に護衛部隊が油断しきっていた間に、特に頭目が醜い嫉妬で苛立ち注意を散漫とさせていた間に周囲を囲うように潜ませた、伏兵の“弓持ち”20余名が次々と矢を放つ。
2人ほど倒れたが、大半は外れるか弾かれ大きな被害はない。だが、意識をそちらに向けた時点で役目は果たした。
「突けぇい!!」
「行くよ皆!!突っ込め!!!」
「「「おりゃあああああああ!!!!」」」
「お、オカシラ!女連中が……!!」
「んだとぉ!!?」
傅いていた女たちが、スケィビィの屍を蹴り転がし槍を構え直したリナを先頭に突貫する。リナ以外は二人で一本、土をかぶせて自分たちの足とスカートの下で隠匿していた長槍を両側から支えるようにして構えている。
計10本の、ささやかな槍衾。
だが、信長の裏切りとリナによるスケィビィ殺害、伏兵と立て続けに“軍略”が施された中でのさらなる攻撃は、多少腕が立つとは言えただの荒くれ者共の対処可能範囲を大幅に超えていた。
加えて、選抜された“戦闘要員”としては、最年少であると同時に女衆の組頭でもあるリナが“人殺し”の先陣を既に切っている。
これにより、他の女衆全員の“覚悟”が自然と固まり、肝が据わった。
「うぎっ」「あげっ」「ぎゃあっ!??」
迷いなき槍穂先の突。一気に、7、8人が突き伏せられて血の海に沈む。50余名は“交戦”から僅か数分で、実に1/5近い人数を失い総崩れに陥った。
「皆、戦ってる……スケィビィの兵に対して、ナランに対して、あんなにも勇敢に」
「おう、呆けるのはまだ早いぞ」
「っ!」
感動や、驚愕や、畏怖や、戦闘に対する恐怖。様々な感情が溢れて呆然となるアイリーンの肩を、信長がぽんっと叩く。
「おめえは一応“総大将”、巻き込まれたらシャレにならんから下がっとけ。おう」
「はい!!」「アイリーン様、こっちに!!」
信長が顎でアイリーンを示すと、傍らに進み出てきていた村人二人がアリスの脇を抱えて村の中へ下がっていく。
「──さあて!!」
それを見届けた信長は、改めて左文字を構えると飛び跳ねるようにして“前線”へ駆けた。
「クソどもが!このナラーン・ズンモンさまに盾突きやがって……!!」
護衛部隊の指揮系統は、未だ健在だった。ナラーンはただの野盗崩れとは言えある程度荒事には慣れた身、部下の1/5を失って頭に血が昇りつつも混乱はしていなかった。
「女どもの華奢な槍なんざ弾け!裏の弓も狙いは滅茶苦茶で怖かねぇ!!立て直して両方皆殺しにしろ!!」
「「「お、おおう!!」」」
「きゃっ!」「うわっ…?!」
「くっ……あうっ!?」
護衛部隊の反撃が前方に集中し、あっという間に女衆の槍衾を押し返しながら打ち崩す。リナは一人多少渡り合うが、故に孤立し、数人がかりで姿勢を崩される。
「殺すにゃ惜しい女だ───ずぇっ?」
「グガァアアッ!!!」
「ルシアちゃん……!?」
だが、内一人がとどめに槍を振り下ろそうとした矢先。その喉元を、近くの草むらから飛び出してきた小さな影の、鋭い爪の一閃が引き裂く。
「うがっ!!がぁああああっ!!」
「な、なんだこのガキ………うぎゃあっ!?」「早え、捉えられね……おごぉっ!?」
「なっ………」
瞬く間に数人の部下を打ち倒され、ナラーンの眼が驚愕に見開かれる。
「竜人族だと………!?こんな辺鄙な村に………!!?」
「クルルルルルッ!!」
2年間の“統治”の中で、アイリーンはルシアの存在を極力隠し続けた。冒険者への攻撃をかけるときは常に自身の【魅了】に呼吸を合わせさせ、完全に油断しきったところで着実に意識を刈り取らせた。
逆にナラーンやスケィビィ等やすやすと手を出せぬ相手には、尊厳を切り売りし恥辱に耐えながらそもそも出させること自体しなかった。
あくまでそれは、スケィビィたちを必要以上に刺激せずそれ以上の強硬手段に打って出られるのを避けるため。
だが今、その隠匿の日々は、ナラーンたちへの奇襲性の向上という思わぬ形で功を奏す。
「ばぁっ!!」
「うぎぇっ」
そこにさらに、信長自身が畳み掛ける。ふざけた口調と共に振り下ろされた“左文字”が、ナラーン配下の一人を鎧ごと袈裟懸けに斬り裂いた。
「はっ、ははははは!こりゃあいい、やっぱり、戦ってなぁいい!乱世ってなぁいい!!!」
更に一人、返す刃で斬って捨てつつ、信長は高らかに嗤う。
「尾張岐阜を中心に数十カ国からなる大大名だった、“天下人”だった俺が!この第六天魔王織田信長が!!今また齢15、6のガキッコロに戻って賊相手に小戦で命がけ!!
おもしれぇ、おもしれぇなぁこの“下天”はよぉ!!実に、“取り甲斐”があるってもんだ!!!」
「「「いぎゃああああああ!!?」」」
歓喜に濡れた叫びと共に、右手に火球を生成し叩きつける。3人のナラーン配下が、焼き払われて生ける松明となり地面をのた打ち回る。
「グガッ、ガァアアアアア!!!!
殺す!!お前ら、殺す!!!」
信長が敵勢を崩せば、その只中にすぐさまルシアが飛び込む。爪を振るい、尻尾を振るい、火炎を吹き付け、これまで村人たちとアイリーンを苦しめ続けたならず者共を、蹂躙してなぎ倒す。
「皆、突け!!突け!!突けぇぇええ!!!」
「「「よいっ、さぁああ!!!」」」
「くぁっ……」「おうっ……」
浮き足立ったところに、間断なく突き出される槍衾。動きを繰り返していく内に、どんどんと“手慣れ”ていき、鋭さを増すリナと女衆の槍穂先。胸板を、脾腹を、喉笛を貫かれ、一人また一人と膝を折っていく。
「畜生、畜生……!!」
「こいつら強え、強えよぉ………あぎゃあっ!?」
長らく弱者をいたぶる戦い方しかしてこなかったならず者同然の護衛部隊にとって、信長とルシアの武と魔はあまりにも格が違った。そこにさらに、統率のとれた“軍勢”による攻撃まで添えられては持ちこたえられるはずもなし。
まるでまともな勝負にならず、次から次へと討たれていく。
「────シャーーーーム!!!!」
「はっ!!! かかれぇーーーーーー!!!」
「「「いあらぁあああああああ!!!!」」」
「……………っ!!!ふざ、けんなぁ!!!」
ここで、信長が鬼札を切る。最後の最後まで伏せさせていた、シャームを筆頭に男衆の中でも特に屈強な者、動きの良かった者だけを固めた虎の子の伏兵部隊。
弓隊のさらに後方から飛び出したその者たちが、女衆と挟撃する形で護衛部隊に襲いかかる。
「親父の、仇だぁああ!!!!」
「ぐぉあっ……!?」
先陣を切ったシャームは、迷いなく槍を突きだし敵兵の内一人の胸板を貫く。かつてシャームの父を“獲物と間違えた”などとほざき、射殺しても悪びれなかったその男の心臓を、深く、強く、槍穂先で抉る。
「らぁっ!!」
「ぎへぇっ!?」
「いけ、いけぇ!!シャームにばっかやらせてたら男さすたるべぇ!!」
「「「うらぁああああ!!!」」」
だが、シャームは止まらない。仇討ちの余韻に浸ることもなければ、執拗にその鬱憤を晴らすこともなく、すぐさま次の敵を突き伏せる。
その勇姿と決意に後押しされ、他の伏兵衆も大いに躍動し、どんどんナラーン勢を囲い、打ち倒していく。
「ふざ、けん、なぁあああああああ!!!!」
最早、完全に勝ちの芽を摘まれ、また、自分の死が近いことを悟りつつあるのだろう。ナラーンは、怒りと驚愕に満ちた声で絶叫する。
「ざけんな、ざけんな……!俺は認めねえぞ、こんな、こんなチンケな村で俺が……!!」
「うおっ、こいつやりやがる!」
「アルフォン、慌てるな!ノブナガ様の指示通り手練れは遠巻きに囲え!!」
迫る死の恐怖に、ナラーンは青ざめつつ必死に剣を振るう。配下と比較して流石に遥かにマシな形で村人たちと渡り合うが、それもシャームを筆頭にいまやとても素人とは思えぬ巧みな連携を見せる村人たちに追いやられ、ろくに1人さえ斬り伏せられない。
「なん、だよ!こいつら、自分たちの女を犯されたってろくに睨み返してすらこなかった腰抜けで………!!」
「どんな調練よりも、どんな死地よりも、どんな優れたる将の指揮下よりも、兵どもが力を発揮する場がある」
青ざめ戸惑い、情けなく泣き叫びながら抵抗を続けるナラーンを見つつ、信長は残忍に微笑む。いつの間にか斬撃をやめ、“左文字”を鞘に納め、まるでこれまでどおり“調練”の様子を確かめるようにしてナラーンと村人たちの戦闘を眺めている。
「これ即ち、“勝勢”なり。勝ちが決まりきった後だと兵どもは命を惜しんで臆病になり、敗勢なれば将に余程の人望と名声なくば脆くなり、互角は練度やくぐった修羅場の数の差が諸に出る。
故に、最初に連中が恨み骨髄の“頭”を、村人自身に取らせた。その上で俺自身も敵陣に斬り込み勇気を煽り、闘気を漲らせた。
“勝ちかけ”の戦で、“兵”たちは今、高揚の最中にある。
皆、命を惜しむのを“忘れる”のだ。ゆえに動きに迷いがなくなり、自然、強くなる。
………ほぉれ、見よ。もう、“敵勢”は存在しない」
戦場は、既にナラーン以外スケィビィの連れてきた兵で生きている者はいなかった。強いて言うなら、青ざめて馬の上で震える馬車の御者程度。
「う、ああああああああ!!!」
「いぎぁああっ!!?」
「よくも、よくも、よくも妹をおおおお!!!」
「いぎっ、ど、どけぇえっ!!」
ナラーンの隙を突き、その側面に組み付いたのはオグリビン。これまで嬲られ続けた恨みを込めて、何度も斧を振り下ろす。距離として近すぎた為かえって致命傷は与えられなかったものの、その分ナラーンは痛みと恐怖に駆られ、無様に崩れ落ちつつなんとかオグリビンを引き剥がす。
「ひ、ひぃ……!」
「よき“糧”であったぞ、ナラーン・ズンモンよ」
ほとんど地面を這うようにして逃走を図ったナラーンの前に立ち塞がるのは、満面の笑みの信長。
「いやだ……嫌だ、死にたくねえ………助けて……くれ………あぎっ!?」
「はっ」
無様に泣きながら信長の足にすがりつき、許しを請うてくる。そんなナランの様子を、信長は鼻で笑い足蹴にする。
「主の過去の所業を振り返ってからほざくがよいわ。……往ね」
「あ゛」
冷酷に言い放ち、左文字を振り下ろす。ナラーンの首が転げ落ち、ここにスケィビィの率いてきた親衛隊50余名は全滅する。
───驚くべきことに。
ラルカ村側の屍は、その中に一つとして存在しなかった。