ロンディア帝国中興の祖。帝国の版図を一代、二十年強で大陸のほぼ全土まで拡大してみせた
統率:95
武勇:89
魔力:93
智略:88
政治:56
魅力:87
今から30年前、1人の英傑が歴史に名乗りを上げた。
名を、ロンディウス2世。当時はあくまで「実力ある大国の内の1つ」であった、ロンディア王国の第74代国王。
父王の急な崩御から16歳にして国王の座に就いたロンディウス2世は、王位継承の儀を終えた翌日、夏真っ盛りの共暦1519年【炎熱の月】16日。1つの宣誓を行う。
曰く、ファストゥル大陸の大統一。
若き王は、嘆いた。
300年前のファストゥルとバンテニー、2つの大陸は、闇王クトロと蛇王ザッハーク、二人の“魔王”が率いる邪悪なる軍団の侵攻に晒されていた。
この闇を打ち払ったのは、2つの大陸の人々が手を取り合い魔王たちに立ち向かったからに他ならない。
パルスの地にて自らが救った365人の勇士と共に決起せし英雄、カイ・ホスロー。
クトロの侵攻に晒されていたロンディアにて大魔道士ヘブライヤが幽界より魂を呼び寄せし二人の“異界”の戦士、ヨシツネとロビンフッド。
“太陽の剣”に認められた英邁なる王と、その王に合力した二人の偉大なる戦士。そして彼らの幕下に集った両大陸の軍勢によって、魔王たちは打ち払われ、それぞれ海の底と地の底へ封印された。
然るに、今はどうか。
人々は300年前の団結を忘れて久しい。フォッスルでは大陸全土を巻き込む大戦乱が勃発し、ファイバでも“百年の戦役”未だ止まず多くの血が流れている。ファストゥルもバンテニーも、比較的平穏は保たれているがそれでも国家間戦争の勃発は珍しくない。
サーディアンでは三人目の“魔王”がかつて“勇者一行”に討滅されたが、時を経てこちらも優れた魔導技術を用いた各国が相争い始めている。
このような有様で、次の“魔王”を人類は打ち払えるのか。
その時に、英雄たる王も、異界の戦士も、勇者も、存在する保証はないというのに。
ならば、我こそがその礎を築こう。
大陸中の国々を、諸民族を、亜人を、魔族を。尽くロンディアの名の下に掌握し、均し、大陸を統べよう。一人の王の名の下に、汎ゆる人々が団結し得ることを世界に示そう。ファストゥルが、ロンディアが規範となることで、人類の先駆となろう。
若き王は、吠えた。今こそ人類の革新をと。今こそ人類の統一をと。
ロンディア王国は“帝国”となり、歴史の裏で蓄えたその圧倒的な国力を解放した。四方諸国を津波の如く飲み込み、各地の亜人や魔族を武を持って隷属させ、版図を急速に広げていった。
ファストゥル大陸は僅か20年足らずで彼の国によってその七割を掌握され、今や残されたのはごく一部の辺境部族や亜人、そして唯一頑強に抵抗している大陸極東の島国・大和皇国のみ。それどころか大陸外においてさえ、ルシタニアやシンドゥラから奪った海外植民拠点が存在するという有様。
ロンディア“帝国”による大陸統一は、1549年現在すぐ目の前に迫っている。
………あくまで、表向きは。
ロンディア帝国の進撃は、迅速であり、異様だった。圧倒的な軍事力とその衝撃力を維持するにあたり、帝国軍は本国からの補給とは別に“現地調達”を以てそれを成した。徹底的な収奪、暴力的な搾取によって、征服者たる帝国は被征服地域を根こそぎ“補給物資”に変換した。
近隣国ゆえ早くに制圧されるか自ら降伏を選び、“物資”の役割が比較的短く解放された地域はまだいい。だが帝国本土から遠く離れれば離れるほど、“前線”であることが長引けば長引くほど、帝国による収奪は長引き、国土は荒廃した。
加えて元から帝国領であった地域や早期に帝国に“協力”した地域は、勝利の証しであるより華美な繁栄を求めた。帝国中央の繁栄を維持し、促進するための諸々もまた、被征服地域を搾り取ることで捻出された。
また彼らにとって、亜人族や魔族は“物資”そのものか、或いは“障害物”の何れかであった。
その特性に応じて戦奴に、性奴に、農奴に、労奴に落とし、彼らの権利は一顧だにされることはなかった。
数多の亜人・魔族が存在そのものを搾取され、被征服地域の民や生活の困窮から売られた地方民たちとともに奴隷市場に並んだ。そうした適性のない者たちは、容赦なく集落ごと根絶やしにされた。
急速に肥大化した国土を“一先ず”統治するため、多くの貴族が能力を顧みられることなく加増されて次々と占領値に新たな統治者として送り込まれた。
スケィビィら北方四貴族に代表されるこれら分不相応な立身出世を果たした“成り金”たちは、肥大化した欲望を“征服者”の特権のみ甘受して振りかざし、前線と中央の双方から奪われ続ける外地にさらなる収奪と困窮をもたらした。
こうした歪を正すべき中央官僚と軍部は、武断派と魔導派に別れて壮絶な政争に明け暮れた。彼らは互いの勢力を伸ばしまた相手の勢力を挫くため、搾取構造を是正するどころか寧ろ積極的に煽り、拡大させた。
ロンディウス2世は、間違いなく英傑であった。だが彼は、彼自身が信望する国王としての責務にあまりにも一途で純粋でありすぎた。彼はファストゥル統一という大義の早期達成に固執するあまり、他のすべてを“一時的なズレ”と斬り捨ててしまっていた。
1540年代に差し掛かった時点で、帝国の短期間で肥え太った巨躯は、そこかしこで歪み、悲鳴を上げ始めていた。
そうした中で。
共暦1544年【明照の月】、大和国との間で【イオ島の戦い】が勃発。この戦いに親征していたロンディウス2世は、大和国武将・粟森忠宗の策略にハマり大敗、自ら重傷を負ってしまう。
そして───1547年【華咲の月】。
ロンディウス2世、41歳の若さで崩御。
この死をきっかけとして、ロンディア帝国が抱える数多の“歪”は、武断派と魔導派の対立を筆頭に次々と表出していく。
「──故に、今こそ大和戦線への総攻撃こそ急務なのです!!」
………共暦1549年、【清涼の月】20日。この日帝都【ロンドリア】にて行われた統一総力会議は、そうした“歪”の縮図のような有様だった。
「龍門軍は再編のため本土に退き、粟森軍は我が方の強襲上陸によってイオ島にて被害甚大!今こそイオ島を奪取し、しかる後南海州に上陸すれば、今度こそ大和皇国を屈服せしめられよう!!
ソー・モリアティ鎮南将軍が帝国領南部の安寧を取り戻した今こそ!!大和戦線に注力し決着を!!」
「そうだ!」「グラスナウ卿の仰る通り!!」
派閥筆頭だった大将軍の失脚を期に近年政争で地盤を失い続け、一挙の巻き返しを狙い夢物語のような攻勢計画ばかりを語る武断派。
「すぐさま10万の増派を確約いただきたい!さすれば今年中には必ずや大和を───」
「そんなことを独断専行されては困りますなぁ。帝国政府としては、新たに“大陸外”における影響力強化に動いている最中ですのに」
「ダンジョー・オルガナ卿……!!」
「パルス王国で先日崩御したオスロエス5世の後継として17代パルス王国黒王に就任した、アンドラゴラス王への警戒を強めるべきかと。獅子王と名高いかの者がバンテニーの大陸公路に影響力を発揮すれば、容易ならざる敵となり得ます」
「左様、左様」「先手を打ち、バンテニーにて橋頭堡の拡大に勤しむべきですな」
さらなる権勢の拡大を狙い、いたずらに戦役を振り撒かんとする魔導派。
「いずれにせよ、我ら地方貴族も国家にしかと尽くさねばなりませんなぁ」「まさに。盾後の支援として、ますます徴税に力を入れねば」
国家貢献を盾に、私利私欲を貪る地方貴族たち。
「生産力の源にして国威の象徴たる帝都及び【帝都圏】についてもさらに整備を進めねばなりません。王室府としては【政都・ヴェルリナ】と【芸都・パリースィー】におけるインフラ更新のために地方税の改定を提言し───」
既に膨大な栄華を恣にしながら、なおも富を求める帝国中央。
「では、オルガ・バスク宰相閣下。採決を」
「……………オルガナ卿の提案を是と致します。各卿、そのように動かれますよう」
「バカな……!!」
歪を正す立場でありながら、支持基盤である“魔導派”の傀儡と成り果てた宰相。
その光景に、“大陸帝国”としての威厳や栄誉など、微塵も存在しなかった。
「……………」
同日、夜。
スータント地方エウロイ郡、クッショー城。
スケィビィ討伐の成功と城の奪取・解放に伴う、ラルカ村の住民たちが集まってのお祭り騒ぎ。今はその喧騒も収まり、アイリーンもルシアも寝静まり、それでも信長は眠りにつくことなく接収した執務室で“次”へ向けて動き出している。
眼前の机に広げられているのは、1枚の地図。
以前見ていたスータント地方の地図ではない。今度のそれは………ファストゥル大陸全土のもの。
(………ラッセル・バーナードの実力は、本物であった。
不意を打ったとはいえナラーン勢残党をあの短時間で制圧する武勇。
寡兵の俺たちに対して城内に降伏を通し、スケィビィの人望のなさが特級であった事を差し引いてもすんなりと開城を成した統率力。
古城の地形の利を正確に把握して説明でき、また俺と正面切って戦う無意味さと無謀さを即座に理解し降伏を受け入れる智略。
何れも、紛れもなく一級品だ)
帝都にて騎士として働いていたというのも、全く道理と頷ける実力。では、何故それほどの騎士がスケィビィなどという愚物の下に着かされた。
───恐らくは、政争。しかもラッセルの年齢や現階級から考えて、帝都直属とは言え地位自体はそこまで高かったわけではないだろう。
逆説的にはそんな低い地位の者でも、何らかの理由で疎まれて地方へと左遷させられるほど、その政争は泥沼のものなのだろう。
(都でさえそんな有様で、地方じゃ愚も愚の貴族がのさばって圧政を強い、目下最大の敵である大和との戦は遅々として進まない。
そんで、二年前に帝が死に、後を継いだは幼帝、宰相は傀儡………か)
───ぞろりと、信長の白い歯が蝋燭に照らされて剥き出しになる。
「…………何十年かかるかと覚悟していたが、なるほど?存外、手早くいけるかもな」
舌が、ゆっくりと自らの唇を舐める。まるで、眼前の地図が、この上なく美味な馳走の膳であるかのように。
「悪いなぁ、帝国のお歴々。
今一度───天下に武を布かせてもらうぜ」
“左文字”を抜き放ち、切っ先を机に突き立てる。
“ロンドリア”の文字が、紫の刃に抉られた。