ブッヒル・ピグレルト配下の将。著しい肥満体。
統率-13
武勇-20
魔力-1
智略-12
政治-6
魅力-10
マリントン・ザキーラ
ドンデラス隊の副官。賊徒の頭目の出だが、存外頭の回転が早く気っ風もいいため直属の配下からは慕われている。意外と知識欲が高く、ある程度兵法に通じる。
統率-61
武勇-60
魔力-19
智略-71
政治-47
魅力-69
「何故じゃ!!何故攻めてはならん!!」
馬車の中から、手すりを拳で殴打しつつドンデラスが傍らで騎馬に乗るマリントンに向かって叫ぶ。
尋常ならざる肥満体であるドンデラスは馬に乗ることができず、さながら貴族のように馬車での移動を余儀なくされていた。
「村には既にノブナガ・オダの軍勢が入っているのであろう!?ならばこれを村ごと踏み潰し、しかる後エウロイ郡に討ち入ればよいではないか!!」
「そう簡単にいかねえんすよ!!奴ら村をガチガチに固めてるんです、下手に攻めかかったらこっちが死体の山を築きかねねえ!!」
「何を言う!奴らが村に入ってせいぜい四、五日だろう?堅牢な城と化しているわけでもあるまいし、よしんばそうとしてもこちらの兵数は2倍あるのだ!奴らはたかが一揆勢、負ける道理はあるまいに!!」
(コイツ……せめてあの櫓や柵の強固さ見てからほざけや……それに、あの鬨の声聞いてなかったのかよ!!)
「かしらぁ!!」
あまりにも無謀無理解なドンデラスの物言いに歯噛みする中、部下の一人がマリントンのもとに慌てて駆け寄ってくる。
「村から、二人乗せた騎馬が一頭出てきやす!!」
「あん……!?」
振り向けば、今まさに立派な体躯の黒馬と、その背に乗った男女二人が村の入口に進み出てきている。
1人は、マリントンも覚えがある。太陽の光から編み出したのかと疑いたくなるような美しい金髪に、世界一の彫刻師がその技の真髄を極めて作り出した彫刻にそのまま命を吹き込んだが如き美貌──この遠目からでも見分けがつく。ラルカ村の“反乱分子”アイリーンだ。
(てこたぁ、後ろに乗ってるガキが噂のネイブ・ナガン………じゃねえ、ノブナガ・オダか)
次はいったい、何を仕掛けるつもりだ。マリントンが警戒を露わにした直後。
「………え、えいっ!」
アイリーンが、突然矢を構えて、放つ。貧弱な軌道で飛んだそれは、ペチンっと情けない音を立ててほんの二丈ほど先の地面に突き刺さった。
「其れは、我軍よりの鏑矢なり!!」
事態が飲み込めずマリントンたちが呆気にとられる中、信長が朗々とよく通る声で叫び上げる。
「些か粗末なれど、弱軍相手にはこれにて十分!!戦の仕方手解き致す故、存分に参られたし!!!」
一方的にそこまで告げ終わると、信長は手綱を引いて馬首を返し、村の中へと戻って行く。
(───あっ、ヤバい)
立て続けに叩き込まれた“挑発”をマリントンの脳が認識し、ドンデラスを振り返りつつあわてて口を開くが、
「こ、こ、こ…………殺せぇええええええええ!!!!!!」
既に、遅きに失した。
「「「うぉおおおおおおっ!!!」」」
「う、動くな、動くんじゃねえ!!……本陣、本陣を固めなきゃならねえからな!!!」
怒髪天を衝かんばかりに怒り狂ったドンデラスの叫びに応じて、辛うじて停止をかけたマリントン直属の50余名を除くほぼ全兵が一気に丘を駆け下りてトンソック村へと殺到する。
「…………あああああああああっ!!!」
「がぁあああああぁっ!!!」
「おうおう、壮観なもんだにゃあ」
その勢いは、村の防備の硬さがはっきり見える位置まで近づいても変わらない。どころか、殆どの兵士がますます猛り狂い、目を血走らせながら加速して突っ込んでくる。
民家の屋根の上からその様子をアイリーンとともに観察しつつ、信長は得たりとほくそ笑む。
「やはりよう効くなぁ、お前さんの【魅了】は♪」
「ほんとに、次から次へとよく悪辣な使い方を思いつくわね貴方は……」
挑発の“鏑矢”を放つ際に、アイリーンが併せて密かに振りまいた【魅了】魔法。突貫してきたドンデラスの兵卒達は勢いその只中を通ることになり、理性を瞬く間に溶かされていよいよ足を止める機を逸した。
「私の【魅了】、繰り出す時の霧にかなりはっきり色が付いてるから本来なら見た目でバレる。だけど、晴れ始めたとは言えまだ朝靄が残っている今なら………」
「敵はさして不審がることなく、その中に自ら突っ込んでくる。ましてや将が挑発で冷静さを失い、兵は士気も忠節も低き故に一刻も早く戦を終わらせたい一心であるなら尚の事“些事”には気づけん。解ってきたなぁお前も。
──さて」
敵勢の先頭が、いよいよ外堀の目前まで踏み込む。冷静さを失っているとは言え、堀がある以上物理的にその脚が一斉に緩む。
瞬間、信長は左文字を抜き放ち、振り下ろした。
「放てえぇええぇい!!」
「おごっ!?」「ふぎっ!!」「グポッ……!?」
他の民家の屋根の上に、櫓の中に、柵のすぐ後ろに潜んでいた、信長軍の弓衆40余。それらが一斉に立ち上がり、矢をつがえ、放つ。重なる弦音の中に肉を鏃が貫く鈍い音が数多混ざり、喉笛を、胸板を、額を射抜かれたドンデラス勢がバタバタと柵の前で斃れ、積み重なる。
「第二矢、射てぃ!!」
「いぎあっ!?」「ひぐっ……」「むがっ」
「えっ?……えっえっ……??」
間髪入れず、追撃。雨霰と降り注ぐ矢の前に、猪突猛進で押し寄せてきた敵勢が屍をいたずらに増やし、晒していく。瞬く間に50余を討ち減らされ、“魅了”されていたドンデラス勢はここでようやく我に返った。
だがそれは、次なる“隙”の表出に他ならない。
「ほぉれ」
「「「ミ゛っ゛」」」
「あづ、あああああああああっ!!!!?」
一閃される“左文字”。業火が腹を空かせた大蛇よろしく顎を開きながら伸びていき、足を止めた敵勢のど真ん中で炸裂。
直撃を受けた20余名が圧倒的威力の魔炎の前に悲鳴を上げる間もなく灰燼に帰し、“延焼”で澄んだ周囲十余名が焼けただれた体の部位を抑えながらのたうち回る。敵の陣列に、ポッカリと大穴がこじ開けられた。
「かぁかれぇえええええ!!!」
「「「「いあらぁあああああああああああ!!!!」」」」
信長自身が嬉々として屋根から飛び降りて駆けつつ、渾身の大音声で号令する。柵が開かれ、盾が倒され、村内に潜んでいた信長勢200余が、槍穂先を揃え剣を抜き放ち鬨の声を上げて打って出る。
「退け、退けぇえ!!槍隊は密集して敵を牽制しつつ前線を下げろ!!弓隊を再編してその後方から射掛けさせろ!!そのまま戦うなぁ!!」
マリントンが必死に声を枯らすが、届かない。ドンデラス勢は畳み掛けられた“軍略”の前に、一瞬で混乱の局地に達してしまった。
混乱の中で、斬り込んだ信長勢の将兵がイキイキとその武を振るう。
「せい、やぁっ!!」
リナは今や女人とは思えぬ鋭さを備えた槍さばきで、次々と及び腰の敵勢を突き伏せる。鎧の隙間を正確に槍穂先で狙い撃ち、“乙女衆”の先頭に立って果敢に攻め立てていく。
「そりゃ、ほぉれ!!」
ヒディの剣術は、ボイヤの集中鍛錬の賜物で多少はモノになったが未熟さも目立つ。だがそこに自らの高い身体能力を合わせることで、その未熟さを強引に埋める。
敵の背に飛びつき喉笛を裂き、影が地面から伸び上がるがごとく躍りかかって斬り伏せ、“騎士”の戦い方には存在しないトリッキーな動きで翻弄する。
「剣撃衆、一番隊は一気に中央まで貫いた後反転せよ!槍衆、一〜三番隊まで穂先合わせ!剣撃衆が反転なり次第、敵勢の一部を挟撃しすり潰せ!!」
ヒディと好対照と言うべきはラッセル・バーナード。剣を正確に的確に敵勢に振り下ろし、基本に忠実な動きの繰り返しで堅実に機械的にその屍を周囲に増やしていく。
一方で、自らも武を振るいつつ“采配”に余念がない。こちらも堅実に着実に敵の“崩れ”を拡大させ、立て直す間を与えない。
「お、おりゃああああっ!!」
オグリビンは未だ武具の扱い不慣れであり、またヒディのような身体能力もない。シャームやリナの才が並外れているというのはあるが、二人と比較して剣を振るう姿は酷く不格好だ。
だが、それでもラルカ村にて戦った際にナラーンに組み付けたことで度胸は手に入れた。ややへっぴり腰気味ではあれそれでも敵兵に挑みかかり、青息吐息となりながらも時として討ち倒す。
「───フハハハハハハハハ!!!!!」
そして………織田信長。“左文字”が振るわれる度、ドンデラス側の兵が一人斬り裂かれ斃れる。その手から魔炎がほとばしる度、十人単位で兵たちが焼き払われる。
圧倒的な武勇に、規格外の魔力。それらを高笑いしながら振るう姿はまさに───魔王。
「ひっ、ひぃいいい!!ま、マリントン!!はよう奴らを討t」
「陣列散開させつつ前進!!あのノブナガってやつの魔力尋常じゃねえ、直撃食らったらまとめて全員お陀仏だぞ!!」
悪鬼羅刹と見紛うばかりな信長の姿に恐れをなしたドンデラスが叫ぶが、それを待つまでもなくマリントンは既に馬上の人となり駆け出している。
「いいか、まだ主力の兵はかなり生きてる!!討ち入ったら周りの七、八人叩き起こして隊伍を固めさせろ!!拾える分だけ拾ったら馬車の周りに集まり隊を再編、しかる後全速力でトンズラだ!!!」
「…………ほぅ」
焦燥にかられつつも的確な指示を飛ばし、進軍してくるマリントン勢。無論、信長の位置では流石にマリントンが出している指示までは聞こえない。
だが、主力救援のために自ら突貫しつつ、信長の魔法を警戒してあえて散開という選択肢を取った時点で、その采配は信長の興味を大いに引いた。
「だが、無念なるかな。───遅し」
「っがぁあああああああ!!!!」
「うぎぃっ!!?」「あぎゃっ!!?」
「なぁっ………!!!?」
信長が火炎魔法を、一発戦場ではなく天に放つ。途端、マリントン隊の真横から弾丸のごとく小さな人影が飛び込んできて、瞬く間に数人をその鋭い爪で切り裂く。
「しゃあああああああっ!!!」
「り、竜人族だと!!?」
「ダメだ、一人じゃ敵わねえ!!槍衾だ、急げ!!」
「畜生……!!!」
朝霧と、伏兵による前衛の大混乱。その最中に紛れた、ルシアによる単騎横撃。竜神族からの襲撃というあまりにも理外の事態に、マリントン隊も動きが止まる。
「はぁっ!!!」
「しまっ………!!」
ここで、信長の魔力を警戒し陣列を広げた判断が“アダ”に変わる。兵たちの隙間をすり抜けるようにして、信長が一気にマリントン隊を抜け、丘を駆け上がる。
「ひぃいいいいいいいっ!!!」
その先にあるは、ドンデラス・ガルガゼラの乗る馬車。
「誰ぞ、誰ぞワシを守r」
「往ね」
命乞いを口にする間すらなく、信長が“左文字”を一閃する。宙空に生まれた火炎の大槍が、流星の如く飛ぶ。
「カ゜ッ゜」
直撃を受けたドンデラスの馬車は、“乗員”ごと木っ端微塵に爆散した。
「えっ………あれって、確か大将の馬車じゃ」
「は?ん?じ、じゃあ俺達、負けた………?」
「───降れぇえええい!!!」
あまりにも電撃的な指揮官の戦死劇。状況把握が追いつかず、残ったドンデラス勢の雑兵達は合戦中、それも自軍が総崩れという事態にも関わらず皆呆けたように動きを止める。その、思考の空白にねじ込むようにして、信長が再び声を轟かせる。
ドンデラス勢の退路を塞ぐようにして丘の上に立ち、未だ燃え盛る馬車の残骸を踏みしめるその姿は、自然と身がすくむような抗いようのない圧倒的な威圧感を伴っている。
「生き残った者は皆降れぃ!!逃げず、俺に降った者は皆生かし我が軍門に加えよう!!
なれど逃げる者、手向かう者は……撫で斬りぞ!!この信長に逆らう者、1人として生かすつもりなし!!!」
「降るぅうううう!!降る、降る、降伏するぅ!!!」
その声に真っ先に応じたのは、意外にも、生き残ったこの勢の副官であった。ほうぼうに跳ねた金髪と日に焼けた浅黒い肌、そしてどこか軽薄なデザインの鎧が特徴のその男は、跪き、両手を上げて、周りの兵たちにも自身に倣うよう促しつつ声を張り上げる。
「ノブナガ“様”は、“スケィビィの配下だった”ラッセル・バーナード殿も、麾下のスケィビィ兵300余名もその命を助けてくださった方だ!!
ならば我らも………従えば命は助かるぞ!!!」
「ほほぅ」
………ややわざとらしい、芝居がかった内容の叫び声であることは間違いない。だが、明確な“実績”を羅列した効果は絶大だった。生き残った敵兵たちの抵抗が、逃走が、マリントンの声が浸透するにつれて止まっていく。
「───おい」
「ハ、ハヒ……!!」
飛び跳ねるようにしてマリントンの下へ駆け寄り、その首筋に“左文字”の刃を突きつける。
……瞬く間に生殺与奪を握られたこともそうだが、見た目の齢から考えて自身より十幾つも年下であろうことが到底信じられないその圧に、マリントンの返答の声が上ずる。
「お主、名は」
「ままま、マリントン!!マリントン・ザキーラでございます!!!」
「デ、アルカ」
信長は呟くと、あっさりと“左文字”を引き、鞘へと収める。
「帰順を認める。───降伏、大義!!」
「へっ、へへぇーーー!!」
短く言いおいて、マントを翻して信長は村の方へと歩を進める。その後ろで自然と地面に這いつくばって平伏しながら、マリントンは魂に刻み込まれた。
自分は、恐らく今後の生涯永久にこの男に頭が上がることはない、と。
「───勝どきじゃあ!!挙げよ!!!」
「「「えい、えい、おおおおおおおお!!!」」」
共暦1549年【豊穣の月】16日、織田信長はドンデラス・ガルガゼラを討ちブッヒル軍先鋒を大破。対ブッヒル討伐の緒戦に置いて、圧倒的な勝利を収めることに成功する。
僅か半刻ほどの交戦で300に迫るブッヒル側の討ち死に、信長側の皆無に等しい損害など、小規模な激突ではありながら規格外な要素は数多存在する。
だが、その中でも特筆すべきは。
「「「えい、えい、おおおおう!!!」」」
──ドンデラス勢残余のほぼすべてが信長に降った結果、信長勢の兵力が600余に“増大”した点だろう。