君を守る、その理由   作:かなっち館長

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第二十三話 帰ってきて

 蒼士の呼吸は荒かった。

 

 廃墟から離れた車内で、千束は何度も後部座席の蒼士を振り返った。

 

 蒼士は脇腹を押さえ、肩で息をしている。

 

 出血はひどくはない。

 

 けれど、遥斗に壁へ叩きつけられた衝撃で、体のあちこちを痛めているようだった。

 

「蒼士さん、大丈夫?」

 

「大丈夫って言いたいところだけど……まあ、正直、結構痛い」

 

「リコリス式の応急処置いる?」

 

「怖いから遠慮する」

 

「失礼だなぁ」

 

 千束は軽口を返した。

 

 でも、声はいつもより少し硬かった。

 

 リリベル二人は別車両で周辺警戒に回っている。

 

 外国組織の迎撃部隊は、完全に排除できたわけではない。

 

 遥斗も、フードの四人組も逃げた。

 

 奏斗は戻ってこなかった。

 

 それが、千束の胸に重く残っていた。

 

「リコリコへ戻る」

 

 運転席のリリベルが言う。

 

「そこが一番安全なの?」

 

 千束が聞く。

 

「現状、DA側の施設は信用できない。リリベル本部も情報が漏れる可能性がある。リコリコは民間店舗だが、ミカさんがいる」

 

「先生なら、何とかしてくれる」

 

 千束は小さく頷いた。

 

 車は夜の道を走る。

 

 窓の外を街灯が流れていく。

 

 千束はスマホを握っていた。

 

 奏斗へのメッセージ画面。

 

 既読はつかない。

 

 さっきまで遥斗が奏斗の体を使っていた。

 

 奏斗の意識が奥にいるなら、スマホを見る余裕なんてないのは分かっている。

 

 それでも、画面を見てしまう。

 

「奏斗……」

 

 声に出すと、胸が苦しくなった。

 

 遥斗の言葉が蘇る。

 

 俺は兄貴に負けたことなんて、ほとんどない。

 

 だが、一つだけ負けたものがある。

 

 お前を、ものにできなかった。

 

 千束は拳を握った。

 

 遥斗は危険だ。

 

 強い。

 

 迷いがない。

 

 でも、奏斗を完全に消しているわけではない。

 

 奏斗はまだいる。

 

 だから、呼ぶ。

 

 何度でも。

 

     ◇

 

 深夜のリコリコは、すでに照明が落とされていた。

 

 裏口から入ると、ミカが待っていた。

 

 ミズキもいた。

 

 ミズキは普段ならこの時間、酒を片手に軽口を言っているはずだった。

 

 けれど、千束たちの姿を見ると、すぐに表情が変わった。

 

「何があったの?」

 

 千束は答えようとして、言葉に詰まった。

 

 蒼士がリリベル二人に支えられながら奥の椅子へ座る。

 

 ミカはすぐに応急処置用の道具を取り出した。

 

「蒼士、傷を見せなさい」

 

「すみません、ミカさん。ちょっと派手にやられました」

 

「話は後だ」

 

 ミカは蒼士の上着を脱がせ、傷の状態を確認する。

 

 千束はその様子を見ながら、ゆっくり口を開いた。

 

「先生、ミズキ」

 

「うん」

 

 ミズキはいつものように茶化そうとして、口を開きかけた。

 

 でも、千束の顔を見て黙った。

 

 千束は自分がどんな顔をしているのか分からなかった。

 

 ただ、笑えていないことだけは分かっていた。

 

「奏斗が……遥斗に乗っ取られてる」

 

 店内が静まり返った。

 

 ミズキの目が揺れる。

 

「乗っ取られてるって……何よ、それ」

 

「奏斗の中にいる弟の人格。遥斗が、今は表に出てる」

 

「ちょっと待って」

 

 ミズキは混乱したように額へ手を当てる。

 

「二重人格ってこと? いや、そんな映画みたいな話……」

 

 軽口を言おうとして、途中で止まった。

 

 千束がまっすぐ見ていたからだ。

 

 ミズキは唇を結び、椅子へ座った。

 

「……ごめん。続けて」

 

「遥斗は、DAの幹部を殺してる」

 

 千束の声が震えそうになる。

 

 でも、堪えた。

 

「今日も、フードの四人と一緒に、複数のDA幹部を殺したって言ってた」

 

「何ですって……」

 

 ミズキが呟く。

 

 ミカは蒼士の処置を続けながらも、静かに聞いていた。

 

「遥斗の目的は、DA上層部を殺して、組織を壊すこと。リコリスやリリベルの子どもは対象じゃないって言ってた。でも、だからって止めなくていいわけじゃない」

 

「奏斗は?」

 

 ミカが聞いた。

 

「中にいる。遥斗が言ってた。奏斗の意識は朦朧としてるって。でも、奏斗が中で目覚めれば戻るって」

 

「なるほど」

 

 ミカは包帯を巻きながら、小さく頷いた。

 

「つまり、奏斗の体は遥斗が使っている。奏斗本人の意思ではないが、外から見れば奏斗がDA幹部を殺していることになる」

 

「先生」

 

「分かっている」

 

 ミカは千束を見た。

 

「だが、状況としてはそう扱われる可能性が高い」

 

 胸が冷たくなる。

 

 千束はミカの次の言葉を聞きたくなかった。

 

 けれど、ミカは言った。

 

「今後、DAやリリベルが奏斗を“敵”として扱わざるを得なくなる可能性がある」

 

「違う!」

 

 千束の声が店内に響いた。

 

 ミズキがびくりとする。

 

 ミカは動じない。

 

 千束は一歩前に出た。

 

「奏斗は敵じゃない」

 

「千束」

 

「奏斗は今、遥斗に体を取られてるだけ。奏斗が殺したんじゃない。奏斗は、そんなこと望んでない」

 

「それは私も分かっている」

 

「じゃあ敵って言わないで」

 

 千束の目に、強い光が宿る。

 

「遥斗は止める。でも奏斗は助ける」

 

「簡単ではない」

 

「分かってる」

 

「遥斗を止めるために、奏斗の体を撃たなければならない場面もあるかもしれない」

 

「撃つなら私が撃つ」

 

 千束は即答した。

 

「殺さない。止めるために撃つ。奏斗が戻れるように」

 

「もし戻らなければ?」

 

「戻す」

 

「もし遥斗が、さらに人を殺そうとしたら?」

 

「止める」

 

「もし奏斗の体を守ることと、誰かの命を守ることが両立しなければ?」

 

 千束は一瞬、答えられなかった。

 

 それは、今までの千束なら簡単に言えたはずのことだった。

 

 命大事に。

 

 誰も殺さない。

 

 助けられる命は助ける。

 

 でも、今回はそこに奏斗がいる。

 

 奏斗の体がある。

 

 千束が好きだと言った相手。

 

 キスをした相手。

 

 自分を選んでくれた相手。

 

 千束は拳を握った。

 

 唇を噛みそうになるのを堪える。

 

「……それでも」

 

 声は小さかった。

 

 でも、消えなかった。

 

「それでも、どっちかじゃない」

 

 千束は顔を上げた。

 

「両方やる」

 

 ミカが黙って千束を見る。

 

「奏斗を助ける。遥斗を止める。人も死なせない。無理だって言われてもやる。だって、それを諦めたら、私じゃない」

 

「千束……」

 

 ミズキが小さく名前を呼ぶ。

 

 千束はまっすぐ言った。

 

「奏斗は敵じゃない」

 

 もう一度。

 

 はっきりと。

 

「絶対に、敵にしない」

 

 ミカはしばらく何も言わなかった。

 

 やがて、静かに息を吐く。

 

「分かった」

 

「先生」

 

「なら、その覚悟で動きなさい」

 

「うん」

 

「ただし、一人で行くな」

 

「分かってる」

 

「分かっていない顔だ」

 

「……分かってる」

 

 ミカは少しだけ厳しい目で千束を見た。

 

「奏斗を助けたいなら、千束自身も生きて戻らなければならない」

 

「うん」

 

「それを忘れるな」

 

「忘れない」

 

     ◇

 

 蒼士の処置が終わると、全員で情報を整理した。

 

 蒼士は脇腹と肩に包帯を巻かれ、椅子に深く座っている。

 

 顔色は少し悪いが、意識ははっきりしていた。

 

「遥斗について、俺が知ってることを話す」

 

 蒼士はそう切り出した。

 

「昔から、あいつはリリベル内で異質だった」

 

「異質?」

 

 ミズキが聞く。

 

「ああ。強すぎた。子どもなのに、すでに周りを支配するような空気を持ってた。戦闘能力も異常だったけど、それ以上に、人を恐れさせる力があった」

 

「【恐怖】」

 

 千束が呟く。

 

「そう。正式に能力として扱われたのは後かもしれないけど、兆候は遥斗の時点であった」

 

「蒼士さんには効かないんだよね」

 

「効きにくい、だな」

 

「何で?」

 

 蒼士は少し考えた。

 

「俺は昔から、恐怖に対する反応が鈍い。感覚がないわけじゃない。怖いものは怖い。でも、体が止まりにくい」

 

「訓練?」

 

「それもある。たぶん体質もある。だから遥斗にとって、俺は邪魔な存在だった」

 

「恐怖で従わないから」

 

「そうだ」

 

 蒼士は苦笑した。

 

「遥斗は、自分を怖がらない相手が嫌いだった。俺は特に目障りだったんだろうな」

 

「だから殺すって」

 

「ああ」

 

 蒼士は表情を少し引き締める。

 

「それと、遥斗の計画に賛同していた候補生たちが昔いた」

 

「フード四人組?」

 

「可能性は高い。一部は死んだと記録されている。だが、記録そのものが正しいかは分からない」

 

「DAが偽装したかもしれない?」

 

「あるいは、生き残った者が死亡扱いにされた」

 

 ミカが静かに言う。

 

「DAは、本当に遥斗を危険視していたのか」

 

「はい」

 

 蒼士は頷いた。

 

「遥斗は危険だった。でも同時に、DAにとって都合の悪いことを考えていた」

 

「リコリスやリリベルの解放」

 

 千束が言う。

 

「その言葉だけなら、間違ってない部分もある」

 

 蒼士は苦い顔をした。

 

「俺たちは子どもの頃から武器を持たされ、任務に出される。自由だの未来だの、そんなものは後回しだ。遥斗はそれを憎んでいた」

 

「でも、殺して壊すのは違う」

 

「ああ。だから止めなきゃならない」

 

「遥斗は、DAに潰された存在でもあるんだね」

 

 ミズキがぽつりと言った。

 

 誰もすぐには答えなかった。

 

 遥斗は危険だ。

 

 人を殺している。

 

 奏斗の体を奪い、千束を拘束した。

 

 許せることではない。

 

 でも、ただの悪役として切り捨てられる存在でもない。

 

 DAの闇に潰された子ども。

 

 兄だけを本音の拠り所にしていた弟。

 

 その末に、恐怖で世界を変えようとしている。

 

 千束は胸の奥が重くなった。

 

 遥斗を止める。

 

 でも、遥斗を理解しないまま撃つことはできない。

 

 奏斗のためにも。

 

     ◇

 

 深夜。

 

 少しだけ店内が落ち着いた頃、ミカは千束を店の外へ呼んだ。

 

 外は、夜風が少し冷たかった。

 

 街の明かりが遠くに見える。

 

 千束は入口近くに立ち、空を見上げた。

 

 ミカは隣へ来る。

 

「冷えるな」

 

「うん」

 

「大丈夫か?」

 

「大丈夫って言ったら嘘かも」

 

「そうか」

 

 ミカは無理に励まさなかった。

 

 それが千束にはありがたかった。

 

「先生」

 

「何だ」

 

「奏斗、戻ってくるよね」

 

 その問いに、ミカはすぐには答えなかった。

 

 千束も分かっている。

 

 大丈夫だ、と簡単に言える状況ではない。

 

 奏斗の意識がどこまで残っているのか。

 

 遥斗がどれだけ強く主導権を握っているのか。

 

 誰にも分からない。

 

「千束」

 

「うん」

 

「もし、奏斗が戻らなかったらどうする」

 

 胸が詰まった。

 

 千束は答えられなかった。

 

 戻らなかったら。

 

 遥斗のままだったら。

 

 奏斗が奥に沈んだままだったら。

 

 そんなこと、考えたくない。

 

「先生は、奏斗を撃てって言うの?」

 

「状況による」

 

「……」

 

「私は、お前に残酷なことを言うかもしれない」

 

「聞きたくない」

 

「それでも言う。千束が生きるために必要なら」

 

「私は奏斗を助ける」

 

「ああ」

 

「遥斗も止める」

 

「ああ」

 

「だから、奏斗が戻らないなんて言わないで」

 

 声が震えた。

 

 千束は拳を握る。

 

「戻らないなら」

 

 言葉が詰まる。

 

 でも、飲み込まない。

 

 ちゃんと言う。

 

「戻るまで呼ぶ」

 

 ミカは千束を見る。

 

「奏斗が私を呼んでくれたから」

 

 千束の中に、あの夜の記憶が浮かぶ。

 

 遥斗が表へ出たとき。

 

 自分が恐怖を感じたとき。

 

 それでも、奏斗は戻ってきた。

 

 千束が呼んだから。

 

 戻ってこい、と言ったから。

 

「今度は私が呼ぶ」

 

「何度でもか」

 

「何度でも」

 

「届かなくても?」

 

「届くまで」

 

 千束は顔を上げた。

 

「奏斗は、私の声なら聞こえる」

 

 それは確信ではなかった。

 

 願いに近い。

 

 でも、千束にはそれしかなかった。

 

 ミカは静かに頷いた。

 

「分かった」

 

「先生」

 

「なら、呼び続けなさい」

 

「うん」

 

「そして、戻った奏斗を受け止めてやれ」

 

 千束は少しだけ笑った。

 

「うん」

 

     ◇

 

 店内へ戻ると、千束はスマホを取り出した。

 

 奏斗へのメッセージ画面。

 

 既読はついていない。

 

 それでも、送る。

 

 千束は指を動かした。

 

 ――奏斗、帰ってきて。

 

 少し迷って、次の文を打つ。

 

 ――怒ってない。

 

 すぐに消した。

 

 違う。

 

 怒っていないわけではない。

 

 遥斗に体を奪われたこと。

 

 勝手にいなくなったこと。

 

 何も言わずに一人で抱え込んだこと。

 

 それには怒っている。

 

 千束はもう一度打ち直す。

 

 ――怒ってない、って言いたいけど、ちょっと怒ってる。

 

 ――勝手にいなくなったのは怒ってる。

 

 ――でも、待ってるから。

 

 ――帰ってきて。

 

 送信。

 

 画面を見つめる。

 

 既読はつかない。

 

 分かっていた。

 

 それでも、胸が少し痛んだ。

 

 千束はスマホを握りしめる。

 

「届いてよ……」

 

 小さく呟いた。

 

 その時、蒼士が近づいてきた。

 

「千束ちゃん」

 

「何?」

 

「奏斗の発信機をまだ拾えてる」

 

「発信機?」

 

「ああ」

 

 蒼士は端末を見せた。

 

 位置情報が点滅している。

 

「奏斗が事前に用意してたやつだ。DAには言ってない」

 

「DAに言ってない?」

 

「情報が漏れる可能性があるからな。俺と奏斗だけが知っている」

 

「奏斗……」

 

 千束は画面を見る。

 

 奏斗は、ちゃんと道を残していた。

 

 自分が消えたとき、誰かが追えるように。

 

 「助けて」とは言わないくせに。

 

 助けられる準備だけはしている。

 

 そういうところが奏斗らしくて、千束は泣きそうになった。

 

「行ける?」

 

 千束が聞く。

 

「俺は負傷してる。正面からはきつい」

 

「でも来るんでしょ?」

 

「行くに決まってるだろ」

 

 蒼士は苦笑した。

 

「奏斗を止められる可能性があるのは、千束ちゃんと俺くらいだ」

 

「じゃあ行こう」

 

 ミカが奥から銃のケースを持ってきた。

 

「千束」

 

「先生」

 

「非致死弾は多めに用意した」

 

「ありがとう」

 

「無理はするな」

 

「分かってる」

 

 ミカの声は静かだった。

 

「お前ならできる」

 

 千束は深く頷いた。

 

「やる」

 

 銃を手に取る。

 

 重さ。

 

 冷たさ。

 

 いつもの相棒。

 

 でも今夜撃つ相手は、いつもの敵ではない。

 

 奏斗の体をした遥斗。

 

 千束は銃を握りしめた。

 

「奏斗を助ける」

 

     ◇

 

 その頃。

 

 遥斗はフードの四人組とアジトにいた。

 

 地下に作られた簡易拠点。

 

 壁には地図。

 

 机には武器と端末。

 

 外部との通信機器。

 

 外国組織から受け取った弾薬箱。

 

 フードの四人は、それぞれ装備の確認をしている。

 

 遥斗は椅子に座り、奏斗のスマホを手に取った。

 

 通知が来ていた。

 

 千束から。

 

 画面を開く。

 

 ――奏斗、帰ってきて。

 

 遥斗は眉をひそめる。

 

 無視しようとした。

 

 スマホを伏せる。

 

 だが、指が止まった。

 

 続きのメッセージが目に入る。

 

 ――怒ってない、って言いたいけど、ちょっと怒ってる。

 

 ――勝手にいなくなったのは怒ってる。

 

 ――でも、待ってるから。

 

 ――帰ってきて。

 

 遥斗の手が、ほんの一瞬だけ震えた。

 

「……っ」

 

 胸の奥で、何かが動く。

 

 奏斗だ。

 

 眠っているはずの兄が、メッセージに反応した。

 

 千束の言葉に。

 

 帰ってきて、という声に。

 

 遥斗は奥歯を噛む。

 

「……まだ起きるなよ、兄貴」

 

 低く呟いた。

 

 フードの一人が近づく。

 

「遥斗様?」

 

「何でもない」

 

 遥斗はスマホを机へ置いた。

 

 画面を伏せる。

 

 見なかったことにする。

 

 でも、手の震えは完全には消えていなかった。

 

「次の目標を伝える」

 

 遥斗は立ち上がった。

 

 四人が一斉に姿勢を正す。

 

 壁の地図。

 

 その中心にある施設。

 

 DA本部。

 

「次は、DA本部を狙う」

 

 四人の空気が変わった。

 

 緊張。

 

 興奮。

 

 覚悟。

 

「上層部の一部を殺した程度では、DAは止まらない。中枢を叩く」

 

「突入計画は?」

 

「正面からは行かない。内部情報を使う」

 

「協力者は?」

 

「まだいる」

 

 遥斗は冷たく笑った。

 

「DAは自分たちの中に何が残っているか知らない」

 

 机の上で、奏斗のスマホが小さく震えた。

 

 新しい通知ではない。

 

 ただ、画面が一瞬光っただけだった。

 

 遥斗はそれを見ない。

 

 見れば、また兄が揺れる。

 

 今はまだ戻らせない。

 

 計画は始まった。

 

 もう止まらない。

 

「行くぞ」

 

 遥斗の声に、フードの四人が頷いた。

 

 次の標的は、DA本部。

 

 千束たちが追いつく前に、遥斗はさらに深い闇へ踏み込もうとしていた。

 

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