戦えない荷揚げ屋の俺、全滅寸前の探索隊へ「あと一箱」を届け続けたら、最深層の生命線と呼ばれていました ~攻撃スキルはありませんが、地上まで必ず連れて帰ります~   作:ramunade

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6. 灯りはどこだ

「六人。六人います、後輩で、みんな今年からで――灯りが、全部」

 

「落ち着いて。あなたは今、杭のそばですね? そこを動かないで」

 

「でも、あいつら、まだ中に――」

 

「あなたが闇に戻ったら、行方不明は七人になります。……お願い。杭に手を当てて、喋り続けて。声が聞こえている限り、あなたは迷子じゃありません」

 

 管制の声は、通報者を叱らずに繋ぎ止める。ああいう声の使い方を、俺は他に知らない。

 

 卓の上には、親方の言いかけた言葉と、十五年前の荷札の束が、そのまま残っている。俺は紐を掴んで軒先へ出た。夜の宿場の冷えた空気の中で、杭の赤い着信灯だけが脈を打っている。

 

 三十二階の支道。学生上がりの新人六人。安い卸で揃えた魔石灯が、そろって同じ夜に死んだらしい。安い灯りは同じ工房の同じ月の石を積むから、死ぬときも揃って死ぬ。荷揚げ屋には常識で、新人は誰も教わらない類いの常識だ。灯りを失った新人は、闇の中で散り散りになる。教本の一頁目に書いてあることが、教本の通りに起きただけである。

 

 通報したのは引率の先輩だという。杭まで這って戻って、声はもう半分泣いていた。

 

 管制の声が、一段あらたまる。

 

「管理局管制より、救難特例輸送、第一号案件。……岩永運送さん。第一号です。――行けますか?」

 

 指名するというのは、俺を闇へ送る判を自分で押すということだ。五日前、分室でそう言った俺に、この人は頷いた。その重さごと、声が澄んでいる。

 

「岩永運送、承ります」

 

 承ります、の四文字が、いつもより重い。断る道が最初からない依頼を、断れる形式で聞いてくれる。特例というのは、そういう礼儀の紙でもあるらしい。

 

 四十階から二十五階まで、軽装の上りで二時間半。基地で荷を組む。発光筒四十本。呼子笛。毛布と、湯を詰めた水筒。締めて二十二キロ。うち配っていいのは十二キロまで――俺の道は、肩の荷が十キロを切ると消える。配る荷と、道を保つ荷を、最初から分けて詰むのが岩永運送の詰め方だ。基地の係が首をかしげた。

 

「六人だろう? 発光筒、六本じゃないのか」

 

「六本は人に。残りは道に置きます。……闇ってのは、数で削るものなんです」

 

 夜の本道は、静かだった。すれ違うのは夜番の警備と、遅い便の同業がひとり。それでも「新人が六人」の噂は、杭より速く階を駆け上がっていて、すれ違いざま、誰もが俺の背負子へ目をやった。頼む、と目だけで言われる。宿場というのは、そういう生き物だ。

 

 基地の隅に、引率の先輩がいた。二十三だと言う。膝が笑っているのに、俺の顔を見るなり立ち上がった。

 

「俺も、行きます」

 

「連れて行きます。あんたの声が要る。俺は、あの子たちの名前を知らない」

 

 三十二階の支道口、午前一時四十分。紐を握り直す。

 

「――敷きます」

 

 一歩目の白が、闇に点った。

 

 魔石灯の死んだ支道は、音まで冷えている。呼吸を吸い込むような闇だ。自分の足音さえ、闇に食われて薄くなる。そこに、俺の踏んだ跡だけが一本、薄白く延びていく。俺の道は、暗い場所でよく目立つ。灯りとしては頼りない。道としては、間違わない。迷子に要るのは、たぶん両方だ。

 

 五十歩ごとに発光筒を焚いて、道の縁に置いた。赤い小さな火が、白い帯の上に点々と並んでいく。帰り道の絵本みたいだと、場違いなことを思う。背中で湯の水筒が、規則正しく鳴っている。

 

「呼んでください。ゆっくり、一人ずつ」

 

 先輩が息を吸って、最初の名前を呼んだ。

 

 闇の中で、泣き声というのはよく通る。よく通るくせに、届いてほしい場所には届かない。俺はそれを知っている。だから呼ぶ側の声は、なるべく低く、なるべくゆっくりがいい。

 

 三度目の名前で、右手の闇から、引き攣れた泣き声が返った。道を泣き声のほうへ曲げて敷く。岩の陰に、膝を抱えた小さな影。白い光の帯が届いた途端、影は顔を上げ、それから声を上げて泣いた。

 

 駆け寄った先輩の腕の中で、一人目はうまく立てない。指がかじかんで開かない。湯の椀を両手で挟ませ、指が戻るまで待つ。名前を呼ばれた瞬間の顔を、俺は道の敷き直しをしながら、横目で見ていた。名前というのは、あんな顔をさせるものらしい。

 

「もう大丈夫です。この白い上は、俺の道です。……湯を。一口ずつ」

 

 二人目と三人目は、手を繋いだまま固まっていた。冷えた手と手の間だけが、かろうじて温かい。四人目は足首を挫き、それでも壁伝いに出口を探していて、光を見たら座り込んだ。五人目は――闇の奥へ、歩き出しかけていた。

 

「灯りが、あっちに見えた気がして」

 

 そっちに灯りはない。大穴の闇は、たまに灯りの真似をする。古い荷揚げ屋ほど、その話を口にしたがらない。俺も言わずに、五人目の肩を道の内側へ入れた。

 

 白い帯の上に五人を座らせ、毛布を回す。毛布の下から、(はな)をすする音が五つ、ばらばらに聞こえる。発光筒の赤と道の白の間で、先輩が一人ずつ名前を呼び、五つの「はい」が、白い道の上に並んでいく。

 

 十歳の俺は、穴の口で泣かずに数えた。泣けば、数が飛ぶからだ。あの晩の俺に何かしてやれるとは思わない。ただ、ああいう夜のために覚えた数えではあったのだと、この稼業を続けていると、たまに思う。

 

 六人目の名前を、先輩が呼んだ。

 

 返事の代わりに――闇の奥から、細い泣き声。

 

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