運命の巻戻士✖️エルデンリング ナイトレイン 作:ランドしま
1回目
クロノとスマホンは、とある交通事故で亡くなる人を助け出すミッションのために、タイムマシンで転送された。
「転送完了です!」
スマホンの元気な声、今回の任務も必ず成功させるぞ。と、意気込むクロノ。
しかし、眼前に広がるのは林や草むらに囲まれた場所だった。
「あれ?どこだここ?」辺りを見渡すが、自分たちの他に人はおらず、木々のさざめきしか聞こえない。
「おかしいですね?確か、僕たちが向かう先は都市部の中のはずなのですが…。」
スマホンも異常事態に戸惑っている。
「座標がズレたのかもしれません。地図を確認しますね。」
スマホンはGPS機能を使って位置を把握しようとするが、更なる異常に気づくことに。
「あ、あれ⁉︎電波が届かないどころか、衛星通信にも繋がりません!これではどこにいるかも分からないです!」
「エェッ⁉︎」
驚くクロノだったが、すぐ冷静に、
「何か転送中のトラブルがあったのかも。一度本部に戻ろう。」
と、伝えた。
「そうですね!すぐに強制転送します!」
スマホンは転送の準備に取り掛かるが、
『ガガガ…ピー!…ツー、ツー。』
と、ノイズばかりが鳴り響く。
「そんな……、転送できません…。」
「何だってぇぇぇ!!」
今までにない事態に直面し、顔面及び液晶画面を真っ青にする二人。
「ど、どうしましょう…。本部にも連絡がつかない…。ここがどこかも分からないなんて。僕たち、完全に孤立したのでしょうか。」
本来、巻戻士の安全を第一にしているサポートAIであるスマホンにとって、この状況で何もできずにいることは、居た堪れないことこの上無い。それを見て、ウーンと唸って考え込んだかと思うと、クロノはポンッと手を叩く。
「イヤ、違うぞスマホン。」
俯いていた顔を上げて自信を持つクロノ。
「場所がどこか、本当に孤立したかどうか、分からないんじゃ無い。今から調べるんだ。」
そう言ってクロノは林の中を歩き出していく。
「クロノさん、どこへ⁉︎」
歩くクロノを追うスマホン。
「まずは周囲を調べる。ここが任務先で合っているのか、近くに人がいるかどうか。自分の目で確かめないと。」
クロノの言葉を聞いて、そうだ、本来あり得ない事態になっても、直ぐに立ち直るのが、彼のよいところなのだと、スマホンは思い出した。
「そうですね!僕としたことが、つい慌ててしまいました。」
そうして歩くうちに、林を抜けて丘の上へきた。そこから周囲を見渡すが、見えるものは、舗装されていない道、草むら、崖、壊れた石垣など、任務で聞いていた場所とはまるで違った。人がいないのも相変わらずだ、そう思った時、
「ん?あれって、城か?」
クロノが指差した先には、石造りの大きな建物が遥か遠くに見えた。
「あの構えや大きさからすると、城というより砦ですね。戦をするために備えた施設です。」
スマホンがそう答えると、
「じゃあ、あそこに誰かいるかもしれないな。行ってみよう!」
ひとまず目標を見つけて、前向きさが増してきたその時、遠くからシトシト聞こえる音と、肌にまとわりつく湿気。振り返った先の空は、黒い雲で覆われている。
「雨が来そうですね。濡れる前に砦まで行きたいところですけど…。」
「まあ、辿り着くまでまでには雨で濡れてしまうだろうけど、仕方ないさ。」
そう話して砦への足を進める二人。しかし、
「あ…あの、クロノさん。」
雨雲の方を見ているスマホンが戸惑いながら、
「何か、あの雨…早くないですか?」
クロノがまた振り向くと、黒雲はドンドン頭上に迫ってきている。叩きつけるような雨が直ぐそこに迫っているのが見てわかった。
「これ…この雨、何か怪しいぞ⁉︎」
直感的に、濡れてはまずいと思ったクロノは走り出すが、あっという間に雨に打たれる。
(……??!!)
おかしい。雨に濡れた体は、まるで焼かれるような痛みと、のしかかるような重みに襲われた。
「っ!!ぐっ…!うわぁぁぁぁ!!」
濡れた体を地面に投げ出し、のたうち回るクロノ。濡れるほど、どんどん体の内側まで痛みが染み込んでくる。
「うわぁぁぁ!?何ですかコレ!!」
スマホンもプロペラで飛んでいられなくなり、床に落ちる。酸性雨なんてものじゃない。雨が降っているところは暗く覆われ、雨粒が弾ける場所には青い炎も上がっている。この雨は、明らかにこの世のものではなかった。
(マズイ……、ここは一先ず…。)
クロノは右目を覆っている眼帯を引っ張り、その奥にある「リトライアイ」を露出させた。
『巻き戻し(リトライ)!』
2回目
最初にいた場所に戻った二人。体には負傷もない。
時空警察特殊機動隊、通称「巻戻士」。彼らは右目に組み込まれたタイムマシン、「リトライアイ」を使うことで、時間を巻き戻し、やり直すことができる。この能力で過去の世界で悲劇に遭う人々を助け出すのが、巻戻士の役目だ。
「フゥ…。助かった…。」
「ハイ…。リトライアイはちゃんと機能するようで、良かったです。」
お互い無事を確かめたが、のんびりはしていられない。グズグズしていると、またあの雨がくる。
「なんなんですかあの雨!あんな生命に関わりそうな雨は地球上でも観測したことがありません!」
立て続けに起こる異常事態。スマホンもお手上げ状態だ。
「とにかく、雨をやり過ごせそうな場所を探そう。」
直ぐに雨が来る方向とは逆へと走るクロノ。見渡しやすいように開けた道を走っていくと、
「クロノさん、アレ!」
小屋が見えた。しかも人影もみえる。
「人だ!小屋だ!助かった!」
大急ぎで向かうクロノ。こちらに背を向けている人に向かって叫ぶ。
「すみません!もう直ぐここに危ない雨が来るんです!小屋に入れてもらえませんか!」
声かけにあまり反応がない。よく見るとその人はいつの時代か分からないような布の服を纏い、肌は白く褪せており、身長もやけに高く細い体型だった。
「あ、あの…。」
聞こえていないのか、繰り返し声をかけるクロノ。その白い人間はこちらをゆっくり振り向くと、二人はギョッとした。痩せこけた顔、黒く濁った目と口元、その長い指先は血で汚れていた。
「oo...OOOAAA!」
長い腕をクロノに伸ばして掴みかかってくる。
「な、何だこいつ!!」
動きは遅いので避けられたが、得体の知れなさに恐ろしくなる。どうする、攻撃していいものなのか。考える暇もなくスマホンが叫ぶ。
「クロノさん、もうそこまで来てます!」
雨が来るまで時間がない。
「ええい、どいてくれ!!」
クロノは拳で怪人を殴り飛ばし、そのまま小屋に入った。
「くそぉ、ついやってしまった…。」
恐ろしい存在が相手なのに、殴ったことに罪悪感を持つクロノ。
「で、でもっ!コレで濡れずに済みますよ!」
そうスマホンが言うのも束の間、雨が小屋まで到達した。すると、
「うわぁぁ!?何だ!屋内なのに!」
小屋の中には窓はなく、雨が降り込む隙間などないのに、天井がまるで意味を為さないように、真上から雨が降り注いだ。
「この雨、屋根をすり抜けるんですか?!」
物理法則を無視する雨に驚くスマホン。このままでは、またやられてしまう。
「巻き戻し(リトライ)!」
3回目
開始地点へ戻った二人。今度はもっと安全なところへ。
「それにしても、さっきの人は一体…。」
「それは雨を切り抜けてから考える!」
余りやり取りする暇もなく、走りながら安全地帯を探す二人。すると、今度は大きな洞穴をみつけた。中に入ると、削られた岩盤や「つるはし」、組まれた足場などがあった。どうやら坑道のようだ。
流石にここなら雨は来ないだろうと、一息ついたところ、またしても雨に打たれた。
「なんでぇぇぇ!!」
「この雨どうなってるんですか!!」
「巻き戻し(リトライ)!」
4回目
木の下で雨宿りする。 枝葉を通り抜けた雨に焼かれる。失敗
5回目
崖の下に降りて岩陰に隠れる。 雨が岩を通り抜けてしまい、失敗
6回目
葉っぱや蔓を使って簡易的な雨合羽を作る。 雨合羽ごと体を雨に蝕まれて、失敗
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11回目
穴を掘って地中に隠れる。 土でも雨は防げず、失敗。
18回目
てるてる坊主を作る。 ぐしゃぐしゃに崩れ去ってしまうだけだった。失敗
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34回目
神様にお祈りする。 祈りは届かず、失敗
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40回目
あらゆる手を尽くしても、あの雨から逃れられない。ゼェゼェと、息を切らせるクロノ。
(いつもだったら、無理しないで下さいって言えるんですけど…。)
「巻き戻し(リトライ)」には、使用者に対して精神的ダメージを蓄積させていくデメリットがある。何度も使い続けると、メンタルや脳への重大な被害に繋がるだけでなく、リトライ自体が困難にもなってしまう。そうならないよう、巻戻士に助言やサポート、いざという時には強制転送して生命を守るのがスマホンの役目だ。しかし…、今はそれも叶わない。
(今、クロノさんは何が何でも無理をしないといけない。もし諦めたり、攻略未来(クリアルート)を見つけられなかったら、それは…死を意味する…。)
だから、「無理しないで」なんて言葉は無責任になってしまう。役目を果たせない自分が、命懸けになっている彼に、そんなことを言える訳がない。
(少しでも、僕も手を考えないと…。)
不安や不甲斐なさを押し殺すスマホン。
「平気だぞ、スマホン。」
そう、優しく声をかけるクロノ。あんなに疲れて痛みに耐えていたのに、腰に手を当てて肩肘を張っている。
「この通り、全然平気だ!」
「でも…それも、リトライ出来なくなるまで追い込まれたら…。」
彼が元気を見せても、不安は消えないスマホン。するとクロノは、
「さっきから何度も見たんだ、あの雨の動き。」
と、空の方を指さして話し続ける。
「あの雨、確かに普通では考えられないスピードで迫ってくる。でもさ、どうやらあの速さ、こっちの全力疾走ほどのスピードはなさそうなんだ。」
そう言われて、スマホンもハッとする。
「そう言えば、僕たちが雨に打たれたのは、どこかに立ち止まったり隠れたりしたとき…。走って逃げてる最中は打たれてませんでした!」
流石クロノさん、よくそんなことに気づきましたねと、褒めているスマホン。しかし、
「いや…、でもずっと走り続けるなんて無理ですし、どこかでスタミナが切れて追いつかれると思うのですが…。」
当たり前の疑問を口にするスマホン。
「いや、ずっと走る訳じゃない。取り敢えず目指すのは、最初に見つけた砦だ。まずはあっちに向かって走る!ちょうど方角は雨とは正反対だったしね。」
スラスラと考えを述べるクロノだが、
「イヤイヤ!砦に着いても、きっと雨が天井から降ってきますよ!今まで見てきた雨もそうだったじゃないですか!」
無謀な考えを止めようとするスマホン。
「砦がダメなら、更に遠くの方まで移動する。砦の向こうのまだ見ていないところに、雨を防げる場所があるかも!」
そんな無茶な!この人、無理矢理走って突破する気だ!彼の無鉄砲さはよく知っているが、この異常事態でも変わらないことに驚き、困惑してしまう。スマホンは既に走り出していたクロノを追いかけながら、彼のことを改めて思い知った。
泥水を蹴り、土を飛ばしながら走るクロノ。砦の方角へと駆けていくが、まだまだ遠い。走るだけでなく、これまでの疲労でペースが遅くなる。
「やっぱりダメです!もう雨が来ますよ!」
スマホンが無茶を止めようとするが、
「いいや、打たれながら行く!」
と、あり得ないことを言い出した。
「何ですって!そんなことしたら…
「濡れても直ぐに死ぬ訳じゃない!」
スマホンの制止を食い気味に遮った。
「濡れても体が動く限り走り続ける!まだ確認していないところまで行動範囲を広げるんだ!」
あらゆる情報が足りていない現状を打破するには、ダメージ覚悟で足を伸ばしていくしかない。我武者羅(がむしゃら)としか言えないが、その思い一つで謎の雨による焼かれるような痛みに耐えながら走り続ける。
周りは暗い林の獣道。それらも黒雲の下に晒されて暗くなり、怪しい雨が地面で跳ね、青い火の粉となって散っていく。科学では証明できそうにない現象、まさに地獄と化していく風景に、安全地帯と思しきものは…無い。すると、
ザッザッザッザッザッ!
足音だ。自分と同じく、泥を蹴って走る音が直ぐに近くに聞こえる。音の聞こえる3時の方向、林の向こうに人影が!
「!! 誰かいるのか!?」
クロノは走りながら声を上げると、林の遮りを抜け、互いに姿を現した。
西洋の鉄兜と、胸部を覆う傷だらけの鎧、古びたマント、汚れた袖と裾は、歴戦の強者のようであり、どこか哀愁を漂わせていた。右手で刃こぼれした大剣を肩に担ぎ、左手には小振りな丸盾をくくり付けている。体格からして、男だ。
「!? 誰だ…!?」
鉄兜の男は低い声で、驚きと疑いを向けてきた。こちらの姿を見る。
眼帯、見たことのないスタイルの黒い衣装、どこか捉えどころのなさそうな目つき。身長は高くないが、走る姿勢に若さと力を見て取れる。側には…、羽虫でも鳥でもない、小型のカラクリが追尾しており、顔のような模様も見える。
これらの特徴から、男は彼らの素性を割り出すことはできなかったが、分かることは一つ。夜の雨から逃げている。少なくとも、亡者どもとは違うようだ。
それを確認した男は、走る先へと視線を戻した。
「……前を向け。ここから抜ける。」
と、クロノに促してきた。互いに敵か味方か確認している場合ではないからだろうか。
クロノもスマホンも、この男の正体は知りたかったが、それよりも彼の言った言葉から、
「抜け出せるのか!」「抜け出せるんですか!」
と、声を揃えて叫んだ。
「向こうの街道まで走れ。あそこは夜の雨の領域外だ。」
男の視線の先にある石畳の道。確かに、あそこから向こうは雨の暗さに覆われておらず、範囲も拡大していない。
「やった!助かるぞ!」
「やりましたね!クロノさん!」
こうしてようやく攻略未来(クリアルート)へ辿り着けたクロノとスマホン。鉄兜の男も、雨を抜けてすぐに、肩で息をしていた。
「ハァ……ハァ……。」
「いやぁ、本当に駄目かと思った。」
「でも、クロノさんの言う通り、とにかく走るのが正解でしたね!」
喜びを分かち合うクロノとスマホンを兜の隙間越しに見る男。
(こいつら…、何も知らないのか…。それにこの格好、戦闘向きには見えん。素人か…?)
しかし、クロノの手には何度も戦ってきたであろう傷跡や、肥厚した関節の皮膚、確かに鍛えられた筋が見える。
(戦えんことは無いのか…。)
男は黄金色の小瓶を取り出して、兜越しに煽った。溢れる液体が喉を通り、体を癒す。
(何を飲んでるんだろう。いや、それよりも…。)
飲み終えた男に向かって頭を下げるクロノ。
「あの、俺は時空警察の巻戻士、クロノと言います。危ないところを助けてくれて、ありがとうございます!」
「僕はクロノさんのサポートをしているスマホンと言います。お礼を申し上げます。」
スマホンもお辞儀をするが、内心では疑いが残っていた。
(助けてくれましたが、まだ彼が何者かは分かりません。小屋にいた亡者のような人とは違うようですが…。)
鉄兜で表情は見えないが、男は、
「時空警察…巻戻士…?夜渡りではないのか…?」
と、顎に手を当てて問う。
「夜渡り?」
初めて聞く単語に、クロノたちも首を傾げる。
どうにも互いの認識や素性を探り合おうにも、切り込むきっかけがないようだった。少し考えて、男の方から、
「……まあいい。夜の雨に苦しむということは、敵ではない…。」
そう言って彼は納得しようとしているようだ。
「夜の雨?さっきの雨がそうなのか?」
「周りは夕方で少し暗くなってますけど、夜というにはまだ早すぎますが…。」
クロノたちの反応見て、
「……本当に、何も知らないのか。」
と、男は呆れと疑問を混ぜた言葉を漏らした。
「ごめん…俺たち任務でタイムスリップしてきたはずなのに、なぜかこんな所に来ちゃって。ここがどこかも分からないんだ。」
頭を掻きながら申し訳無さそうにするクロノ。
「ここって一体何処なんですか?……ええっと、お名前は…?」
スマホンが尋ねる。男は少し顔を逸らして沈黙した後、こちらを向き直した。
「……。ここはリムベルドだ。」「俺の名は…、まぁ……何とでも呼べばいい。」
「リムベルド?」
「何とでもって言われてもなぁ…。」
答えても?マークばかりになる二人。そして、男はそれに構わず歩き出す。
「あ、あの!どちらに?」
スマホンが呼び止めると、
「…向こうの砦に仲間が先行している。…合流したのちに、目標を叩く。」
と、男は歩きながら答えた。
「仲間がいるのか!俺たちもちょうど砦に行こうと思っていたんだ。付いて行くよ。」
クロノも後を追おうとすると、男が振り向く。
「……目的は?」
「えっ?」
立ち止まるクロノに男は問う。
「いや…目的って言われても…。俺たち、どこへ行けばいいかも分からなくて…。少なくとも、こうして会話ができる人と一緒に行動した方が、安全かと思って…。」
「………。」
頭を掻きながら困った様子でクロノは話す。その様子に低い声でため息をつく男。
「……人助けをするつもりはない。」
そう言ってクロノたちから視線を逸らした。
「お前たちに敵意が無いのは分かった。…だが、素性はまるで分からん。」
時空警察だの、巻戻士だの、タイムスリップだの、どれも理解が追いつかない、と。
それにクロノとスマホンは、答えられずにいる。
「……悪いが、信用していいか分からん奴を連れて回る気は無い。」
確かに、そんな相手と行動を共にするのは不安だし、向こうにいる仲間にも説明しづらいだろう…と、スマホンは沈黙しながら思った。こちらも、この男を信用していいか分からないのだから。
「……俺は、目標を追わねばならない。立ち話はここまでだ。」
そして男は砦の方へ向き直しながら、
「………、雨を避けたいなら、とにかく反対方向へ行け。やがて全ては夜に覆われるだろうが、俺たちが目標を達成すれば、夜は明ける。それまで、何とか逃げ延びるんだな。」
そう言って歩き出す。
それを聞いてクロノは、ズンっ!と、足を踏み出す。
「だったら、俺にもその『目標』を達成するのを手伝わせてくれ!」
大きな声で叫ぶ巻戻士。
「エエエッ!?」
何を言い出すのかと驚くサポートAI。
「……聞こえて無かったのか。俺はお前たちを信用できない。」
男はそう言うが、クロノは真正面から、
「俺はあんたを信用している!だって俺たちを助けてくれたじゃないか!」
と、伝える。
「そんな、一方的な…。」
スマホンも呆れているが、こうなるとクロノはこちらのことは聞きもしないと、理解していた。
(それに、ここは強引にでも誰かの助けを得ないと、この先生き延びるのは難しいでしょうし、何よりもっと情報が欲しい。この人と同行するのが、もっともクリアルートに近づける気がします。)
スマホンはクロノの強引さにもちゃんと理由はあるのだと推測していた。
「……俺は助けてなどいない。ただの成り行きで声をかけただけだ。」
「それだけじゃない。さっき、俺たちがこの先生き延びる方法もアドバイスしてくれたじゃないか。」
グイグイくるクロノに押される男。低い声で唸っている。
「………。この先にいる奴は、強敵だ。夜渡りでも無いものが倒せる相手じゃない…。」
何とかクロノを遠ざけようとしているが、
「安心してくれ!荒事なら何度も乗り越えてきたよ!」
腕を捲ってちからこぶを見せるクロノ。確かに腕力はあるようだ。
「……戦闘は何ができる。近接格闘か?」
クロノの見た目の特徴から既に戦闘スタイルを当てていることに、スマホンは驚いた。
「ああ!結構鍛えてきたんだ。それに俺たち巻戻士には…」
そう言って眼帯を外して右目を見せた。機械仕掛けの瞳には「40」のカウントが見える。
「この『リトライアイ』で時間を巻き戻して、やり直すことができる。強敵だって、何度でも挑戦できるんだ!」
それを聞いた男は驚く。
「やり直せる…、復活できると言うことか?」
「ええっと、厳密に言うと違うんですけど、やられてもやり直せるから、復活と捉えても良いかもしれません。」
スマホンは、普通の人間には時間のループは自覚できないから、そう解釈してもらってもいいだろうと思い、そう答えた。
それを聞いた男は、
「復活できる。……ということは、やはり夜渡りなのか?」
「いや、夜渡りっていうのはよく知らないんだけど…。」
「………。」
意思疎通が出来たか、出来てないのか分からないモヤモヤとした感覚。
こうしている時間も惜しい。ため息を吐いた男は、黄金色の小瓶をクロノに差し出す。
受け取っても見ているだけで?マークが浮かぶクロノ。これも知らないようだ。
「聖杯瓶だ。体の傷を癒す。戦う前に飲んでおけ。」
「あ、ありがとう。」
ゴクッと飲みこむ。口腔に、喉に、酸味とも甘味とも形容し難い液体が染み渡る。たちまち、雨に焼かれた痛みが引いて行く。リトライによって疲弊していた精神にも、内側から仄かな灯火が宿るような心地になった。
「おおっ!凄いぞコレ!」
新鮮な反応を示すクロノに、
「着いてくるのは勝手だが、足手纏いにはなるなよ。」
男は同行を許可してくれたようだ。
「ありがとう!えっと…剣士さん!」
持っている武器から呼び名を付けたクロノだが、
「俺は剣士ではない。剣術を学んだことなど無いからな。」
何とでも呼べばいいと言っていたのにツッコミを入れてきた。
「じゃあ…、ヨロイさん!」
「鎧と呼ぶには軽装すぎると思うがな…。」
「戦士さん、ならどうでしょう?」
名前の呼び方を、歩きながら決めて行く。
「戦うことを生業にはしていない。俺が剣を持つのも、夜渡りになったのも、追わねばならん奴がいるからだ。」
「それじゃあ……。」
クロノが傾げた首を起こして、
「追跡者さん!」
と、名案を思いついたと言わんばかりに声に出した。
「それは、人の呼び方としてどうかと……。」
「でも、さっきから言ってたじゃないか。追わねばならん奴がいるって。」
男はしばらく黙っていたが、
「……まあ、それが一番言い得ているな。」
と、受け入れた。
「良いんですか?!」
スマホンはツッコむ。
「分かった!よろしく、追跡者さん!」
恐るべき夜の雨(ナイトレイン)の脅威。過酷な運命は、何度巻き戻しても、彼らに襲いかかる。しかし、運命を変えるために立ち上がる者たちは、歩みを止めない。こうして、巻戻士と夜渡りの奇妙な運命は、交錯していった。その先にある夜明けを目指して。