運命の巻戻士✖️エルデンリング ナイトレイン   作:ランドしま

2 / 4
第一話「挑み続ける者」

40回目

原因不明のエラーにより、見知らぬ土地『リムベルド』へと転送されたクロノとスマホン。

そこで出会った1人の男、『追跡者』。

彼らは目指す砦の前にある、関門前の橋へと辿り着いた。

 

「盾兵1、槍兵1、直剣1、弓なし。」

追跡者は物陰に隠れながら、敵の数と装備を小さな声で確認していた。その隣にいるクロノとスマホンに指示を出す。

「俺が先手で直剣を仕留め、盾へと向かう。お前は槍を仕留めろ。」

「分かった。」

「スマホン……だったな。お前は周囲を警戒しろ。」

「ハイッ。」

互いに確認を終え、行動を開始。

 

追跡者は左腕に装備したワイヤー付きの鉤爪「クローショット」を剣持ちの敵に射出。敵は驚く暇もなく、追跡者に引き寄せられ、無惨に切り捨てられた。

(早い!)

一切無駄のない動きで倒れた敵を乗り越え、盾兵へと向かって行くその動きに目を向けていたクロノ。しかし、余所見は禁物。こっちは槍兵を仕留めなくては。

槍兵が穂先を向け、腰を屈めて突進して来る。クロノはそれを横へ回避。敵が槍を向け直して突き刺して来ると、

「ここだっ!」

クロノは低い姿勢で穂先より奥へと踏み込み、槍を両手で掴んだ。

「ゥゥヴヴ!?」

槍を奪われまいと敵は力一杯引っ張ってきた。綱引きのようになりそうなところで、クロノはすぐにパッと手を離した。思わずよろめいた敵のアゴにアッパーカット。

「ガヴアァァ!!」

見事ノックアウト。フゥッと息を吐いて追跡者の方を見ると、大剣を下から上へ切り上げて、盾兵を宙へと吹っ飛ばし、壁面にビタンッと叩きつけた。凄まじい威力だ。

 

「……悪くない。」

「そっちこそ、凄いな!」

互いに健闘を讃えていたが、クロノ自身は拳の感触に嫌な思いを覚えていた。

 

(リムベルドにいる者たち、……そのほとんどは夜に飲まれた者たちだ。)

(やつらは理性あるもの、命あるものを無差別に襲う…。)

(躊躇うことはない。…容赦はするな。)

 

ここに来るまでに追跡者から、この地にいる敵、最初に小屋で見た亡者のような者たちのことを聞いていたが、やはり人の形をしているものを殴るのは良い気はしない。

だが、感傷に浸っている暇はない。今は先に進まなくては。

 

「次の雨が来るまで、あとどれくらいでしょうか?」

スマホンはリムベルドに来て以来、電波時計も正常に働かなくなっているので不安そうにしている。

追跡者は雲に隠れた先にある夕刻の日を見た。

「あまり時間がない。夜が来る前に砦を制圧する。」

追跡者は、橋を越えて関所の外壁の斜面を駆け上がり、高台へと辿り着いた。砦はここを降りてすぐだ。彼はそのまま飛び降りる。

「エェッ!追跡者さん?!」

「危ない!」

 

思わずクロノたちは叫ぶが、追跡者はいとも簡単に着地してこちらを見た。

「…何をしている。来い。」 

いや、来いと言っても10m以上の高さがある。飛び降りるなどと考えられる筈がないのだが、なぜ彼は平気なのか。

(そういえば、さっき雨から逃げる時も、結構早く走れたけど、…普段あんなに早く走れたっけ?)

クロノは、ふと違和感に気付いた。

「クロノさん、僕たちは梯子がないか探して…」

スマホンが言い終わるより先に、動いた。

「えい。」

「って、ええええ?!」

そのまま地面へ落下して行くクロノ。

「ダメです!骨折しちゃいますよ!」

しかしクロノは両足でしっかり着地し、ピンピンしていた。

「やっぱりだ!何ともないよ!」

「ど、どうなってるんですか、コレ…。」

何が起きているか分からないスマホンに、

「何だか、ここに来てから体が強くなってるみたいだ!」

と、元気に答えるクロノ。

「…夜渡りなら、高さなど関係ない。」

追跡者も当たり前のことのように話す。

「訳が分かりません……。」

サポートAIでも理解が困難な状況だ。

 

ようやく砦に辿り着いたクロノたち。外側からは、敵兵の数は把握できない。

「ここに追跡者さんの『目標』がいるし、仲間もいるんだよね。」

クロノが確認すると、

「……そうだ。…だが、そうとも言い切れん。」

彼にしては、曖昧な答え方だ。

「どういう意味ですか?」

スマホンが尋ねる。

「夜の雨が収束する範囲。そこから最終的な目標地点を割り出せる。ここに来るまでに奇襲を仕掛けてきた『忌み鬼』が退却した方角も、ここだった。」

どうやら、クロノたちと会う前に目標である強敵と交戦したらしい。

「…俺は奴を追跡。仲間は先回りして敵兵を排除し、ルーンを回収する手筈だ。」

「ルーン?」

聞き慣れない単語を聞き返すクロノ。

「…力の源、黄金色の光だ。」

「ああ、そういえば…。」

追跡者やクロノが敵を倒した時に、光のようなものが2人の体に吸い込まれた。おそらくそれだろう。

「必要なものだ。…失うな。」

「う、うん。」

 

確認を終えて、追跡者は入り口から顔を覗かせ、砦の中を観察した。

「一階通路と広場に槍3、盾2、弩1。階段と2階に直剣1、大剣2。火薬樽多数。」

「結構多いな…。」

クロノも真剣に観察するが、追跡者は、

(想定より遥かに多い。……あいつが来ているなら、もっと少ないはずだが……。)

と、仲間のことが気になった。

「俺が先行し、注意を惹きつける。お前はその隙に弩をやれ。」

弩(いしゆみ)、ボウガンのことだ。子供の頃から本が好きなクロノは実物は知らずとも、知識として頭にあった。

「分かった、気をつけて!」

「スマホンは2階の敵に注意しろ。」

「ハイ!」

 

「行くぞ…!」

追跡者はクローショットで敵の盾を捕まえる。そのままワイヤーの牽引力で敵に急接近し、頭から大剣で叩き割った。侵入者に対して迎撃する敵兵。彼らの視線は追跡者に集中していた。弩を持った兵士も、ボルトを引き絞って固定、追跡者に向けて引き金に指をかけた。

「させるか!」

クロノの鉄拳が弩兵の頭に直撃。そのまま石の床に倒れ伏す。これで遠距離攻撃の心配はなくなった。追跡者の方を向くと、槍兵を1人倒し、2体の槍兵の攻撃を躱し続けていた。

「こっちはやった!加勢するぞ!」

そう言って走ろうとすると、

 

「クロノさん!上です!」

スマホンが叫ぶ。見上げると何が降って来る。反射的に横に避けるクロノ。床に何かが叩きつけられ、砕けた。樽だったようだ。

「危なかった、助かったよスマホ…

「離れて!!火薬です!!」

見ると、樽が砕けた辺り一面に黒い粉が散らばっていた。気づいた時には、目の前に明るく輝くものが落ちた。

 

松明だ。

 

一瞬で黒い粉は黄色い閃光を放ち、衝撃とともに少年は吹き飛ばされる。

 

 

 

意識が朦朧とする。

 

自分の名を呼ぶ声が聞こえる。スマホンの声か、追跡者のものかは分からない。分かることは、今は右手を動かすこと。何度もやってきたこの動作は、例え死んだとしても忘れてはいけない。反復して行った動作は、瀕死の状態でも行える。

それが巻戻士の最低条件だ。

 

「巻…戻し(リトライ)…」

 

41回目

彼らは砦の前に立っていた。

「フゥ…危なかった。」

「クロノさん!すみません…、もう少し早く気付いていれば…。」

間一髪で時間を戻す。クロノとスマホンは何度もやってきた。すぐに対策を考えようとしたその時、

 

「おい…。」

追跡者が口を開く。

「これが…リトライなのか…?」

クロノをじっと見つめ、

「さっきの怪我も…、無かったことになったのか……?」

と、尋ねてきた。

リトライがどういうものかは、ここに来るまでに簡単な説明をしていた。

「ああ、そうだよ。それにホラ。」

クロノは眼帯を外してリトライアイを見せる。瞳のカウントは41になっていた。

「さっきリトライして、カウントが1つ増えた。俺にとっては、この時間は41回目なんだ。」

それを聞いて、冷静さを保ちながらも驚く追跡者。

「なるほど……。便利なものだな……。」

 

「あれ…?」

何かおかしい。スマホンが違和感を口にした。

「追跡者さん…。クロノさんが怪我をしたこと、覚えてるんですか?」

「……?ああ…、爆風で酷くやられていただろう…?」

スマホンは追跡者の反応が信じられないようだった。

「スマホン?どうしたんだ?」

尋ねるクロノ。

「いや、おかしいですよ!時間のループを覚えていられるのは、巻戻士と同じく、タイムマシンを持っている人間だけのはずです!追跡者さんが覚えている筈がないんですよ!」

スマホンは巻戻士のサポートAIとして、リトライの過程の情報を保存できるようになっているから覚えていられる。しかし、他はそうでは無い。他の人間にはループを記憶されないことこそが、巻戻士が任務を遂行しやすくなる強みでもあるのだから。

「ああっ!言われてみれば確かに!」

「それに、ここは砦の前。リトライした際は、転送されてきた時と同じ時間まで戻るはず…。」

だから41回目のリトライも、最初にいた林の中にいないとおかしいはずなのに…。

「なんだか、リトライに関しても、ここではいつもと違うようです…。」

原因が分からないスマホンは、そう答えるしか無かった。

「うーん…何でだろう…?」

腕組みをするクロノ。しばらく考えるが、

「まあいいか!考えても分かりそうにないし、それに、初めからやり直す手間が省けたようなものだし。」

あっさり切り替えたクロノに、ズコーッ!とコケるスマホン。

「よし、作戦を立て直そう!」

追跡者に顔を向けるクロノ。追跡者も、戸惑いを隠しながら応じる。

 

次は弩兵を倒したら、すぐ近くにある武器庫へ逃げ込む。こうすれば爆風からは逃げられる。

「よし!うまく行った!」

しかし、背後に気配。何と大剣を構えた敵が今にも叩き切ろうとしていた。

「しまった!伏兵だ!」

 

「巻き戻し(リトライ)!」

 

42回目

今度は武器庫に飛び込んですぐ、中にある武器を手に取って、伏兵と交戦する。手に取ったのは「闘士の斧」と呼ばれる武器だ。しかし、

「ウッ…重い…!」

振ろうとすると持ち上がらず、その隙に切られてしまった。

 

「巻き戻し(リトライ)!」

 

43回目

今度は「冷たいカタール」というものを使った。両手にはめる刃のようで、拳の攻撃と同じ要領で使えそうだ。

「そこだっ!」

敵の胸に目掛けて刺突を繰り出す。しかし、

カキンッ!

敵兵は胸の前掛けの裏に鎧を着ていた。突き刺す攻撃は弾かれてしまう。こちらの攻撃の隙を狙って襲われる。

 

「巻き戻し(リトライ)!」

 

44回目

首の隙間を狙って攻撃するが、上手くいかない。

49回目

首を狙うのは難しいので、手を狙うが、捌かれてしまう。

55回目

数打ち当たるでとにかく突きまくるが、ダメージは少ない。

60回目

思い切り武器を投げてみるが、決定打にならない。

ーーーーーーーーー

69回目

手に取ったカタールの使い方、急所の突き方を狙っているが、上手くいかない。敵の動きを覚えて戦っても、肝心の攻撃が冴えないのだ。

「他に使いやすそうな武器はないんですか?」

スマホンは問う。

「あるかもしれないけど、あの武器庫に逃げ込んですぐ手に取れるのは、斧と拳にはめる刃だけだ。他のを探そうとしたら、その隙にやられる。」

だからこそ、何とかカタールの使い方をモノにしようとしているが、そう上手くはいかない。

 

「……戦技は用いたか?」

追跡者は問いかけた。

「せんぎ?」

知らない単語だ。クロノは何なのか尋ね返した。

「武器に宿った技、特殊な攻撃法のことだ。」

「いや…、そんなもの初めて聞いたし、使ったこと無いよ。どうすれば使えるんだ?」

「…戦技は、その武器を手に取った時、自然と使い方を理解できるもの……だと思うが。」

言われていることはよく分からないが、そういえば武器を持った時に、頭に何かイメージが湧いたような…。確かカタールを持ったとき、冷たいものが足に見えたような……?

クロノのイメージは曖昧模糊としており、言語化できなかった。

「取り敢えず、武器庫に逃げた後に爆風が止んだら、外に出て交戦してみては?狭い所だと戦いにくいでしょうし…。」

スマホンの言う通りだ。次はその作戦で行こう。

 

武器庫へ逃げ込みカタールを手に取る。伏兵の攻撃を躱したところで、外で爆風が起きた。衝撃が過ぎ去ったら、すぐに外に出た。伏兵もこちらに来る。

肝心なのはここからだ。さっき追跡者に教えてもらった戦技を試そうとするが、

「……。」

(どうやって使えばいいんだ…??)

ぼんやりと、冷たいものが足から出るイメージはあるのだが、それをどうやって出せばいいのか分からない。そうしている間にも、伏兵の大剣が迫って来る。

「クロノさん、反撃を…!」

スマホンがそう叫ぼうとした時、

 

『冷たいカタール カテゴリー:拳 戦技:霜踏み』

 

スマホンのカメラに映ったクロノの武器、カタールにそのような情報がスキャンされた。戦技のモーションも記載してある!

 

「クロノさん!足の冷気を思いっきり踏み込んで!!」

「っ!!!」

スマホンに言われた通り、足に冷たいものを纏ったイメージで、石の床を踏みしめた。

 

足元から前方へ、扇状に氷の棘が走っていく!それに触れた伏兵の足も凍りつき、たちまち全身が凍ってしまった。

 

「凄い…!これが戦技か!」

「やりましたね!クロノさん!」

ようやくクロノの役に立つことができて、スマホンは心の底から嬉しそうだった。

しかし、喜びを分かち合うのも束の間、

「気を抜くな!また上からだ!」

2階の敵がまた火薬樽を落とそうとする。ここまで来て、またリトライしてたまるかと、全員は奮起した。

 

やがて、砦内の敵を一掃することに成功した。

「終わったー!」

「お疲れ様でした!」

「…いや、まだ終わりではない。」

それぞれ気持ちは違ったが、取り敢えず一段落といった所だ。

「さっきはありがとうな、スマホン。よく戦技の使い方が分かったな。」

「僕のカメラに武器が映った時に、情報を読み取ることができたんですよ。」

どうやら、このリムベルドで様子が変わったのは、スマホンも同じようだった。相変わらず理由は分からないが、有用な情報であることに変わりはない。

「追跡者さんもありがと…って、アレ?」

お礼を言おうとすると、彼は2階の建物の中に入っていった。後をついていくと、通路の中にほんのり光る物が見えた。

追跡者がそれに触ると、光は明るくなり、追跡者とクロノの体は傷と疲労から解放された。

「何だこれ…。なんだか暖かくて、落ち着くなぁ…。」

クロノが深呼吸してリラックスしている。

「『祝福』だ。これに触れることで傷を癒やし、聖杯瓶も満たされる。」

追跡者は、空になった聖杯瓶の中に、赤い液体が補充されたのを確認した。

「…重要なのは、ルーンを力に変える機能だ。より力を得て、強敵に立ち向かえるようになる。」

そういえば、さっきより遥かに力が漲るのを、クロノは感じていた。これがルーンの力か。

「よし、エネルギーチャージ完了!次はいよいよ強敵だな!」

「『忌み鬼』でしたっけ。名前からして、恐ろしそうですね…。」

「いや、その前に準備をする。ここにあるものを、最大限利用する。」

砦内の武器、アイテムなどを調べる。クロノの知らない物は、スマホンがスキャンして調べた。

 

『火炎壺 カテゴリー:投擲 割れると火を巻き起こす』

『ククリ カテゴリー:投擲 敵の身体を切り裂き、出血させる』

『ぬくもり石 カテゴリー:消費 置けば近くの者を徐々に癒す』

 

色々使えそうだ。火炎壺とぬくもり石はクロノが、ククリは追跡者が持つことにした。

「ここの火薬樽、強力だから持っていければいいんですけど…。」

スマホンは見つめるが、かなりの重さがあるようで、携行は難しそうだ。

「迎撃用の武器だ。この先へは持ち運べない。」

追跡者が冷静に答えていると、

「おおおお!カッコいいなコレ!」

クロノがある武器を見て興奮していた。砦の壁沿いの台に設置された、丸太のような太い矢(ボルト)を構えた巨大弓だ。

「本で見たことあるぞ!バリスタっていうんだ!これで攻めて来る敵を纏めて吹き飛ばすんだ!」

少年らしくはしゃいでいるクロノに、追跡者は呆れて言う。

「…知っているなら、分かるだろう。持っていけないと…。」

だが見ると、ボルトの発射準備ができているようだ。

「そこの縄には触るな…。外れると発射される…。」

 

武器も一通り確認し、準備完了だ。

「武器はカタールのままで良いんだな…?」

追跡者は確認する。

「ああ、拳にはめるのが使いやすいし、霜踏みって戦技も強かったから。」

さあ行こう、と意気込むクロノだったが、

「そう言えば、仲間や忌み鬼はどこなんでしょう?ここに来るはずだったんですよね。」

と、スマホンは問う。

「……分からない。それを確認しにいく。」

クロノたちは2階の通路から外壁沿いに移動する。

 

すると、追跡者がすぐに異変に気づく。

「…っ!!」

素早く外壁から降りて駆け出す。

「な、何ですか一体!?」

「あっ!見ろ、あそこに!!」

裏口の向こうにある廃墟に、誰かが倒れている。そして、その人の周りを、見たことのない、暗い霧のような物が覆っていた。

いや、あの色は見たことがある。夜の雨と同じ色だ。

クロノたちも駆け降りて近づく。すると、先に近くに辿り着いた追跡者が、その人に目掛けて大剣を振り下ろした!

「!!??何をしているんだ!!」

思わず叫ぶクロノ。

 

「やめろっっ!!!」

間に合わない、大剣が直撃した!

 

しかし、様子が変だ。切られた人は苦しむでも、血を流すでもなく、ゆっくり身体を起こした。

「あ、アレ?」「何が起きたんですか?」

ポカンとしているクロノとスマホン。

フーッと、息をつく追跡者。

「…瀕死に追いやられたものは、夜に飲まれてしまう。完全に飲まれる前に夜を払い除ければ、元に戻る。」

なんだ、救出していただけだったのかと、二人は納得した。

そう言えば、爆風で重傷を負ったクロノも夜に飲まれていたのを、スマホンは見ていた。

(巻戻士本人が夜に飲まれそうになっても、リトライ可能と言うのは、幸いでしたね…。)

 

やがて、救出された人物はゆっくりと立ち上がった。

その人の姿は、金髪を左右に分けており、目元は精巧な意匠のアイマスクで隠していた。紺色で中世の貴族風のトップスに、左肩にマントをたなびかせる。白いレギンスとブーツ。腰にはナイフと懐中時計を携帯していた。スラリと細長い四肢と端正な顔立ちの女性だった。

「ごめんなさい…。不覚だった…。」

追跡者に謝る女性。クロノの方にもすぐに気づく。

「……?あなたたちは…?」

自己紹介の時間だ。クロノは少し咳払いしてから、普段の調子で挨拶しようと切り替えた。

「やあ、初めまして。時空警察の巻戻士、クロノです。」

本人はスマイルのつもりだが、ぬぼーっとした表情のため相手からすると掴みどころの無い顔にしか見えない。

「僕はサポートAIのスマホンです。初めまして!」

スマホンも元気に挨拶するが、女性は困惑していた。

「ええ…、初めまして…。」

よく分からない相手を前にして、警戒の色が見える。

「…成り行きで同行している。腕は確かだ。」

追跡者が一言そう言うと、本題の方を進めた。

 

「何があった。」

そう言われて女性は少し俯いてから話し出した。

 

「私は作戦通り、貴方が忌み鬼を追跡している間、砦に先回りしていた。」

彼女が砦の前までたどり着いた際、用心のために砦周辺も探索した。もしかすると忌み鬼の方が先に待ち構えている可能性もあったからだ。一通り確認し終えて忌み鬼の痕跡がないことを確認し、砦の敵を一掃しようと向かったところ…、

 

「逃さんぞ……侵略者ども…。」

 

足元に紋様が浮かんだと思った瞬間、頭上に忌み鬼が現れて奇襲されたのだ。

敢え無く瀕死に追い込まれた。夜に包まれ、救助してくれる仲間は遠くにいる。そのまま完全に夜に飲まれてしまった……。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

話の途中でクロノが突っ込んだ。

「完全に夜に飲まれたって!そんなことになったらこうして生きていられるはずが…!」

クロノの驚き様に困惑する女性。追跡者は、クロノ達は夜渡りではないし、この世界のこともほとんど知らないことを伝えた。事情を理解した女性は、クロノに説明した。

「我々夜渡りは、夜を討ち払うために集った、祝福を受けし戦士。たとえ幾度夜に呑まれようと、祝福によってその身と魂を復活できる。」

女性は懐中時計を握りしめて、己の誓いを立てるように、言葉を紡いだ。

 

「何度でも、夜に挑み続けるために……。」

 

クロノとスマホンは驚いた。何度でも復活できる。巻戻士はリトライが間に合わないと死を免れないが、彼らは死すら克服しているとは。

「もちろん、リスクはある。復活の代償として、ルーンを落としてしまう。」

「ルーンを落とす?」

クロノは聞き返した。

ルーンは敵から手に入れ、己の力に変える。強敵に敗れてルーンを失うことは、強敵に対抗するための力を失い、より困難な戦いを強いられることを意味する。

 

「落としたルーンは、失った場所に残留する。消える前に回収することで、元の力を取り戻すことができる。」

そう説明した女性は、グッと口を結んだ。

「しかし……。」

女性の奥歯が軋む。

「……待ち伏せか。」

追跡者に言われて、頷く。

忌み鬼はルーンを回収させまいと、あえて女性を誘き寄せて迎え撃ったのだ。既に力が弱まっていた女性は打つ手がなく、結局落としたルーンは消滅してしまった。

 

失敗から自力で挽回しようと、自分の役目を果たそうとして味方に頼るまいとしていたのが間違いだったと、己の判断ミスを悔いていた。

仮面の裏に、女の苦悩が滲み出ていた。

「……顔を上げろ。」

その声の方を、ゆっくりと見上げる。

「……夜はまだ、明けていない。」

周囲はすっかり暗くなり、夜の雨の範囲も狭まっている。雨が降っていない範囲は、自分たちのいる廃墟やその周辺、砦の外壁と2階の部分程度だ。逃げたりやり過ごしたりできる場所は、もうない。我々は前に進むしかないのだ。

「……ええ。」

戦意と覚悟を取り戻した女性。

「大丈夫、俺たちもついているよ!」

「ハイ!全員で生き残りましょう!」

クロノとスマホンもやる気を見せた。まだクロノ達の事情をよく知らない女性だったが、どこか頼もしく見えて、微笑んだ。

「ええ、よろしく。」

 

「それにしても、その『忌み鬼』ってヤツ、奇襲とか待ち伏せとか、随分容赦がないなぁ。」

クロノが腕組みしながら口にした。

「忌み鬼は、元々この地を治めていた黄金樹の女王の血族であり、黄金樹に仇なす者を打ち払ってきたという。遥か遠くから来た夜渡りという存在は、彼にとっては侵略者でしかないのでしょう。」

そう言って女性は後ろを振り向き、その先にある広い廃墟を見た。

「今も虎視眈々と、こちらを伺っている。」

クロノとスマホンは廃墟を見るが、姿は見えない。遥か遠くからこちらの様子を見て、あの廃墟に近づくと床に浮かんだ紋様から自身を瞬間移動させ、襲ってくるのだという。

「卑怯なヤツ…。よし、ならコッチも考えがあるぞ…。」

そう言ってクロノはズンっ!と、仁王立ちして敵の出現ポイントの方を向いた。

「な、何をするんですか?」

スマホンが心配すると、クロノは目一杯息を吸い込んで、

 

「オイっ忌み鬼っ!!コソコソ隠れてないで出てこい!待ち伏せじゃないと戦えないのか!?」

両手をメガホンがわりにして叫んだ。

まさかの挑発だ…。とてもそんなことに乗る相手とは思えないが…と、スマホンは呆れた。夜渡りの二人も絶句している。

「レディ相手に陰湿な戦い方ばかりしてっ!恥ずかしいとは思わないのかっ!」

クロノは怒りを込めて罵声を浴びせるが、浴びせる相手はどこにもいない。シーンと、虚しい沈黙だけが続いた。

クルッと振り返るクロノ。

「すみません、敵はかなりクールみたいです。」

謝るクロノに、気にしないでいいとフォローする女性。

「こうなったら正面からだ。ガツンとやってやりましょう、レディさん!」

いやいや、レディさんって…。また変な呼び方してると思ったスマホンだが、

「……フッ。」

思わず吹き出していた女性。

「ええ、やりましょう。」

呼び名に異論はないようだ。

追跡者も、フッーっと息をついて切り替えた。

「……行くぞ。」

 

 

忌み鬼の出現ポイントの前まで来たクロノたち。それぞれ武器を構える。

戦う前に追跡者が、忌み鬼の情報を伝えてくれた。

「忌み鬼の攻撃は、右手に杖、左手から様々な武器を繰り出す。」

「様々な武器?変形するってこと?」

クロノは聞き返す。

「いや…、おそらくは魔術か、神の奇跡によるものだろう…。」

投げナイフ、大槌、槍、剣などを左手で生成してくると言う。

「尻尾の攻撃にも注意して。」

レディも忠告する。

頷いて、ゴクッと唾を飲み込むクロノ。

「行こう!」

 

広い廃墟に足を踏み込む。3人とも距離を取り、ゆっくり歩きながら警戒する。床に紋様が浮かぶと、その上から襲ってくる。

(どこから来る…。)

床を隈なく見張る3人。

静寂を破ったのは、

 

 

「クロノさん、上です!!」

 

スマホンだった。

紋様は浮かんでいないが、クロノは反射的に避けた。

瞬間、遥か上空からジャンプしてきた巨体が、轟音と共に着地した。

 

(陰険め……。)

レディは内心で舌を打った。

散々瞬間移動による奇襲を行うことで、こちらの注意を床に向ける。そして魔術を使わずにジャンプすることで意表をついてきたのだ。スマホンが上空警戒していなければ危なかった。

 

土埃が止むと、忌み鬼の姿が顕になった。

人間を遥かに超える巨体に、黄色く古びた布を纏い、顔や肌は枯れ木のよう。腰からは大樹の根のような尾がある。ボサボサした白髪の隙間にはツノが伸びていたが、額の角は折られて断面が剥き出しだった。

己の身の丈ほどもある杖を握りしめる。

「招かれざる者よ…。」

忌み鬼はクロノを睨みつける。

「この地を冒し、欲望の火で燃やし尽くすか…。」

クロノは睨み返す。

「ここに来たのは、ただの事故だ。アンタに恨みはないし、恨まれる筋合いもない。」

カタールを握りしめて、忌み鬼に向けた。

「俺が戦うのは、全員助けるためだ!」

その言葉に、忌み鬼は握った杖を振りかざす。

 

「驕るな……侵略者風情が…!」

咄嗟に躱すクロノ。大木の枝のような杖が石畳を砕く。その隙を狙って追跡者とレディが左右から挟み撃ちにする。

大剣が肋に、ナイフの連撃が足に刻まれる。身を翻して距離を取る忌み鬼。

3人が距離を詰めようとすると、忌み鬼の左手が光る。

「避けろ!」

追跡者が叫ぶと同時に、黄金色に光るナイフが飛んでくる。それも何本も束ね、何度も繰り返しだ。

追跡者はワイヤーで移動し、レディは蝶のような華麗なステップで回避、しかし初めて攻撃を見るクロノは避けきれず、手足や肩を負傷。

「クソっ!」

忌み鬼は怯んだクロノを見逃さなかった。左手に光り輝く大槌を持ってジャンプ。落下と同時に少年は叩き潰されてしまった。

「うわぁぁぁぁ!!」

「クロノさん!」「クロノ…!」

スマホン同様に、追跡者も声を出した。

潰されはしたが、右手は無事だった。夜に飲まれる前に、眼帯を外す。

 

「巻き戻し(リトライ)!」

 

70回目

3人は、レディを救出した時点まで戻ってきた。

「ふぅ、危なかった…。あの武器、普通じゃないな。」

「…ああやって、無尽蔵に武器を作り出す。種切れすることは無いと思った方がいい。」

反省をしている傍ら、レディは周囲を見て戸惑っていた。

「これは…、さっきまで戦っていたはずなのに…?」

「ああ、レディさんは初めてでしたね。」

スマホンがレディにリトライの仕様について説明する。クロノもリトライアイに刻まれた「70」のカウントを見せる。理解が早く、有用な力だと評するレディ。すると、スマホンが気づく。

「…あれ?そう言えば、またリトライする時点が変わりましたね?」

初めは林の中、41回目からは砦の手前まで戻っていたはずだ。

段々巻き戻せる時間が短くなっているのか?

何か法則があるのか?

気にはなるが、今は戦いの方に集中しようと、話し合った。まず、あの武器の躱し方だ。

「提案なんだけど、何度かリトライするのを前提に戦おうと思うんだ。」

クロノは夜渡りと違って、奴の攻撃をあまり知らない。どの間合いでどんな攻撃をしてくるのか。それを覚えてから有効な手順を組み立てる。巻戻士だからこそできる戦術だ。

「大丈夫なの…?リトライには、精神的ダメージが伴うはずでは?」

クロノは肩肘を張って、ドンと胸を叩く。

「大丈夫!1000回以上リトライしたこともあるから!」

それを聞いた夜渡りたちは、驚きとも呆然とも言えない表情をしていた。

まあ、普通はそういう反応ですよね…。と、スマホンは苦笑いしていた。

「…分かった。貴方がそう言うのなら、その作戦で行きましょう。」

レディは承諾したが、念を押すように付け加える。

「でも、過信は禁物よ。夜の脅威は必ず、貴方を蝕む。少しでも身体に異変を感じたら、教えて。」

「ああ、分かった!」

 

そして再び、忌み鬼と対峙する。

今度は出来るだけ距離を詰めて戦う。忌み鬼が杖を振りかざす。振り下ろそうとするタイイミングで避けるクロノ。しかし、

(っ?!振り下ろさない?!)

クロノが回避するまで杖を構えたままだった。そして遅れるかのようにタイミングをずらして杖が下された。

「ぐああぁぁ!」

フェイントまでしてくるのか。これまで戦ってきた亡者や兵士の戦い方とは比べ物にならない。

 

71回目

今度はしっかり相手の動きを見てから、杖の下をくぐり抜けて背後に滑り込んだ。

背中から攻撃しようとすると、今度は尻尾を振り回して吹き飛ばされてしまった。

レディが尻尾に注意しろと言ったのは、このことだったか。

ーーーーーーーーーー

79回目

攻撃のタイミング、敵の間合いは少しずつ分かってきたと思った矢先、まだ見たことの無い槍を繰り出してきた。

こっちに向かって飛ばすかと思ったら、足元目掛けて衝突させてきた。その衝撃でやられてしまうクロノ。

ーーーーーーーーーー

94回目

戦技:霜踏みで敵の足を止めた。この隙に攻撃を集中しようとすると、

忌み鬼は左手を天に掲げた。

上空に無数の剣が並んでいる。

左手を下ろすと同時に、剣の雨が降ってくる。

クロノは身体中に剣が突き刺さり、リトライしようにも両手が負傷していた。

レディがすぐに駆けつけ、眼帯を外してくれた。

 

「巻き戻し(リトライ)!」

 

 

95回目

苦戦し続ける中、少しずつ敵の動きを覚えているが、忌み鬼は更なる奥の手を繰り出してくる。クロノも人外との戦い続きで疲弊している。

「忌み鬼は、攻め手が多すぎて何をして来るのか予想が難しいです…。」

スマホンも、忌み鬼の動きを記録して攻撃の法則性を見つけようとしている。

しかし、あまりにも多い攻撃パターン、繰り出す手順の複雑さ、その一つ一つの回避法もシビアすぎる。更にフェイントも交えてくるときた。この中で攻略法を見出すのは困難だ。

「それなら、攻撃法を奪いましょう。」

提案したのはレディだ。

「奪うって…!?」

「そんなことできるんですか!?」

クロノとスマホンは驚く。

「…ええ。」「…まだ成功したことは無いがな。」

夜渡り二人の見解は、こうだ。

忌み鬼の攻撃を複雑にしている一番の原因は、左手から繰り出す無数の武器だ。

その左手に攻撃を集中させ、切断または負傷させれば、敵は攻め手を大幅に制限されることになる。

「そのことは、以前から試してはいたのだけれど…。」

レディはこれまで何度も忌み鬼と対峙するたびに、それを狙ってきた。

しかし、忌み鬼も左手を狙われていると分かれば、何としてでもカバーする。成功確率はかなり低いだろう。

「一撃でも、コイツを喰らわせればいいのだが…。」

追跡者は左腕に装着した『襲撃の楔』を見ながら言う。これは炸薬によって敵を貫く強力な鉄杭だ。直撃させれば、その破壊力は凄まじい。たが、至近距離で無ければ真価は発揮できず、発射まで僅かに力を溜める時間がいる。使おうとすれば距離を取られるだろう。

「私の『フィナーレ』で、姿を消して接近すれば…。」

『フィナーレ』とは、レディの持つ技の一つ。マントを翻して、自身や味方の姿を敵からしばらくの間、見えなくする秘技だ。

「いや…、姿は隠しても接近すれば奴は気づく。」

夜渡り二人が相談していると、クロノが提案する。

「つまり、『左手を奪う』っていう目標に、何とか辿り着けばいいんだな。」

そう言って自信満々に胸を叩く。

「それなら、巻戻士の俺に任せてくれ!絶対に成功まで辿り着ける方法がある!」

ーーーーーーーーーー

???回目

①追跡者とレディが接近する

忌み鬼は2人から間合いを取るために後ろへ飛び跳ねる。

②先に後方の壁の上に登っていたクロノが「ぬくもり石を投げる」

ぬくもり石が落ちるのは、忌み鬼の足元。身体を癒すための物をなぜ投げる?と、忌み鬼は一瞬止まってしまう。

③その隙にクロノは「火焔壺」を投げ続ける

忌み鬼に直撃するが、大したダメージにならない。飛び道具でヘイトを集めているクロノの方に向かおうと振り返る忌み鬼。

④クローショットで接近し、追跡者が忌み鬼の左の踵を切る。続けてレディの魔力を込めたナイフが右の脛を切った。

これで敵は足の力が入らなくなる。

⑤クロノが壁から飛び降り、床に着地すると同時に、戦技:霜踏みを繰り出す。

忌み鬼は足が凍り、弱った足では床から引き剥がせなくなった。

 

(ここからは初めてやるな…。)

 

現在

235回目である。

彼らはここまで、全員が毎回同じ行動をし、その結果から次の行動を考えて試し、より良いパターンを選択する。という過程を何度も繰り返してきた。

全員が同じく起こした行動と結果、未来は必ず再現される。その中から地道に、パズルのピースを見つけるようにより良い行動を試していけば、目指すゴールに辿り着ける。これこそがリトライ、巻戻士の真骨頂だ。

 

動けなくなった忌み鬼は、纏めて攻撃するために左手を上に掲げて剣の雨を降らせようとする。

「……待っていたぞ。」

その左手にクローショットを放ち、ワイヤーを弛ませて輪を作り、縛りつけた。

「ヌゥゥッ!!」

剣の生成は中断されて消えた。右手の杖で追跡者を突き飛ばそうとするが、

「させるかぁぁ!」

クロノが右手にしがみつく。両手を塞がれてしまった忌み鬼に、レディが攻め込む。

「フッ!」

追跡者から受け取った「ククリ」忌み鬼の両目に投げつける。しかし分厚い瞼により、視力を奪うには至らない。

 

するとレディは懐中時計に手をかけ、カチッとスイッチを入れた。

宙に先ほどと全く同じように、透明なククリが忌み鬼の目に飛んでいく。同じ傷を抉られて、激しく出血する。

「グワアアアァァ!!」

激痛に悶える忌み鬼。

レディの懐中時計は、直近に起きた出来事を再現することができる。切られたところは同じように切られ、焼かれたところはまた焼かれる。『リステージ』と呼ばれる技だ。

(おじさんの『再生(リプレイ)』みたいだ…。)

特級巻戻士、シライの能力に似ていると、クロノは思った。

両手を塞がれ、視界を奪われた。最早忌み鬼はなす術もない。

 

「……これで!!」

追跡者の左腕から、赤熱した鉄杭が炸裂する!

遥か彼方に、左腕は吹き飛ばされた。

「ギィヤアアアアアア!!!」

今までにない大ダメージだ。これで敵は攻め手を失った。

「やった!!」

クロノは思わず歓喜し、追跡者とレディも手応えを覚えた。

「やりましたね!皆さ…」

 

スマホンも喜ぼうとしたその時、

 

 

『DANGER! DANGER! DANGER!』

 

 

スマホンの画面に映る忌み鬼に、アラートの表示。

「えっ!?」

見ると、忌み鬼の切断された傷口から、いや、全身から夥しい量の体液が吹き出している。それは周辺の床からも湧き出すように見える。

 

「皆さん!逃げ…

 

「ヴヴ、ヴヴヴァァァァァァ!!!」

忌み鬼の叫びと共に、辺り一面は黄金とも汚泥とも見える液体に塗れてしまった。クロノ達は全員巻き込まれ、激痛に倒れた。

「ううっ!?」

「っ!!これは…?!」

「うわぁぁぁ!」

3人とも地に伏し、夜の闇に飲まれつつあった。

 

「おのれ……この地に…穢れを散らすことに…なろうとは…。許さん…、許さんぞ……。」

忌み鬼は、腕を落とされたことよりも、この体液を溢されたことに怒りを抱いていた。

 

朦朧とするクロノに駆け寄るスマホン。

「クロノさん!早くリトライを!皆さんが!」

夜渡り2人は夜にほぼ全身を包まれ、姿も見えないほどになった。

残された力を振り絞るクロノ。

 

「……巻き……戻し(リトライ)!」

 

236回目

何とか生還したクロノたち。

「あ、危なかった。何だったんだ、あの液体…。」

「彼は『穢れ』と言っていましたが、あれに触れては危険なようです…。」

スマホンとクロノが話すと、夜渡り二人は聞き返した。

 

「液体?…何のこと?」

「…液体を使った攻撃など、してきたか?」

二人の反応に驚くクロノとスマホン。

「ええっ!?いやホラ、さっきリトライした時に見ただろ?左腕を落とした後に、辺り一面液体が…。」

慌てるクロノに疑問を持つ夜渡り。

「いえ…そんなものは見てないわ…。」

「…そもそも、また腕を落とすに至っていないだろう。」

「エエエエッ?!」

二人とも、先ほどのことを覚えていないのか?

すると、スマホンがハッと気づく。

 

「失礼ですが、二人とも…、今は何回目か、覚えてますか?」

夜渡りたちは顔を見合わせる。

「……235回目、だと思うが。」

追跡者の答えにレディも頷く。

「やっぱり…、そうなんですね…。クロノさん。」

スマホンはリトライアイを見せるように促した。リトライアイの「236」の表示を見た夜渡り達は驚く。

「スマホン、コレってもしかして…。」

クロノはスマホンと顔を見合わせる。

「ハイ…、『死亡すると、そのループを記憶できない』。リトライアイの仕様と同じです。」

 

リトライアイを持つ者は、何周ループしても、その内容を記憶している。しかし一人が死んだ状態でもう一人がリトライすると、死から復活した者は前のループでの記憶を覚えていないという法則がある。

夜渡りたちの場合は、夜に飲まれてしまった状態でリトライすると、同様の現象が起こるようだ。

 

235回目での出来事を夜渡り達に伝える。

「そうか…、それが本当なら、腕を切断した後に、すぐ離れなければいけないな。」

追跡者がそう言うが、スマホンが反対した。

「いえ、僕のカメラにデータが残っていますが、あの穢れが吹き出す範囲は桁違いです。誰かが左腕を落とすために近づいていたら、その人は逃げきれず、絶対巻き込まれます!」

つまり、腕を落とすという作戦自体が、犠牲を避けられなくなるということだ。

 

「なら、俺が引き受ける…。」

「……っ!ダメだっ!犠牲を前提にするなんて!」

追跡者を止めようとするクロノだったが、

「でも、他には手立てがない。実際、忌み鬼を最も撃破まで追いやれたのなら、その方法が一番でしょう。」

と、レディも作戦を変えるつもりは無く、切断はレディ自身が行うとも言ってきた。

「ダメだよ!なんで二人とも犠牲になろうとするんだ!!」

怒ってしまうクロノに、夜渡り達は冷静に答えた。

 

「…前にも話しただろう。夜渡りは命尽きても、祝福により復活する。」

「そうよ。それに、例え辺り一面が夜に覆われて、この場での復活が不可能になっても、大祝福のある『円卓』、私たち夜渡りの拠点に戻れる。」

だから、犠牲を強いてでも勝算のある方法を選ぶべきだと。

 

「…………。」

俯くクロノ。

スマホンは固唾を飲んで、クロノを見ていた。

 

この状況、他に方法がない。

誰かが生き残るために、誰かが死ぬ。

二つに一つ。

現実は甘くない。

何かを得るために、何かを捨てる。

それが、この世のルール。

 

 

天を仰ぎ、大きく息を吸う。

 

 

「んなモン、知るかああああ!!!!」

 

 

天まで貫くような大声で叫ぶクロノ。

(ああ…、やっぱりこうなるか…。)

と、苦笑いするスマホン。同時に、クロノさんはこうでないと、とも喜んでいた。

 

「犠牲になんて絶対にさせない!必ず全員が助かる攻略未来(クリアルート)を見つけ出すんだ!!」

そう言って引かないクロノ。

「それに!復活できるって言ったって、あんな恐ろしいモヤモヤに何度も覆われたら、絶対悪い影響があるだろ!?俺にも話していないリスクがあるんじゃないか?」

鋭い指摘を受けて、沈黙する夜渡り。

だが、そのリスクについて教えるつもりは無いようだ。夜渡りたちは直面している問題に話題を戻す。

「……しかし、どうするつもりだ。」

「他に、手はあるの…?」

クロノはウーンと唸って腕組みし、考える。のけ反ってブリッジしそうな姿勢になっても良案は浮かばない。

すると、逆さになったクロノの視界に、砦が見えた。じっと見つめたかと思うと、体を起こして夜渡り達を見る。

 

「なあ、本当に、犠牲は避けられないと思うか?」

クロノが問いかける。

「……恐らくな。」

「…辛いでしょうけど、最善は尽くすわ。」

夜渡りは答える。

「そうか…。そう言うなら…。」

答えを聞いたクロノは振り向く。

 

「俺はもう知らんっ!あとは二人でやってくれ。ちょっと砦で休んでくる。」

「って、エエエエエ!!??」

こんなところでサボるんですか!?

砦へ引っ込んでいくクロノを追いかけるスマホン。

夜渡りたちはしばらく眺めていたが、

「……行くか。」

と、追跡者は忌み鬼の方へ向かう。

「良いの?彼の助力が無くては…。」

レディは戸惑っていたが、

「……手はあるのだろう。少なくとも…、」

追跡者はこれまでのクロノを振り返って言う。

「…ヤツは、諦めが悪い…。」

 

こうして、夜渡り2人で忌み鬼と交戦。

追跡者は何とか足を負傷させ、動きを止めようとするが、クロノの援護や霜踏みを欠いた状態では困難だった。

 

237回目

しかし、夜渡りだけで対抗しているにも拘らず、リトライは起こった。

 

238回目

どうやらこちらの様子を見て、危ない時にリトライしているようだ。スマホンが確認しているのだろうか。

少なくとも、やはりクロノは諦めてなどいない。

 

239回目

それが分かりさえすれば、二人の戦意は途切れることは無かった。

ーーーーーーーーーー

322回目

幾度切り裂かれようと

ーーーーーーーーーー

453回目

骨を粉々に砕かれようと

ーーーーーーーーーー

584回目

クロノが諦めていないのに

ーーーーーーーーーー

707回目

我らが先に屈するものか

ーーーーーーーーーー

 

我々は 夜渡りなのだから

 

 

「…850……ね。」

「………ああ。」

夜渡りは回数の確認は怠らなかった。それはクロノも同じだろうから。

肩で息をし、足は棒のように、しかし瞳の奥は決して色褪せてはいなかった。

「しぶとい…。早く楽になれば良いものを。」

忌み鬼は二人を見下して呟く。

「……こっちのセリフだ。」

 

ドォォォン!

 

後方から爆音が聞こえた。

クロノからの合図だ!!

砦の外壁の上で手を振るクロノが見える。

 

遂にきた!

合図と同時に、レディはマントを翻し、『フィナーレ』の効果で自身と追跡者の姿を消した。

夜渡りは忌み鬼が見失っている隙に全速力で撤退し、砦に向かう。

やがてフィナーレの効果が切れ、砦へ向かっていたことがバレる。

「っ!!逃がすものか!」

追いかける忌み鬼。その顔は憎悪と執念で歪んでいた。

「逃がさん…逃がさんぞ……貴様らだけは!」

 

外壁の瓦礫や窪みに手足をかけ、全速力で駆け上がる夜渡り。辿り着いた外壁上にクロノがいた。

「みんな!遅れてゴメン!」

二人に謝るクロノだが、

「それはいい、これからどう…」

作戦を確かめようとする追跡者だったが、辺りの様子を見て、理解した。

「……なるほどな。…悪くない。」

「よく、ここまでやったわね…。」

レディも驚きながら感心する。

「これを全部ぶちまけたら、後はリステージで決まりだ!その後は……。」

クロノが言い終わる前に、

「来ます!離れて!」

ここには居ないスマホンの声が聞こえる。すぐさま離れる3人。

 

「追い詰めたぞ…!」

ジャンプして外壁上に着地した忌み鬼。

その足元が冷たい。霜踏みの氷だ。

「っ!?ヌゥゥッ!?これは!!」

忌み鬼が驚いたのは霜踏みではない。周囲を取り囲むように置かれた、大量の火薬樽だ。

 

「行っけえええ!」

火炎壺を投げると同時に、2階の建物内に逃げ込むクロノ。忌み鬼は火炎壺を投げナイフで撃ち落とすが、中から漏れた火の粉は、火薬樽に降り注ぐ。

 

ドッゴオオオオオオオオオオン

 

凄まじい爆風に包まれる忌み鬼。全身が漆黒に染まるほどの熱量に悶え苦しむ。

 

「ダメ押しよ…!」

 

懐中時計が起動する。あのけたたましい爆音が再現され、更なる激痛が襲いかかる!

 

「ヌゥオアアアアアアア!!!」

 

全身が、雷に打たれた大木のようにボロボロになる。体の裂け目から、辺り一面から、穢れが吹き出しそうになる。

 

「掴まれっ!」

追跡者がクローショットを外壁の外にある樹木に固定し、ワイヤーの牽引力で外まで降りていく。クロノとレディもしがみついて一緒に降りた。

 

すぐに離れる3人。外壁上では、悶え苦しみながら穢れを吹き出す忌み鬼が見えた。穢れはここまでは届かず、安全であった。

「これなら、穢れに触れることなく、奴を撃破できる!」

レディは心の底から嬉しそうだ。

「……よくやった。」

素直に褒める追跡者。

「……ああ、ここまで来た。」

クロノの目は、まだ戦意を燃やしていた。

 

 

「……さん…。」

外壁に、手が見える。

「………が……さん…。」

がっしりと、外壁の縁を掴む。

 

「…逃がさんぞぉぉぉぉぉ!!!」

 

忌み鬼が穢れを吹き出しながら、地上めがけて落下してくる!

 

(マズイ……!!)

 

夜渡りは回避しようと……、

 

 

「今だスマホンっ!!!」

 

 

クロノの声と同時に、何かが忌み鬼に飛んでくる!

 

忌み鬼は死角から飛んでくる物に吹き飛ばされ、地面に衝突した。脇腹には、何か太く長いものが刺さっている。

 

「…こ、…これ…は…。」

 

ボルトだ。巨大なバリスタの矢が突き刺さっていた。

 

完全に身動きが取れなくなった忌み鬼。やがて、体が霧散していく。

 

「…覚えたぞ、招かれざる者よ。野心の火に焼かれる者よ。」

消えゆく中で、怨嗟の言葉を紡ぐ。

「怯えるがよい。夜の闇に 忌み鬼の手が、お前を逃しはしない…」

後には、決して、何も残りはしなかった。

 

「やった…やったああ!」

「やりました!今度こそ、やったんですね!」

クロノとスマホンは喜びを分かち合う。

「まさか、こんな物まで使うなんて。」

レディが見ると、バリスタの位置は忌み鬼が迫ってくるところからは見えにくい位置にあった。必殺の奥手という訳だ。

喜びや驚きが湧き上がる中、一人、追跡者だけが沈黙を保っていた。

ズンっと、クロノの前に行き、問う。

「……できるはずがない。」

レディは彼の様子に戸惑う。クロノとスマホンは、彼に問われて冷静な顔になった。

「火薬樽のトラップまでは分かる。事前の準備で行える範囲だ。」

彼ができるわけがないと言ったのは、バリスタの方だ。

「猛スピードで突進する敵に、大型兵器を命中させる…。それもたった一回で…。」

そう口にした追跡者は、ハッと気づく。そして、その恐ろしさに思わず手を握りしめた。

 

「………クロノ。」

 

 

「今、何回目だ。」

 

 

クロノは眼帯を外す。

リトライアイのカウントは

「1051」だった。

 

850回目

「クロノさん!これ以上は無理です!これが限界ですよ!」

ここまで準備するのも至難の業だった。火薬樽の数を揃えるのも、雨に覆われたエリアまで足を運んだくらいだからだ。これ以上ダメージを与える術はない。だから、これが限界だ。

「ダメだっ!…ダメだ!」

クロノは両手をついて、俯いた。

火薬樽で忌み鬼を瀕死に追いやった。でも、死に物狂いの突進により、夜渡り二人は穢れに巻き込まれてしまった。二人の体は夜に完全に覆われて、消えてしまった。クロノは二人の夜を払おうとしたが、突進に巻き込まれた衝撃で足を折られ、近寄るのが間に合わなかった。

「きっと、彼らの言っていた『円卓』という本部に戻ったんです!無事なんですよ!」

スマホンは言い聞かせた。これ以上無理はして欲しくない。

 

「あの突進を止める!そうすれば…、その方法が見つかれば、攻略未来(クリアルート)だ!」

 

「巻き戻し(リトライ)!」

 

 

1051回目

「……そうして、更に201回もループしたというの?」

レディは信じられない気持ちでいっぱいだった。

「そして、その201回のループ全てで、俺たちは死んでいた…。」

だから、その時のことを覚えていないのだと、追跡者は理解した。

クロノは頭を掻きながら話す。

「いやぁ、中々止める方法まで行きつかなくて、バリスタまで行きついても、命中させるまでに何回もリトライしちゃって。」

忌み鬼を爆破した後、穢れの範囲外からバリスタの位置まで移動すると、忌み鬼にバリスタの存在に気づかれてしまったので、命中されられなかった。だから、バリスタの起動は高台に待機しているスマホンが行うようにしたのだ。

「バリスタの起動は、僕が火炎壺を高台から落として縄を破壊するって方法まで辿り着くのも、かなり後の方で決まりましたからねぇ。」

スマホンも色々振り返っていた。

 

レディは反省会をしているクロノ達を見て、その聡明さと逞しさ、そして年齢相応な無垢さを感じていた。我々夜渡りの戦い方とはまるで違う。我々はどんな犠牲を払っても、何を失おうとも、夜明けを迎えるためなら戦える。

しかし、彼は、クロノは何も捨てたくない。捨てないために全てを賭けている。子供っぽさなのか。あるいは気高さなのか。クロノの見せるものは全て新しく、眩しかった。

(…なぜ、夜渡りでもない者が、この地にやってきたのかは、分からない。)

(でも…、何かが変わろうとしているのかも知れない。この、あらゆるものが滅びゆく、リムベルドの地で…。)

レディは、そう予感めいたものを感じていた。

 

やがて、夜が明ける。まばゆい朝日が、勝利を祝福するかのように降り注ぐ。

「スマホン!朝だぞ!」

「良かった…、本当にクリアしたんですね!」

 

すると、追跡者はボソリと言う。

「……ではない。」

「えっ?」

何か、信じられない言葉が聞こえたような気がしたクロノたち。

 

 

「まだ、終わりではない。」

 

 

「えええええええええええええっ!!」

大声で叫んだのち、力尽きてフニャフニャになるクロノとスマホン。

「……あ、あんなに、戦ったのにぃ…。」

「まだ、…何かあるんですかぁ…。」

「ああ、だかしかし…ダメージを追いすぎた。」

追跡者は深いため息をつく。

「ええ、ここで撤退しましょう。」

レディも疲弊している。

「か、帰れるのか?」

ガバッと起きるクロノ。

「ええ、陽のあるうちは、『霊鷹』を使って撤退できる。」

「その、レイヨーってのはどこに?」

クロノはレディに詰め寄る。レディはフフッと微笑み、淑女らしく手を差し伸べた。

「着いてきて。」

 

高い丘に辿り着くと、水色で透明な木があった。その側で指笛を吹くレディ。

すると、遠くから木と同じような、透明の鷹が飛んでくる。

「…アレに掴まれ。」

言われた通りに掴まると、そのまま遥か上空へ舞い上がる。スマホンはクロノの胸ポケットに入っている。

 

上空からは、リムベルドの地がよく見える。大きな城や、教会、謎の遺跡らしきものが点在している。

「もう分かってましたけど、明らかに僕たちの知る世界じゃないようですね。」

「うん…。」

夜を越えて生き延びたが、未だ、帰る方法は分からない。

「でも、まぁ何とかなるさ!」

根拠のない自信だが、前向きさは失わないクロノと、苦笑いするスマホン。

 

やがて、海を越え、遥か彼方に陸地が見えた。

「あそこがそうなの?」

「…ああ。」

興味津々のクロノと、ぶっきらぼうな追跡者。

古い洋館のような建物や、林、海岸などが見える。

この地を拠点に、新たな戦いに備えることになる。

霊鷹に掴まりながら、クロノの方へ振り向くレディ。

 

「ようこそ。『円卓』へ…。」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。