運命の巻戻士✖️エルデンリング ナイトレイン 作:ランドしま
霊鷹で円卓へと訪れたクロノとスマホン。レディと追跡者は、切り立った崖の上に着地した。
そこには古びた大柄の人形らしきものがおり、彼らが降り立つと、丁寧な所作でお辞儀をした。
「お帰りなさいませ、皆さま。」
人形は自立して動き、言葉も発した。人形は顔を上げてすぐ、知らない人間がいることに気がついた。
「おや、そちらの方は…?」
首を傾げて尋ねる。
「初めまして、クロノと言います。」
「僕はスマホンです。急にお訪ねしてすみません。」
二人が挨拶すると、レディが前に出る。
「リムベルドに迷い込んだ、異世界の旅人。夜渡りではないけれど、我々の命の恩人よ。客人として、迎えてほしいの。」
「おお、左様でございますか!数奇な出会いがあったようですな。」
人形の頭部は木組みの鳥籠のようで、目や口など、表情を表すパーツは無かったが、好奇心に溢れている様子が見て取れた。
追跡者は何も言わず、そのまま建物に入っていく。後ろから人形が声をかける。
「後で、お召し物を預かりに参りますね。」
追跡者は軽く手を上げて、ああ、とだけ返事をした。
「ひどく、疲れているみたいですね。」
心配するスマホン。それにレディが答える。
「帰還した時は、いつもああだから。そっとしてあげてほしい。」
クロノも頷く。
「そうだよなぁ。あれだけの…激戦だったんだし。…帰ったら…すぐ…寝たいよ…なぁ…。」
そう言っているクロノも、段々視界がボヤけてきた。眩暈もする。
見知らぬ土地、恐るべき脅威、それらはまだ終わりを迎えていないと言う。ありとあらゆる事象が、少年の心を磨耗させ、睡魔に導く。
「お客様?いけ…んね。……ぐに……室に案……て……。」
心配する人形の声が、途切れ途切れにしか聞こえない。やがてクロノの視界は暗転し、泥のように落ちていった。
ーーーーーーーーーー
「…………。」
目を開けると、薄暗い部屋にいた。
見たことのない場所。上体を起こして見回しても、巻戻士本部の自室でないことは分かった。心のどこかで、目が覚めたら、自分の部屋であって欲しいと思っていたのだろう。どこか、残念な思いがあった。ただ、ベッドの温もりだけは確かだった。自分の寝ていた部分に触れると、眠気を誘う程よい温度。
二度寝しようかな…。そう思い、再び枕に頭を預けようとする。
「目覚めたか。」
「うわわっ!」
見えないところから声をかけられてビックリするクロノ。ベッドの横の衝立から顔を覗かせると、一人の男が座っていた。
いや、男と表現したのは、単純に声から判断してのことだった。見た目では性別の判断は難しいだろう。
その人物は、鳥人だった。鷹のような面立ち、全身が羽毛に覆われ、鉄の鎧に身を包んでいた。手足は鳥類の鉤爪を持っており、その片手で本を読んでいた。片方の翼は立派な羽が並び逞しく見えたが、もう片方の翼は縮れて弱々しくなっていた。
「あ、あのー…、」
「其方が目を覚ましたら、案内するよう言付かっている。」
本をパタンと畳み、もう片方の手でハンガーラックを指差した。
「服は既に整えてある。支度を済ませるといい。」
「ああ、ありがとうございます…。」
下着一丁だったことに気づいてすぐに衝立の裏でスーツを着込むクロノ。
「………。」
(なんでここで本を読んでたんだろう…。なんかコワモテって感じだし…。こっち目もくれないし…。もしかして、監視…?)
スマホンはどこにいるんだろう、追跡者さんとレディさんはいないのかな等、怖そうな人と一緒いるのが心細くなって、そう思っていた。
着替えを済ませたクロノは鳥人に連れられいった。正確にはクロノが前を歩き、後ろから鳥人が進む方向を指示していた。
「そこの階段を登り、通路を進めば到着だ。」
「はい…。」
何だか囚人になった気分だ。しかも後ろの人は大きな盾と斧槍も持っている。いきなり襲われたりしないよね。思わずそーっと振り返るクロノ。
「……どうしたのだ?」
「えっあっいやぁ、の、喉が乾いたなぁ、なんて、ゲホッゲホッ。」
「そうか、後で飲み物を用意させよう。」
喉が渇いているのは本当だが、変な誤魔化し方をしたようで、ますます居た堪れなくなる。
辿り着いた先には、中央から部屋の大半を占めるほどの丸型で大きな机、その机には放射状に無数の武器が突き立てられ、上には光り輝く大祝福が存在していた。その光は吹き抜けの天井より舞い降りるかのようで、神の威光がこの地を守っているような感覚にさせる。
(わぁ…、すご……。)
その光の神々しさに口を閉じるのを忘れるクロノ。
すると大祝福で見えにくくなっている机の反対側から、
「そーなんですよ、本当にいっつも命懸けで、こっちも気が気じゃないっていうか…。」
「おやおや、それは大変でしたなぁ。心中、お察しいたします…。」
スマホンと人形が歓談する声が聞こえる。
「…いた!スマホーン!」
思わず駆け寄るクロノ。
「あっクロノさん!おはようございます!」
相棒に出会えてお互いに安心している様子。
「おはようございます、お客様。ゆっくりお休みになられたでしょうか。」
「あ、はい!お世話になりました!」
元気を取り戻して、礼儀正しく挨拶する。
「客人は飲み物を所望している。持ってきてくれ。」
鳥人が人形に伝える。
「かしこまりました。ご希望はございますか?」
「え?えーっと…水でいいです。」
「承知しました。しばらく、そちらに掛けてお待ちください。」
お辞儀をして移動する人形。鳥人は壁際に寄って立っていた。
(もてなされてるのか、警戒されてるのか、分かんないなぁ…。)
「クロノさん、疲れは取れましたか?」
「うん、俺はすっかり元気だよ…って、何だそれ?」
よく見ると、スマホンは黄色いテカテカ光る粘土のようなものの上に、充電用のプラグを突き刺して接続していた。
「『雷脂』と言って、電気を蓄えている物質らしいです。召使いさんに充電の方法を相談したら、用意してくれたんです。」
ちゃんと充電は出来ているようだ。丁度バッテリー100%になり、プラグを外すスマホン。
「良かったな!これでバッテリーの心配はしなくて良さそうだ。」
「ハイッ!召使い人形さんが親切にしてくれたお陰です。」
そう話しているうちに、召使い人形が水差しとグラスをお盆に載せて戻ってきた。その隣には、白いフード付きの外套を身につけた人もいた。
「お待たせしました。お客様。」
召使い人形が机にお盆を載せる傍ら、白いフードの人がクロノの前に立った。金髪に、精巧な意匠のアイマスク。レディだった。
「あっ!レディさ…」
クロノがあだ名を呼ぼうとするより早く、白いフードの女性は胸に片手を当て、深々と頭を下げた。
「悠久の果てより円卓に導かれし者よ、歓迎する…。」
「………?」
何だろう、昨日のレディさんとは喋り方が違うような…。
「あの…、レディさん…ですよね?」
スマホンが恐る恐る尋ねる。
「……私は巫女。姿なき主の声を伝える者…。」
「…………??」
巫女?レディさんじゃないのか?双子の姉妹?そっくりさん?
その隣でフフッと笑う召使い。
「大丈夫です。人違いではありませんよ。このお方は円卓の巫女でもあり、昨日あなた方と戦友として背中を預けあった義賊様でもあられるのです。」
何だ、やっぱりレディさんなんだ…。ほっとするクロノたち。
「巫女様は、この円卓を守る使命を背負い、集いし夜渡りの皆さまを導く存在なのです。わたくしは、そのお手伝いを致しております。」
召使い人形が丁寧に説明してくれる。戦っている時と違って随分堅苦しい雰囲気だけれど、レディさんは仲間思いの優しい人なのは知っていたので、信じて良さそうだ。クロノとスマホンはそう思った。
「いやぁ、こっちこそ助けてくれてありがとう。俺たち、どこにも行くあてがなかったから。」
それを聞いて顔を上げる巫女。表情は固いままだが、少しだけ口元が微笑んでいるようにも見えた。
「間も無く、夜渡りたちがここに集う。皆に其方を紹介しようと思う。」
「その後には、朝食も準備しております。宜しければ、お召し上がりください。」
そう言われて、待つこと数十分、少しずつ円卓に人が集まってきた。大柄な漢、狩人風の男、魔女のような人、白い衣装の少女、鎧姿に刀を持った男が入室し、席に着く。それらの人々が座ったのを見て、鳥人も席についた。どの人も、初めて会う。
ところが、クロノは辺りを見渡して気づく。追跡者がいない。
「あの、追跡者さんはいないのか?」
気になって巫女に尋ねる。
巫女は少し間を置いて答える。
「彼は…、今は外している。体調が優れないようだ…。」
「えっ…?!」
追跡者さん、具合が悪いのでしょうかと心配するスマホンの声を聞きながら、昨日追跡者が帰還してすぐに休もうとしていたのを、クロノは思い出した。やっぱり、あれだけ戦って疲れてたんだな…。
クロノがそう心配していると、
「無愛想なアイツを心配するってことは、お前さんら随分お人好しみてぇだな。ガッハッハ!」
大男が笑っていた。
魔女もクスッと笑って、
「優しいんだね。」
と言う。
いやぁそれほどでも…、と頭をぽりぽり掻いているクロノ。それを見ている白い少女は呆れている様子だ。狩人と鎧の男は腕組みをしたまま黙っていた。
「…巫女殿、始められてはいかがか。」
鳥人が促す。
巫女が皆に聞こえるに、澄んだ声を広げた。
「夜渡りの諸君。早朝から集まってもらい、嬉しく思う。」
「我々は先日の出撃で、夜の王にこそ辿り着けなかったものの、幾度となく我々を苦しめてきた、『忌み鬼』の討伐に成功した。」
「これは、夜明けに向けての重要な進展と言えるだろう。」
みんな、アイツに苦しめられてたんだ…。クロノは押し黙ってそう思った。
『夜の王』…。それが最終目標なのでしょうか?スマホンも、初めて聞く言葉に考えを巡らせる。
「そして、忌み鬼の撃破に多大な貢献をし、我ら夜渡りの助けとなった者が彼ら、クロノとスマホンだ。」
巫女がクロノたちに手を向ける。クロノは起立して、夜渡り達に向かう。
「初めまして!時空警察の巻戻士、クロノです!よろしく!」
「僕はクロノさんのサポートをしている、スマホンと言います!よろしくお願いします!」
元気よく挨拶する二人だが、皆の視線は、疑念や不思議なものを見るような感情が見て取れた。
(うーん…、やっぱり怪しまれてますねぇ…。)
スマホンは周囲の反応に、声を出さずに唸っていた。
(うーん…、自己紹介の文句、変えた方がいいのかな…?)
クロノは的外れな方向に反省をしていたところ、召使い人形がフォローを入れた。
「スマホン様から伺いました。時代を超えて悲劇から人々を救う、時空警察特殊機動隊。時を巻き戻す力を持つ巻戻士。それが、クロノ様。その力で見事、忌み鬼を撃破したのでございます。」
時間を巻き戻す。信じられないその能力に、皆が驚きや怪しさ、不審さを感じているようだ。
巻戻士のことやリトライのこと、先日の出来事を、クロノとスマホンが話した。
それらを一通り聞いた上で、鳥人が口を開いた。
「……それで、食客として円卓に招かれた、と。そこまでは私も理解した。」
クルッとクロノから巫女の方に、視線を移す。
「それで、彼はこれからどうするのだ。帰還の目処は立たないのだろう。」
うーん…。そこなんだよなぁ…。
こうして円卓に来たものの、元の世界にどうやって帰れるのか分からない。それまでここでお邪魔しっぱなしになるのは…気が引ける。クロノはそう思っていた。
「そのことについてだが…。」
そう言って、巫女は魔女の方を見る。
「あなたの力を借りたい。異世界に渡る術、あるいはそのような事故の原因を突き止めて欲しい。」
貴方の魔術の知識と経験から、手掛かりを見つけて欲しいと。
そう言われて、魔女は豊かな胸に手を添える。
「うん。良いわ。何でも頼ってね。」
魔女は快く引き受けてくれ、クロノに微笑む。
「あ、ありがとう!助かるよ!」
「良かったですね!クロノさん!」
頼れる人がいて心の底から安心した。
すると、狩人が口を開いた。
「ここに来た原因…、事故…か。」
そう言うと、冷静な口調で続ける。
「夜渡りだからここに来た、それだけのことではないのか?」
「えッ!?」
俺が……夜渡り!?
「いやいや!それは絶対無いよ!俺は何も知らないし!夜渡りなんて言葉も聞いたことないよ!」
「そうですよ!代々、僕たち今だって夜渡りが何なのかも曖昧ですし…!」
思いっきり否定するクロノとスマホン。
それを聞いて、角付きの兜をゴツゴツ叩く大男。
「あ〜、ソレなんだがなぁ。知らねぇのは当然なんだよなぁ。」
そう言って、持ってきていた瓶をグビっと煽り、ブハッと息を吐く。
「俺も何となくしか知らないんだが、夜渡りっていうのはよ、なりたい奴がなるとか、知っているからなるんじゃねぇ。『自然と』そうなっちまうんだ。ありきたりな言い方だと、『運命』に選ばれて、フラフラ〜っとここに流れ着いて、そうなるんだよ。」
彼の言葉を聞いても、よく理解できない。運命でそうなった?
「い、いや、分かんないよ!?何で俺が聞いたこともないものに選ばれるんだよ!?」
それを聞いて、魔女がゆっくり、できるだけ穏やかに答えた。
「みんな、そうなの…。」
「えっ…?」
魔女を見返すクロノ。
「みんな…。ここにいる、全員…?」
魔女はゆっくりと頷く。
「生まれた時代、土地、文化、…みんな違う。」
周りを見渡す。誰一人として、否定をしない。
「自分が夜渡りになるなんて、誰も思っていなかった。でも、ここに集まったの。」
みんなも、突然ここに来たんだ…。
「寄せ集め…、ただそれだけに過ぎん。」
白い少女がそう言う。
「……じゃあ、何で…。」
クロノは拳を握りしめて、問う。
「何で、あんな恐ろしい奴らと戦うんだ…。」
夜の雨、亡者、忌み鬼のような脅威、そしてまだ見たことのない「夜の王」。
「怖く、ないのか…?」
クロノが夜渡り達を見渡す。自分の感じた不安や恐怖を、皆は感じないのか。
「言うまでもない。」
狩人は、懐からダガーを取り出す。
「狩り尽くす。一つずつな。」
「まあ、殴って倒せるなら、問題ねぇわな。」
大男は拳に力を入れて掲げた。
鎧の男は、ただ大祝福の光を眺めた。それはどこか、決意を秘めているかのような所作だった。
「綺麗な夜空、取り戻したいから。」
魔女は優しく答える。
「フンッ。」
少女は鼻であしらった。
「腑抜けがいるなら、今ここで殺してやるがな。」
「生まれも育ちも違えど、集いし我は双翼となり、立ち向かうのだ。」
鳥人は片翼を大きく広げた。
「滅びの運命…、その先へと越えていく。」
皆、異存は無いようだ。自身が夜渡りになることに。戦うことに。理不尽な運命に。
「頼む、教えてくれ…。」
クロノは懇願した。知りたいことが沢山あると。
夜とは何か。夜の王とは何か。なぜそんなものが訪れるのか。
未来は、攻略未来(クリアルート)はあるのか。
巫女はクロノの方を向き、その願いに応える。
「それを伝えるのが、巫女の役目だ。」
遠い昔
狭間の地に破砕戦争が起きた。
世界は、どうしようもなく壊れてしまった。
やがて大いなる脅威が呼び寄せられる。
夜、来たれり。
大雨は地を抉り、あまねく歴史を擦り減らす 夜の王が歩みを止めることはなく 、黄金の地は、かつての姿を失っていた。
だが、それに抗う者たちがいた。
夜渡りの戦士だ。
寄せ集めに過ぎず、全てが異なる 生まれも、時代も、戦う意味も 。
ただ一つ、等しいことは 果てなき夜を渡り、戦い続けるのだ。
己の存在が擦り切れる、その時まで。
…世界に帳が下りようとしている。
「夜の王は、災害だ。存在のそのものに、理由はない。嵐や波が、そうであるように、ただ存在する。そして、全てを飲み込み、あらゆるものに滅びをもたらすのだ。」
巫女の話はスケールが大きすぎて、理解は追いついていなかった。分かるのは、余りにも強大なものだということだけだ。
「私は、姿なき主の言葉を聞き、この円卓に訪れる者たちと、夜に立ち向かってきた。もし、それが果たせなければ、いずれここも夜に飲まれるだろう。」
そして、巫女は天を仰いで、言葉を紡ぐ。
姿なき主の言葉を。
“罪を贖う者よ”
“三度の夜、この地は衰滅する”
“集え、そして、殺すのだ”
“夜の王を”
「…これが全てだ。」
そして巫女は、言葉を止めた。
「その、『姿なき主』というのは…?」
スマホンが聞くと、召使い人形が答える。
「私どもも、この目でお会いしたことはありません。遥か古より、この円卓の存在と役目をお作りになられた存在…。巫女様は、その声を聞く代弁者なのです。」
こちらから主に声を届けることは叶わない、とも教えてくれた。
「まだ、よく分からないことは多いけど…。」
クロノは言葉を紡ぐ。
「みんながこれから、どんどん過酷な戦いに向かうってのは、分かったよ。」
拳を握る。
「俺が、その夜渡りに選ばれたからココに来たのかなんて、分からないけど…。」
それでも…。
「助けられるだけで、何もしないなんて、嫌だ!」
「オレも戦うよ!夜の王と!みんなが全員生きて帰れるように、頑張るよ!」
己の覚悟と思いを伝えるクロノ。
「いや、要らんだろう。」
「………。ええええっ!?」
アッサリ断ってきたのは、白い少女だった。
「素人の面倒を見ながら戦えなど、論外だ。引っ込んでいろ。」
青い瞳の視線は冷たく、クロノの心を突き刺す。
「ガッハッハ、まあそう言うな。先輩ってのは面倒を見てやるモンだぞ。」
大男の方は受け入れる気のようでホッとする。
「獲物を仕留め、依頼をこなせるかどうか。それがお前の課題だろうな」
狩人はそう言う。彼は夜の脅威を獲物として捉えているようだ。
鎧の男は…、ずっと黙ったままで何を考えているのか分からない。
「戦力にせよ、食客にせよ、君はまだ新入りだ。信頼は初めから存在するのではなく、少しずつ築くものだ。今は疑う者や接し方が分からない者もいる、というのは仕方ないと思って欲しい。」
鳥人はそう言い聞かせる。この人が武器を持って案内していたのも、そういうことだろう。
「最近来たあの二人も、調査に行ったきりで戻ってくる気配も無い。まだあまり話もできていなかったというのに…。全く、連絡の手立てはないものか。」
鳥人は腕組みをし、立派な嘴からため息を漏らした。
………?最近来た二人?
「えっ!?これで全員じゃなかったのか?」
「他にも夜渡りの方がいるんですか?」
クロノとスマホンはビックリしていた。
「ええ、学者様と葬儀屋様がおられます。」
召使い人形が説明する。
「現在は、近頃新しく発生した地変の調査に向かわれており、それ以来帰ってこられないのです。どうされているか、心配でして…。」
「……とにかくだ。」
巫女が口を開く。
「彼が戦力になることは、私と彼が確認済みだ。今後は私の推薦ということで、行動を共にすること、この円卓に加わることを受けいれて頂きたい。」
リーダーからの鶴の一声、ということで、皆は取り敢えず異論はない様子だった。無論、黙って合わせているだけの者もいるだろうが。それでも、まずはここからだ。
「みんな、これからよろしく!」
「よろしくお願いしますね!」
クロノとスマホンは頭を下げた。
魔女はにっこり笑って、
「何でも、聞いてね。」
と、優しく答えた。
円卓での紹介を終えたクロノは、食堂へ案内された。自分の席には朝食が用意してあった。薄焼きのパン、スープ、スクランブルエッグ、新鮮なブドウなどが並んでいた。
すっかり腹が減っていたクロノはあっという間に平らげる。
「いい食いっぷりだな!若い奴はそうじゃねぇとな!」
「パンのおかわりは、いかがですか?」
「うん!おかわり!」
食べっぷりを褒めるのは、向かいの席の大男。お代わりを用意しに行ったのは召使い人形だ。
「いやぁ、お陰様で生き返ったよ。」
クロノはリトライの影響で、時間の感覚としてはかなり久しぶりになる食事に癒された。
「新入りでその遠慮の無さ…、見上げたものだな。」
大男の隣でブドウを咥えて皮肉を漏らすのは、白い少女だった。
「お待たせしました。」
召使い人形が、新しい薄焼きパンを持ってくる。
「ありがとう!ところでコレ、なんていうパンなんですか?」
「ピタパンと申します。お味の方はいかがでしょうか?」
「うん、外側がカリッとしてていい香りがして、美味しいよ!」
クロノが焼きたてを頬張りながら感想を伝える。
「左様でしたか。見様見真似でやってみたのですが、喜んで貰えてなによりです。」
見様見真似という言葉に、スマホンが反応する。
「あれ?普段は作らないんですか?」
「ええ、大抵のお食事は私がご用意致しておりますが、このピタパンに関しては違うのです。」
それに鳥人が付け加える。
「普段は彼…、追跡者殿が焼いてくれる。」
それを聞いて意外そうに思うクロノたち。
「へぇー、追跡者さんパン作りが得意なんだ!」
「戦っている時の姿からは、想像つきませんね。」
そう言えば、追跡者はこの場には来ていなかった。まだ休んでいるのだろうか…。
彼だけでなく、狩人と鎧の男、魔女、レディの姿も見えなかった。辺りをキョロキョロするクロノ。
「ガッハッハ、ここの奴らはみんな自由だからな。一人で食うやつもいるし、食うのを忘れるやつもいるのよ。」
追跡者も今日はおネムなんだろうさ。と、大男は言った。
「そっか…。でも心配だなぁ。これを食べたら様子を見に行こうと思うよ。」
「そうですね、僕も行きます。」
クロノは朝食を終え、召使い人形に追跡者の部屋を尋ねる。すると、
「いえ、追跡者様は自室をお持ちではありません。普段は作業場の辺りや倉庫などで仮眠を取るお姿を確認していますが、…今朝はどちらにもいませんでしたね…。」
そうなると、彼はどこだろうと考えていると、後ろから声が聞こえた。
「私が案内しよう。」
レディだ。…いや、まだ白いフードを被っているから巫女と呼ぶべきか。
「……着いてきて。」
案内されたのは、食堂から少し離れたところにある空き地。黄色い花がたくさん咲いている。その花畑からすぐ近くの外壁。そこにもたれかかるように、彼は寝ていた。
「こんなところで寝ていたのか…。」
「ここで寝ちゃうと、風邪をひいてしまいますよ。」
心配するクロノ達に、巫女が答える。
「古くからの習慣らしい。いつでも戦いに臨めるよう、野宿同然の休息を普段から行い、緊張の糸を切らぬようにしていると…。」
温かいベッドでの眠りは、成すべき事を成してからでも遅くはない。今はその時ではないと…。
「そんなに、自分を追い込んでいるなんて……。」
スマホンは心配そうに彼を見つめる。
「うーん……。でも、いくら何でも朝飯抜きになっちゃうと、それこそ戦が出来なくなるぞ。ここは起こしてあげよう。」
クロノはそう言って、追跡者に声をかける。
「おーい、追跡者さーん。朝だよー。朝ごはんできてるよー。」
クロノのモーニングコールに、低く唸って目覚める追跡者。
「……っ。……うう、……。」
ゆっくり顔を起こしてクロノを見る。鉄兜の隙間からは表情は見えない。
「おはよう、体の調子はどう?」
「……、…ああ。幾分かは……マシになった。」
「よかった、心配してたんですよ。」
側から見れば死んでいるかのように動かなかった彼が目を覚まして、安心するクロノとスマホン。
だが、追跡者は二人をボーッと見て、黙ったままだ。
「…?どうしたの?」
彼は、ボソッと声を漏らした。
「………、……誰だ?」
「えっ??」
彼の言葉に戸惑うクロノ達。
「誰って、俺だよ!クロノだよ!昨日一緒に戦ったじゃないか!」
「僕はスマホンですよ!昨日レディさんと一緒に忌み鬼を倒した仲間です!」
必死に思い出して貰おうとする二人。
「クロノ…、スマホン…。」
名前を復唱するが、声色や視線から、心ここに在らずという印象を受けた。
「済まない……、どうにも、頭が冴えん…。」
そう言って立ち上がり、フラフラと二人の隣を通り過ぎていく。巫女にも視線を一瞬合わせるだけだった。
「大丈夫だ…。しばらくすれば、思い出せる……。」
そう言って、彼らを後にした…。
「どういうことだ…?オレたちのこと、覚えてないのか…?」
クロノが信じられない気持ちで呟くと、
「……激しい戦いの後は、度々このようになるのだ。」
巫女が答える。
「彼はここに来る前から、厳しい戦いによって、身も心もすり減っている…。そこへ更に、夜の影響に晒されたことで、記憶に支障をきたしている…。」
「そんな……!!」
クロノとスマホンは、口を揃えて驚愕した。
「……彼の言った通り、時間を置き、静養を取った暁には、記憶が戻ってくる。」
だから、彼には休んでもらう必要があると、巫女は説明した。
「し、しかしあの様子、本人はかなり疲れ切った様子でした…。本当は、この先戦うのも危険な状態なんじゃないですか?」
スマホンは心配そうに尋ねる。巫女はしばらく押し黙っていたが、ポツリと言葉を漏らした。
「……本来なら、ね。」
そして、言葉を続けた。
「我々も、止めはしたのだ。しかし、彼は戦うことを止めようとしない。…夜の王に立ち向かいもせず、床に臥すような真似は、今までの戦いや苦難の道を否定することになるから…。」
「でもっ!そのせいで再起不能になってしまったら、元も子もないじゃないか!もしかしたら命だって……!」
クロノは語気を強めてそう言った。
「あんなにボロボロになってまで、戦うべきじゃないよ…!止められないって言ったって誰かがちゃんと…!」
巫女は静かに、拳を握りしめている。
「……君だって、諦めなかっただろう…。」
「えっ……?」
巫女は出来るだけ穏やかな口調だったが、しかし確かにクロノには聞こえた。
悔しさの、歯軋りの音が。
クロノの戸惑う表情を見て、
「…いや、…何でもない。」
と言って背中を見せる巫女。そのままゆっくり引き返して行く。
「彼のことは、そっとしておいて欲しい。じきに元気になるだろうから、その時には声をかけてやってくれ。」
そう言って、立ち去っていった。
「オレ、…余計なこと言っちゃったかな。」
クロノは自分の落ち度をスマホンに問う。
「僕には……、分かりません……。」
重く、静かな空気が漂っていた。
巫女が去って、少し間を置いてから召使い人形が来た。
「クロノ様、スマホン様。」
ああどうも、と返事する二人。
「…巫女様は、決して追跡者様を冷たく扱っている訳ではございません…。そのことは、執事である私がよく分かっております…。」
召使い人形は話を聞いていたようだ。人形は、聞き耳を立てていたことをクロノ達に謝罪した。
「クロノ様たちの心配も、言いたいことも、巫女はよく理解しております。誰よりも、彼の身を案じているのは彼女なのですから…。」
人形に表情はなくとも、悲しみに満ちていることは伝わってくる。クロノは気弱そうに尋ねる。
「追跡者さんの体のこと…、あまり話さない方がいいのかな…?」
「はい…。これは、とても繊細な問題なのです。ですが、クロノ様の思いやりは、ちゃんと追跡者様にも、巫女者にも届いております。決してクロノ様が悪く思うことは有りませんよ。」
召使いの慰めに、少しだけ気持ちを落ち着かせるクロノ。今はまだ知らないことだらけで、踏み込んではいけないことにも触れてしまうかも知れない。でも、鳥人の人も言っていた。「信頼は初めから存在するのではなく、少しずつ築くものだ。」と。傷ついても、傷つけてしまっても、今は前向きに行こう。クロノは気持ちを切り替えた。
「ありがとう。おかげで元気になったよ。」
「それは何よりです。」
頭を下げる召使い人形。その様子を見て、スマホンもホッとした。
「あっ、そう言えば朝ごはんの後には円卓内を色々案内してくれるんでしたよね。」
どうやらクロノが寝ていた間に、二人がそのように話していたようだ。
「ええ。では、気を取り直して。これからクロノ様達に円卓内をご案内したいと思います。」
そうして、召使い人形に連れられていったクロノ達。できれば他の夜渡り達のことも教えて欲しいと、クロノは要望を出した。
「畏まりました。では案内がてら、皆様のことをご紹介致しましょう。」
ここまでの各キャラの印象(スマホン調べ)
A(好印象、信頼)
追跡者、レディ、大男、魔女、召使い人形
B(プラマイゼロ、距離感)
鳥人、狩人
C(悪印象、怖い)
白い少女、鎧の男
ー(不明、会っていない)
学者、葬儀屋
スマホンTips
「雷脂」
雷を生じる素材を混ぜ合わせた根脂
武器に塗り、雷攻撃力を付加する
その効果は一定時間で消える
バッテリーの充電にも使用できる