運命の巻戻士✖️エルデンリング ナイトレイン 作:ランドしま
復讐者に因縁をつけられたクロノ。相手は浜辺で待っている。武器でも何でも持って来いと言うからには、遠慮なくそうさせてもらおう。
クロノは訓練所にある武器の中から、使いやすいものを吟味していた。
「全く…、何でこんなことに…。」
守護者は首を横に振って呆れていた。仲間同士で争っている場合では無いというのに…。
「まあまあ、こうなったからには白黒つけねぇとよ。クロノにも、男のプライドってモンがあるのさ。」
無頼漢は、男は黙って見ておけと守護者に言った。
「ごめんなさい、クロノ。彼女を止められなかったのは、私の責任なのに…。」
レディはリーダーとして秩序を守れなかったことを、命の恩人を傷つけてしまったことを悔いていた。新人を快く迎えるべきなのに、逆に険悪極まりない状況になってしまった。
「レディさんが謝ることじゃないよ。これはオレの問題なんだから。」
クロノはレディにあっけらかんとした表情を見せた。そして、武器の方へ向き直ると真剣そのものの表情に戻った。
感情的にならず、冷静な分析を頭に巡らせていた。
(復讐者さん…、いや、『さん』はいい…。復讐者は信仰の測定の時に、自分の聖印を渡した。つまり、復讐者は祈祷の使い手だ。さっきの聖印で使ったのは回復の祈祷だ。そして、回復の祈祷だけじゃ戦いようは無いだろうから、きっと攻撃の祈祷もあるはずだ…。)
そう思って隠者にヒントを尋ねる。
「攻撃の祈祷って、どんなヤツがあるの?」
「どんなものでも、沢山あるよ。炎の玉、雷の槍、聖なる光の衝撃波。」
隠者は、とても教えきれないほどの種類があり、今のクロノでは覚えきれないと話した。
「全体の傾向として言えるのは、中〜遠距離の攻撃が多いということだ。無論、近距離用の祈祷もあるが、復讐者の戦闘スタイルとしては、離れて攻撃することが多い。」
しかし、離れて戦うということは、それが弱点でもある。近づければ勝機はあると、鉄の目はアドバイスした。
「何だ、他人の喧嘩に助言するなんて珍しいなぁ。お前、真剣勝負は一方に肩入れせずに見る質(たち)だと思ったんだが。」
無頼漢は鉄の目が意外なことをしていると指摘すると、
「新人が対策無しで勝てるほど、復讐者は甘くない。」
と答えた。最も、このくらいの助言で優劣は然程変わらないだろうがな、とも言った。
"むしろ、助言や指南が好きで、肩入れしたがる人間と見受けられる…。“
寡黙であり、常によく観察をしてる執行者はそう思った。そして、彼らが色々話しているのを尻目に、静かにその場を後にした。
「クロノさん、良さそうな武器はありましたか?ボクはやっぱり拳の武器が一番使いやすいと思うのですが…。」
スマホンがそう聞いている傍ら、クロノは直剣や槌、斧槍などを手に取っていた。
「うん、格闘なら普段通り戦えると思う。でも、相手は離れて戦うわけだから、こっちもできるだけリーチのある武器の方が良いんじゃないかと思って。」
あとは、敵に近づくまでに身を守るための盾も欲しいと、クロノなりに戦術を組み立てていた。後は戦技も確認して…。
よし、これで行こう!
『ロングソード カテゴリー:直剣 戦技:貫通突き』
『ヒーターシールド カテゴリー:中盾 戦技:無し』
直剣と盾の組み合わせ。追跡者も悪くないとコメントする。
「準備OKだ。召使いさん、浜辺まで案内してもらえるかな?」
「……。承知しました。こちらです。」
召使い人形は気が引ける思いだった。折角ここに来てくれた仲間を、初日から決闘へ案内することになるのだから。
「負けないで下さいね、クロノさん!ボクは何があっても、クロノさんの味方です!」
召使い人形にとって、初対面で意気投合した友人であるスマホンは、彼を激励していた。スマホンは争いごとを好まない性格であることは、初めて話した時から分かっていた。そんな彼が決闘を止めもせず応援している。きっと彼も、大切な相棒を侮辱した復讐者を許せないのだろう。
(私にできることは…、見守ることだけなのですね…。)
できればどちらも、無事でいて欲しい。人形の内側に、締め付けるような思いが満ちていた。
『浜辺』
円卓は周りを海に囲まれている土地に建っている。その浜辺には船や船着場はなく、閑散としている。砂浜から望む水平線の向こうに陸地は見えず、この土地が世界から隔離された場所であることが視覚的に理解できる。少しばかり飛んでいる海鳥の鳴き声。他には何もない場所だった。
砂浜の上に大きな円が書いてあり、その円の中で復讐者が腕組みをして立っていた。そして、円から離れた所に執行者がいた。
「来たか…。まあ、逃げなかったことは褒めてやろう。」
復讐者は肩をすくめてそう言った。
「ああ…。」
クロノは声を低くして答える。
「だが…、なんだその剣は。まさか殺したくないと言うんじゃないだろうな?」
クロノのロングソードには、何重にも巻き布がしてあった。刃で切らないようにするためのものだ。先端も念入りに巻き、丸くなっている。
「殺す気ナシで、私の相手ができると思っているわけか。やはり腑抜けだな、貴様は。」
復讐者は顔をしかめて、舐めた態度を不快に思った。
「……言っただろ、『殴りたい』って。」
クロノはそう言って、剣先を復讐者に向ける。
「アンタを負かした後に、思いっきりブン殴る。だから、その前に切り殺す訳にはいかないからな…。」
殴りたい、切り殺す。どれも普段のクロノの口から出ない言葉ばかりだ。そんな言葉を出さずにはいられないほど、クロノの怒りは過去に類を見ないものだった。
「フン…。意気込みは良いようだな。…入れ。」
スマホンや夜渡り達に見守られる中、円の中に足を踏み入れるクロノ。
「ルールは単純だ。先に円の外に出るか、くたばった方の負けだ。」
そして、審判は執行者が行う。スマホンは意外な人選だと思ったが、夜渡り達からは「彼は観察力があるし、私情を挟まず公平な目線を持っている。」とのことだ。一足先に浜辺へ来て、復讐者の前でフィールドの円を書いたのも彼だった。
「分かった、いつでも来い!」
構えるクロノ。さあ、何を繰り出す…。
復讐者が取り出したのは武器でも聖印でもなく、『リラ』と呼ばれる竪琴の楽器だった。
「貴様に、我がファミリーを紹介しよう…。」
細い指で弦を奏でると、フィールド内に三つの白いモヤが現れる。そのモヤは透明な輪郭になり、クロノと対峙した。
『小姓 ヘレン』
細身で刺剣を持った人形
『料理長 フレデリック』
大柄でハンマーを振り回す人形
『執事長 セバスチャン』
頭と上半身のみの巨大な骸骨
「さあ、殺してやるから、殺しに来い…。」
「…って、待て待て!何だよそれ!4対1なんて聞いてないぞ!!」
真剣勝負じゃ無かったのか!と文句を言うクロノ。
「言っただろう、束になって掛かってもいいと。」
「そっちが束になるなー!!」
そう言いながらクロノは円の中を逃げ回る。
3体の霊体が容赦なく襲いかかる。これが復讐者のスキル『霊体召喚』である。
クロノは円の端に追い込まれ、背水の陣になった。ヘレンの素早い突きを盾で凌ぐが、その頭上からフレデリックのハンマーが襲いかかる。間一髪で前方へ回避したのも束の間、セバスチャンの巨大な腕の横払いで吹き飛ばされてしまう。
「うわああぁ!!」
敢え無く円の外へ出てしまう。執行者は勝者である復讐者に手を向けた。
「他愛もない…。威勢がいいだけの腑抜けには、罰が必要だな。」
仰向けになったクロノの喉元に、ヘレンの刺突が迫る。
「く、くそぉ……。」
こんなの納得できるか!すぐさま眼帯を外す。
「巻き戻し(リトライ)!」
2回目
試合が始まった時点まで巻き戻った。追跡者とレディ以外の夜渡り達と召使い人形は、初めて目にするリトライに驚く。
常に冷静な鉄の目も、感嘆の声を漏らしていた。
「これがリトライか…。本当にこんなことが…。」
「クロノ様の傷も無かったことに…。実に不思議です。」
召使いは、物を壊してしまった時にも便利だと思っていた。
各々の反応が聞こえる中、復讐者は然程驚いてはいなかった。
「成る程な、こうして何度でも挑もうと言う訳か…。自分の失敗を無かったことにする…、いかにも腑抜けが好みそうな能力だ。」
「オレが腑抜けなら、そっちは卑怯者だろ!数が多い上に、自分で戦いもせずに!」
「御前試合でも競技でも無いのだ。わざわざ相手に合わせる必要がどこにある?」
クロノの罵倒など気にせず、復讐者は再びファミリーを召喚した。
(このぉ…、だったら速攻だ!)
ファミリーが襲ってくる前に、一気に距離を詰める。幽霊なんか相手にしてられるか!
「馬鹿が…。だから愚直だと言うのだ。」
そう言って聖印を持った左手を上に掲げると、眩い光の輪を三つも投げてきた。『三なる光輪』という祈祷だ。
うおっと!咄嗟に盾でガードし、受け止めた光輪は後方へ飛んでいった。残り二つも左右に飛んでいった。
(今だっ!)
戦技:貫通突きを繰り出す。ロングソードのリーチなら届く!復讐者は身を翻して後ろへ回避した。相手は円の縁だ。
(よし!このまま押し込めば…、ぐあっ!?)
さっきの光輪が背中に当たった。三つの輪はブーメランのように戻ってきたのだ。
(私もアレには苦しめられた…。)
レディは、かつて復讐者と戦ったことがある。自分の使命に対する葛藤に悩んでいた時に、今回と同じく復讐者に浜辺へ来いと言われたのだ。そしてあの厄介な祈祷とファミリーの攻撃に苦しんだ。レディは最終的に、鍛え上げた回避の技術と手数で勝利を掴んだが、クロノはどうする…。
祈祷の直撃で怯んだクロノに向かって、復讐者の手が迫る。右手の薬指と小指に付けた白金の付け爪『呪爪』がクロノの喉を切り裂いた。
「ガッッ…!!」
出血する喉を手で押さえるクロノは、反対の手で眼帯を外した。
「巻き戻し(リトライ)…。」
ーーーーーーー
15回目
距離を取ると、ファミリーの連続攻撃と光輪に圧倒されてしまう。近づいても攻撃のチャンスは少なく、背後から戻ってくる光輪にやられる。光輪に気を取られると、すかさずファミリーと呪爪の挟み撃ちに会う。
「埒が明かない…、だったら…!」
ヘレンの刺突を盾で防御し、ロングソードで反撃する。突き飛ばしたヘレンに続いて、フレデリックの膝を貫通突きで砕く。体勢を崩した隙に復讐者に接近する。
「おおっ!アイツやるじゃねぇか!」
各個撃破といかずとも、ファミリーを怯ませて接近すれば、本体への攻撃チャンスは増える。クロノの作戦に無頼漢は感心した。
しかし、セバスチャンは大きく体を伸ばしたかと思うと、
「GGGRRRRAAAAA!!!」
全身が震えるほどの大音響で叫び出した。
「ウウウウッ!!」
耐えきれず両耳を塞ぐクロノ。ノーガードになった少年は光輪で怯まされ、円の中央で尻もちをつく。そこからフレデリックのスイングでリングアウト。
「巻き戻し(リトライ)!」
ーーーーーーー
24回目
今度はセバスチャンの方を何とかしようとするが、あまりにも頑丈な体はいくら攻撃してもビクともしなかった。攻撃に夢中になっているところを、背後からフレデリックに上から叩き潰される。
ーーーーーーー
46回目
前にやったように、ヘレンとフレデリックを怯ませてから復讐者に接近する。
「フンッ。それはもうやっただろうが。」
だが、セバスチャンが雄叫びを上げるより早く、クロノはロングソードを持って大きく振りかぶった。
(………!)
復讐者は直感で回避行動を取る。
「こっのぉぉ!!」
ロングソードを思いっきり投擲してきた。間一髪で少女の横を掠めて、砂浜に剣が転がる。
「ああっ!惜しい!」
スマホンが残念がると、
「いや、まだだ!」
鉄の目が瞬きをせずに見たのは、ヒーターシールドを両手に持って突進するクロノだった。
「うおおおおお!」
回避して体勢が傾いている今なら、突進で一気に押し出せる!
しかし、
「VVVVAAAAAA!!」
「ぐうぅぅぅ!!」
セバスチャンの雄叫びの方が早かった。
「フンッ!」
復讐者の呪爪でズタズタに切り裂かれてしまう。くそぉ…。もう少しで…。
「巻き戻し(リトライ)!」
47回目
でも、さっきの方法は一番追い詰めることができた。今度はもっと狙いをつけて投げれば…。そう思い、またファミリーを怯ませてようと近づく。
(まずはヘレンの突きをガード!)
そう思って盾を構えると、先に目の前に来たのはフレデリックだ。ヘレンはもっと後方にいる。
(さっきと違う!?ならフレデリックの膝を…。)
そうして狙いを変えようとしたとき、
「ブワッ!!め、目がッ!ぐぇっ!ゲホッゲホッ!」
何度も何度も海水混じりの砂が飛んでくる。光輪を砂に向けて何度も放つ、砂かけ攻撃だ。
「馬鹿の一つ覚えが…。同じ作戦が通用するものか。」
そしてフレデリックのハンマーで横払いに吹っ飛ばされる。
ーーーーーーー
88回目
ゼェゼェと、肩で息をするクロノ。どんなに攻め方を変えても、一度看破されると二度と通じない。攻め手がどんどん無くなり、追い詰められてしまう。スマホンは危機的な状況を分析していた。
「そうか…。『クロックハンズ』と戦う時と同じ…。相手もこれまでの戦いを覚えているせいで、リトライの強みを活かせなくなっています…。」
クロノの世界で戦ってきた、時空犯罪組織『クロックハンズ』。彼らはタイムマシンを所持しており、リトライも使いこなす。そのため、こちらと同様に時間のループを記憶できるから、こちらの作戦を一度見せてしまうと覚えられてしまうのだ。
彼ら夜渡り達も、理由は不明だが時間のループを記憶できる。復讐者には、一度失敗した攻撃は何度リトライしても通じないのだ。
「分かっただろう。巻き戻し(リトライ)など、所詮はその程度の代物だと。」
蔑む視線が、クロノに深く突き刺さる。
「わざわざ手加減して、『円の外に出せば勝ち』という譲歩までしてやったのに…。どこまでも残念な奴だな、貴様は。」
クロノは砂を噛み締め、悔しさを滲ませる。
「そんな体たらくで、よくも『全員生きて帰れるように頑張る』などと言えたものだ。」
白い指で少年を刺し、心を抉る。
「貴様が先に死ぬだけだろうが。」
「………クッソォォォ!!」
盾を構えながら猛スピードで突撃する!ファミリーに攻撃されても構わず、少女の目前に迫る。だが…、
「寄るなっ!!」
復讐者は屈んだ姿勢から体を逸らせ、腕を広げると、衝撃波が発生してクロノを吹き飛ばした。『拒絶』という防御の祈祷だ。
「うおっ!」
円からギリギリ出ないところで倒れた。体勢を立て直そうとすると、もう目の前に復讐者がいた。再び『拒絶』で円の外へ飛ばされた。
(…ダメだ。…強い。)
ーーーーーーー
112回目
攻略未来(クリアルート)が見つからない。どうすればいい。
「…安心しろ。1000回も繰り返す前に、終わらせてやる。」
そう言って、復讐者はあえて霊体を召喚せずに、クロノの目前に近づいた。
「貴様が諦めれば、な。」
また、そうやって舐めたことをする…。
「諦めるもんか!お前なんかに絶対負けるか!」
「……。なぜ諦めない?」
「アンタにオレのことを認めさせなきゃ、気が済まないからだ!」
少年の言葉は辺りに強く響いたが、少女には届いていなかった。復讐者は、フゥ…と溜め息をついて、問い続けた。
「そんなに仲間として認められたいか?そこまでして、夜に立ち向かいたいか?」
「仲間に認めてもらいたい。一緒に戦いたい。そう思って何が悪いんだ!」
「思い上がりだと気づかないのか、キサマ。」
少女は更に顔を寄せる。
「巫女から聞いたぞ。忌み鬼に向かって叫んだそうだな。『自分が戦うのは全員助けるためだ』と。」
呆れた少女は、首を傾げる。
「分からんな。なぜその弱さで、甘ったるい理想を掲げられるのか…。」
「………ッ!!」
頭に血が上り、切り掛かるクロノ。しかし、剣先よりも近くまで接近していた相手には、刃が届くのが遅れてしまう。
ガクッと膝をつくクロノ。喉からポタポタと血が溢れる。復讐者の白い手に、紅い化粧が施されていた。
意識が朦朧とするクロノの顎を、可憐な少女の手が優しく持ち上げる。側から見れば、少年が少女に屈服しているように見えてしまう。
「喜べ。その甘い理想を、終わらせてやる。」
顎から手を離し、喉の傷口に付け爪を添える。
「そして、新たな望みを抱け。」
傷口を更に深々と抉る。
「『殺してください』とな。」
クロノの視界は暗転していた。しかし、肉体の反射なのか、それとも生存本能による無意識の筋肉運動か。あるいはクロノの理想を諦めない根性か。自覚もなく、声もなく、リトライは起こった。
ーーーーーーー
174回目
何度致命傷を受けても、辛うじて復活するクロノ。しかし、復活というには程遠い有様だった。
目は何とか生気を保っていたが、剣と盾を持っている腕は垂れ下がり、背中は激しい呼吸で上下し、口からは涎を垂らしていた。
「無理もない。昨日は忌み鬼との激戦、先程は適性検査を終えたばかりだというのに、これ程の仕打ちを受ければな…。」
追跡者は腕組みをして、彼の疲労の原因を分析した。
「そうだね…。でも、一番の原因は別にある…。」
隠者は心配そうに、そう呟いた。
一番の原因は、意志だ。
リトライアイは精神と直結している。現在の174回目というリトライ回数は、普段の彼なら多少の疲れで済む範囲だ。
しかし彼は今、自らの戦う意味を否定されている。『全員を助けたい。』という尊い意志は、この理不尽な世界では通用しないのだと、圧倒的な力によって否定されている。何度でも諦めない、攻略未来(クリアルート)を見つけるまで諦めないという彼のスタンスも、ただの身の程知らずでしかないと。それらの思いが、リトライによるダメージをより深刻なものにしているのだろう。
隠者がそう思っている間にも、復讐者の拒絶がクロノを吹き飛ばす。円の外に出たクロノの頭が、素足で踏みにじられる。
ーーーーーーー
210回目
復讐者はファミリー無しの戦闘を続けていた。クロノの攻撃は疲労により精彩を欠いており、それらを難なく回避して、容赦なく身体を引き裂いた。
ーーーーーーー
263回目
しかし、
「どうしたんだ…?さっきから仲間を呼ばないじゃないか…?」
クロノの目は、まだ色褪せていない。
「遠慮しなくていいんだぞ…。」
静かに息を吐き、復讐者はリラを奏でた。
ファミリー3人がかりで痛めつけられるクロノ。
ーーーーーーー
281回目
クロノはまだ、復讐者への接近を試みていたが、ロングソードは決して彼女に届かなかった。
ヘレンに腹を貫かれ、フレデリックに足を潰されて、セバスチャンの腕の下敷きになってしまう。
ーーーーーーー
308回目
その間にも、復讐者の侮蔑、挑発、それらを込めた尋問は続いた。
「死ぬ前に食いたいものがあるなら、食わせてやる。」
「……、たぶん、それはここには無いからなぁ…。」
「何という食い物だ?」
「『納豆巻き』…。知らないよな…?」
「ああ、知らんな。」
クロノは相手の挑発に乗るように、顔を上げた。
「……贅沢を言うなら…。」
「……何だ。」
「仲間のみんなと、一緒に食いたいかな…。」
「………。」
少女は親指を下に向けた。少年の頭上に大槌が振り下ろされる。
ーーーーーーー
350回目
ファミリー達の攻撃は止まらなかった。霊体は疲れを感じない。巻戻士以上に長期戦には強い。クロノはここまで身も心も潰されてきて、ボーッとしている時間も増えてきたが、ファミリーが接近してくれば回避し、復讐者への距離を詰めようとしていた。届くことは決してなくても。その行動は、たった一本の細い糸で保っているようであり、少しの刺激でプツンと切れてしまいそうな脆さを感じさせた。最後の緊張の糸が切れれば、クロノは糸のないマリオネットのように地に伏すだろう。
復讐者も、攻撃と言葉を絶やさなかった。祈祷よりも、呪爪よりも、その言葉の方が、より大きなダメージを与えているのは、周りにいる夜渡り達にも伝わってきた。
守護者は首を横に振っていた。
「私には分からない…。彼女はなぜあそこまで、クロノに憎悪を向けるのだ…。」
復讐者はこの円卓に来る前に、ほとんど夜に飲まれた亡者同然となっており、敵として夜渡り達と対峙した。そして倒された復讐者は消滅せずに、夜の王を倒すという志しを共にする夜渡りとして、円卓に加わった。
あの性格も、夜に飲まれた影響なのかは分からないが、とにかく棘があり、人に心を許さない。皮肉も憎まれ口も日常茶飯事だ。
だが、あの様子は異常だ。初対面のクロノに向けていい感情ではない。何があそこまで彼女を駆り立てる…。
騎士なりに、冷静に分析しようとするが、守護者は答えが出せない。
レディは見るに耐えず、目を逸らす。
隠者は胸に手を当て、心配そうに見つめる。
追跡者と鉄の目は腕組みをし、見つめるのみ。
無頼漢は始めのうちは、「行けーッ!」「脇が甘いぞクロノ!」「男は度胸だ、気張っていけ!」と、応援していた。しかし、今は言葉もなく、腰に手を当てて見ていた。責めるような視線は、復讐者に向けられる。
執行者は、ずっと審判を続けていた。勝ちの判定は、ずっと復讐者に向けられていた。
召使い人形は、本当は叫びたかった。「もうおやめ下さい」と。
ポタポタと、涙が溢れる。
「もう…、もう…、やめて下さい…。」
スマホンは両者に懇願した。
「ごめんなさい、クロノさん…。ボク、クロノさんが馬鹿にされたのが許せなくて、一泡吹かせて欲しいなんて思って…。だから、クロノさんを止めなくて…。」
サポートAIとして、決して許されない判断をしてしまった。決闘を止めないなどと…。
「復讐者さん…。もう…、分かってるんでしょう…?クロノさんはもう、戦えないって…。これ以上は本当に、死んじゃうって…。」
スマホンは、液晶画面いっぱいに涙を流して叫んだ。
「お願いしますッ!!もうッ!やめて下さいッッッ!!」
命なき存在であるはずのAIが叫び、静寂の浜辺に響き渡る。
クロノはまだ、武器を手放そうとはしない。
「…………。」
リラが奏でられ、霊体が姿を消した。
(良かった…。)(流石に、ここまでだな…。)(よくやったよ、クロノ…。)
夜渡り達は、胸の内でそう呟いた。
復讐者は素足で砂を踏み締め、ゆっくりとクロノに歩み寄る。クロノは両手をダラリと垂らしていたが、剣と盾を握ったままだ。視線はボンヤリしており、焦点が合わない。
少女は緩やかに左手を出し、少年の胸元に当てる。そのままグッと押すと、少年は力無く仰向けに倒れて、武器も手放してしまった。
復讐者は砂の上に膝をつき、顔を寄せ、クロノの顔に右手を伸ばした。
その指には、美しくも恐ろしい呪爪が。
(…………!!!)
油断した夜渡り達は一気にかけ寄ろうとした。
「止めろッッ!!」
守護者は声を上げて飛び出し…
バッッ!!
執行者が刀を持った腕を広げて、夜渡りを制した。
「………うっ…。」
迫る手から逃れようと、身じろぎするクロノ。
「じっとしていろ。」
(…………え?)
その囁きには、今まで彼女からは聞いたことのないような気持ちを感じた。
哀れみのようで、悲しみのようで、慈しみのようでもあった。
白金の付け爪が、眼帯の紐に引っ掛けられる。するりと外され、リトライアイが露出し、『350』のカウントが見える。
復讐者は少し眉をひそめ、口を結んだ。
「こんな物を抱えて生きているとはな…。」
その言葉には、先ほどまでの侮蔑の感情とは違うものが込められており、クロノは決して不快さを感じなかった。
「姿なき主の声、だったか。」
少女は急に、巫女から聞いた存在のことを口にした。
「始めの方に、我々夜渡りのことを、こう言っていたな。」
“罪を贖う者よ”
確かに、そう言っていたような…と、クロノも思い出した。
「どこの誰かは知らんが、ソイツが言うには、我らは皆、『罪人』らしい。」
だれも話しはせんだろうが、誰もがここに来るまでに、罪を犯しているのだろうと、少女は言葉を紡ぐ。
(罪……?)
「ここに来たからには、お前もそうなんじゃないのか…?」
責め立てる言い方では無かった。純粋な問いだった。
「そうで無ければ、そんな業の深い代物を埋め込んで生きられるものか。」
(おれが……、罪人……?)
「お前は、なぜ巻戻士になったんだ。」
巻戻士、初めてその存在を知ったあの日。決して忘れられないあの日のこと…。
「………。」
「…妹が、殺された…。」
「……。」
復讐者も、スマホンも、夜渡り達も、黙ってクロノの言葉に耳を傾けた。
『CASE999』。特級巻戻士でなければ任務に参加することができない、最上級難易度のミッションとして登録されている事件。
その被害者が、クロノの妹、トキネだ。
主犯は、時空犯罪組織クロックハンズのリーダー『1時(ワンオクロック)』。
特級巻戻士シライを完全に上回る強敵だ。
そして奴は二択を迫った。
「トキネの命か。時限爆弾で死ぬ2000人の命か。」
そしてトキネ自身が、2000人を救うようシライに託した。
トキネが死を迎える前、俺は約束した。
「おれ、巻戻士になって、お前を助けに来る!」
「お兄ちゃんが助けくれるまで、わたし…、まってるから!」
約束を交わし、妹は兄を信じ、笑顔のままトラックに撥ねられて、死んだ。
「それからは、誰も妹と同じような悲劇に会わせないために、戦ってきたんだ……。」
だから、こんなところで負けたく無いんだ…。
おれは特級巻戻士になって、トキネを助けに行かないといけないんだ。
誰一人として、見捨てたくない。みんなを守りたい。
だから、みんなの力になりたいんだ……。
クロノは思いの丈を、静かに語った。
全員が静まり返り、波のさざめきと風の音しか聞こえなかった。
「……それだけの思いを抱いていながらも、私には届かない。」
なぜだか分かるか…?
貶さずに、少年に問いかける。
「…おれが、弱いから…。」
砂に沈みそうな体から、何とか声を出した。
「1000回敗れようと、諦めない人間…。弱いはずがなかろう…。」
(えっ………。)
何だ…?弱いから責めていたんじゃないのか…?
少女の左手が、少年の頬に添えられる。
隠者の優しさや温かさとは違う。
温度は感じず、慰めもない。
しかし、その指先が撫でる感触は、少年の最も脆く、柔らかい、芯の部分に届いていた。
それだけの業に報いたいというのなら
復讐を果たしたいのなら
お前の中の夜を克服したいのなら
「行儀の良いふりは、もうやめろ」
「行儀の良い……『ふり』……?」
まるで、考えても無かったことを指摘されて、クロノは戸惑った。
おれは、上辺を取り繕っていたのか?
戸惑っていたのは、スマホンも同様だった。
いつでも素直で真っ直ぐなクロノさんに、そんな面があったなんて、考えたこともない。
復讐者は、脅しでも、拷問でも、侮蔑でもなく、クロノと文字通り正面から向き合って、囁いた。
「許せないのだろう、1時(ワンオクロック)を…。否定していたんだろう、復讐を…。」
因縁に囚われれば、憎しみに負ければ、失ってしまうからだ。
巻戻士の使命。仲間の信頼。助けるべき妹への想いを。
だが……。
「みんなを守る。そんな美しい言葉は、今はいらない。」
私に解放しろ。掻きむしるほどの復讐を。
己の深淵を歩け。汚れた自分から目を背くな。
復讐者の唇から漏れる言葉、一つ一つが、クロノの心に、毒のように染み込む。
(復讐……。)
考えたことのない言葉。
しかし、こうして思うと、確かにしっくりと来る。
あの日の思い出。
トキネの笑顔と涙。
おじさん…シライの無念と悔しさ。
仮面に隠れながら、全てを陥れた、1時(ワンオクロック)
なぜあの日を忘れられないのか。なぜ許せないのか。この思いは何だ。
ハッキリと わかった
復讐すべきは
クロノは砂に手をついて、上体を起こした。復讐者も彼から離れて、背中を向けて歩いていく。クロノが立ち上がると、復讐者も振り向き、向かい合った。互いにスタート地点と同じ場所だ。
「分かったよ……。」
アンタに言われて、ハッキリした。
少年は俯きながら、答えを出した。
「オレの中にも、あったんだ。」
憎しみが。復讐が。
「……ようやく受け入れたか。」
そうだ。小綺麗な建前など要らない。
ワンオクロックを、殺したいのだろう。
「それがお前の罪だ。」
その殺意、憎しみを否定し、逃げ続けたことこそが、罪なのだ。
「その憎しみが、お前の力になる。」
復讐を以て、夜を、私を超えてみせろ。
「いや……、違う……。」
「なに……?」
まだ否定するのか?綺麗事を言うつもりか?
「許せないのは……。復讐したいのは……。」
少年は顔を上げる。
「……オレ自身だ。」
「……何だと。」
復讐者は、思ってもいなかった答えに眉を顰める。
「オレは兄貴なのに…、トキネは覚悟を決めていたのに…、おじさんが命懸けで戦っていたのに…、ワンオクロックがあんなに憎かったのに……。」
オレは、何もしなかった。見ているしか、できなかった。
あの日のオレが目の前にいたら、ぶん殴ってこう言うだろう。
なんで何もしなかった!なんでトキネを見殺しにした!なんでおじさんを無理矢理にでも引き留めなかった!何であの仮面野郎を一発でも殴らなかった!
「何もしなかったことが、オレの罪だ。」
分かっている。あの時はそうするしか無かった。仕方がなかった。オレにはどうする事も出来なかった。
だから……、だからこそ……、
「俺は、あの日の俺に、復讐する……!!」
「これは、俺の復讐なんだ!!」
「何もしなかった、何もできなかった自分への、復讐なんだ!!!」
「………!!」
復讐者はクロノの言葉に貫かれ、その脳裏に悪夢が蘇った。
あの嵐の夜を 覚えている
お嬢様の悲鳴を 涙を 助けを求める声を
あの男を 人の姿をした悪魔を
顔に被った 生暖かい 紅い化粧を
全て 覚えている
私は見ていた
まばたきも 呼吸も 助けを呼ぶことも
何もしなかった できなかった
なぜ あの後 全てが過ぎてから
動けるようになったのだろう
なぜ お嬢様が 肉の人形になる前に
動けなかったのだろう
分からない 答えは 誰も知らない
分かることは ただひとつ
そうして私は、復讐者となった
あの嵐の夜を、終わらせるために
(因果なものだな……。)
呪爪を整え、リラを奏でる。3対のファミリーが復讐者の前を陣取る。
「良かろう…。ならばその復讐、私が終わらせてやる…。」
ヘレン、フレデリック、セバスチャン。3つの霊が少年の魂を見据える。
「そして、貴様も我がファミリーに加えてやろう…。」
「そんなつもりは、無い…!」
クロノは砂上に落ちていた剣と盾を拾い、握りしめる。強い覚悟の裏で、冷静な分析を頭に巡らせながら。
ここまで散々やられ続けていたクロノだったが、思考は放棄していなかった。
攻略未来(クリアルート)の手がかりは、復讐者とファミリーそれぞれの攻撃パターンだ。
向こうはリトライ後もループを記憶しているから、こちらのパターンを覚えてしまう。ならば、こちらも相手の傾向を掴まなくてはいけない。向こうが攻め方を変えたとしても、そこにはある程度の『癖』があるものだ。
だから263回目のループで挑発したのだ。
「どうしたんだ…?さっきから仲間を呼ばないじゃないか…?」と。
敵の攻め手が増えるのは不利なことだが、全員の傾向を掴むために、敢えてそうしたのだ。
まず「ヘレン」
刺剣の攻撃は盾で防ぎ、カウンターで倒せる。先に頭数を減らすためにもヘレンから仕留めたい。
だが、こちらが明らかにガードの姿勢でいると、ヘレンは後退してしまい、フレデリックが前に来る。素早いヘレンが後詰だと色々と厄介だ。
次に「フレデリック」
ハンマーを縦に振り下ろす攻撃は、何とか懐に潜り込んだり背後に周りこんだりして、回避できる。しかし、横のスイングは難しい。攻撃範囲が広い上に、砂地では横に飛ぶのもジャンプするのも厳しく、しゃがんでも当たってしまう。
あのパワーは圧倒的だ。当たれば確実にリングアウトで負ける。
また、横に振り回す攻撃をしてくるのは、近くに味方がいない時だけ。巻き込まないためだ。
そして「セバスチャン」
セバスチャンは移動できず、毎回後方に配置している。近づけば叩き潰され、先に倒そうと攻撃を集中しても、頑丈過ぎて撃破できない。無視して復讐者に向かおうとすると雄叫びを上げて動きを封じてくる。あの大音響は何回聴いても耐えられそうになく、耳を塞げば防御できなくなる。雄叫びを防ぐ方法は…。
最後に本体「復讐者」
最も後方から三つなる光輪を飛ばしてくる。ブーメランのように戻ってくるうえに、左右にも広く飛んでいる光輪を回避しようと気を取られると、ファミリーに狙われる。威力や吹き飛ばす力は程々だ。
無理に近づいても、拒絶の祈祷で吹き飛ばされる。ダメージこそ少ないが、食らえば倒れてしまい隙だらけになる。リングアウトの危険も大。
目の前で隙を晒せば、呪爪の餌食だ。
本体を倒すには、拒絶の祈祷を使わせることなく、一気に接近して押し出すしかない。
そして最も重要な情報は、
『祈祷はひとつずつしか使えない。二つの祈祷を同時には発動できない。』
『祈祷の発動後、次の祈祷を発動するまでにクールタイムがある。』
これらの情報から、導き出せる答えは…。
「見つけたぞ…。攻略未来(クリアルート)…!」
クロノはヒーターシールドを左手から外し、革紐を伸ばして肩にかけ、背中に盾を背負った状態になる。そして、ロングソードを両手持ちにした。
「それで何が変わるというのだ…。」
クリアルートなどと言って、やることはその程度か。復讐者は肩透かしを食らった気分になった。
「下らん。小手先の技で何度も挑もうと、結果は変わらない。」
復讐者の蔑みを、クロノはまるで気にしない。
「いや…、何度も挑まない。これで決める!」
クロノはそう言って、ロングソードを逆手に持つ。柄の部分を握りしめ、フーッと深く息を吐く。
(……?何をして…?)
復讐者が戸惑う間もなく、柄の先端が眼帯に向かう。
バキッッ!!バチバチッッ!!
「クロノさん!!」
「なっ…!?」
「そんなっ!?」
眼帯が取れ、ひび割れたリトライアイがショートしている。表示は『ERROR』になってしまった。
「これでもう、俺はリトライは出来ない。次に死ねば、正真正銘のゲームオーバーだ。」
この作戦が失敗すれば、例えリトライしても相手に覚えられ、打つ手がなくなる。なら、リトライアイが有っても無くても同じだ!
「そんな…、この世界でリトライアイを直す方法があるかも分からないのに…。なんて無茶を…!」
スマホンは彼のあまりの覚悟と向こう見ずな行動に、驚愕と絶望でいっぱいになる。
鉄の目は冷静な感情から一変。手に汗握る緊張感で震えていた。
「奴め…、そこまで勝算があるのか。それとも心理戦か…。」
レディは思わず声を上げる。
「お願い!試合を止めて!このままでは本当に…!」
淑女は審判に懇願するが、彼は止める気配もない。命懸けの試合を最後まで見届ける気だ。
復讐者はギリッと歯を噛み締めて睨みつける。
「死に急ぎがッッ!!」
手をかざし、ファミリーたちをクロノに差し向けた。
①「剣を両手持ちにした状態で、ヘレンに接近する」
(こちらがガードの姿勢を見せないときは、決まってヘレンが先鋒だ。盾を背にすることで、よりヘレンを前に出すように誘導できる!)
やはりヘレンが前に出た!ヘレンの刺剣が真っ直ぐ向かってくる!
クリアだ!ここで…
②「下から掬い上げるように、ロングソードで刺突を逸らしながら腕を攻撃。」
(何度も見てきた刺突。少しでも軌道がずれると威力は出ない。自分がレイピアで失敗したからよく分かる!)
軌道を逸らした剣先は肩に当たるが、浅い。こっちの攻撃で相手の手首を破壊し、武器を落とした!
クリア!
ヘレンの後ろからフレデリックが襲ってくる。攻撃法は、振り下ろしだ!
③「フレデリックの脇をすり抜けて、振り下ろしを回避する。」
(ヘレンが近くにいる時は、厄介な横振りはしない。これなら躱せる!)
前方へすり抜け、すれ違いざまにフレデリックの膝裏を叩く。膝カックンの要領で体勢を崩した!
クリア!
チッ!と、復讐者は舌を打つ。
(何だこれは…。死の覚悟で強くなったとでも言うつもりか!)
一気に来る気か…。ならば『拒絶』で返り討ちだ。セバスチャンの雄叫びが間に合えば、爪で確実に仕留める…。投擲ならば避けてから光輪で迎撃してくれる…。
④「復讐者に向かってダッシュ…!」
(やはり愚直だな貴様は!)
聖印を握りしめて、拒絶の構えを取る。セバスチャンも雄叫びをしようと息を吸い…
「…と、見せかけてロングソードを投げる!」
クロノは両手で直剣を思いっきり振り上げる!
(小賢しい…!)
見え見えのフェイントだ。こちらに投げるのを先読みして復讐者は回避する。
クロノは腰を捻り、向きを変えた!
「うおおおおっ!」
直剣は回転しながら上空を飛び、セバスチャンの顔に命中!
クリア!
「AGGGAAA!」
「何ッ!」
こっちではない!?雄叫びの方を止めたのか!
(でもこれじゃ、クロノさんはほぼ丸腰です!盾も背中じゃ武器になりません!)
スマホンが焦る一方、骸骨の顔面から砂の上にロングソードが落ちる。
⑤「ロングソードを拾いに行く」
急いで駆け出すクロノ。
「させるかっ!」
復讐者は三つなる光輪を放った!一つはクロノに直撃!もう一つはロングソードを場外へ弾き飛ばした。
「うぐッ!」
脇腹に当たった光輪は通り過ぎていく。ロングソードはもう使えない。フレデリックも背後から迫ってくる!
「やれフレデリック!!」
もう、武器もない。打つ手はない。
(いいや、『⑤ロングソードを拾いに行き、光輪を撃たせる』クリア!)
⑥ これが最後だ!
フレデリックは後ろで見えないが、奴の周りにはクロノ以外何もない。確実に当てようと横スイングをするはずだ!
フレデリックがハンマーを大きく横へ振りかぶる!
「これが俺の、攻略未来(クリアルート)だ!」
⑥は、
「ハンマーの方向へ背を向けたまま近づき、盾にジャストミートさせる!」
強力なハンマーの威力を背中の盾で受け止めて吹き飛ぶ!
(グッ…!いっけぇぇ!!)
致命傷にはならず、思いっきり飛んでいく!
向かう先には復讐者が!!
「こいつッ…!!」
さっき三つなる光輪を使ったばかりで、『拒絶』の発動が間に合わない!このために盾を背中に…!
「吹っ飛べぇぇぇ!!」
ガツンと正面衝突!クロノの勢いで一気に押される復讐者!
だが、間一髪で復讐者は少年にガッツリ掴まり、足で円の縁まで堪えていた!小さな体を根性で支えていた。クロノも手で押し込むが足りない!
「…やるな、だが…パワー不足だ!」
この隙に拒絶で吹き飛ばして…。
「ああ、足りないな…。」
⑥、クリア…!
「だから…、手伝ってくれ…!!」
ニカッと笑うクロノ。
「なっ…!?」
クロノの背後に迫るもの……さっき投げた光輪が戻ってくる!!
背中の盾、ではなくクロノの後頭部に直撃!!
互いの顔面がめり込むほど押し込まれる!!
体勢を崩した二人は、そのまま円の外に倒れた!!
「………っ!」
執行者は一瞬強い吐息を出し、今まで上げなかった方の手を差し出す。
先に場外に体を着いたのは復讐者…。
クロノの勝利だ!!
「うおおおおおおっ!!」
「やったあああ!!」
「すごい…、すごい……!」
「クロノさまーーっ!!」
全員大歓喜だ。みんながクロノに駆け寄った。
無頼漢はクロノを立たせて右腕を上げさせた、
「すげぇよクロノ!お前は本物のヒーローだ!」
追跡者は何も言わず、パチパチと拍手を送る。彼なりの精一杯の賞賛だ。
「こんな捨て身の戦い、褒められたものでは無いな…。だが、よくやったな!」
守護者も若き戦士を称えた。
「ありがとう、みんな!心配させてごめんね!」
「本当ですよー!!どうするんですかリトライアイはーッ!!」
嬉しそうなクロノと、泣いて怒って喜んでいるスマホン。
「…五月蝿いぞ貴様ら。」
むくりと体を起こす復讐者。その顔面はヒビが入っており、その傷口から青い液体が漏れていた。
「…って、あああっ!そんな!そこまでするつもりじゃ!それに何だその血!?」
慌ててしまうクロノ。女の子の顔が悲惨なことに!
「こんなもの、いくらでも修理が効く。いちいち慌てるな。」
「え…、修理って…?あれ、そう言えばなんか…お前って…。」
クロノは復讐者をよく見る。ヒビの入った顔、腕や足の皮膚は、皮膚というより陶器のようだ。手首や肘、足首の関節には明らかにフィギュアのような継ぎ目があった。そして人ならざる血の色。これって…。
「ええええ!復讐者って人形だったのか!?」
「……気づかなかったのか、愚図が。」
スマホンでもとっくに気づいていたのにと、皆が苦笑いしている。
「フンッ。まあいい、負けは負けだ。潔く罰を受けよう。」
復讐者はそう言って目を瞑った。クロノはそれを見て困惑する。
「え?罰って…?」
「殴りたいんだろう?やれ。貴様にはその権利と義務がある。」
「え!い、いやぁ…やっぱりいいよ。怪我した女の子なんか殴れないよ…。」
困る少年に、ハァ…とため息をつく人形。
「まだ女だの何だのというのか…。もういい、ツケにしておく。」
そしてクロノを睨みつける。
「…なぜ、リトライアイを破壊した。」
クロノは復讐者の問いに、真剣な顔で答える。
「アンタが突然の事態を目の前にすれば、慎重になってくれると思ったからだ。」
フレデリックのホームラン打球で接近しても、拒絶を使われたら意味がない。だから先に光輪を繰り出してもらわないといけない。祈祷のクールタイム中に高速で接近しないと、今回のクリアルートは成立しなかった。そのためには圧倒的なプレッシャーで、「クロノは捨て身で何をする気なのか。」と思い込ませ、様子を窺わせるように仕向けることで、光輪を撃つタイミングを誘導できるようにしたのだ。
「本当に、どこからそんな発想が出てくるの…?」
レディは聞かずにはいられなかった。
「きっかけは……、復讐者かな。」
「……どういう意味だ。」
復讐者が怪訝な目で尋ねる。
「腑抜けが好みそうな能力だ。…って言われたのが、ずっと引っかかってたんだ。」
リトライは、結局自分の失敗から逃げてるだけだって。絶対にそれは違う。諦めないからリトライするんだ。
でも、本当にリトライできなくなったら?
俺は何もできないのか…?
アンタの言う通りの腑抜けなのか?
「それを、何としてでも『違う』って、言いたかったんだと思うよ。」
だから、敢えてリトライアイを目の前で破壊して勝つという方法を思いついたんだと思う。
「………。」
クロノの思いを聞き、復讐者は自分の顔のヒビに、裂け目のできた唇に触れる。指先に青い化粧が施される。人ではなくても、この青ざめた血が、生きている証だ。
「図に乗るな。350回挑んでやっと1回だ。お前が弱いことに変わりはない…。」
青い指を、クロノに向けて近づける。クロノは少し後ずさりするが、動くなと命令される。
クロノの唇に、青い血のついた指で触れる。
「だから、刻んでいけ。」
私が与えた敗北を。
私に与えた傷を。
お前の中の復讐を。
お前の中に、私を。
ツーっと、少年の唇をなぞり、口紅のように化粧をした。
「ここまでやったのだ…。やり通せ…、必ずな…。」
その夜は、ささやかながらクロノの歓迎会と初勝利の祝いを兼ねた宴が行われた。
「いやー、聖杯瓶って凄いね!リトライアイも治るんだもん。」
巻戻士本部でないと直せないものでも、祝福の恩恵を受けた液体が癒してくれた。リトライアイもクロノの肉体と同一のものして、回復効果が現れたのではないかと、追跡者は分析していた。
「まあ、毎回治るとも限らない。自分で失明させるのはこれっきりにしておけ。」
と、忠告される。
「はーい、気をつけまーす。」
本当に頼みますよと、スマホンはクロノに口を酸っぱくする。
「おう、聖杯瓶なんかより葡萄のジュースだろ!飲め飲め!」
無頼漢は飲み物を勧めてくるが、芳醇なジュースには酒気があった。
「いやいや、悪いけどオレは未成年だからさぁ…。」
断るクロノに、じゃあこっちを食えよ、これも美味いぞ、こちらもどうぞ、と言って夜渡りたちと召使いの歓迎を受ける。
「そんなにいっぺんに食べれないよぉ…。」
レディはその様子を微笑んで見つめる。少し風に当たろうかと、レディは外に出た。
屋外の木々の下に、ベンチがある。そこにレディが向かうと、復讐者がリラを奏でていた。側には葡萄酒入りのゴブレットが置かれている。復讐者の顔は修復済みだが、化粧の裏にヒビの跡がうっすら見える。
復讐者はレディに気づき、竪琴を弾きながら話す。
「見回りか?夜中も忙しないことだな。」
「いえ、休憩に来ただけ。」
「なら、そこの席は空けておけ。予約がある。」
そう話していると、隠者がやってくる。
「こんばんは。二人とも。…あら、これはレディさんの?」
ゴブレットを見て尋ねる。
「お前の分だ。座れ。」
復讐者は隠者を隣に座らせる。頂きますと言って、隠者は葡萄酒を口に含んだ。
「お前の分は無いぞ、飛び入り参加だからな。」
「…?何が行われるの?」
レディに隠者は優しく答える。
「大切な話。クロノの。」
「今日は本当に、お疲れ様。」
隠者は乾杯のように器を復讐者に向ける。
「全くだ。子供の面倒は疲れる。」
クロノより身長の低い復讐者は不満げに答える。レディはずっと気になっていたことを聞きたいと思った。
「それについて、聞きたかった。貴方はなぜあそこまで体を張って、クロノを追い詰めようとしたの?」
リラをしまい、フーッと息を吐く復讐者。
「…心を折るためだ。」
またしても冷血なことを言う。レディは呆れた。
「クロノを傷つけてどうなるというの?彼の本音や戦う意味を問いたかったのではなくて?」
「それは心を折れなかったから、方針を変えただけだ。本来は、戦う意志を徹底的に潰すために痛めつけていたよ…。」
なぜそんな酷いことを…。レディは理解ができなかった。
復讐者は隠者に問う。
「お前、リトライアイを見たか?じっくりと。」
「……うん。…見たよ。」
どう思ったと、復讐者は問う。
「うん…、とても大変だった…。あのままでは…。」
「…?リトライアイが不具合でも起こしているの?」
レディは気になって聞いた。
「そう言うからには、お前は気が付かなかったみたいだな…。」
復讐者は、リーダーであるレディにも言わねばなるまいと思い、教えることにした。
「私は見た。はじめに大祝福の前で自己紹介をしているクロノを見た時から、感じていた。」
感じていたとは?レディは聞き返す。
「…………。」
私は、夜に体を蝕まれていた。この身に忍び込もうとする夜の気配を克服するのも苦労した。だからだろうな…。どんなヤツよりも、夜の気配には敏感なのだ。
眼帯の裏から漏れ出てるもの。直接見た時にはハッキリと分かった。
「ヤツのリトライアイに、いくつもの夜が渦巻いている…。」
「何ですって!!」
大きな声を出すレディに、「シーッ」っと指を手に当てる復讐者と隠者。
落ち着こうとするレディは、できるだけ音量を下げた。
「…どういうことなの!?まさか、忌み鬼との戦いであんなにリトライしたから…?」
隠者は首を振る。
「原因はハッキリしない。…でも、おそらく違う。1000回なんてものじゃなかった。あの幾つもの重なりは…。」
「ああ。そもそも、あの眼の中に見えたのは『夜』だけではなかった。」
復讐者は、間近でリトライアイを覗いた時のことを思い出す。
どこまでも深く沈むような、どこまで捻れて渦巻くような…。おぞましいのか、痛ましいのか、正体の分からないそれらが、夜の力と呼び合っているか…。
我々の知らない、我々では耐えられないものを、クロノは宿している。それでいて、あんなにも健気にしている。
「それが、何のきっかけで壊れて、死ぬか、廃人になるか分からん。ならばせめて、戦いたくなくなるまで追い込み、大人しくさせてやればいいと思ったのだ。夜の王を打ち倒すまで、食客として過ごしていればいいと。」
極端なやり方ではあるがなと、復讐者は話した。
「だが、奴は戦うことを諦めなかった。だからやり方を変えた。その内に宿した思い、鬱屈としたものを吐き出させれば、効果があるかもしれんと思った。」
結局、今もリトライアイの闇は変わらなかったがな。
謎は残るが、レディは少し安心した。
「そう…。別に、クロノを憎んでいたわけではないのね…。」
フンッと、鼻を鳴らす復讐者。
「雑魚すぎて腹が立っていたのは本当だがな。」
フフッと微笑む隠者。そして、真面目な表情に戻る。
「でも、これからクロノのことは気にかけて欲しい。本人には気づかれないように、ね。」
レディは、コクリと頷く。
「心配だけど、だからこそ、私たちがしっかりしないと…。」
レディは宴会の明かりを見る。クロノの笑い声が聞こえる。彼の明るさが、決して失われないようにしたい…。
「うん。でも、きっと大丈夫だと思う。」
隠者は優しく、復讐者の頭を撫でた。
「こんなに可愛くて、優しい子がいるんだもの。」
プイッとそっぽを向き、手から離れる人形。
「他の誰よりも、クロノの側にいてくれたから。」
「………。」
人形は目を閉じて、無表情を装った。
「馴れ合うつもりはない。…だが、利用価値を手離す趣味もないのでな。必要とあれば、世話も焼こうぞ。」
・スマホンからのお知らせ
この物語では、漫画『運命の巻戻士』におけるストーリーや設定のうち、『♾️(エンドレス)編』終了時までのものを反映しています。
そのため、現在連載中のストーリー、『巻戻士黎明編』の内容を含んでおりません。クロノの戦いの動機や、『1時(ワンオクロック)』の正体などが、今後のコロコロ本誌の内容次第で矛盾が生じる可能性があります。ご了承下さい。
・召使い人形からのお知らせ
この物語ではゲーム「エルデンリング:ナイトレイン」におけるキャラの個別ストーリー「ジャーナル」の内容を反映しておりますが、キャラごとにジャーナルの進行度合いは異なります。ご了承下さい。
また、この物語には、ナイトレインだけでなく、ゲーム『エルデンリング』本編の設定や背景を盛り込んでいます。ナイトレインの内容とは違う点や、分からない内容もあるかもしれませんので、ご了承下さい。