運命の巻戻士✖️エルデンリング ナイトレイン 作:ランドしま
3回目
2日目の朝を迎えようとしているクロノ達。夜の雨も徐々に無くなり、北西の野原に出現していた霊樹は消えようとしていた。
「よし、では次の目標を決めよう。スマホン、マップを見せてくれ。」
守護者はスマホンの画面に映ったマップを眺めた。
自分たちはマップの情報のお陰で効率よくルーンを集め、そして失うことなくここまで来た。夜の王に挑むためには、もっと強敵と戦ってルーンを稼いだ方が、より盤石になる。
この近くに『ラダゴンの赤狼』という敵がいるのは、目視でも確認していた。奴に挑んでもいいが、もっと多くの敵と戦うなら…。
守護者は仲間たちに進言した。
「砦へ行こう。」
それを聞いて、クロノは頷く。
「うん、砦なら俺も前に追跡者さんとも行ったことがあるから、自信あるよ。」
そう言って賛同するクロノだったが、そこへスマホンがツッコんだ。
「クロノさん。僕たちが追跡者さんと戦った砦は、実は比較的小規模の砦で、『小砦』と呼ばれる場所なんですよ。」
だから守護者が提案したのは、もっと大きな砦だという。
「あそこだよ。」
隠者が指を差した先には、リムベルドの中央に位置した巨大な砦。遠く離れたここからでもハッキリと、そのスケールの大きさが分かる。
「ええっ!あそこなの!?ここに来るまでに何度も見えたけれど…。」
あそこを攻めるとなると、かなり苦戦しそうだ…。クロノはゴクッと唾を飲み込んだ。
「あそこはリムベルドの中央に位置していることから、夕方になるまで夜の雨の領域になることはほとんど無い。それに、敵が一斉に襲ってくるわけでは無いから、数の差は気にしなくても良い。」
守護者がそう言うのならと、クロノも了承した。隠者も異議は無かったため、砦攻めが決定した。ただ、砦に入る前に寄りたいところがあると隠者が頼んだため、まずはそこへ向かった。
向かった先には、透明な亡霊のような者が座っていた。亡霊は帽子と外套を身につけ、竿のようなものを持っていた。
どうやらこの亡霊は商人のようで、ルーンを支払うことで様々な物を買い取ることができるようだ。
「魔法や祈祷をたくさん使うには、これが要るから。」
隠者は商人から『星光の欠片』を買っていた。精神力を回復するこのアイテムは、より強い魔法を使えるようにするため必須なのだ。クロノも何か買おうかなと品物を眺めると、守護者がアドバイスしてくれた。
「夜の王、グラディウスは聖属性の攻撃に弱い。聖属性の武器があるなら、買っても良いだろう」
それを聞いて聖属性の武器を探すと、『秘文字のパタ』というものを見つけた。
「クロノさん、それはどうやら拳にはめる武器のようです。クロノさん向きの武器だと思いますよ。」
「おお、いいな!じゃあこれ下さい!」
………。
そう思ってルーンを支払おうとするが、秘文字のパタは買えなかった。
「たぶん、ルーンが足りないんだと思う。」
「それはかなり上質な武器だからな。相応のルーンを用意しないと買えないだろう。」
夜渡り二人にそう言われて、クロノはガクッと肩を落とした。
「うう…、少しでも強い武器が欲しいんだけどなぁ…。」
落ち込むクロノに、守護者は品物とは別の方を指さした。鉤爪の指す先には鍛冶屋の使う金床のようなものが置かれていた。
「買うだけでは無く、坑道で手に入る『鍛石』を用いて武器を鍛えることもできる。」
そう言って守護者は、1日目に手に入れた鍛石で大盾を鍛えた。こうしてより強固な守りを手にすることができるのだ。
「そっか!じゃあオレも!」
クロノが鍛えたのはグレイブだった。このグレイブのリーチと扱いやすさは良かったし、『霧の猛禽』の戦技にも助けられた。聖属性の武器が手に入るまではコイツを頼りに頑張ろうと、クロノは思った。
「準備、できたね。」
「ああ、いよいよ砦攻めだ!」
「リトライは惜しまなくていい。何度でも果敢に攻めるぞ!」
そして砦へと乗り込むクロノ達。瓦礫を駆け上がって外壁上へと辿り着く。目の前に現れたのは、赤銅色の鎧と兜で全身を覆い、大剣と大盾を構えた騎士、『坩堝の騎士』だった。
(これが坩堝の騎士…、確かに執行者さんにそっくりだ…。)
クロノがそう思っているのも束の間、坩堝の騎士はこちらに気づくと同時に素早く大剣の突きを繰り出してきた。咄嗟に盾でガードするクロノ。すぐさま守護者が横槍を入れて敵を妨害する。
「二人で守り、魔法で仕留めるぞ!」
「分かった!」「任せて。」
クロノと守護者は並び立ち、後方で隠者が砕け散る結晶を放つ。確実に守り、的確なダメージを与えるフォーメーションだ。
すると、坩堝の騎士は片足を上げて石の床を踏み締めようとする。
「飛べ!」
「えっ!?」
守護者は回避するよう伝えるが、クロノの反応が一瞬遅れた。坩堝の騎士が踏みしめると、石の床が隆起してクロノ達に向かっていく。守護者はジャンプして避けたが、クロノは盾で防ごうとして弾き飛ばされてしまう。
「ぐッッ!しまったッ!」
そして目の前に迫る大剣。
ズバシュッッ!!
体勢を崩したクロノはそのまま切り伏せられてしまい、体に夜が覆い被さる。
「クロノ!今助け…」
守護者達は救出しようとするが、坩堝の騎士はクロノに跨ぐように立っており、敵の救助を阻んでいた。敵の油断のなさに歯を噛み締める夜渡たち。
「くっ…!そこを退け!」
「駄目…、ここからじゃ…。」
守護者が肉薄するが、固いガードを突き崩すことができない。隠者も魔法でクロノの夜を払おうとするが、守護者に当たってしまいそうで手が出せずにいる。
(仕方ない…ここは…、)
クロノは眼帯を思いっきり引っ張って叫んだ。
「巻き戻し(リトライ)!」
4回目
クロノ達は2日目のスタート地点、霊樹が消えた北西の祝福の前まで戻ってきた。
「くそぉ…、油断した…。」
「気にするな。我々は何度も戦った相手だから攻撃を見切れただけで、クロノは初めて戦うのだから。」
「でも、坩堝の騎士を倒せばたくさんルーンを稼げる。3人なら倒せないことはないから。」
3人がそう話しているところで、スマホンが提案してきた。
「クロノさん。ここは何度かリトライを前提に戦って、敵の動きを覚えてはどうでしょうか?幸いリトライ地点もそこまで遡らずに済むようですし。」
確かに、無理にリトライせずに慣れない戦いをして時間をかけるより、リトライして効率よく戦えるようになった方が2日目の夜の強敵までのタイムロスを防げそうだ。
「うん、俺もそうしたいな。二人とも、いいかな?」
クロノは夜渡りに尋ねる。
「私は良いと思う。クロノの精神力が疲弊しない範囲でなら。」
「私も異存は無い。巻戻士の戦い方を見せてくれ、クロノ。」
ーーーーーーーーーーー
12回目
そうしてクロノ達は砦での戦いを、リトライを使って繰り返していた。そう何度もやられまいと、クロノは敵の太刀筋や、地ならしの攻撃のタイミングを少しずつ覚えていった。そして今回は盾のガードを駆使して攻撃を耐え、地ならしの攻撃もジャンプで避けることができた。
「そこっ!」
隠者が隙をついて結晶魔法を浴びせる。怒涛の攻撃で坩堝の騎士をついに撃破した。
「よし!やったぞ!」
多量のルーンを獲得して喜ぶクロノだったが、守護者はすぐに先へと進んでいく。
「気を抜くな。坩堝の騎士はもっといるぞ。」
「えっ!こいつらそんなにいるの!?この1体を倒すのも大変だったのに…。」
しかし、この強敵をたくさん倒せば、それだけ多くのルーンを手に入れて盤石の状態に整えられるということでもある。驚いていても仕方がないと、クロノは守護者についていった。
次の坩堝騎士は大槍を装備していた。重く鋭い突きは、こちらのガードを容易く崩してくる。しかし、こちらが危ない時はすかさず守護者の大盾が守ってくれた。
「今だ!」
坩堝の騎士の大槍がハイガードで弾かれた隙を狙って、クロノのグレイブが貫く。確かな手応えと共に敵の鎧が地に染まる。クロノは未だに敵を傷つけることへの罪悪感はあったが、恐れと迷いを抱くよりも武器を振るうことに専念していた。
すると、坩堝の騎士の背中に輝く翼が生えて上空へと飛び上がった。
「飛んだ!?」
そして坩堝の騎士は大槍を構えながら急降下してくる。圧倒的なスピードと衝撃で吹き飛ばされるクロノ。
「クロノ!しまった!」
吹き飛ばされたクロノは外壁から突き落とされてしまう。しかも下には別の坩堝の騎士も配置されていた。守護者はここから助けに向かおうとしても背後を突かれ、下に降りてももう一人の騎士に阻まれてしまう状況だった。
「クロノ、リトライを!」
隠者が叫んですぐに、クロノは眼帯を外した。
「巻き戻し(リトライ)!」
13回目
今度は敵の突進に合わせて、戦技:霧の猛禽で回避した。クロノはそのまま上空からの攻撃を繰り出したが、敵は大槍を高く掲げて迎撃していた!
「うげっ!マズイ!」
危うく串刺しになりそうなところで盾を構えて防げたが、体勢を崩して倒れてしまう。そのまま上から突き刺されてしまった。
(くそっ…、戦技を使えば勝てるなんて考えは甘いってことか…。)
「巻き戻し(リトライ)!」
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20回目
無闇に近づかずに間合いを保って戦っていたが、今度は坩堝の騎士の大槍が螺旋を描いて回転し、渦巻く光を発射してきた!
ギュルルルルルル!!
「どわあああ!!なんだぁー!?」
クロノは盾ごと吹き飛ばされてしまった。まだこちらの知らない攻撃法があるようで油断ならない相手だ。
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32回目
足場の狭い外壁上での戦いはやりづらく、リトライを繰り返していたが、ようやく坩堝の急降下攻撃にも慣れてきた。クロノは敵の攻撃を潜り抜けた隙を狙って足を狙い、体勢を崩した。あとは隠者が混成魔法で魔力の爆発を起こし、トドメを刺してくれた。
「少しずつ強くなってきたねクロノ。」
「いやぁ、二人がフォローしてくれるおかげだよ。」
「次は外壁から降りて戦う。坩堝の騎士を2体同時に相手することになる。より厳しくなるぞ。」
「でも、今の僕たちならいけますよ!」
皆の士気が上がっている。この調子でルーンを稼ぎ、盤石の態勢を整えるべく勢いづいていた。
全員が外壁から降りて、2体の坩堝の騎士が向かってくる。
「さあ、かかってこい!」
クロノが盾とグレイブを構えて声を上げる。どんな攻撃でも捌いてやる!
すると、急に武器を構える腕が重くなる。いや、腕だけじゃない。全身から力が抜けていき、ガクッと膝をついてしまう。
「ウッ…!?な、なんだ…急に…!?」
クロノの脳内に何か、幾つもの目が並んでいる山羊の顔が浮かんでくる。不気味な視線に睨まれて、生気と精神を蝕まれていくような感覚に襲われる。
「皆さん!?どうしたんですか急に!?」
慌てるスマホンの声が聞こえてくる。夜渡り達もクロノと同様の症状に襲われているようだ。
「いけない…、これは…。」
「クソッ……こんな時に…!」
体力を削がれたクロノと守護者は、坩堝の騎士の攻撃を耐えることができずに負傷してしまう。急いで聖杯瓶で傷を癒すが、回復したにも関わらず体力が戻った気がしない。一体何が起こっているのか。
「ダメだ…、このままでは…。クロノ、頼む…!」
「ああ!分かった!」
原因は分からないが、今はとにかく安全を確保だ。
「巻き戻し(リトライ)!」
33回目
クロノ達は2日目のスタート地点まで戻ってきており、先ほどまでの奇妙な体力の衰えは無くなっていた。
「みんな大丈夫か?」「ああ、何ともないぞ。」「助かった、クロノ。」
皆、無事を確認し合う。そして守護者は顔に悔しさを滲ませていた。
「おのれ、軌道に乗ったかと思ったところで何という仕打ちだ…。」
守護者の言葉に隠者も頷いた。
「うん。でも、この後また呪いが起こる。対処しないとね。」
「えっ!?あれって呪いなのか!?」
クロノは二人に尋ねた。
「ああ、前にも同じことがあった。ある者がこちらに呪いをかけてくるせいで体力を削られてしまう。過去にも同じ原因で全滅に追いやられたことがある…。」
苦々しい表情をする守護者は、スマホンの方を向いた。
「スマホン。『秤を持った商人』がどこにいるか分かるか?」
「あ、ハイ!どうやら北東の丘の上にいるようです!」
スマホンの画面にマップが表示され、その商人の位置が示されていた。
「商人って、あの透明な姿をした人のこと?」
クロノは2日目の初めに買い物をした商人のことかと思っていた。
「いや、それとは全く別の奴だ。そして、その秤の商人が呪いをかけてきた犯人だ。」
「えっ!商人が呪いをかけるのか!?一体何のために…?」
クロノの問いに対して、フゥ…と溜息をついてしまう隠者。
「呪いを解いて欲しければルーンを差し出せって言うから、ルーンが欲しいだけなのかな…。よく分からないの…。」
そ、そんな嫌なヤツがいるのか…。なんて迷惑な…と、クロノは愕然としていた。守護者は嘴に指を当てて、考えを口にしていた。
「しかし、どうする…。呪いを解くためにはルーンを多量に払わなくてはならない。ここから真っ先に北東に向かいつつ、道中の敵を倒してルーンを稼ぐべきか。しかし、それだと初めに商人の所で手に入れるはずの物を諦めることにもなるし、北東から中央の砦へ引き返すのも時間がかかるな…。」
折角リトライを繰り返して、坩堝の騎士との戦闘に慣れてきた頃にこの様な事態になっては、計画が大きく狂わされてしまう。坩堝の騎士から手にできるルーンはかなりの量なので、それを諦めるのも惜しい。さりとて呪いを解かずに戦うのは自殺行為だ。そこでクロノが提案した。
「ねえ、呪いを解くのに必要なルーンって、坩堝の騎士何体分くらい必要かな?」
それを聞いて、隠者が答える。
「うーん…、2体…ううん、2.5体分くらいかな?」
それを聞いてクロノが頷く。
「それならさ、俺は初めに行く商人の所ではグレイブを鍛えるだけでルーンを使わないから、坩堝の騎士を2体倒したら速攻呪いを解きに行こう。俺の手持ちのルーンと合わせれば足りると思うし。」
「なるほど。それなら今までのルートから大きく逸れることなく呪いを解けそうですね。」
スマホンもクロノの提案に頷いていた。守護者はクロノのアイディアに理があると分かってはいたが、唸りながら躊躇っていた。
「…しかしな、クロノが折角集めたルーンを払っては、グラディウスとの戦いが厳しくなる…。特にクロノは今回初めて戦うのだから尚更だ。やはりここは私が払って…。」
「いやいや、守護者さんこそチームの生命線なんだから、しっかりルーンを貯めてもらわないと。ここは俺が…。」
クロノと守護者は互いに自分が払うと言い合って引かなかった。まるで食事代を自分が払うからと気を遣い合っているような光景に、スマホンは思わず苦笑いしていた。それを見かねた隠者が鶴の一声。
「もう…、そういうのは1日目にも見たよ。取り敢えず今回は先に提案したクロノに払ってもらうことにしよう。その分、私たち二人がしっかり頑張ろう。」
先生にそう言われては、堅物の騎士も思わず頷くしかなかった。
「は、はい…。分かりました…。済まんなクロノ、埋め合わせは後で必ずしよう。」
やっぱり食事代の話みたいだと思ってクスッと笑うスマホンだったが、会議の時間も長くは取れない、すぐに行動しましょうと皆に促した。
そして予定通り坩堝の騎士を2体倒してすぐに北東へ向かうクロノ達。彼らが向かっている途中、前回と同じように呪いが降りかかった。幾つもの悍ましい目玉に睨まれて、精神と肉体が磨耗していくのを感じる。幸い走ることはできたので、道中の敵には目もくれず、全員は真っ直ぐ目的地まで強行突破した。
向かった先には、黒い外套で頭から全身を覆ったものが立っており、その手には秤があった。これが例の秤の商人だ。
「ぜぇ…はぁ…、やっとついたぞ…。くそぉ…
、ルーンは払うからサッサと呪いを解いてもらうぞ…。」
クロノは恨みを口にしながら手を差し出した。すると、秤の商人の頭上に光る紋様が浮かび上がり、
「Make your choice (選択せよ)」
と、低い声で尋ねてきた。クロノの目の前は光る文字が浮かび上がっており、そこには狭間の地の文字で『ルーンを支払い呪いを解除する』と書かれていた。文字の勉強をしてきたのがこんなところで役に立つとは思わなかったクロノは、迷わずその文字を指さした。
「これだ!ルーンは貯めてある、持ってけ!」
クロノの手からルーンが抜けていき、秤の商人の方への吸い込まれていった。
「It is done. (決まりだ)」
そうしてクロノ達の呪いは解かれ、皆が活力を取り戻した。
「フゥ…、これで解決だ。助かったぞクロノ。」
守護者はクロノへ礼を言った後に、商人の方を向いた。
「さて、では取引をしようか…。」
それを聞いて、クロノはよく分からない様子だった。
「取引?呪いの交渉なら今やったばかりだけど…?」
何を話しているのが分からないクロノに、隠者が説明した。
「この商人はね、呪いを解くのにルーンを払わせたのと引き換えに、何か一つ望みを叶えてくれるの…。」
すると、クロノ達の目の前に再び文字が浮かび上がってきた。そこには、「聖杯瓶をせしめる」、「強力な武器をせしめる」、「ルーンをせしめる」等と書かれていた。折角苦労してここまで来たのだから、後悔しないように選びたい…。そう思って悩むクロノだったが、あまり時間をかけていると夜の雨が迫ってくる。
「…よし、じゃあ強い武器をくれ!」
クロノがそう叫ぶと、目の前に現れたのは全体がエメラルドのような美しい翠色の石で作られた長物だった。
「おお!キラキラしててレアっぽい!絶対強いぞコレ!」
クロノは喜んでいたが、スマホンがスキャンしてみると…、
「クロノさん…、それはどうやら杖のようです…。クロノさんより隠者さん向きかと…。」
『アズールの輝石杖 カテゴリー:杖 魔法:彗星アズール』
ぬか喜びだったと肩を落とすクロノ。でも隠者ならきっと役立ててくれるだろう。
「あの…、これ…どうぞ…。」
クロノはそう言って、落ち込んだ様子で隠者に杖を渡そうとする。
「いいんだよ、クロノが使っても。クロノも精神力は高いんだから、魔法を使うのも悪くはないと思う。」
それに、この杖の魔法は非常に強力な代わりに燃費が悪く、大量に魔力を消費するらしい。クロノの精神力ならその問題も克服できるかもしれないと、隠者は提案した。
しかし、かつての適正検査で魔法を使った時はコントロールが皆無であったのを思い出した。もし強力な魔法を制御できず、味方を吹き飛ばしたりしたら…、
(この味方殺しがッ!!)
間違いなく、復讐者からの鉄拳制裁だ…。
「いや、やめておくよ…。味方も自分も傷つけたくない…。」
「そう…、それならありがたく貰うね。」
隠者はそう言って杖を受け取った。
「それなら、私も武器を貰おうかな。クロノ向きの武器ならあげるね。」
そう言って隠者も強力な武器をせしめた。目の前に現れたのは、十文字槍に逆巻く枝がいくつも施してある『シルリアの樹槍』と呼ばれる物だった。
「これって、さっきの坩堝の騎士が持っていた物と同じですね。」
スマホンの言う通り、この大槍は坩堝の騎士の装備であり、古い聖性が宿っている。夜の王グラディウスの弱点である聖属性の武器は、間違いなく大当たりだ。
「良かった、良いものが出てきて。はい、クロノ。」
「ありがとう!どれどれ…。」
樹槍を受け取ったクロノは試しに突きを繰り返してみる。ブンッ…ブンッと、大きな穂先が空を貫く。
「……うん!コレ、俺にも使えそうだよ…!」
クロノはニッコリ笑って隠者にお礼を言ったが、守護者がジーッと見つめてくる。
「……クロノ、そのままじっとしてみろ。」
「えっ!?な、なんだよ急に…。」
守護者に睨まれたクロノは、蛇に睨まれた蛙のように静止していた。体は何とも無かったが、程なくして大槍を持つ腕がプルプルとバイブレーションしていた。
「あの…、クロノさん…、本当は重いんじゃ…。」
図星を突かれたクロノは、大槍を手放してガクッと床に突っ伏した。
「ゴメン……、折角譲ってもらったのに…、使えませんなんて言えなかったんだ…。」
ハァ…と、守護者はため息をついた。
「やはりな…。穂先が震え、突きの方向が定まらないのが一目で分かった。」
重しを載せられたかの如く肩を落としたクロノ。
「すみません…、見栄張ってました…。あれもコレも使えないのってカッコ悪くて、つい…。」
そう言ってクロノは守護者にシルリアの樹槍を渡した。
「守護者さんなら使えるよね。今も大きな槍を持ってるんだし。」
「ああ、済まんなクロノ。」
クロノは守護者に樹槍を渡しながら、内心では残念さを拭えずにいた。
(……、オレが使える武器が出るまでリトライしたら、ダメかな…。)
しかし、そんなことをしては二人に迷惑をかけるのは明白だ。今回は運が無かったと諦めよう…。
そして、守護者は秤の商人の方を向いた。残すは守護者の要望だけだ。
だが、その前に守護者はクロノと隠者に確認を取った。
「済まないが、私はどうしてもこの商人に取引をしなければいけない物がある。飽くまで個人的な要件の為にだ。それでも構わないだろうか…?」
隠者もクロノも頷いて答える。
「うん、大丈夫。」
「オレも。守護者さんの好きなようにしてよ。」
守護者は二人に感謝して、秤の商人に要望を伝えた。
「私が欲しいのは……、」
「書物だ。」
書物?商人が示した文字の中には書物のことなんて書いてなかったはずだが…。クロノは首を傾げており、一方で隠者は静かに守護者を見つめていた。
「持っているのだろう…?」
「………。」
守護者に問われた秤の商人は、目の前に一冊の書物を出現させた。
「It is done. (決まりだ)」
秤の商人が呟くように答えて、取引を受け入れた。守護者はその本を受け取り、懐に収めた。
「守護者さん、その本は何なんですか?」
スマホンに尋ねられた守護者は、真剣な面持ちで答える。
「……、ある調べ物のために重要な物でな…。この商人が持っているということを、以前から突き止めていたのだ。」
それを聞いて、クロノとスマホンはそれ以上聞くことは止めておいた。彼の表情や話し方は厳格な物であり、他人を寄せ付けない雰囲気を感じていたからだ。この書物のことは、あまり詮索しない方が良いのかもしれない。隠者も視線を逸らして守護者や書物を見ないようにしていた。
守護者は手にした書物を見つめていた。
彼が探し求めていた書物は、己の翼を奪った忌まわしき呪いの刃『イクタルス』のことを記した物であり、3冊で構成されている。これまでに2冊目までは入手しており、これが最後の3冊目だ。
以前、円卓に訪れて粗悪なお守り…、いや、呪具を売りつけた商売人。彼が持っていた帳簿には、この本を悪魔に譲渡したと記されていた。「悪魔」と名のつきそうな存在…、取引を持ちかける悪魔…、それを考えた時に思い当たったのが、この秤の商人だった。そして現にこうして書物を手に入れ、自分の予想は正しかったのだと守護者は確信した。
本来ならすぐにでも内容を検めたいのだが、今はまだその時ではない。目の前の問題を片付けてから、しっかりと読もうと心に決めて、守護者は書物を懐に仕舞った。
「さて、ずいぶん手間取ってしまったな。スマホン、雨の範囲はどうなっている?」
守護者に言われて、スマホンは画面にマップを表示した。
「北西方面から雨が迫ってきてますね。中央の砦はまだ大丈夫のようですが、どうしましょう?」
「砦の敵を倒せば多くのルーンを手にできるが、また戻るのにも時間がかかる。それよりも近場の敵を倒した方が無駄が少ないだろう。」
近くには野営地や小砦の他に教会もある。拠点の敵を制圧しつつ、聖杯瓶も補充できるので悪くはないだろう。と、守護者は意見を述べた。
「じゃあ、近くの敵を倒そうかな。ついでにアイテムも回収できるといいね。」
隠者も賛同した。
「よしっ、払ったルーンを取り戻すぞ!」
クロノも声を上げて気合いを入れる。一同はすぐに行動に移り、その場を後にした。
「………。」
去っていくクロノ達を、秤の商人は何も言わずに見送っていた。彼の企みも思惑も分からぬまま、夜の気配がクロノ達を追い立てて行った。黒い外套の裏では、幾つも並んだ商人の目が夜渡り達を眺めていた。彼らの行先が、余すことなく公平であることを望みながら…。
そして、クロノ達は小砦の結晶人や野営地の失地騎士などを相手に戦い、ルーンや装備を回収して行った。いずれも厄介な敵ではあったが、坩堝の騎士ほどでは無かった。油断したクロノがダウンしたとしても、守護者のフォローによって事なきを得ていた。
「皆さん!もう雨が迫っています!霊樹の位置も確認したので向かいましょう!」
スマホンが全員に危険を知らせる。守護者や隠者はすぐに霊樹へ向かおうとするが、クロノは近くにある木箱を漁っていた。
「ちょっと待ってくれ!もう少しアイテムを…。」
ギリギリまで粘ってクロノはアイテムをかき集めた後に、夜渡り達へと追いついた。
「随分粘っていたようだが、焦りすぎるなよクロノ。」
あわてん坊なクロノに説教する守護者。クロノもゴメンゴメンと謝る。
「何か、良い物あった?」
隠者が尋ねると、クロノは集めた成果を見せてくれた。
『星光の欠片』これは隠者の欲しがっていた物だから、アタリだ。
『聖脂』グラディウスが苦手とする聖属性を武器に付与するアイテム。これもアタリだ。
『ゆでエビ』美味しそうだから、大当たりだ。
「いや…、そのエビも防御を高める効果がある物ですから…。オヤツじゃ無いですからね…。」
スマホンがツッコミを入れるが、そんなことをしている間にも夜の雨が迫ってくる。クロノ達は急いで南東に出現した霊樹の元へ向かう。
「この近くに霊鷹に乗れるポイントがあります!一気に霊樹までいけますよ!」
ナビのおかげで霊鷹の来るポイントまで辿り着き、空から移動するクロノたち。霊鷹は円卓に帰る時だけでなく、リムベルド内の移動にも使えるのだ。霊鷹に掴まるクロノは上空から周囲を見渡す、背後を見ると自分たちが先ほどまでいた所は既に夜の雨に覆われていた。
「こういう急ぎの時には助かるなぁ。」
そうして空中を移動していき、目的地である霊樹の下へと辿り着いた。
「皆さん、ルーンの集め具合はどうでしょうか?」
スマホンがクロノ達に確認の時間を取った。2日目の夜が訪れれば霊樹の下に強敵が現れるが、まだ時間はある。今のうちに皆の状態を確認すべきだ。
「私は十分溜まったよ。クロノのお陰でいい杖も貰えた。」
隠者はアズールの輝石杖を手に持って微笑んだ。星光の欠片も十分にあるので、魔力切れの心配もなさそうだ。
「私も良好だ。」
守護者はシルリアの樹槍と、強化済みの大盾を構えて見せた。ルーンも十分な量を力に変えている。
「俺は…、何とか行けるかどうか……。いや、やってやるさ!」
グレイブとカイトシールドを構えるクロノ。夜渡り達よりルーンの総量は少ないが、使えそうなアイテムもあるし、今の装備は十分に使いこなせるようになってきた。今あるものを最大限に活かすしかない。
「私が予備に持っているツリースピアを使うか?これも聖属性を内包した武器だ。」
守護者はそう言ってツリースピアを見せるが、クロノは首を横に振った。
「大丈夫。グレイブの方が慣れてるし、聖属性ならアイテムを使えば補えるよ。」
守護者は分かったと答え、樹槍の方に持ち替えた。
「皆、この状態なら問題無さそうだな。あとは本番あるのみ。」
気を引き締める守護者に対して頷く隠者。
「前はもっと、酷い状態で戦うこともあったからね。あの時より、ずっといい。」
「もっと酷かったって、何があったの?」
と、クロノは尋ねる。隠者は目を伏せて、今までの戦いの日々を思い出した。
「初めの頃は、どこへ向かえば良いのか分からくて、同じところをぐるぐるしてた。」
雨が迫ってきて逃げようとしたら、崖が立ち塞がって敢え無く夜に飲まれたこともあった。
「そもそもどこまで行けば、より良くルーンを集められるかも、どんな拠点が存在するのかも知らなかった。」
守護者も腕組みをしながら過去の苦しい戦いの記憶を語ってくれた。
秤の商人の呪いの解除法が分からず、呪いを抱えたまま決戦に挑んでボロ負けしたこと。
初めて戦う敵ばかりで、誰もが経験不足で対処できなかったこと。
忌み鬼が奇襲を仕掛けてきたせいで、折角集めたルーンを落としてしまい、そのルーンが夜の雨に遮られて回収できなかったこともあった。
「グラディウスに辿り着く前に負けることも、奴を撃破寸前まで追い込んでおきながら敗北したこともあったな。」
守護者がそう話しており、隠者も深く頷いた。
「本当に、何度も何度も…戦い続けてきたんですね。」
スマホンも彼らの苦難の道を思い知り、畏敬の念を抱いた。
「我らには、先達がいなかったのだ…。」
夜渡りと言う存在。戦いに精通するものはいても、自分たちの師としてリムベルドや夜の王との戦いを教えてくれる人はいなかった。円卓の巫女であるレディも、今では皆を率いる毅然としたリーダーになっているが、初めて円卓を司る使命を背負うことになった時には孤独と困難に苛まれたことだろう。
ただひたすら失敗し、負け続け、励まし合い、学んでいくしか無かったのだ。
「その敗北も、この時のための積み重ねだ。此度は必ずグラディウスを仕留めてみせる。」
決意を固める守護者。それを見てクロノも頷く。
「ああ!俺は初めて戦うけど、やってみせるよ!」
でも、その前に2日目の強敵を倒さないとねと、クロノがそう言うと同時に目の前に夜のモヤが現れた。
「来ます!敵は……、3体です!」
現れたのは3体の騎兵たち。中央に構えるのは巨大な黄金の斧槍と大盾を装備した『ツリーガード』。その左右にいるのは槍を装備した『王都の騎士』だ。全員が自身と馬に黄金樹の象徴たる黄金色の鎧を装備していた。
ダダダッ!と、騎兵たちは散開してそれぞれこちらへと取り囲むように馬を走らせてきた。包囲されれば、機動力に劣るこちらが不利になる。
「各個撃破で行くぞ!ツリーガードは私が引き受ける!」
「分かった!スマホン、誰かやられたら教えてくれ!」
クロノは目の前の敵を見ながら仲間の方を見る余裕はないが、スマホンが教えてくれるなら、味方が危なくなる前にリトライができるからだ。
「了解しました!」
スマホンも気合を入れる。自身は戦闘ができない分、それ以外でサポートしなくてはと心に決めている。
「来る…!」
隠者は杖を構え、真剣な眼差しで敵を見据えた。
一体の王都の騎士が、隠者目がけて突進してくる!それをひらりと回避したのを皮切りに、クロノと守護者も自分の相手へと接近していった。騎兵の走る軌道と馬上の高さからの攻撃、それらを潜り抜けながら側面、背面からの攻撃を加えなくてはいけない。クロノや守護者の斧槍や大槍などの長物は、こういう戦いではリーチの長さを活かして戦いやすい。隠者も結晶魔法で敵の射程外から攻撃を加えていく。
ザザザッ!と、騎兵がクロノの目の前で立ち止まり、頭上から槍を何度も突き続ける。クロノはガンガンッと盾で受け止めるが、敵のパワーもかなりのものだ。
(やられっぱなしでいられるかっ!将を欲するなら、まずは馬を射よ…だ!)
敵の攻撃の隙を狙って、グレイブで馬の後ろ足を切り裂いた。
「ヒヒィィン!」
馬が仕返しと言わんばかりの力で後ろ足を蹴り上げ、グレイブを蹴飛ばされそうになる。
うおっ!っと、クロノは手放さまいと堪えていたが、そのせいで姿勢がふらついてしまう。
ズバシュッ!
その隙を狙われて、槍で貫かれてしまう。地に臥したクロノの近くに仲間はいない。守護者と隠者はクロノがやられたことに気づいてはいたが、敵の猛攻の前では助けに行く隙もなかった。クロノは痛みに耐えながら、夜に蝕まれる前に急いで眼帯を外す。
「巻き戻し(リトライ)!」
34回目
クロノたちは霊樹の下、ツリーガードたちが現れる前の時点まで戻ってきた。
「クロノ、大丈夫?」
「うん、何とか…。迂闊に馬に攻撃したのは良くなかった…。」
クロノは心配している隠者に返事をしながら、次の手を考えていた。走り回る騎士を止めるには馬を仕留めないといけないが、その馬自体が強力で止めようがない。突進を回避しても、すぐに距離が離れるのでカウンターの隙もない。隠者の魔法なら回避しながら遠距離から攻撃してダメージを与え続けられるが、隠者が受け持っている敵を仕留めたらこちらに加勢してもらおうか……。
「それでもいいと思うよ。でも、こっちも地道な戦い方しかできないから、倒すまでには時間かかると思う…。」
隠者がそう答えてから間も無く、ツリーガード達が出現した。
「作戦会議の時間なんか与えないってことか…。仕方ない、戦いながら考えるだけだ!」
頭を切り替えて武器を構えるクロノに、守護者は声をかける。
「騎士の攻撃は強力でスピードもあるが、動きには制限がある。敵と周囲の状況をよく見て戦え!」
今度は突進を回避したタイミングで、すれ違いざまに切ろうとしたが、武器が突進の勢いに巻き込まれて吹き飛ばされてしまった。クロノは武器を拾おうとしたところをツリーガードに気づかれて叩き潰されてしまった。
ーーーーーーーーーー
55回目
グレイブやシミター、カイトシールド等の装備を投擲して騎士を落馬させようとするが、走る相手にはうまく当てられない。
ーーーーーーーーーー
69回目
シールドを思い切り顔面にヒットさせた!
しかし相手は頭を押さえてふらつくだけで、落馬はしなかった。敵もかなり頑丈なようだ。しかし…、
「うぐっ!?」
あろうことか、敵にぶつかって跳ね返った盾が守護者の方へと飛んでいき、背中に衝突しまった。
「ああっ!そんなハズじゃ…!」
「守護者さん、危ない!」
己の過失で青ざめるクロノの声を遮るようにスマホンが叫んだ。
ふらついている守護者に向かって、ツリーガードが大きく飛び上がり、大盾で押し潰してしまった。
「ぐおおっ!!」
仰向けに倒れた守護者の周りを夜が覆う。このままでは彼が完全に飲まれてしまう。
「いま助け…
「右ですクロノさん!」
駆けつけようとしたクロノは咄嗟に後ろへ飛び退いた。目と鼻の先を騎士が駆け抜けていく。スマホンが押してくれなければ下敷きになっていたところだ。
隠者も魔法で夜を払おうとするが、目の前の敵に圧倒されて助けに行く隙がない。
「クロノっ…リトライを…!」
「ああ!分かった! 巻き戻し(リトライ)!」
70回目
リトライによって守護者の負傷した体は元に戻った。フゥーっと息を吐いて安堵するクロノと隠者。
「危なかったね、さっきのは…。」
「うん…、守護者さんごめんよ…。」
謝るクロノに対して首を横に振る守護者。
「謝ることはない。次こそ命中させるのだぞ…。」
守護者はそう言って宥めるが、クロノはもう投げるのは止めておくと誓う。
「いや…、あんなことになるなら投げない方がいいよ、味方を傷つけるなんて…。」
「…ん?味方を傷つけたとは…、何のことだ?」
よく分かっていない守護者に、隠者が首を傾げながら話しかける。
「ほら…、さっきクロノが投げた盾があなたに…。」
しかし、そう言われても守護者はよく分かっていなかった。
「いや、そんなことは無かったと思うが…?二人とも何を話しているのだ…?」
守護者の様子を見てハッとするクロノとスマホン。
「あっ!そう言えばさっき守護者さんが夜に飲まれている時にリトライしちゃったから!」
「そうでした!そのループでの記憶を忘れてしまうんでした!」
忌み鬼と戦った時も同様の出来事があったことをすっかり忘れてしまっていた。クロノとスマホンは夜渡りたちに、事情を説明した。
「何と、そのようなことが…。」
「そっか…。リトライで助かるとしても、忘れてしまうのはとても不利になるね。」
リトライの利点は、失敗した原因を把握して次の手を有利に打てるようになることだ。しかしその記憶が無くなれば、例え仲間から忘れてしまったループの記憶を教えてもらったとしても、そこには『経験』が伴わなくなってしまう。経験した失敗と、失敗の情報とでは、得られる反省の意味合いも、危機感も異なってしまうのだ。
「なるほどな…。リトライを当てにして捨て身の戦法などの、犠牲を前提にした戦いはできないということだな。今後は更に気を引き締めねばならんな。」
そう言って納得した守護者だが、クロノの方へ鋭い鷹の目をジッとむけてきた。
「…と言うか、クロノ……お前という奴は何と言うことを…。」
私ならまだしも、もし隠者殿に当たってしまったらどうするんだと怒りを露わにした。
「ごめん…、もうあんないい加減なことはしないから…。」
クロノは深々と頭を下げて謝罪した。隠者はまあまあと宥めている。
そんことを話している間に、もう敵が現れた。スマホンが慌ててよびかける。
「来ますよ皆さん、気持ちを切り替えていきましょう!」
敵の突進を交わしつつ、何とか攻撃を加えていくクロノ。しかし一瞬でも避けるタイミングを間違えば命取りだ。更には3人で敵を一体ずつ受け持っているつもりでも、敵の方が標的を絞って二人がかりで襲うこともある。そう思っている間に、クロノの目の前を駆け抜けていった騎兵が隠者へと向かっていく。
「隠者さんっ、そっち行ったよ!」
隠者は避けるのが間に合わないと見ると、カーリアの大剣で迎え討とうとしたが、敵の推進力を殺しきれずに相打ちになってしまった。
「ううっ!」
騎兵が落馬して消え去ると同時に、夜に包まれる隠者。
「先生っ!」
守護者は急いで『救世の翼』を用いて隠者を救出した。救助が間に合って起き上がる隠者。彼女は自身の失敗を嘆くような間もなく、次の手を考えていた。
「『カーリアの大剣』では迎撃するのも無理そう…。」
「では、やはり避けながら戦うしか…。」
守護者は大盾で隠者を守りながら問いかける。それに対して、隠者は翡翠色の杖を持ってみせた。
「こっちを使う方が早い。でも、タイミングが難しい。」
守護者も魔法の勉強をしてきたので、その杖の意味するところは理解していた。
(タイミング…、もっともこの魔法を効率よく扱える場面…。)
守護者は頭で考えを巡らせるが、迫り来る攻撃を耐えていては思考が追いつかない。
「頼むクロノ、リトライを!」
「う、うん!」
仲間の声に従い、素早く眼帯を引っ張った。
「巻き戻し(リトライ)!」
71回目
敵が出現するまで、クロノ達は作戦会議をしており、ツリーガード達が現れると真剣な目で向かい合った。
「よし…、行くぞ!」
クロノと守護者は一体の敵に集中するのではなく、とにかく駆け回って敵の注意を引くようにしていた。
「こっちだこっち!鬼さんこちら〜!」
「どうした!?かかってこい!」
駆け回る二人を追いかけるツリーガード達。突撃を回避しても、馬は再び旋回してこちらへ向かってくる、……はずだった。急に馬が急ブレーキをかけて、いなないた。
「ヒヒィィン!」
「ブルルルルッ!」
馬の足元には、グラグラと熱気を巻き上げる溶岩があったのだ。隠者が手に入れたゲルミアの輝石杖から放たれた『溶岩弾』によって形成された溶岩溜まりだ。走り回る騎兵も、これを使えば足止めできる。騎兵は手綱を引き、すぐに馬の向きを変えようとするが、振り向いた先にも溶岩が地面を焦がしていた。
クロノと守護者が敵の注意を引いている間に、隠者は敵を取り囲むように溶岩弾を発射し、敵の行動範囲を狭めていたのだ。
「もっと…、もっと…!」
更に放たれる溶岩の塊。ツリーガード達はそれを避けるように馬を移動させるが、次第に彼らの安全地帯は隠者に向かって縦一線に並ぶように縮小されていく。
「狙い通りだ…!」
「隠者さん!今だ!」
二人に呼びかけられ、隠者は翡翠色の杖『アズールの輝石杖』を取り出しながら、自らの血の刻印を刻もうとする。しかし…、
ガバッと、二人の騎兵を守るかのようにツリガードが正面に立ち、黄金樹の大盾を構えた。
「くっ……!」
隠者は咄嗟に構えを解いてしまう。その隙を狙って、ツリーガードは馬を高く飛び上がらせて溶岩溜まりを越え、隠者を押し潰そうとする。
「しまったっ!先生っ!!」
「巻き戻し(リトライ)ッ!」
72回目
「隠者さん、さっきはどうして攻撃を中止したんですか?」
スマホンは絶好のチャンスで攻め込まなかった理由が気になって質問した。
「あの『黄金樹の大盾』は、あらゆる魔法や祈祷の攻撃を反射するから…。すっかり忘れていた。」
隠者はかつて、自らの魔法をツリガードに反射されて敗北したことがある。それを繰り返すまいと、ツリガードと戦う時は必ず死角から攻めるように心がけていたのだが、うっかりしていた。
「魔法を反射するのは大盾だけだ。盾を構えられる前に撃てれば良いのだが、ああやってわざとらしく溶岩で行動範囲を狭めていては、こちらの企みにも気づかれるか…。」
追い込まれた敵は、魔法で溶岩を放つ隠者の方へ注意が向いていた。取り囲むのに成功しても、決め手のあの魔法を使う時になるとあの盾を構えてしまうだろう。
「敵のヘイトを他の人に向けたいところですけど…、溶岩で囲んだ後にお二人が牽制をかけるのはどうでしょう?」
スマホンはクロノと守護者に問いかける。
「うーん、あんなに溶岩で囲まれているところに突っ込むのはなぁ…。」
「できなくはない。だが、我らが牽制をかけた直後にあの魔法が飛んできたら、避けられるか否か…。」
二人は自信が無さそうにしている。しかし、ただ否定するのではなく代案を考えなくては…。二人とも知恵を絞っていた。
「やっぱり、隠者さんがたくさん魔法を撃っているから警戒されちゃうんだよね…。」
敵の注意を引くこと、そして魔法を跳ね返す大盾。この二つを解決するには…、クロノは顔を上げて隠者の方を見た。
「あのー…、俺が溶岩弾撃ってもいいかな?」
「エッ!?クロノさんが魔法を!?」
隠者が答えるよりも早く、スマホンが彼の提案を聞いてビックリしていた。
「うん、いいけど…、何かいい方法があるの?」
隠者はゲルミアの輝石杖をクロノに渡しながら尋ねる。
「敵を囲むように溶岩弾で追い込むのは良いんだけど、どうしても魔法を使っている人が警戒されちゃうから、肝心のトドメの時に魔法を反射しようと構えられちゃうんだ。」
だから、溶岩弾の追い込みは自分が引き受け、魔法への警戒を隠者から自分へ向けてもらうという狙いだ。
「でもクロノさんが魔法を撃ったら、あべこべな方向へ飛んでいっちゃうんじゃ…。」
スマホンが心配そうにしているが、クロノは平然と答えた。
「それなら大丈夫、こうすればいいんだよ。」
そう言ってクロノは地面に向かって杖を構えていた。遠くへ飛ばさず足元に放てば、仲間に当たってしまう心配はないということだ。
「なるほどな…。しかし、盾の方はどうする。いくらクロノの方へ敵の注意を引いても、先生が魔法を放とうとした瞬間に気づかれて、盾を構えてくるかもしれん。」
「うん、盾の方は…。」
クロノがそう言いかけている最中にツリガード達が姿を現した。
「しまった…時間切れ。」
隠者が作戦会議が中断されたのを残念がりながら、すぐさま戦闘体制に移行する。
「ああもうっ!まだ話してないのに…!」
悔しそうにしながら駆け出していくクロノ。振り返りながら守護者に呼びかける。
「盾も俺がなんとかするから!守護者さんは敵の追い込みをお願い!」
「あ、ああ分かった!」
守護者は話の続きが気になったが、今は考えるより動くのが先決だ。クロノは追い詰められるほど機転が効くようになるのは、彼も理解していた。きっとクロノの作戦なら上手くいく、今は彼を信じて己の役目を全うするまで。守護者はそう決意した。
「アチチチッ!まだまだぁ!」
クロノは三体の敵を取り囲むように走りながら、逆手に構えた杖先から地面に溶岩弾を発射していた。まるで鉛筆でぐるぐると渦を描くように溶岩溜まりの線が引かれていき、その円の中央へと敵を追い込んでいく。
(あんなに魔法を放って、まだ動けるなんて…。)
隠者は改めてクロノの異常なまでの精神力に驚かされた。しかし、流石のクロノも絶えず魔法を放っているせいでヘロヘロに弱っていた。
「それなら、これの出番…。」
隠者は自らの血で作り上げた魔術の烙印を振り撒き、ツリーガード達に刻みつけた。隠者が用いる秘奥の魔術『血魂の唄』である。
「………ッ!……アアッ!」
「ブルルルルっ!」
血の烙印を刻まれたツリーガード達と馬は、悍ましい感覚に怯えながら弱体化していった。そして、敵が溶岩の火傷で負傷した傷跡から血液が滲み出て、それが光となってクロノへ吸い込まれていく。
血の烙印を刻まれた敵に攻撃を加えると、その敵から体力や精神力を奪い取り吸収することができるようになる。守護者も敵を追い立てる際に負った傷を、敵に攻撃することで癒すことができていた。
「ありがとう隠者さん!これなら行ける!」
回復した精神力を魔力に変えて、溶岩の囲いをどんどん狭めていくクロノ。
そして遂に、敵が縦一列になるまで追い詰めるのに成功した。
(先生、好機です……!)
守護者のアイコンタクトに隠者は頷く。そしてアズールの輝石杖を構えようとするが、
「……!!」
ツリガードが咄嗟に振り向いて盾を構えようとする。
(だめ…、気づかれた…!)
隠者はまた失敗したと思ったその時、
「うおおおおお!」
クロノが大声を上げながらツリガードに突進していく。
「クロノさん!無理矢理突っ込んでは…!」
スマホンが止めようとするも手遅れで、ツリガードの斧槍がクロノを突き刺そうとする。
(ここだっ…!)
クロノは戦技『霧の猛禽』を発動し、敵に貫かれる一瞬の隙にツリガードの真上まで飛び上がった。そして馬上に無理矢理乗って、敵が大盾を握っている左手へ掴み掛かった。
敵の腕に全体重を乗せて、盾の動きを封じた。ツリーガードはクロノを振り払おうと左手をブンブン振り回す。
「隠者さん!俺に構わず撃ってくれ!」
「そんなっ…!」
「馬鹿なっ!よせクロノ!」
「クロノさん無茶ですよ!」
自分ごと撃たせる…、そんな無茶なことをするなんてと、全員が戸惑ってしまう。
「は…早くっ!……もう保たない!」
クロノは振り落とされそうになり、溶岩も囲いも時間と共に消えかけている。今を逃してはいけないとクロノは叫んだ。
「……っ!」
意を決して隠者は杖を構える。杖の先に翡翠色の魔力が溢れ、その奔流が彗星の如く放出される。源流の魔術師の一人、アズールの魔術『彗星アズール』である。
「ハアアアッ!!」
巨大な魔力が敵の眼前へと迫っていき、クロノは咄嗟にツリガードから離れた。
ゴゴゴゴゴッッ!!
まるで濁流に飲まれていくかのように、魔力の洪水に押し流されていくツリガード達。クロノは目と鼻の先で巻き起こる圧倒的な光景、魔法の真髄に触れて驚嘆した。
「すごい…、少し遅れていたら危なかった…。」
運が良くて助かったと息を漏らすクロノ。
しかし、その背後で大きなため息が聞こえる。
「運ではない…、私が守ったのだ…。」
守護者はクロノの後ろで大槍を地面に突き立てていた。『救世の翼』を発動させて、そのオーラが現在進行形でクロノを守っているのだ。
「私が間に合わなければ、今頃遥か彼方に吹き飛んでいたぞ…。」
「ご、ごめん…。」
そして、隠者の魔力が尽きると彗星は消え、敵は跡形もなく消し飛んでいた。
「フゥ…。終わったね…。」
隠者はクロノの無事を確かめると、ホッと胸を撫で下ろした。
「全く…、誰も犠牲にしないと言っておきながら、自分は捨て身の戦法を取るというのは何事だ!」
守護者はカンカンに怒りながらクロノに説教していた。追跡者やレディから聞いていたが、そもそもお前は自分の危険を全く考えなさすぎだ、人の心配も知らずに…等々、言いたいことを山程畳み掛けてきた。
「ごめん…、ごめんなさい…。」
クロノは正座して頭を下げるばかり。
「本当ですよっ!もっと言ってやって下さい守護者さん!」
スマホンも、無茶ばかりする相棒を叱ってやってくれと守護者に言い聞かせていた。
「もう…、その辺にしようよ…。それにほら、来たよ。」
隠者が指差す先には、戦場だったこの地の中央に、上空にある霊樹から垂れてきたような、透明な樹液のようなものが見えた。その樹液は垂れているというより、上に向かって伸びているようにも見えた。
「…はぁ、もうよい。説教は無事に帰った後にしよう。」
「う、うん。(えぇ…、やだなぁ…。)」
守護者とクロノは隠者の指差す先へと向かった。
「ここに入れば、霊樹の中に移動できる。そこから、夜の王の待つ場所まで行ける。」
隠者が説明するには、この樹液のようなものに入り、霊樹の中に到達した時には3日目に突入しているようだ。そこで最終準備を整えて、いよいよ夜の王との決戦だ。
「そうか…。そして、その夜の王『グラディウス』を倒せば、戦いは終わるんだね。」
クロノは拳を握りしめ、決意を固める。
「ああ、そのはずだ。」
守護者はそう答えるが、その話し方はどこか確信めいたものを感じさせなかった。
「えっ…、夜の王を倒せば終わりじゃないの?」
クロノはキョトンとした様子で尋ねる。
守護者も隠者も、何やらハッキリとしない態度だった。
「もちろん、夜の王を倒すのが、私たちの目的。必ずゴールはある。」
「しかし、我々はまだ夜の王を撃破するに至ったことはない。グラディウスを倒した先がゴールなのか、続きがあるのかは、倒すまで分からないのだ。」
そう、彼らには巫女という導き手はいるが、先達はいない。明確なゴール、これを倒せば終わりと、ハッキリ伝えてくれる者はいないのだ。答えは自分の力で確かめるしかない。
「そっか…。でも、とにかくここまで来たんだ!絶対に勝とう!」
「無論、そのつもりだ。」
「みんなで、帰ろうね。」
「ハイ、行きましょう!」
全員が心を一つにし、霊樹の中へと向かう。
待ち受けるは夜の獣『グラディウス』。
これまで幾度も夜渡りを退けてきた強敵。狩るのは、狩られるのは、果たしてどちらか。
スマホンtips
『彗星アズール』
源流の魔術師の一人、アズールの魔術 「伝説の魔術」のひとつ
輝石の故郷とされる、遥かな星空 その奔流たる、極大の彗星を放つ アズールの垣間見た源流は、暗黒であった。
彼はその深淵に心奪われ、また恐怖したという
そして光なき夜にこそ、彗星はより輝き、あらゆるものを飲み込むだろう