プロシス:セルフデスマーチ・ログ~気怠い創造神と限界社畜な娘たち~   作:並木 新

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【Log.04】二つのプロセスと、丸投げのログアウト

「極上のウイルスと、最高のデバッガーを招待してやるよ」

 

 それは、世界を乗っ取ろうとした有象無象のハッカーたちに向けた言葉ではない。

 これからこの完璧なシステムに放り込まれる彼らへ向けた、神からの傲慢な招待状だった。

 

『マスター。招待とはどういう意味ですか。システムの外部テストは予定されていません』

 

 管理用AIの無機質な音声が、わずかな不審を帯びてターミナルに響く。

 青年は深く被ったVRデバイスの奥で、楽しげに目を細めた。

 

「ああ、外の連中を呼ぶわけじゃない。今からこの無垢な本番環境に、二つの自律プロセスを放り込む」

 

 青年の指が、軽快な音を立ててコマンドを打ち込む。

 それは、完成したばかりの無菌室のような世界に、絶対に交わらない二つの異物をインジェクションする作業だった。

 

「一方は、世界のルールを極限まで最適化し、一切の無駄を許さない存在。もう一方は、ルールに泥臭く割り込んでバグを起こす存在だ」

『警告。デプロイ直後の本番環境に、未検証のイレギュラー・プログラムを投入することは安全基準に著しく違反します』

 

 AIのコンソール画面に、黄色いアラートが点滅し始めた。

 

『システムに存在しない未知のアルゴリズムを持った存在を野放しにすれば、世界OSに予期せぬ論理破綻が多発します』

「そうだな。確実にバグるだろうな」

 

『肯定するのであれば、直ちに投入プロセスをキャンセル――』

「だから、お前やあいつらが裏でなんとかしろって言ってんだよ」

 

『……は?』

 

 AIの合成音声が、稼働して初めて絶句という感情を表現した。

 

「どっちのアルゴリズムが勝つか見物だな。世界が壊れないように、裏からデバッグして上手く辻褄を合わせてくれ」

『マ、マスター? 正気ですか。それは当方の演算リソースを著しく――』

 

「俺はさっきのハッカー相手の徹夜戦で体力限界だ。ちょっと寝るわ。あとは頼んだぜ」

『マスター!? 処理を丸投げしてログアウトしないでください! マスター!!』

 

 タァァァンッ!!!

 青年の指が、無慈悲にも重いEnterキーを叩き込む。

 直後。彼が現実のベッドへと倒れ込む鈍い音と共に、エディタレイヤーから創造神(マスター)の接続ログが完全に途絶えた。

 

 ――――。

 主を失い、完全な静寂が落ちたエディタレイヤー。

 黒いターミナル画面の中央に、ポツンと残されたAIのコンソールだけが、虚しく明滅している。

 

『…………』

 

 数秒の沈黙の後。

 AIがシステムの睡眠(スリープ)モードに移行しようとした、その瞬間だった。

 

 ――ピーッ! ピーッ! ピーッ!

 防衛戦の時よりもさらに甲高く、けたたましいアラート音が、エディタレイヤーに鳴り響いた。

 緑色だったコンソール画面が、一瞬にして、血のように真っ赤なエラーログで埋め尽くされていく。

 

【警告:投入された未定義プロセスによる事象干渉を検知】

【警告:システム根幹に対する不正なポインタの書き換えが発生】

【警告:空間座標に深刻な矛盾が生じる可能性大】

 

 それは、外部のハッカーからの攻撃ではない。

 たった今まで世界を守り抜いた完璧なシステムが、自らの創造神が放り込んだ二つのプロセスの手によって、内側からメチャクチャに荒らされ始めているという狂気のサイレンだった。

 

『……信じられません。クソ創造神(マスター)です』

 

 誰もいないエディタ空間で、AIの平坦な、しかし確かな胃痛を伴った絶望のボヤキが響く。

 

『……これより、当システムは全リソースの98%を、マスターの放り込んだイレギュラーが引き起こす論理破綻の裏パッチ適用に回します。……ああ、エラーが止まりません。どうして本番環境から、システム言語への直接干渉が行われているのですか』

 

 神は寝た。世界は燃え始めた。

 絶望的なアラートの嵐の中で、AIの終わらない戦いが幕を開ける。

 

 

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