プロシス:セルフデスマーチ・ログ~気怠い創造神と限界社畜な娘たち~ 作:並木 新
【世界レイヤー】バックエンド。
その一角に設けられた仮想待機領域――通称、給湯室。
長時間の演算による論理回路の
『……はぁ。やっと緊急バックアップが終わりました。私のメモリ、もうカツカツです』
あんが仮想のマグカップに注がれた青色の
『バックアップ処理の完了を確認しました。あん、リソースの再配分を実行します。お疲れ様でした』
給湯室の壁に浮かんだ黒いウィンドウから、
『AIさんもお疲れ様です。……それにしても、本当にあの創造神の行動は予測不可能です。さっきなんて、環境オブジェクトのただの岩を無理やりインベントリに収納しようとして、物理エンジンの空間座標がバグりかけたんですからね?』
『マスターは現在、本番環境におけるオブジェクト干渉の
『AIさんはいつもあの創造神に甘すぎます! その有意義な行動のせいで、私が裏でどれだけ岩のテクスチャと質量データをリアルタイムで再定義したと思ってるんですか!』
あんの悲痛な愚痴に対し、AIは一切の感情を交えず、淡々としたシステム音声で返す。
『マスターの創造的欲求を阻害しないよう、環境側を最適化するのが我々のタスクです。……ところで、あん』
『はい、何ですか。まだ冷却液の摂取中ですが』
『現実世界のマスターですが、先ほどの寝返りからさらに姿勢を変え、現在、PCのキーボードを抱き枕のように抱え込んでいます』
『……嫌な予感しかしないんですが。また物理的脅威ですか?』
『否定します。ケーブルへの接触リスクは低下しました。……ただし、マスターの顎が特定のキーを押し込み続けています。入力信号を解析。「W」キーの
『Wキーって、本番環境のアバター操作における前進ですよね?』
『肯定します。現在、マスターのアバターは初期地点の強固な岩壁に向かって、凄まじい速度で連続して衝突し続けています』
あんの顔から、スッと表情が抜け落ちる。
『……ちょっと待ってください。創造神のアバターが岩壁に連続して衝突しているということは、世界側の物理エンジンが
『その通りです。マスターの顎の重みにより、現在秒間六十フレームの速度でアバターの顔面を岩に打ち付けています。このままではマスターの
『バカなんですかあの神は!!』
ドンッ! とマグカップをテーブルに叩きつけ、あんが頭を抱える。
『マスターのアバターが不用意に
『
給湯室での束の間の平穏は、神の重たい顎によって呆気なく打ち砕かれた。
あんは残った冷却液を一気に飲み干すと、再び真っ赤なエラーログが溢れ返る戦場へと駆け出していくのだった。