バンタンランジャン•フランケーン─表象モンスターとその弱点。彼らの日々は激務で埋まる─ 作:御幸己 ねぎみそ
「何で…………帰らないンだよぉ……………うざいっつってんだろォオ!!!!」
ハックアロー家の自宅にあった物達が、再度力を注がれ動きを再開させる。
「いいですか?バンタン?流石の
「ふむふむ…………そっかそっか………ならばアタシと煽りの出番出番!!任せな任せな!!」
自身有りげかつ提案者であるバンタンが、先手を取らせる為の挑発を担い、その間にツナグは後の展開の為に工作を始める。
物を浮かべ直した
少しでも情報を得る為、仰いだ頭が右往左往、視線を動かし続けリソースを積み上げる。ただモノボケじゃあるまいし雑多なものから柔軟に煽りを思いつくのは至難至難。やはり、心から相手を追い詰めたいなら突くべきは相手自身にあるだろう。
そして指を弾き、あからさまにいいアイデアを導いた気持ちよさげな表情を見せ、早速
「ねぇねぇ!!ラブイエちゃん!!」
「名乗られてもない相手を名前で呼ぶなァッ!!失礼だろォォォッッ!!!!」
基本は明るく気さくに話しかけ、立ち回る。初っ端からブチギレられてるのでグッドコミュニケーションを狙っているのならば大失敗だが、今はこれでいい。
「ちょ〜っと最初部屋に入れてもらった辺りから気 になってたんだけど気になってたんだけどぉ……………ラブイエちゃん身嗜みを気にしなすぎじゃないかなぁ…………?」
「…………………あ"?」
バンタンがつけ入る事にしたのは、ラブイエのだらしない生活をそのまま表現したような、そのみすぼらしい格好であった。
「髪はボサボサだし前髪伸ばしすぎだし…………肌もガサガサで眉毛も可愛く切り揃えてない。後もうお昼なんだからパジャマから着替えないと着替えないと!!家にいるから無精したくなるのも分かるけど分かるけど、気持ちを切りかえる為にも着替えてさ!!………とゆーか顔色悪くない?お菓子ばっかり食べててご飯全然食べてないんじゃ───」
「ダマれ死ネエエエエエエエエエエエエッッッッ!!!」
バンタンの煽りは覿面の効果を示し、
「とにかくとにかく人間常に身嗜みに気を使って、好きな人に惹かれてもらえるような自分にならないと!!怠って告ってフラれおんおん泣くなんてヤダよねヤダよねぇ〜」
「うるッッさイんだよ恋愛脳ッッッ!!!お前の考え方デ人に指図スルなァァッッ腐れビッチッ!!ワタしに好きナ人なんざ───」
「アタシもアタシも!!今のところ好きな人とかいないいない!!できてから努力するんじゃ遅いから、今から頑張ってるの!!」
怒り心頭のラブイエ。対するバンタンは明るい振る舞いを少しづつ抑えて話を続ける。
「明日の自分がどうなってるかなんて誰にも分かんないじゃん分かんないじゃん?もしかしたら好きな人できてそのまま恋人になっちゃったり、なんかの拍子で大スターになって大金持ちになっちゃったり…………………死んじゃったりね。だからアタシは全部を頑張る頑張る!!何が起こっても後悔なんかしたくないから!!」
何か含みのある話し方から、明るく持ち直し、
「勿論何かをやらないのも選択肢!!けど何もやらないのは論外論外!!ラブイエちゃんがこのまま腐って沈みかねないのなら……………アタシは無理くり外にでも連れ出しちゃう!!レツゴLet'sGo!!」
バンタンは勉強も、運動も、仕事も熱心に取り組んできた。その原動力は、一意に後悔したくないから。生涯
けれど意味など、事後的に生えてもおかしくはない。Ifから繋がるハッピーエンドを取りこぼさないよう、彼女は懸命でありたいと思っている。
それほどまでに彼女は後悔を忌み嫌う。他人がそれに苦しむ姿も見るのも耐え難い位に。
故にバンタンは、今目にしている
「人ノ苦痛も知リもセず…………ッ!!講釈垂レルなァッ!!クソ女ァッッッ……………!!」
「辛かったならばこそ!!歩み止めずにそれを置き去りにしてかなきゃでしょうがぁぁぁ!!!!」
後手有利?動き出しなど見てから捌ける?知るかそんなもの。ただ今は沸繰り返る腸の、火元をぐちゃぐちゃにすりつぶしたい。見知った風の振る舞いも、余裕を湛えた表情も、見続けるのは限界だ。
大気をきり裂く絶叫と共に、ラブイエは構えた物の波を解き放ち、【フランケン】を破壊すべく襲わせる。
対する【フランケン】は待ってましたとばかりに動き出す。バンタンが先行し、ツナグが首に捕まった左手の補助を受け登る。
それは、地面の奥深くに置いていった内臓。【座敷童子】によって地下に叩き落とされたバンタンは、ツナグが所持する左手を頼りに帰還する前に、自身の膀胱を残していった。特に展望があったわけではない、ただの備えがここで活きる。
窓の風景から【座敷童子】が傾けているのは家そのものではなく、【座敷童子】が生んだ空間であることは明白。地下の床に張り付かせた膀胱も、その傾きに連動し、地下の内壁に引っかかっていた。
自身を膀胱に向けて、調節した〝戻る力〟を適用。体重程バランスの良い力のかかり方でないものの、それでも床に対し垂直に向かう力のお陰でグイグイと前に進める。
まず目指すのは攻撃の薄い地点、後手を取れたことによる優位性を活かして、最終的に
バンタンが斜行で射線を作りながら、ツナグが第一波の一部分に向け発砲。雑に形成された物の壁に大穴を開ける。
その穴を駆け抜け、その先には、【座敷童子】に残った微かな冷静な思考がが取り置いていた物による第二波。面で隙間なく潰しにきた第一波と違って、今度は【フランケン】に真っ直ぐ向かう、さしずめ束ねた物の槍。
バンタンは頭を外して射線を空け、ツナグは物の槍に銃を連射。先端からゴリゴリと削っていき、余りはバンタンの拳で打ち崩す。
背後から迫る、第一波のリユース。第三波。
相対するのはツナグが用意した工作の成果。クレイ製、BOMB入り袋だ。
〝解体〟
体操服を入れた巾着袋のようなそれを、小学生さながらに大きく振りながら弱点能力を発動。
内容していたBOMBが、袋を振った勢いを受け継ぎながら散開。床や物に激突し、秘めていた輝きを解き放って、第三波を凌ぎ切る。
そして、【座敷童子】を守る物の手札は払底した。
「はな……………レロォッッッ!!!!!!」
部屋で進行を遮ろうにも距離を詰められ過ぎて効果が薄い。【フランケン】を叩き潰す手段は尽きたが、時間稼ぎの手は残されている。空間拡張。【座敷童子】が持つ異能の真骨頂とも言える大技。
故に【フランケン】もその行動を読んでいる。
右手の投擲、2回目の空間拡張を対処したそれの再現。足元に正確に投げられた右手を【座敷童子】は対象せざるを得ない。
拡張の前に右手を蹴落とすアクションを始めてしまった
更にはツナグが【座敷童子】の腹に向け発砲。能力で反撃する判断より早く、力のリソースを回復に向けさせた。
「お出かけしよっかラブイエちゃん。カフェでケーキでも食う食う?」
ここでバンタンは窓の向こう側の、隣の家の屋根に置いてきた心臓に向けて〝戻る力〟の行使。〝フランケンシュタイン〟の本能に即した回帰の異能が、【座敷童子】ごと、肉体の合流を果たすため高速移動を始める。
ようやく、
「オ前らが死ネよオ”オ"オ”オ"オ”オ"オ”オ"オ”オ"オ!!!!!」
『!?』
始めて訪れる命の危機が、化質を燃え上がらせる燃料となる。【座敷童子】の腹の傷が急速に回復。更に無力化させた自宅の物達が息を吹き返した。
「ッ…………!!先に行ってくださいバンタン!!僕がラブイエさんが通れる道を作ります!!」
「
動きを再開した物は出口である窓に殺到。恐らくそれでバリケードを築き【フランケン】阻む意図。ただ部屋を作る能力を使う冷静さがないならば、この作戦を押し通せる。
バンタンは指示を受け、
後はこのまま屋根の上の心臓に向かい、ツナグが開いた突破口から
「ん?」
成功を確信した直後、バンタンは自身の心臓が脈を手足のようにバタバタさせながら、カラスに連れて行かれる様子を目にした。
「うわあああああああああ心臓ちゃああああああああああん!?!?!?」
これは最悪だ。このままカラスに向かえっていけば上に、カラスの方を引き寄せ心臓を取り戻す動きをすれば重力によって下に。どちらにせよ、ツナグ達を綺麗に窓から引っ張り出せない。多少雑でも窓を通して脱出させなければ、彼の身が危ない。ややもすればミンチミンチ!
既にバリケードが築かれてしまっている以上、双方が双方を視認できず、その為連携が取れない。ツナグが突破口を開く頃までに、隣の家の窓までたどり着かなければ、彼がまた孤立するか大怪我負うかで大変な目に合ってしまう。
思考、思考、思考、熟考すら悪手と言えるこの状況下でバンタンが導いた手は───
「アラっッボネッッッ!!センセェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!」
突如として、ハックアロー宅に一つの影がかかる。その影は空を飛ぶ鳥のそれを遥かに超える速度で過ぎ去り、遅れて響く外壁を蹴る音が、その存在が影ではない事を証明した。
その黒は、秒の合間に玄関前から庭に、家の外壁を伝いながら躍り出る。
家を這うことをやめた黒は、宙に投げ出された隻腕の少女の元へ───
「バンタン•ランジャン…………今の私は教師ではありません。
バンタンが導いた手は、〝最速〟の呼び出しであった。
「ありがとありがとセンセセンセ〜!!!」
「バンタン•ランジャン。今の私は【メッサーズスケルトン】の───」
今はアラボネの長話を聞いている余裕はない。アラボネに抱えられ、一瞬の余裕ができたバンタンは右手を隣の家の屋根に投げ、〝戻る力〟でそこに飛び上がる。
バンタン•ランジャンの準備は何とか間に合った。ゆっくりと腰を降ろし、カラスに連れてかれた心臓を引き寄せながら、バンタンはツナグの突破を待つ。
「ハナせッッッ!!ハナせッッッッ!!!壁ドンとかキモィンだよマジデッッッ!!!」
人の首を鷲掴にしてボコボコのバリケードにすごく強く押し付けるこの行為を、そんなキュンとする動作と捉えられているのは光栄と思うべきか。
このバリケードは命を守るために築き上げられてるからか恐ろしく頑強だ。ツナグの膂力や銃の火力でも削り切るのは難しい。
一番有効なのは恐らく〝解体〟の力。クレイをボックスを使い潰す勢いで大量放出。バリケードの隙間に浸透させ、接着し、〝解体〟の能力対象と認識する為の準備を進める。
「どうシテッッ!!ワタしを家カラ出そうトスルッッ!!わタシはここニいたイんダ…………!!ココしかナイんダッッ!!!もうッわタシを侵害するナァァァァァァァァァァ!!!!」
「貴方の両親が!!あなたを心配してたからです!!!」
ツナグの張り上げた声に、ラブイエの怒りで満ちた状況が緩む。
「貴方の両親達は、とても不安そうでした。憔悴してるようにも見えました!!自分達が不甲斐ないせいで、知らず知らずのうちに追い詰めてしまったんじゃないかと、思い詰めていました!!」
ツナグは赤裸々に語る。見てきた物を、それはきっと彼女にとって大事な事の筈だから。
「不満があったなら教えてあげてください。そうでないのなら、そう言ってあげてください…………!!この家が好きなのは、家族が大切だからじゃないんですか………!?」
ラブイエの表情が変化していく。ツナグの心からの説得が、彼女の意思を氷解させる。
「好きなように生きればいいですよ…………!!貴方の人生の舵取りは貴方自身です。だからせめて…………今は、家族を安心させて下さい!!」
言いたいことは全部言った。そしてこれがツナグができる全てであった。いつだって人を変えるのは他人なんかじゃない。貴方を変えるのは貴方自身だ。
「〝解体〟!!」
バリケードに手を添える。すき間というすき間からクレイの光を零す物の障壁は、ツナグの手のひらから生じる破壊命令に成すすべなく応じ、散逸。
剥き出しになった窓。その先に座る〝フランケンシュタイン〟の異能に【座敷童子】は引かれていき
ラブイエ•ハックアローは1年2ヶ月ぶりの外出果たした。