バンタンランジャン•フランケーン─表象モンスターとその弱点。彼らの日々は激務で埋まる─ 作:御幸己 ねぎみそ
新暦106年 1月17日 PM12:04
ウェスタル東部、住宅街にてレベル4の化質反応を
確認。
モンスターの化質は活性化後、間もなく対象の自宅に浸潤しコロニー化。直後、家中の家具が独りでに辺りを飛び交い、床や壁などの家屋までもが変化を始め、在宅していたモンスターの両親に襲いかかったとされる。
コロニー化の間断のなさ、そして家具と家屋を操る能力から、【自宅を操るモンスター】と仮称。
モンスターに化けた目的は判然としておらず、能力の不確定要素と化質出力の高さからハザードレベル5とする。
「死ねッ!!死ねッ!!死ねェェェッ!!死ねェェェェェェェッッ!!!」
外から見たこの家は大きく立派なものであったが、内実はクソ屋敷の一言に尽きる酷さだ。
まず第一に難癖をつけるべくは、彼らが進む廊下の暗さだろう。長く長く、光を吸いきって奥行きを見通せない程真っすぐと続く廊下であるのに、なんとスイッチがどこにもない。
廊下を進めば進む程、即ち家の奥に入れば入るほど日の光は届かなくなり、照明が必要になってくるというのに、天井に電球は取り付けられているものの、右の壁を見ようが左の壁をに見ようが、進もうが戻ろうが電気をつけるスイッチが見つからない。
その上、
「お、お兄ちゃん…………もう死んでるよ………!」
ウィリアムは妹の制止でようやくナイフで
死んだ懇虫は肉が凝りに還ってから蒸発するように消滅する。つまり生死は一目で分かるのだが、
妹に止められた今も、わざわざ液状化した死骸にツバを吐きかけ乱暴に足で蹴散らした。
「ケッ………!!どこもかしこも懇虫だらけ…………懇虫駆除は飽き飽きだってのに……‥‥クソが!!」
懇虫駆除もまたモンスターチームの立派な業務。ただやはりモンスター討伐こそが
「お兄ちゃん…………いい加減出ようよ…………指令無視して独断専行だなんて、またウチら怒られちゃうよ!!ハザード5…………TOP5案件なんだよ…………?」
不運にもウィリアムの妹に産まれ、更には彼の
今もこうして、原則TOP5が対応しなければならないハザード5案件に、指令もなしに首を突っ込むウィリアムを制止しているのだが…………残念なことに実の妹の言葉ですらウィリアムの愚行を正せない。
「……………何がTOP5だ…………!!オレの実力を満足に測れねぇでよッ!!………オレは無敵のモンスターだ!!これぐらいの仕事が分相応なんだよッ!!」
TOP5…………無敵を自称する彼にとって、己を差し置いて己以外の者が頂点として囃し立てられている現状は、何よりも認め難い。
その不満という名の心の腫瘍は、不平を垂れることのみで解消できるようなものでなく、TOP5の現場に無断で乗り込み自力での解決を計るに至っている。
そうして無駄死にし場を混乱させる事を性懲りもなく繰り返すことが、不相応な
「そんなに怒られたくないならお前だけ出ればいいだろフィル!!邪魔だ………!!能無しのクズ共も流石に今日で理解するだろ…………俺こそが無敵の」
十指を往復させても数え足りないくらいの、数々の失態からまるで学ばない大言壮語が、廊下の暗闇から飛び出した辞書によって打ち止められる。
「グッ…………!?」
先鋒の辞書で怯んだ隙に、続く本の群れにめった打ち。手にした牙のナイフでさばくこともできず全身で本撃を受け、後ろに吹き飛ばされた。
「………………ッ!!お兄ちゃん!!」
ボコボコのウィリアムと対象的に、フィリップは迫る本達をトンファーでいなし切っていた。そして本達が過ぎ去ってから、後ろに飛んだウィリアムのもとに駆け寄る。
瞬間、振動が長い廊下に駆け巡った。
地震じゃない。地震にしては波長が短く、マッサージ機の振動部分を握りしめているかのように、小刻みなゾワゾワとする感触だ。
『出てケ…………ッ!!』
その一声は、激しい憤りを含んだ放逐の意思。声の出どころは右でも、左でも、前後でも上下でもない。………否、そうであるとも言える。
声を出したのは、家そのもの。口が生えてるわけではない、家を構成する壁自体が話しかけてきたのだ。
強力な力を持つレベル4モンスターだが、その全てが能力を他者に向けて使いうわけじゃない。
モンスターは自分の欲望のみを行動の指針としている。そのため人に危害を加えるかどうかはその欲望次第……………攻撃どころか直接会敵もしていない今、明瞭な敵意を向けられた。
その事実はこのモンスターの危険性と、その領土に足を踏み入れ欲望を害した彼ら兄妹の危機的状況を示している。
フィリップは即座にトンファーを構え臨戦態勢。敵は家そのもの、どこからか攻撃が来るのか、そしてどこが攻撃となるのか…………考えなしの行動はつけ入る隙となる。敵の動きを待ち、そこを起点とし行動する判断。
こわばりを内からほぐすように深く息を吐き、反射の 働きが来るまで待機する。
「なんだテメェ…………!!言いてぇ事は顔を突き合わせて言えやクソ陰キャ───」
『黙レェェェェェェェェェェェェェェ!!!!』
愚昧にも挑発を初手としたウィリアムは、激昂したモンスターの猛撃をモロに食らった。
突如隆起した壁はウィリアムの全身を潰し、そしてピストンのように動いて何度も何度も叩きつける。
「お兄ちゃッ…………!!」
その凄まじい殴打の連続を受け、ウィリアム程度の表象モンスターが無事である筈がない。気が済んだかのように壁はゆっくりと、体中の骨をバキバキに砕かれたウィリアムを残し下がっていく。
「クッ…………そが……………ッ!!」
足を重点的に回復し、壁を使いながらウィリアムはギリギリ立ち上がった。そしてよろめきながらフィリップに近寄って行く。フィリップもまた急いでウィリアムを守るために駆け寄り───
その前に、ウィリアムはいつの間にか足元に現れた扉に飲み込まれた。
開いた扉の奥は廊下同様先の見えぬ真っ暗闇。ボロボロのウィリアムは重力に引きずられ、成すすべなく闇の底まで落ちていく
「わあああああああお兄ちゃァァァァァん!??今助けに行くからねェェェェェェェ!!」
落ちていくウィリアムを救うため、フィリップもウィリアムに続いて扉に飛び込み闇に沈んでいく