バンタンランジャン•フランケーン─表象モンスターとその弱点。彼らの日々は激務で埋まる─ 作:御幸己 ねぎみそ
【フランケン】への呼び出しは食事を終えた直後のことだった。ハザードレベルは5………腹一杯の状態で相手取るには、ちょっと気持ち悪くなったりもするから尚のこと嫌だなとツナグは思う。
現場までは距離があった。そもそも広大なタメリカの、小さい方とはいえ一州の広さだ。到着までに1時間程かかるケースもないわけじゃない。
こういう暇な時間にやることと言えば、勉強か、読書か、あるいはちょっとしたキッカケがあればツナグはバンタンと一緒にゲームをしたりする。
ゲームの種類はなんでもいいわけではない。大概のゲームはツナグの方が強いため、実力準拠の勝負で遊ぶのは盛り上がりに欠けてしまう。
なので、2人だけで遊ぶ時は、運の要素が大きいゲームで競うのが暗黙の了解のようになっている。
今回やるのはポーカー。ルールはテキサスホールデム。各自に配られた2枚の手札と、場に出されたカード5枚で役を作り、強さを競うというもの。
現在場に開示されている札は4枚、ハートの7、ハートの10、スペードのQに…………クローバーの7。
バンタンの手札はダイヤの10とスペードのA。つまり10のワンペアがバンタンが握っている役だ。決して強い役ではないが、勝機がないわけでもない。
ポーカーで比べ合うのは、手にした役の強さではなく、総合的な心の
役とは可視化された勝機の僅か一部分に過ぎず、つまるところ勝因と敗因の全てではない。見るべくは、札ではなく人。そして丁寧に編まれた己の思慮だ。
「…………チェック」
退避は悪手。ただし攻めに出るのは早計だ。勝敗を5枚目のカードと手番に先送りする判断をし、バンタンはツナグにターンを回す。
「レイズ」
しばしの思考を挟んだバンタンとは対象的に、ツナグの手番は即座に迷いなく、攻めの一手で終わらせる。
ツナグは一声と共に、場にある個包装のチョコチップクッキーの上に更にもう一枚のチョコチップクッキーを乗せた。
「!?」
バンタンの反応は震撼と狼狽。相変わらずのポーカー向きじゃない表情筋の活発さである。
動揺の理由はレイズのタイミング…………直前開示されたカードが7であり、ツナグがベットをした一枚目のカードも7だと言う事だ。
つまり、安直に考えるのならツナグの役はスリーカード。そしてそれを好機と見た一手が先のレイズだ。
7のワンペアと予測し、多少の勝機を感じながら立ち回ってきたバンタンにとって、この自信満々の攻め手は確かに彼女の心を揺さぶった。
5枚目のカードはダイヤの2。
バンタンにポーカーフェイスの心得はないのだろうか?あからさまに焦燥を湛えた表情からは、スリーカード以上の役を持っていない事をこれでもかと表している。
目を伏せ、よくわからない汗をかき出し、唇をキュッと結び…………そして、「くぅ〜………」と小さく唸った後───
「…………ふぉーるど………」
弱々しく投了を宣言した。ツナグは息を吐き出して抑えていた緊張をほぐし、手札を場に下ろしていく。
「ほんの少しの勇気があれば、貴方の勝ちでしたね」
ツナグのその言葉にハッとしたように、バンタンはツナグが見せた手札を見下ろす。
内訳はクローバーの3、スペードのK。即ち───
「ブ…………タ……………!?」
ちょっとしたキッカケでその勝敗はひっくり返っていた…………それを取り逃したショックと、ツナグの思惑通りに動いてしまった悔しさで、バンタンは呆然とし崩れ落ちる。
ツナグはさっさとバンタンがコールしたチョコチップ クッキーを回収する。そして、次の試合の準備を始める彼を見て、バンタンは我に返ってまくし立ててきた。
「ちょっとちょっとぉ!!ツナグ本気になりすぎなりすぎ!!そんなにたくさんクッキー食べたいのぉ!?」
「いや………僕半分もいらないって言いましたが…………僕より食い意地張ってないつもりなんです?」
あまりに立ち行かない負けっぷりに憤るバンタンに対し、ツナグは冷静たるマジレスで返す。
暇つぶしを兼ねつつあわよくば………が魂胆であったバンタンにとってはちょっと耳が痛いらしく、大人しく引き下がり次の勝負に備える。
次のバンタンの手札はクローバーの3とダイヤの8。運命は勝負に均衡とひりつきを持たせようという気遣いを持ち合わせていない。それはバンタンに対し、札そのものの強さも札同士のシナジーもないカスみたいなカード達を巡り合わせてきた。
焦りを湛えながら1枚目、スペードの4。
願いを飛ばしながら2枚目、ハートの2。
「ベット」
「……………チェック」
ツナグのベットを聞き流しつつ3枚目、ハートのJ。
「チェック」
「……………チェック」
気丈に振る舞いつつ4枚目、ダイヤの9。
「チェック」
「…………………………」
意気消沈しながら5枚目、スペードのA。
バンタン•ランジャン………この土壇場で役無しを引く。
賭け事には往々にして流れというものがある。簡潔に言えば勝ちが舞い込んでくるムードのような、今ツナグにあり、バンタンにないものだ。
一応、自分の見間違いだったりしないか、場の5枚のカードと手札の2枚を交互に見る。しかし現実は変わらないものらしく、彼女表情の彫りは視線を往復するたび深化を続けている。
連敗続きのバンタンとしては、ここらで気持ちよく勝って巻き返しに挑みたい所。そんな逆転への意気込みに冷や水を浴びせられるような、この惨敗にはへこたれるのも当然だろう。
投了…………この局の終止符はバンタンによるそれであるとツナグは確信した。
確信していた。
分かりやすく落ち込み、手札を降ろしていくバンタン。その緩みきって曇った眼に、突如として光が走り込む。
その輝きの名は悔しさ。先のツナグが決めたブタを構えながらの豪胆なレイズが、綺麗に決まったブラフが、ここに来てバンタンの対抗心に火を放つ。
果たしてこのままでいいのか?眼前に座る知己、ツナグ•アマネクをいい気にしたまま敗北を喫して………それでいいのか?
そうだ………やられたならばやり返さねば。どうせなら雪辱は、意趣返しにて返そうではないか!!
燃え上がるリベンジ精神が、バンタンの勇気を勢いよく奮い立たせる。
虚栄を掲げるのならば思い切りよく大仰に。全てを投げ打つ覚悟を持って、足元に溜まる黒星を吹き飛ばそう………………!!
「オールッッ!!!……………インッッ!!!!」
大胆不敵な大博打。伸るか反るかのリスクを隠した、堂々たる宣言を放ち、バンタンは拳を場に向け振り下ろす。
握る拳が緩まり引いて行くその後には…………一枚のチョコチップクッキーが残されていた。
「…………………確かに……………
「うるさぁい!!言いたかったんだからいいのいいの!!オールイン!!オールイン!!」
ここまでの一部始終を目撃していたのなら既にお分かりだろうが……………バンタンはポーカーが恐ろしく弱い。
ゲーム理解度が低いだとか読みや判断が拙劣だとか、問題はそういう次元の話ではない。
バンタンはひたすらに感情が豊か過ぎるのだ。
有利ならばしたり顔、不利ならば困り顔。逆に罠を疑ってしまう程に、バンタンは至極分かりやすく手の内の強弱を表情で伝えてくる。
ツナグ含むバンタンの友人一同も、その弱さにつけ込み続ける鬼畜じゃない。当然その表情が分かりやすすぎるという弱点を伝えた事は何度もある。
それを聞いて、頭をよそに投げ、胴体にゲームをやってもらうという奇策に出た事もあった。
情報リソースを物理的に切除したわけだから、しばらくの間はれっきとしたポーカーとして化かし合いが成り立っていたのだが……………意思と境遇が違おうが中身は結局バンタン•ランジャン。時間が経つと挙動から胴体さんの考えを読み取れるようになり、やっぱり彼女は惨敗した。
それでも判断力自体は決して悪いわけじゃないと思っていたが………………どこで買いかぶってしまったのだろうかと、ツナグは思う。
「さぁツナグ!!アタシの勇気を……………超えてみろ超えてみろぉ!!」
その間抜け過ぎる一連を、ツナグは何とも言えない表情で見続けていた。
バンタンもツナグの様子を見て、その熱が徐々に冷めていっているようで……………暫時の気まずい静寂が辺りに広がった。
「着いたよ着いたよ~二人とも〜!!」
「あっはい。じゃあ行きましょうか」
そんな空気を崩したのは運転手であるランジャンパパの一声。目的地に付いた以上、【フランケン】が潰す暇はもうない。
「片付けはパパがやっとくから行っといで行っといで〜」
「すみませんありがとうございます」
モンスター討伐はいち早い対応が肝要。表象モンスターのなりかけとも例えられるレベル4モンスターともあれば尚のことである。
到着する前に決着がつき片付けも終わる想定だったのだが、ツナグの見通しは少々甘かったようだ。申し訳ないがランジャンパパに片付けを任せるしかない。
ツナグは車のドアを開けて外に出て、座り疲れた体を伸ばしてほぐす。
その様子を呆然と見つめていたバンタンは、ふと置き去りにしたツナグの手札を拾い上げ……………場のチョコチップクッキーをツナグが勝ち取ったクッキーの山に混ぜた。
「…………これ、もう少し真面目にならなきゃいけないけない案件でしたね……………」
現場はそれなりに裕福そうな、大きな家であった。庭も手入れが行き届き、少なくとも暮らしに不自由はない事が察せられる。
車でこの家の前を通り過ぎ、仮に目に止まって意識したとしたら、この家では温かな家庭が築かれていて、団らんして、同じ食事を囲って、幸せに暮らしているんだろうなとそんな想像してたことだろう。
ただ今のこの家からは、そんな幸せな気配など感じない。感じるのはドス黒い化質の波打ちだ。
化質の濃度としては今まで見てきた強いレベル4モンスターと比べると見劣りする。が、問題なのは今見ているのはモンスターそのものでなく、モンスターのコロニーであるということ。
100年続くモンスター討伐の歴史から見ても、そうあるような案件ではない。
だからかいつも以上に、沢山の
この場にいる彼らの職務はツナグら【フランケン】のバックアップ、モンスターの生態調査、そして二次的モンスターを予防するため念入りな周囲の化質の洗浄………
細身の体、心を排したかのような強面の仏頂面、その生真面目さを体現するかのようなキッチリとしたスーツの着こなし……………………常日頃から黒い手袋を着用して、今まさに【フランケン】の目の前に立つ彼は、この現場の責任者であり、
「おっ!!アラボネ先生だ!!
アラボネの姿を見つけたバンタンが手を振ってアラボネに駆け寄る。人当たりが良く、教師とも仲良く接するタイプであるバンタンは、大の大人まで恐れるアラボネにも気さくに話しかけれる。ただアラボネは険しい顔をして………………
「バンタン•ランジャン………………今ここにいる私は教師ではありません。
そう、よくわからない訂正を至って真面目な顔で言ってくる。
アラボネは病的に真面目な性格で、真面目過ぎて逆にズレた考え方で人と接してくる始末に負えないタイプの人間。
「ラブイエ•ハックアロー、15歳。性別は女性。アラン・ケイハイスクールに在学中のフレッシュマンです」
アラボネによるモンスターの概要は単刀直入に始まった。ちょっとでも緩んだ顔つきをしてしまうと話を聞いていないと断定されて、無駄に話が長くなるからツナグもバンタンも意識的に顔を引き締める。
「ただ、現在彼女は計14カ月……………ジュニアハイスクールから継続的に不登校中であり、現在在学中の校舎に足を運んだことはないそうです。原因は人間関係のもつれ…………両親曰く元よりインドアな暮らしを好む性格ではあったそうですが、不登校になってからというもの外出の一切をしておらず、日がな一日を自室にこもりきりで過ごしているとのこと」
不登校………………近年増加傾向にあるというそれは、ここフリムホーツ州でも同様、そう珍しい事でもない。理由は人それぞれであり、例えば学校という環境が水に合わず精神病の類を患ってしまっただとか、単純に学校に行くのが面倒くさいみたいな酷いわけだったり………………この【自宅を操るモンスター】のような、人間関係のもつれなどが挙げられる。
「化けたその瞬間に自宅をコロニーに変えたという情報も踏まえると、モンスターは自宅に強い執着を持っているんですかね?」
「現状の情報を整理するとそうなります。ただ自宅にいた両親も能力を行使して追い出したことから、家庭そのものに執着しているわけではありません。くれぐれも留意するよう」
モンスターに化けた人間の情報共有は、レベル4モンスターを相手にする際に必ず行われる。こういうちょっとした情報がモンスター攻略の糸口になることがある…………そんな可能性を逃さず掴む為の恒例である。
ただ正直、ツナグら【フランケン】は来た攻撃をその場その場で反応して2人で殴りに行くスタイルなので……………モンスターの能力とかならともかく、聞かされる彼らの生い立ちや化けた経緯を活かせた経験はほとんどない。
だがこの情報共有は真面目が高じすぎた異常者であるアラボネ以外の
「このモンスター…………【自宅を操るモンスター】は恐らく家具と家屋だけでなく、家の空間自体も能力の対象で、空間を自由に大小させられます。ただあくまでも〝恐らく〟です。というのもコロニーを探索する為に【プロペラ】を向かわせたのですが、コロニー内の重厚な化質に耐えられず死亡してしまい、内部の情報が全く取れていません」
アラボネの説明で引っかかったところがあるらしいバンタンが手を上げる。
「はいはい!!質問質問!!どうしてドローン使わないんですか〜?」
「過去何度も打診しています。『
「けちんぼけちんぼ〜!!」
バンタンの質問と返答の終わり際を見計らい、ツナグも挙手し問いかける。
「空間を広げられるという見解には何か根拠があるんでしょうか?根無し草の憶測ではないように聞こえましたが……………」
そのツナグの質問を聞いたアラボネは更に険しい顔をして、俯き…………ため息をついてから答える。
「貴方達が来る前に、ウィリアム•サラグリル、フィリップ•サラグリル、チーム【メドゥーサ】が現場に先行し後、化質反応の消滅…………消息を絶ったからです」
ツナグが行ったのは質問というよりも、彼の推察の答え合わせのようなもの。アラボネの回答を聞いたツナグは再度【メドゥーサ】のパトロールカーを横目にしてから、額と瞼に手を添える。
「また……………ウィリアムのスタンドプレーですか…………」
「はぁ…………そうですね…………」
ツナグ同様アラボネもまた呆れ返った様子。ここまで短いスパンで人にため息をつかせられるのは最早才能の内だろう。
「流石にレベル4モンスターのコロニーで自らの
「大丈夫大丈夫!!フィルちゃんは無能なお兄ちゃんと違って優秀だもん!!」
フィリップを心配するツナグとアラボネとは反対に、可愛い後輩の優秀さを信じるバンタンはあまり不安になっていない。
「…………とにかくコロニーの構造は未知数。【自宅を操るモンスター】の位置も時空が歪んでるため正確な位置が分かりません。自室は2階の角部屋だそうなのでそこにいると思われますが」
「化けてから40分ってところでしょうか……………流石に2,3時間迷うなんてことはないと思いたいですね…………」
モンスター討伐は速度が命。図らずも【自宅を操るモンスター】はOliverにとって最も出て欲しくない手合いであった。
手がないわけではないが、せめて内部構造さえ分かれば楽なのだが………………ツナグは顎に指を当て思案する。
そんなツナグの横で、得意げにニヤつく女が一人。
「どうやらアタシの新技の出番が来たようだね来たようだね…………………」
そう言って、バンタンは後ろを向き、目元を隠すように手で覆う。しばらくしてバンタンは、自身の顔から何かを取り出した。
「名付けて【アイズセンチネル】。柔軟な発想と弛まぬ努力によって誕生した新境地……………」
バンタンが顔から落としたのは2つの眼球であった。否、眼球だけではない。眼と脳を直結させる視神経もまた彼女の能力の範疇。そこに着目し、開拓したのが彼女の新たな技である。
【アイズセンチネル】。バンタンが切り分けたパーツはそれぞれが独立した意思を持ち、周辺情報も知覚できるため独立した行動が可能だ。しかし、パーツが知覚したその情報は本体にフィードバックされず、パーツを尖兵として運用する事は無理筋であった。
しかし、その例外として眼球だけはその視覚情報を本体に共有する事ができる。問題だったのが自立行動するに十分な移動方法の確立………………それを解決したのが視神経への着目である。
眼球から垂れた視神経を気合とパッションで延長。伸ばしたそれを枝分かれさせることで手足を作り、眼球の素早い自立行動を可能にした。
「この眼球ちゃん達の成長によってアタシらが危険を冒すことなく索敵する事が可能!!すばしっこく隠密性が高く、そして何より可愛い可愛い!!どうよどうよ!?」
声高らかに能書きを語るバンタンは、自慢するように自身の眼球に向けて手を広げる。
バンタンの容姿は彼女の美点の一つとして挙げられ、学内でも指折りの美しさだと人々はいう。特にその煌々たる紫の瞳は、まさにアメジストのように美しいと評判だ。
しかし、あくまでも例えは例えでしかなく、鏡のように全てに置いてその素振りを真似るわけではない。
石座を離れた宝石は、その輝きは変わらずに美しいが………………眼窩から立ち去ったバンタンの瞳は生理的嫌悪を刺激する気持ちの悪さであった。
輝きを失ったわけではない。その潤いからなる淡い光の印象が反転し、かえって生々しく感じて見ていて気分が悪くなってくる。
更にはそのギョロギョロとした目玉を、これまた生々しく、そしてあまりに細長い視神経が胴と四肢として支えており。
そのアンバランスな人型がどうにも…………………心臓の裏側を舐められるような気分の逆撫でを覚える。
ツナグとアラボネの微妙な表情を、起立する眼球達から読み取ったバンタン。
彼らを見上げていた眼球達は、腕を組みながらお互いを見合い───
「キモキモ〜〜〜〜ッ!!」
【アイズセンチネル】の見てくれの印象は満場一致となった。
***
ただ別にモンスター討伐は興行というわけではないのだ。見栄えが醜穢だろうと何だろうと有用性が物を言う。
ツナグは鍵のかかった玄関をメイスで叩き壊し、てくてくと走る【アイズセンチネル】を誘導し、奥の見えない真っ暗な廊下に消えていくのを見届ける。
「…………すみません扉を壊してしまって」
「………えっ、いえいえ!!どうせすぐに直せるんですから!!お気になさらず」
メイスの一撃で木片の山と化した扉を見おろして、ツナグは壊した家の家主であり、【自宅を操るモンスター】の両親である2人に軽く頭を下げる。
「ああ、えっと…………そうなんですが、それでも目の前で自分の家を壊されるのは気分が悪いかなと。…………少し繊細過ぎましたね。申し訳ないです」
実際それはモンスターの両親達の頭になかった発想であった。確かに言われてみれば心に芽生えてくるような考え方ではあるものの、物を何一つ壊すことなくモンスター討伐を完遂するなど無理な話だ。それはフリムホーツ州の常識であり、受け入れて然るべき事である。
ツナグが気にしすぎていたのは確かだろう。ただそれでもそれは彼の気遣いに他ならず、仄かな信頼のような感情を両親達に植えた。
「あのっ…………!うちの娘をよろしくお願いします………!!昔からモンスターに化けやすくて、多くの方々に迷惑をかけてきましたが……………決して悪意があったわけじゃないんです!!きっと今回の事だって…………私達に至らない事があったからこうなってしまったんです…………だからっ」
「モンスターに善悪の違いなんてありません。誰もがそうなって迷惑をかけうるのに、そのような価値観を付すのは余計でしかないからです。だから僕は依頼されたモンスターは貴賤なく討伐します。というか僕以外の大体の人もそんな感じです」
感覚的に自らの立場を見誤ってしまっているからか、モンスターの両親は自らの感情を無理に抑えて及び腰になっていた。ツナグのこの発言はそんな考え方を、呼び水として溢れてきたものだ。
ツナグは彼らの懇願の色使いに違和感を覚えた。そのやりづらそうな考え方を見過ごせなかったから、ツナグは手を加える判断に踏み込こんだ。
「すぐにいつも通りの娘さんを連れ帰ります。そういう仕事なので」
「どうですかバンタン?順調ですか?」
「
両手で目を隠すバンタンは、顔の半分を覆いながらも不思議と表情豊かにリアクションし、首肯。
【アイズセンチネル】は二手に分かれながら、【自宅を操るモンスター】のコロニーを爆走。家の構造を把握しつつ、能力の詳細と規模感を探る。
「この応用力こそ〝フランケンシュタイン〟の真骨頂!!これからの索敵はアタシに任せた任せた!!」
そう得意気にうそぶいていたのは束の間の事。間もなく【センチネルアイズ】は
その後ツナグは呆れながら、空っぽの眼を覆いポロポロ泣くバンタンを連れ【自宅を操るモンスター】のコロニーに足を踏み入れた。