バンタンランジャン•フランケーン─表象モンスターとその弱点。彼らの日々は激務で埋まる─ 作:御幸己 ねぎみそ
【◯◯◯】の場合は、通常のモンスター、表象モンスターと弱点の2人、弱点と協力していない独立した表象モンスターに対し使い、
〝◯◯◯〟の場合は、モンスターチームにおける表象モンスター個人を指す時に使います。
「まってまって!!ホントにあの子
「バンタンも見たでしょう。彼女が深手を負って一瞬怯んだのを……………つまりは痛覚があるってことです。痛みを感じないため臓器をやられてもモンスターの身体を維持できるタイプはいますが。痛みを感じた上でたちどころに傷を治し、化質の損耗なく再度能力を行使できるのは、なりたての
飛びかかりを空間の拡張で対応された【フランケン】は、一度制止し1回状況整理と報告をする。
『繰り返します。こちらチーム【フランケン】。現在対応している【自宅を操るモンスター】が
クールダウンしてから報告をし直し、手袋をした左手にメイス、そして手袋を外した右手で拳銃を持ち、出張中のバンタンの左手に再度ポジショニングを行ってもらう。
感情とは生モノだ。どれだけ強く願い、常に想って日々を生きているとして。望みが火花を散らしたその瞬間、願いが叶い想いが報われ一瞬の内に心を駆け回る…………直後の劇的な感慨に、以後が勝ることなどない
感情という、モンスター或いは人として最も重要なファクターで劣る故に、若輩の
レベル5モンスターは、レベル4の振れ幅の大きすぎる感情の高まりを背景とした圧倒的化質量と出力に、
慢心して挑めば、
戦いの場は例えるとするなら、集団用の避難シェルターになるだろうか。壁に目をやる事を、見渡すと表現すべきなほどに部屋は広く。しかしながら高さは一般的な成人男性でもジャンプすれば頭を打ちかねない程度。
ただあまりそういう空間であると、視覚情報を鵜呑みにして立ち回るのは墓穴を掘りかねないだろう。
今まさにその構造は変化を始めている。【フランケン】の頭上、いやそれだけでなく移動ルート全てを埋め尽くさんばかりの、天井の鉄槌が彼らの周囲に振り注ぐ。
床をたたき鳴らした天井はすぐさま扉のついた部屋に変わり定着し、【フランケン】を囲う迷路のような役割をする。
躱されないよう天井の大部分を一気に落とさなかったのはこれまた能力の制限 ? 仮に落とされていたとしても、部屋である以上空洞があり叩き壊せなくはないから対処はできる。
むしろ大量の部屋、つまり沢山の壁で
とはいえやりづらい程度でしかない。造作もなく部屋の槌を躱し、分断されながらも、林立する部屋を素早く掻い潜りながら【フランケン】は【座敷童子】の元に向かう。
「こぉんな攻撃ヨユーヨユー!!すぐにあなたのとこ着いちゃうけどいいのいい───」
出落ちの手本のような、大口から続く被弾とダウン。壁の森を抜ける途中で、いきなり開いた扉で顔面を強打。バンタンは情けない声を漏らして床に倒れる。
「バンタ───……ッ!!」
変な声からバンタンの足が止まったことに気づいたツナグは、1回バンタンと足並みを揃えるために急停止し彼女の方に方向転換…………その瞬間、ツナグを追い抜きバンタンの元に駆けつける無数の影に気づく。
【座敷童子】の所有物……………物を操る攻撃だ。〝一〟の立場で〝多〟に勝るには、まずその人数のディスアドバンテージを消すことから始めるべし。対戦ゲームを嗜むタイプの女子である
「バンタン!!集合です!!」
即座にツナグは体制を屈め、ツナグのもとにいるバンタンの左手を起点とした戻る力の行使、集合の合図を行う。それに反応したバンタンは倒れた体勢のまま左手に向かって全身を引き寄せ、間一髪襲い来る【座敷童子】の攻撃を躱す。
「ぬぬぬぬ………………!!」
ただこの戻る力は遮蔽を迂回するような、賢い動きはできない。顔面で壁をぶち抜きながらバンタンは突き進む。
そしてバンタンが近づいてきた事を察知したツナグは走り出し、少しずつ立ち上がり、戻る力で上手いことバンタンを引き寄せながら立ち上がらせ、スムーズに走れるように促す。
「や〜!!ありがとありがと!!」
元々ほぼ不死身かつ
【座敷童子】の攻撃はのべつ幕無し。【フランケン】の背後に立ち並ぶ部屋の数々がひいていき……………先ほどバンタンに襲いかかった所有物が突き進む道を空けた。
シンプルながら実に理にかなった攻撃だ。【フランケン】は立ち並ぶ部屋に阻まれ全速力を出せないが、追う【座敷童子】の所有物達はトップスピードのまま直進して追突をしかけられる。
であるのならば、こちらも直進して突っ切るまでだ。
「扉から部屋に入りましょうバンタン!!」
【座敷童子】の戦略を即座に理解したツナグは、手始めに地形利用で対処をはかる。大挙する所有物の特攻の物量をさばくのは、威力の高さもあって厳しい。ならば扉一枚の狭いスペースを通ることで、攻撃の手数を物理的に絞ればいい。
「僕は後ろから来る物の対応をします。バンタンはこのまま真っ直ぐ行くための道を作ってください!!」
「OKOK!!任せて任せて!!」
ツナグの指示に従いバンタンは行動、右手を移動先にある壁に投げつつ右腕を引き、左肩によるショルダータックルの構えを取る。そして壁にしがみついた右手に向かって戻る力を発動。その強烈な推力を利用した左肩での突撃は人1人分のスペースを容易にぶち開ける。
【座敷童子】の所有物が【フランケン】のいる部屋の入口まで迫る。多くの軍勢を送り込むために小さいものを先行させる的確な判断。
入室の目前。ツナグが放ったBOMBの爆風が
クレイで作り上げた爆発物、BOMBは目をくらます閃光弾であり、モンスターの化質を乱す衝撃波。制御が乱れ、ふらつき失速する
攻撃範囲を広げるツナグの技を適用した弾丸は入口に詰まる
「はいっ !! はいっ !! ドーン!!ドーン!!!ドオオオオオン!!!!」
壁を破ったそばから左腕で右手を肘で弾き、次の壁を掴ませ突撃する下準備。後ろからくる攻撃は、頼れる相棒であるツナグが足止めしてくれる。ならばバンタンがすべきは道作りを全うすることに限る。
【座敷童子】の居所へと向かう【フランケン】に立ちはだかる、部屋と連なった無数の壁。それをいとも簡単に破壊、破壊、破壊………………
戻る力を応用できる状況であれば、バンタンの馬力はTOP5でも2番手に及ぶ超火力。次々に壁に大穴を開け突き進み、【座敷童子】が築き上げた壁の、最後の1枚も余裕を持って大破。
「行くぞ行くぞオオオオオオオオオオ!!」
およそ10数秒、常に壁で占められていた視界が開け、立ち上がりこちらを睨めつける【座敷童子】の姿を捉える。そして意気揚々と叫び、壁の破片を踏みながら一歩を出すバンタンに、出待ちしていた【座敷童子】の所有物が殺到する。
「ふ〜…………あぶねーあぶねー………」
〝フランケン〟の体はパーツごとに5感とは別のやり方で周辺情報を得ることができる。視覚外をつく【座敷童子】の攻撃も、どこかのパーツが反応できればツナグが持つ左手に戻り回避が可能だ。
攻撃が空回りし、追突し合って固まった【座敷童子】の所有物を、バンタンとスイッチし前に躍り出たツナグによるメイスの一振りで一掃。
そうしてようやく、【座敷童子】と【フランケン】の間を隔てた障害はなくなった。
2度の跳躍。飛びかかり。今度は2人別々にではなく、ツナグがバンタンを背負い一緒に飛ぶ。
「イイ加減ぃいしろオオオオオオオオオオ!!!クルなっってンだオオオオオオオオオオ!!!!」
激しい怒りは舌にまで回り、ままならない発音で叫ぶ。そう、【座敷童子】も手詰まりわけではない。まだこの双方の距離を作った〝空間を広げる力〟があるのだ。
「あッチ"いげェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!」
床を踏み砕く勢いで跳んだ【フランケン】は砲弾の如きスピードで宙空を駆ける。その凄まじい速度はみるみる内に【座敷童子】との距離を縮め、迫る迫る。
迫る、迫る……………迫り…………そして追い抜いた。
「!?!?」
【座敷童子】の空間拡張は、フロアの端から継ぎ足されるわけではない。そうであったのならば【フランケン】が空間拡張に巻き込まれ、莫大な距離を作られた理由にならない。つまり【座敷童子】の空間拡張は、フロアの随意の箇所に境目を作り、そこからフロアを伸ばしていると考えるべきだ。
ただ【フランケン】にはその境目を見定める術はない。が、事実として距離を作れたということは【フランケン】と【座敷童子】の間にその境目は存在し、双方は対岸の位置関係にあるということ。
ならば【座敷童子】の足元に先んじて指を投げ、戻る力を使えば、指がそこにある限りどれだけ距離を広げられても、いずれ【フランケン】は【座敷童子】との距離を詰めれる。
バンタンをツナグが背負い、加速と大雑把な進路はバンタンが、初速と微細なコントロールをツナグが行う。この移動法こそチーム【フランケン】最速の動き。【座敷童子】を追い抜くほど余りある推力で飛ぶ【フランケン】は、今度はバンタンが支え、ツナグが銃を抜く攻撃の構えを取る。
【座敷童子】が【フランケン】の動きに反応しきる前にツナグは【座敷童子】の肩を2回撃ち抜いた。
「い"っッッッ!!!!ギザマア”ア"ア”ア"ア”ア!!!!」
あえて肩に弾丸が残るよう、貫通せぬよう加減した射撃。その甲斐あってか【座敷童子】は、問いの解答を分かりやすく教えてくれる。
痛みに喘ぎ、鋭く吠えながら、【座敷童子】の肩から弾丸2発が血とともに零れ落ちる。傷口から溢れる血も、弾丸が床に落ちる前に止まり、そして2つの穴が空いたはずの腕を安々と上げ
「ぶッッッッッコロズッッッッッ!!!!」
喉を刻むような怒声と一緒に、突如【座敷童子】の両脇に現れた階段から大量の家具が駆け上がり、大波のように押し寄せる。
「見ましたよねバンタン ? これはもう確定と見ていいでしょう」
「うん!!見た見た!!…………あっツナグはこっち見ないでね見ないでね………………」
確実に
ツナグの肩に張り付いた、眼球がバンタンの元に帰っていく。その様子を見ないようにしながらツナグは報告を始める。
『こちらチーム【フランケン】!!【自宅を操るモンスター】の異常な回復速度を確認!!やはり
『!?』
先ほどまで個性を排した起伏のない声で話していたオペレーターが素で出したこの驚嘆の声は、恐らくこの無線を聞いていたほぼ全ての人の代弁であった。あまりにも唐突で、過分。その行き過ぎた要求を、冷静で利発的なツナグ•アマネクが行った事実に大勢の者が動揺していた。
『…………っ!!確かに特徴的な化質の波長からして、対象が
『このモンスターの願いは〝家にいる人間を追い出し、一人自室で過ごすこと〟です!!!』
珍しくツナグは声を荒げ、オペレーターの反論を腕づくで押しのける。そして1回息を吐いて胸元を涼しくしてからまた言葉を紡ぎ始める。
『これは実際の言動と、化けた直後すぐさま両親を家から追い払ったという前情報に基づいていて、彼女は一貫して家にいる人間に攻撃を行い外に出そうしています』
細かい点は違うかもしれないが、モンスターの行動には必ず一貫性が存在し、その一貫性こそ化けた要因に直結するモンスターの理念だ。情報源が偏っているわけでもない以上、大枠に間違いはないだろう。
『………普通に考えれば、彼女が化けた原因は当時家にいた両親2人のどちらかか双方。ほかに兄妹もおらず、一切外出を行なってない上長らく友人が家に訪ねてきていない事を鑑みるに交友関係も希薄であり、そもそも家から追い出したくなる人間の選択肢が両親の他にいません。両親の彼女との接触の仕方に問題があり、不満感を募らせてしまった、という流れは想像に易いです。………………ですが、彼女の自室には両親と彼女とで撮られた写真がいくつも飾られていました』
『更に突入時、彼女は両親が作ったと思われる昼食を食べていました。…………喧嘩している、もしくは嫌っている人間がいて腹を立てているとして、その人らと関わるものを部屋に入れ、何なら口に入れるだなんてことあるのでしょうか?』
次に頭によぎったのはバンタンが陽気に彼女と接した時。その時バンタンは
『つまりこの家には、両親の他にに追い出したいとひたぶるに望まれる人物がいる可能性があります。1時間足らずで
物の波濤をいなしつつ、天井の鉄槌を掻い潜りつつ。ツナグは異様に冷淡な口調で語る。返答はない。理解が追いついていないというほど相手がバカな筈もない。理解している上で、口が動かないのだ。ただ、この状況で悠長するのはあり得ない。
『ともすればッ!!今開いた戦端は決戦を前にした緒戦!!アイツが関わっている目算は非常に高い筈です!!皆を集めてください……………!!校長…………!!』
落ち着いていられる筈がない。ツナグは再度声を荒げ、この重大な判断をくだすに値する者を名指しし訴えかける。
『TOP5全チームに出動要請。【フランケン】の応援に向かいなさい』
校長の声色は、この緊急事態にも関わらず冷静なものであった。自分が焦り、動揺し受け止めた事実を、涼しげに受け入れ処理した者がいる事に少し落ち着きを感じてきた。ツナグは四方八方からくる物を捌きながら、脳の冷却を始める。
『ただ、TOP5の一角を狙った罠にしては段取りが遅鈍過ぎる。貴方達に勘付かれる前に奇襲を仕掛けるのがベストな筈よ。だから恐らく事態はそこまで剣呑なものじゃない』
それはツナグ、そしてバンタンも薄々気になっていた事だ。【座敷童子】にここまで規模感の大きい攻め口で襲われているのだ。一撃を入れる隙ぐらいいくらでもあった筈。というか地形そのものとも言える【座敷童子】を手中に収めているのなら、隙なんて自分の意思で作れる。
『割り切れるような事態じゃないからTOP5総動員は撤回しないけれど、直接現場に向かうのは【ミイラ男】と【朱雀】のみでいい。残りの2チームは周囲7,8キロをパトロールカーで巡回しなさい。指示があったら、周囲を考慮せずに徒歩でそこに向かうように』
校長は淡々と荒れた空気をまとめ上げ、指令を行った。TOP5を一カ所に集める事の懸念点……………そこから離れた位置でのレベル4モンスターの発生まで気を回した合理的判断。一手のミスが致命傷になりかねないこの状況下でも、彼女は泰然とした態度を崩さなかった。
『チーム【フランケン】。【自宅を操るモンスター】が
『焼き討ちぃ…………?そんな心苦しい事したくないわ…………私嫌よ』
『──は…!?おまっ、無線にワガママ垂れ流してんじゃねぇ!!は•な•せぇえええ!!!!』
校長の的確な指示に割って入る、マミィの無線越しの拒否宣言。パイロの声は明らかに焦り散らしていて、急いでマミィから無線を取り上げようとしてるようだ。
『何よ!!無線を私物みたいに…………!!傲慢ね!!今この場に無線は1つしかないんだからこれは共用のはずよ!!』
『テメェが無線持ち歩くの拒否るからだろぉがァ!!バァァァァァカッ!!!』
相変わらず2人は仲がいいな、とあまりに調教されすぎた感想をツナグは浮かべ、襲いかかる椅子と机を躱しながらツナグの口元は緩む。
『………………とにかくチーム【フランケン】。貴方達がコロニーにいる必要はもうないわ。すぐにその場を離脱し、【ミイラ男】と【朱雀】が来るまで待機しなさい』
期せずして、校長から下された指示は
「デぇェェェェェェェてイゲエ”エ”エ”エ”エ”エ”エ”エ”エ”エ!!!!!」
まるで無線の音を聞いていたかのように、【座敷童子】は大きな声で拒絶の意思をまたも表明する。
校長の指令を聞いて、【座敷童子】の叫びを聞いて、ツナグ•アマネクは───
「イヤです」
そう、つぶやいた。