青い空。
白い雲。
黄色いボールに緑色のコート!
テニスである。
「なぜあの漫画からテニスをしようと思えた?」
「さあ......」
俺もルイスもわけがわからず立ち尽くしている。エミリアの計らいで既にテニスウェアに着替えたのだ。なお、エミリアとネイピアもウェアに着替えている。普段ドレスやワンピースといった服装が多いエミリアがテニスウェアを着ると健康的な色気が増す。ネイピアはジュニアの選手みたい。オリヴィアはいつものメイド服だがサングラスをかけている。審判である。
庭園の魔女曰く。
殿方の友情はスポーツによって育まれるのです! ふんす!
オリヴィアの教育のたまものであるが、なぜその教材があんな武闘派の漫画なの? 情報源間違えてない?
チーム分けは俺・ネイピアVSルイス・エミリアである。
「ネイピア......お前経験は?」
「うーん......小さい頃に少し。お父さんに習ったの!」
「小さい頃、ということはつい最近まで現役だったというこ痛い!」
なんで叩くの!?
「ボクが小学生の頃だよ!」
てめー小さい頃つったろ!?
「チーム名は枯れたジャム! 強そうでしょ」
ジャムって枯れるの? 絶対シニアのチーム名だろ!
「マーマレードの風とかにしようぜ」
おおー、とネイピアが目を輝かせる。風に吹かれたネイピアのジャムが黄砂のように辺りに広がる様子を想像して少し気が重くなった。爆発するし結構危ないんじゃ?
ネットを挟んで向かい合い、ラケットを回してロゴマークを手で覆う。
「フィッチ?」
「スムース」
ルイスが答える。ロゴを確認すると逆向き。
「サーブもらうぜ」
ゲームスタート!
ーーサーバー・マーマレードの風 レシーバー 緑の塩シャケ シックスゲームマッチ セット!
オリヴィアの声が響く。待て。相手チーム緑の塩シャケでいいのか?
「さて、どちらを狙うかだが」
「当然エミリア!」
「分かってるじゃないか。ルイスは身長が高い。エミリアも女性にしちゃ高いが、絶対動けん!」
ルイスはあれでそれなりにスポーツができそうだが、エミリアはまず下手と見てよい。多分ウニとかナマコのほうが運動神経は発達している。ゆったりとしたワルツのテンポが彼女の最高速度であろう。
「俺がサーブをやる。お前は前衛だ。そして、徹底的にエミリアを狙え」
「任せて!」
いささか大人げない気もするが、勝負に手は抜かない。一応中学の時はテニス部ベンチの末席を汚していた男である。
さて。
まずサーブは俺から。
前衛はネイピア、相手の前衛はエミリアでレシーバーがルイスである。
センターライン付近、ルイスにとってはバックハンドに当たる側を着実に狙いたい。スピードはいらない。ゆっくりとトスを上げて、頭より前の打点でしっかりととらえ、ラケットを最後まで丁寧に振り抜く。
ボールは狙い通りルイスのバック側に入った。球速は緩いが、コースはいい! ルイスは返したがネイピアの真正面。
「もらったあ!」
「きゃっ」
ネイピアが真正面に来たボールをエミリアの足元にボレーする。なかなかの反応速度。やはりネイピアはすばしっこい。エミリアは反応できず、ポイント!
「いいぞネイピア!」
「東風、ナイスサーブう!」
俺とネイピアはハイタッチを交わす。ぶっちゃけ心配だったけど意外といいペアになりそうだ。
ーーフィフティーン・ラブ!
オリヴィア主審の声が響き、エミリアがラケットを構える。庭園の魔女のレシーブがどの程度のものかは分からないが、着実に決めたい。ゆっくりめでも確実にサーブを入れ......
ーーフォールト!
オリヴィアの声。ミスしてしまった。セカンドサーブだ。
「んあいっ!」
エミリアの謎の声とともに返ってきたボールはネイピアの左側を通り抜けた。一瞬取ってくれよと思ったが、こちらのセカンドサーブが緩かった。前衛はパッシングで逆サイドを抜かれることを警戒せねばならないのだ。これは俺の責任、自分で拾うしかあるまい。
当初の予想通り、エミリアの返球に素早さやパワーはなく、へにょへにょと腰を痛めた蛇のようなレシーブ。が、そのくせ妙に深いところに入ってきて......
「くっ......」
エミリアのレシーブはベースラインぎりぎりのいい位置に入ってきて、フォームが崩れてしまった。ロブで逃げたが、中央付近に上がり、少々浅い。庭園の魔女をウニやナマコと言ったのは少々過小評価だったようだ。軟体動物の方がまだ骨のあるレシーブだが、冷静な判断力と丁寧なコントロールがある。さては、庭園の魔女は経験者だな。テニスって庭球っていうしね。
「エミリアさん、下がって!」
前衛のルイスがセンター付近にまで下がりスマッシュの構え。やばい、ルイスの体格を考慮に入れていなかった。178センチあるから浅いロブはスマッシュできる。
「ネイピア、下がれっ!」
ルイスのラケットから弾丸のようなボールが飛んでくる。
やられた、と思ったがボールはすごい勢いのままベースラインを通り過ぎ、フェンスに激突した。
ーアウト!
「あれ?」
助かった! ルイスが力んでアウトしてくれたおかげだ。
「東風、ゆるいよー!」
ネイピアの声。
「いやーすまん。エミリアが意外といいレシーブで」
この得点はぶっちゃけ天運。しかし運も実力のうち! 一気にゲームをもぎ取る!
ーーフォールト!
ううむ、俺も力んでいるのか。ポイントはサーティーンラブ。ここは引き離したい。
俺は、賭けに出ることにした。
セカンドサーブ。ボールをゆっくりと、しかしやや前のほうにトスして......
ーーイン! フォーティーン・ラブ!
「く......‼」
ルイスが反応できずにボールを見送った。
ダブル・ファースト! セカンドサーブもファーストのように思い切り打つ賭けの一手である。ミスればダブルフォルトで相手の得点だが、入れば相手の油断をつける。この得点はでかい!
「ナイスサーブうう!」
ネイピアが駆け寄ってくる。いい流れを作れたぞ!
ーーゲーム!
結局俺のサーブをエミリアがミスり、第一ゲームは俺たちのストレートセットだった。
「くそ......!」
ーーフォールト! ダブルフォルト!
「ルイスさん、落ち着いて!」
予想外の1ゲーム目に焦りが出たか、ルイスのサーブは力みがあってフォルトが多かった。高い打点から繰り出されるファーストサーブは脅威で、ネイピアは返せず、俺も拾ったがエミリアに決められてしまう。が、成功率が低く、ダブルフォルトも重なって2ゲーム目も俺たちの制するところとなった!