マーマレードの魔女   作:へきいさむ

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第20話 君側の奸とルイスの福音!

「まあ、木枯さんったら総大将に任命されたのですね! 大抜擢です!」

 昼休み。

 シロツメクサがまばらに散らばる校庭の芝地を歩きながら、エミリアが目を輝かせた。

 

「まあ、そうなんですけども」

 喜ばしいことなのかもしれないが、気が重いのは裳裾御前のお言葉である。

 

ーーわらわに恥などかかせたら、カステラの二の舞になるものと思え‼

 

 ネイピアを抱っこしながらそんなことを言われたのだ。

 

「大丈夫だよー、東風ならきっとすごい作戦立てちゃうよ!」

 穢れなき眼でプレッシャーを与えてくるマーマレードの魔女。先ほどからぱりぽりと食べているのは御前に下賜された甘納豆である。鶴亀唐草があしらわれた紅白の巾着の中、数粒ずつ懐紙に包まれたお菓子。多分茶道の席とかに出しても見劣りしない逸品であろうが、コンビニのスナック同様にまとめて口に放り込むネイピアであった。

 

「ひとつあげるー! エミリアも!」

 俺とエミリアに懐紙のおひねりを渡すネイピア。ありがとう。ちなみにルイスは今も御前に可愛がられている。おいたわしや。

 

 おひねりを開くと、黄金に雪をまぶしたような白豆が出てきた。春は名のみの寒い朝に、かすかに匂う山桜のように、清澄な甘みが白豆の中に織り込まれている。エミリアが少し驚いたように目を丸くしているくらいだから、相当な値打ちものであろう。春の残雪を結晶にしたようなその白豆を、数粒丸呑みにするネイピア。ものの価値を知らん奴は怖いな! 

 

 芝草の道なき道をしばらく進むと、緑の上に茶色いキノコの群れが見えてきた。通称キノコ広場。その名の通り、キノコ型のテラスが立ち並ぶ憩いの場で、昼食を皆で食べるのに最適である。巨大なヒラタケの下は人が多いので(だいたい運動部が占有している)、一匹シメジ(シメジのくせに一本だけぽつんと生えている独身主義者)の下に3人で入る。なお、このシメジの下でご飯を食べると結婚できないらしいよ。

 

 そんな呪われたシメジの傘の元、庭園の魔女とマーマレードの魔女はお弁当を開いた。

 その瞬間、ハタと気づいた。 

 

ーー ......あれ? 両手に花ってやつじゃね?

 

 ルイスと一緒にいるときは意識しなかったけど。ゼラニウムのように可憐なネイピアと、胡蝶蘭のように気品あるエミリア。そんな2人とシメジの下にいるのは結構な贅沢なのでは、と思ったり。

 

「ようやく気付いたか、木枯」

 

 背後で声がした。誰だ?

 

 振り向くと、旧制高校のような学帽にマントルをはためかせた男子がいた。蠟人形のような青白く骨ばった顔に、やや人の悪そうな三白眼が埋め込まれている。

 

「御筒......」

 御筒京介(みづつきょうすけ)。わが1-Cの委員長!

 

 疑問その1。委員長は裳裾御前じゃないの? 

 違います。裳裾御前は単なる一般生徒です。彼女の支配力は制度的なものではなく、純粋に彼女のカリスマと神通力によるものです。委員長はあくまで御筒。1-Cは(あまりよくない意味で)日本的な組織で、制度上のトップと象徴上のトップが分離した2重体制なのである! 

 

 疑問その2。仮にも委員長なのに学帽にマントルはいかがなものでしょうか?

 言いたいことは分かるが、残念。実は御筒の服装こそが本学の男子生徒の正装なのである。歴史ある制服だそうだが、あまりにも現役生からの評判が悪かったので、常識的な範囲での服装自由が認められた。それでもなんだかんだみんな制服っぽい服装をしているが(やはり高校生気分を味わいたいのだ)、裳裾御前やエミリアのように文字通り服装自由の奴もいる。歴史ある学校なんだけど、意外とゆるいのであーる。でも、正式な制服はあくまでも御筒。今時んなもん着てる奴は生徒会にもいないがな。

 

「そんなことより木枯。貴様、1-C男子より糾弾を受けているぞ」

 何なのよ!? 俺、何か悪いことしたっけ?

 

「罪状。ネイピアちゃんやエミリアさまと仲良くしててむかつく! 裳裾御前からも贔屓されてて腹立つ! 粛清!」

「おい」

 完全な逆恨みやん!

「裳裾御前の暴走を止めるべき立場にいたのに口裏を合わせて我がクラスを戦争に巻き込んだ君側の奸」

「......」

 その非難は甘んじて受けてもいい。ルイスの方が正論だったのに裏切ってカルニヴァーレ大戦にクラスを巻き込んだのは俺だ。

 しかし。

「それ以前にてめーらも裳裾御前に逆らえなかっただろうが......!」

 お前らがおのれの良心に従い、方孝孺のように族滅の憂き目にあっても正道を貫いていれば今日の禍はなかったろう! つーか君側の奸もなにもカルニヴァーレに突き進んだのは他ならぬ帝じゃい!

 

 委員長を中心に現れた逆徒どもにぐるりと周りを取り囲まれ。

「ま、待て。話せばわかる......」

 これは大逆ぞ! 帝より勅命を受けた将軍に対する大逆ぞ!

 だが逆徒に正論を言っても無駄だ。

 

「うるさい! 責任はお前にあるっ!」

「木枯討つべし! Delenda est, Tofu!」

「佞臣・木枯を討って国難を靖んじるっ!」

「ぎゃああああああああ!」

 石を投げないで! 俺に罪はない! 投げるなら裳裾御前にしてよっ!

「くそおおおお! これだから2重体制はアアア」

 象徴は責任を取らず、現場の責任者がしっぽを切られるのだ! 武人の運命はトイレットペーパーに似ている。お偉方の尻を拭って水に流される!

 天を仰ぎ、己の非業を嘆いた瞬間。

 哀れな豆腐の祈りが天に届いた。

 

「やめろよ、お前ら」

 神父の声がした。

 

「そいつが何したってんだよ。お前らだって女子と仲良く出来たらするだろ? 裳裾御前に逆らえなかっただろ? 自分の罪を棚に上げて人のことばっかり責めてるんじゃねえよ」

 

 今回ばかりはルイスがガチの聖人に見えた! 今までごめんね、神父様! 今日はルイスが眩しく輝いて見えるぞ。緑内障の初期症状ではないといいんだが!

 

「お前ら、東風に石を投げる前に、自分の胸に手をあてて考えてみろよ。自分には石を投げる資格があるのか......」

「う......」

 俺に石を投げようとしていた卑劣な律法学者どもは、さすがに思うところがあったのか、ルイスの言葉に怯んだ。1人、また1人とうなだれ、石礫を握る指先が震える。

 さすがはルイス神父。自分を裏切った俺のような者にも憐みをかけてくださる。ほんとにルイスが輝いて見える! オゾンホールが原因ではないといいんだが!

 

ーー汝らのうち、今までただの一度も、心の中ですら彼女ができたことがない者のみ、石を投げよ

 

 

「オラア! おら、おらっ!」

「死ねっ死ねえええっ!」

「ぎゃあああああああああああああ!」

 くおらルイス‼ 聖句の引用間違えてんじゃねえ!

 

「つうかお前ら! 心の中ですらできたことがないってのは嘘だろ! 常日頃からいやらしい妄想」

「黙れ! 心の中ですらできたことはないわっ!」

「妄想の中でも、夢の中でも! もちろん現実にもっ!」

 マジで。それは何というか......すまんかった。

 

「ルイスうううううううううううううううう!」

 

「先に裏切ったのはてめーだろうが!」

 はい。

 ほんとうに申し訳ございませんでした。

 

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