マーマレードの魔女   作:へきいさむ

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第22話 葡萄の紋章

 放課後。

 俺はグリーンズ・ハウスの居間でうんうんと唸っていた。

 会場は付近の小高い山(通称魔女山)のキャンプ場付近。地図を渡されたはいいものの、初期の布陣、ホムンクルスの探索計画など考えることは山ほどある。

 昨年までの試合進行に関する資料を御筒委員長から受け取り、ホムンクルスの生態に関する文献を図書室で漁っていた時のこと。

「あ、あの......私の家にたぶんホムンクルスの文献ありますよ?」

 庭園の魔女の申し出!

 そうか! 魔導書が置いてある彼女の家ならば、ホムンクルス関係の本もあるはず。何で気づかなかったんだろう!

「た、助かる! じゃあこの後お邪魔して」

「ええ、もちろんです」

 エミリアはにっこりとほほ笑む。「ボクもいくー」とネイピアが言い出すと、ルイスも何となくついてくる流れとなる。しかし今日はそこに予想外の流れが合流した。

「わらわも邪魔するぞ! かまわぬか、緑の!」

「私もよいだろうか?」

 裳裾御前と御筒委員長である。エミリアは快諾し、いつものメンバーに1-Cのトップ2と鶯姫が加わることになったのである。

「わわ、なんか楽しそうなメンツっすね! ソメカンもいいですか?」

「あらソメカンさんも? もちろんです! 皆さま、歓迎いたしますわ!」

 エミリアは緑地に銀で花や蔓の模様が描かれた四角い板を取り出した。アンティークかと見紛うが、彼女のスマホである。初めて見た時は高級な手鏡か何かだと思いました。

 

「ああオリバー? ええ、私よ。実はね......あら、オリヴィアはいないの。ええ、大丈夫よ、私の方で何とかするから。ええ、ええ......それじゃ少しだけ客間のお掃除はよろしくね」

 何やら不穏な言葉が聞こえた。グリーンズハウスの支柱とも言うべきカチューシャが不在?

 

 一抹の不安を胸に抱えたままそぞろ庭園の魔女宅へ向かう一行。なんだかんだ大所帯だ。校門を出て坂の多い住宅地を抜け大通りに出ると自然2列縦隊になる。先頭が裳裾御前とエミリア、少し後ろにソメカン、その後ろにネイピアとルイスが並ぶ。最後尾は俺と御筒委員長である。

 俺と御筒委員長の話題はカルニヴァーレだ。

 

「今年はどうもどのクラスもやる気のようだ」

 御筒委員長が言う。

「そんなにやる気になるようなイベントか? うちの学校ってそこまでハッスルしてないだろ」

 全般的にゆるい生徒が多い。筆頭はもちろんネイピアとエミリアである。

 

「それがなあ、今年のカルニヴァーレはわが校の魔術教育の成果を県にアピールするチャンスなんだそうだ。協賛企業は......」

 御筒の挙げた名前を聞いて俺は驚いた。国を代表する企業がいくつも出てくるではないか。

「んなバカな。そんな大手がなんで」

「俺も分からん。分からんが、ともかく教師陣のやる気は尋常じゃない。お前も総大将に選ばれた以上、心しておけよ。優勝せいとは言わんが、無様な敗北をしてみろ......」

 御筒はそこで言葉を切った。

 

 俺は何となく事情を察した。カルニヴァーレの背後には何か大きな意思が働いているらしい。

 

「でもまあそれなりにやればいいんだろ」

 不安を紛らわすように言ってみる。

 

「やっぱりやっぱり! 今年のカルニヴァーレはなんか変みたいだねー!」

 前を歩いていたネイピアが振り向いた。器用にも後ろ向きに歩きながら話を続けるネイピア。変なところで運動神経がいいんだから。

 

「なんかねー、去年の立て看板よりもすごいって先輩たちが言っててね! ボク、写真撮ってきたの!」

「でかしたぞ!」

 さすがイモータル・ジェリーフィッシュ! 報酬に綿菓子をやろう!

 

「ああ、今朝の看板か。私は確認できなかったな、人が多すぎて」

 御筒も直接見てはいないらしい。

 ネイピアは少し得意げにスマホの液晶を御筒に見せた。子どもが捕まえた虫を親に見せているようだ。御筒はううむと唸りながら少し前かがみになってネイピアの手のひらをのぞき込む。その背後から俺、向かいからルイスものぞき込む。

 安い木材に画鋲でカレンダーの裏紙でも張り付けた立て看板かと思いきや違った。塗油による光沢で木目が琥珀のように輝く上質の木材を使い、看板の足と縁取りには葡萄や蔓が彫られている。スマホの写真は、ネイピアの身長から撮られたものなので、アイラインは当然低い。バレー部あたりの背の高い女子の胸を見上げるくらいの高さである(でかしたぞネイピア!)。

 その高さから見ても上の方まで綺麗に葡萄の房が見えるということは、相当な腕の職人を使っていると踏んだ。浮き彫り細工は、高さがある場合、下は浅めに彫り、上にいくにつれて深く彫らなければ、遠目に見たとき均一な見え方をしない。だからネイピアの身長から撮ってかくも綺麗に上まで葡萄が見渡せるということは、それだけの腕利きということだ。

 

「ううむ......」

 御筒は顎を少し掻きながら唸っている。

「葡萄。葡萄の紋章、か......」

 

 なぜ御筒が葡萄にそこまで引っかかるのかが分からなかったが、ともあれかなり本格的なイベントになりそうなことは間違いない。これはもしかすると、活躍次第ではかなりの温床を期待できたりして! ようし、ホムンクルスでもケルベロスでも寝かしつけてやろうではないか。こちとら子守は得意中の得意じゃい!

 

「甘納豆! 何を見せておるのじゃ? わらわにも見せてくれい‼」

 先頭の裳裾御前が袖をはためかせながらネイピアに近寄る。

 

「ほう、よく撮れておるのう! 甘納豆には写真家の才能もあるな。どれどれ......」

 相変わらず孫を甘やかすお祖母ちゃんのような同級生である。

 だが裳裾御前の顔も少し曇った。

 

「これはまた見事な葡萄の......ふむ」

「あれー? どうしたの、裳裾御前ー」

 ネイピアの声にも考え込んだまま反応しない。それきり御筒も裳裾も口数が少なくなった。ついにエミリア宅につくまで、2人は物憂げなままであった。

 

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