校庭にブルーベリーの紋章と葡萄の紋章が掲げられた。
開会式で校長の隣に立っていたのはグロリア。その隣に、口ひげを生やした男性。名前は分からなかったが、やがて進行役の教頭先生の声がマイク越しに聞こえた。
「今回、カルニヴァーレの後援を引き受けて下さいました、パール・ポン・ピアジェ伯です!」
パチパチと儀礼的な拍手が響く。
紹介されたピアジェ伯は少し口ひげを整えてから、皆の前に立ってマイクを受け取った。
偉い人の挨拶は長いかと思いきや、意外とそうでもなかった。
「皆さんも暑い中、ずっと運動場に立っているのは大変でしょう......私からはただ一言! 安全に、楽しく! 正々堂々と! 魔術師の伝統の祭りを楽しんで頂きたい! 以上です」
会釈してマイクを返したピアジェ伯を送る拍手の音は、先ほどよりも遥かに大きかった。長々しい校長の話の後に、手短に切り上げるピアジェ伯のスピーチは大変好評であったのだ。来賓席に座るグロリアもにこやかに拍手をしている。
ピアジェ伯が来賓席に戻ろうとしたとき、「ちょっと待ったー!」と呼び止める声があった。少し目を丸くして振り返るピアジェ伯。一人の女子生徒が立ち上がったのは2-Bの並ぶ席であった。
説明会でローズの隣にいた背の高い女子生徒。名前は確か......黄桃姫。
「ひとつ、質問をよろしいでしょうか?」
「なんなりと。私に応えられる質問ならば」
こほんと咳払いをして黄は問う。
「ずばり! 今回のカルニヴァーレの景品は何でしょうか!?」
ざわざわとクラスがどよめいた。
散々聞かされてきた豪華な景品。それは何を意味するのか?
ピアジェ伯はちらりとグロリアの方を見た。グロリアは少しだけ迷うような表情を浮かべていたが、やがて意を決したように頷いた。
ゴーサインである。
「カルニヴァーレの景品は、各学年ごとに3つずつあります。景品は1位のクラスから順に選べます......」
なるほど。学年ごとのクラス数は4つずつだから、最下位のクラスは何も貰えないというわけだ。残酷な資本主義社会の縮図である。
「景品の1つ目は、グロティウス家特製、大地のブルーベリー・ジャム1年分!」
今一つ芳しくない反応の運動場であったが、俺やネイピアたちはこの景品を聞いて驚いていた。グロリアのジャムはまさに最高級の一品。それを1年分。
しかも、これは最初に発表した景品だ。ということは、残る2つはもっとすごいということか!?
「2つ目は、太平洋の宝石とも讃えられる島、ホノランプへのリゾートチケット。なんと期間は1か月。夏休みを利用して高校生活最高の思い出を作ることができます!」
太っ腹すぎやしないか? 生徒たちは明らかにジャムの時よりどよめいている。
ホノランプという島は聞いたことがないが、1か月のリゾートならばものすごい景品である。
2番目がこれなら真打は何だ?
「最後の景品は......ホムンクルスです」
ピアジェ伯は短く、それだけを言った。
運動場に当惑が広がる。獣の遠吠えが木霊した夜の森のような、静かな警戒と探り合いの気配。
ホムンクルスが景品? ペットとして珍重されてたりするのか? 金持ちの間で流行ってるとか?
俺はグロリアの表情を盗み見た。彼女は目を瞑り、何か祈るような仕草をしているように見えた。
「これで満足かな? お嬢さん」
「はい。ありがとうございました」
ピアジェ伯の問いに、黄ははきはきとした礼を述べた。
グロリアが再び壇上に現れ、マイクを握る。
「これにて開会式を閉会いたします。1年生はぶどう摘み競争の準備をしてください。2,3年生は各クラスのテントに移動してください」
それでは、と少し間を開けて。
「カルニヴァーレを楽しみましょう! ポリフェノール!」
その挨拶、流行らせたいの? グロティウス家のPR戦術って大丈夫?
救いなのは、やけになって開き直ったか、グロリアから照れや恥じらいが抜け、セミプロレベルのパフォーマンスに成長していることであった。
カルニヴァーレは始まった。
気になることは多いが、今からやるべきはただ一つ。2-Cを優勝に導くことだけだ。