マーマレードの魔女   作:へきいさむ

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第42話 防火包囲網!

 そこは森の中の、少し開けた場所だった。周りにはルイスやネイピア、エミリアたちが倒れている。御筒委員長と裳裾御前は既に立っており、辺りの様子を伺っていた。

 キャンプ場程度の空間で、地面には砂利が敷かれている。端の方へ行くと砂利の隙間から生える草の割合が増えて、やがて森の茂みに繋がる。

 

「ここは......活動拠点?」

「どうもそうらしいな。クラスごとにベースキャンプが用意されているんだろう」

 ルイスを助け起こしながら御筒が言う。

 

 丸太を積み上げたログハウスが2戸。庭は広く、炊事用の竈や水道などは揃っている。まるで修学旅行のようだ。

 

「辺りには他クラスの連中はいなさそうっすね。危険な獣とかも」

「食料になりそうな木の実もあったぜ」

 鷹飼たちは一足早く辺りを見回ってくれたらしい。

 

 

「ホムンクルス! ホムンクルスはー!?」

 ネイピアは相変わらず元気である。

「ここは......サバイバル空間!? そうよ、ここでは貴賤の差などないのだわ!」

 エミリアがふんす! モードに入っている。そういえばアンタはこういうの好きだったね! 温室育ちがワイルドでサバイバルな暮らしに憧れるという裏返されたコンプレックス。

 

「ピアちゃん、まずは飲み水の確保よ! 木を切って年輪の太さを見て! 年輪が太い方に川があるのよ!」

「ほんと!? エミリア、すごーい!」

「待てい!」

 俺は2人の魔女の首根っこを抑えた。年輪の太さで分かるとされるのは方角だ。しかもあまりあてにはならぬ俗説である。

「飲み水はログハウス内にあるし、水道も確認済だ。川の水を飲むのは最後の手段だ......」

「で、でも、水道の水は腐ってるかもしれないわ......」

 ふんすふんすと蒸気機関車のように前進したがるエミリアだが、きちんと首根っこを抑えている。てめーは川の水を飲みたいだけだろ!

「確かに水道の水が安全という保障はない......しかし昨日グロリアが作った圧縮空間だ。熱中症を出せば学校が責任を問われる。その状況下で水道水が飲めないということがあると思うか?」

「う......でもそれなら川の水だって安全に作られてるはずよ。私、自然の中の青い水を飲んでみたいわ!」

「本音ほざいたな! それと、山の中に青い水があったら銅が溶けている可能性が高い!!」

「まあ! 川の水を口に含んで、ダメだ、この水は飲めない......ってやってみたかったのよ!」

「やってもいいけど透明な水でやってね!?」

 てめーの主人、何とかしてくれよ......と言いかけて気づいた。そうだ、オリヴィアはいないんだ! 今頃クーラーの効いた体育館でラムネでも飲んでいるに違いない。あのメイドめ!

 

 俺は森に突撃したがるエミリアとネイピアを引きずって、クラスの皆がたむろするログハウス軒下のテーブルに移動した。木材を丸く切った飾り気のないテーブルで、それが全部で4つ、備えてある。椅子は四角や丸形の木製のものがやはり適当においてある。円形の机の内側に接するように正方形の粗目のテーブルクロスがあった。暗い赤色と緑色が交互に編み込まれた、アジアンテイストなテーブルクロスである。

 

「さて......これからどうするよ?」

 白磁で縁の部分にだけ赤や黄色の線が入ったシンプルなティーカップにお茶を淹れながらルイスがぼやく。 

 どうすると言っても、な。

 

「ほれ豆腐。貴様、軍師の仕事を果たさんかい」

 裳裾御前がお茶を受け取りながら俺の方を睨む。はいはい分かってますよ!

 

「じゃあみんな集まってくれ。カルニヴァーレの作戦を伝える」

 アジアンなテーブルクロスの周りにクラスのみんなが集まった。お茶は全員分いきわたり、中央にはいつの間にかポテチと袋詰めのチョコレートの山ができていた。ソメカンか鷹飼あたりの差し入れだろう。床には青いクーラーボックスが5個ほどもある。中身はA組委員長の櫂しずくがくれた氷である。

 

「まずホムンクルスを確保する。この森の中にいると考えてよい。ひとまず3人ずつのグループに分かれて森を捜索する。ここで重要な点だが、2-Bその他のクラスと遭遇しても戦闘はしないでくれ」

 ソメカンが不思議そうな顔をした。

「何でっすか? 戦闘は禁じられてないし......叩けるなら叩けるうちに叩けるだけ叩いた方が」

 言いたいことは分かるけど、そんなに他クラスを叩きたいの? ソメカン、最近ストレスたまってる?

「そうですよ、特に2-Dは早めに潰せますよ! 削れるところから削る、外戚による他氏排斥の常套手段です」

 鶯姫による闇の深いお言葉である。平安時代も平和じゃないなあ。

「いや、2-Dは絶対に攻撃してはいけない。2-Aもだ。そんなことをされるくらいなら、2-Bと戦ってくれた方がいい」

「な、何でですか!? 2-Bとの衝突は絶対に避けるべきでは?」

 摂関家を敵に回しちゃダメですよう、と涙目になる鶯姫。やはり平安歌人は大変である。

 

「まあ聞いてくれよ。今から言う数字はだいたい過去のデータをもとに俺が各クラスの戦闘力を数値化したものなんだが」

 

<カルニヴァーレ クラス別戦闘力評価表>

2-A 戦闘力 7 委員長 櫂しずく

2-B  戦闘力 10 委員長 レディ・ローズ・フランソワ

2-C 戦闘力 5 委員長 御筒京介

2-D 戦闘力 3 委員長 明石晩山

 

「ううむ......癪じゃがローズめの2-Bが最強じゃな」

「そうだ。で、普通に戦うとBが優勝、Aが2位で、俺たちCが3位。ドベはDだ」

 明石率いる2-Dは個性派と曲者が多いクラスだが、俺の見立てでは戦闘力は低い。

「妥当な分析だと思うよ。この戦力評価はだいたいどこのクラスも似たような読みになるだろうね」

 鷹飼が評価表を見ながら頷く。

「やはり最強は2-B。劫火の魔女の火力もあって頭一つ抜けてる。妥当に行けばローズたちの優勝さ」

 俺のまとめに

「だからそこを何とかするのがお主の役目じゃろうが‼」

 と憤懣やるかたない御前様である。分かってるって。

「普通に戦えば勝ち目はないんだよ。普通に戦えば、な」

「普通に戦えば......」

 ぽつりと繰り返すネイピアに、俺はにやりと笑った。勿体ぶるのもアレだし、作戦のお披露目と行こうか。

 

――他のクラスと同盟を結び、2-Bを集中攻撃する

 

「なっ......!」

 クラスみんなが驚いている。が、鷹飼と裳裾御前が比較的冷静だった。

「まあ妥当な線じゃな。ローズめが最強ならば皆で結束して叩き潰すだけのこと。豆腐、貴様継子いじめとか好きな方じゃろう?」

 好きじゃねえよ。あんた人を何だと思ってるの?

「同盟を組んで集中攻撃......いささか卑怯な気が」

「何言ってるエミリア。ここは戦場だぜ」

「そうだよ! 買うなら軍艦、ってやつ!」

 ネイピアが同調してくれたのはありがたいけど、勝てば官軍ね。ウチに軍艦買うお金はないよ?

「で、ですがしかし......」

「お嬢様ってのは相変わらずお花畑ですねえ。こんなこと世間じゃ当たり前のことですよ」

「は......はうっ!」

 2-Cの良心たるエミリアの反対は想定内。そしてそれを封じる最善手は姫コンプレックスの刺激!

 

「じゃがな豆腐よ。2-B対策の同盟なぞ他のクラスが乗ってくるかのう? たわけめが机上の空論を並べおったなら、貴様の切り身をまな板の上に並べるぞ」

 くわばらくわばら。が、ご安心を。

「大丈夫。既に2-Dの明石とは話がついてる。やつらはウチと同盟組むってよ」

「ほ、ほんとっすか? 豆腐ちゃんったら手が早いっすねえ!」

 こらソメカン。変な言い方するんじゃない。

「なーに、当たり前のことさ。2-Dは普通に戦えばドべだからな。そしたら景品なんて手に入らない。クソ暑い中設営に参加させられて、カルニヴァーレの景品はなし。それじゃ、骨折り損のくたびれもうけよ」

 そうだ。

 2-Dは普通に戦えば絶対に負ける。だからこそ俺が同盟を提案したら必ず乗ってくると踏んでいたのだ。明石は案の定、同盟を受け入れた。

 

「でも......2-Dだけでは足りないね。2-Bの戦力は評価値だと10。CDが組んでも合計は8。ギリギリ押し負けることになる」

 鷹飼の冷静な分析。さすがはサッカーをやっているだけはあって戦略眼がある。

「鷹飼は正しい。しかも即席の同盟だからうまく連携は取れないと見ていい。実際には戦力は単純な合計とはいかず、連携不足を考慮すると、CD同盟の実際の戦力は......」

「7~7.5ってとこですかね」

「だな。俺は7と見積もってる」

「そ、そんな!? 少年漫画では敵キャラが味方になるとパワーアップ補正がかかるものではないのですか!?」

 エミリアさん、どっちかっつーと逆で、敵が味方になると弱くなることが多いかな。普通に強いままだと、新しい敵との闘いが盛り上がらなくなるからね。いやストーリー展開にもよるんだが.......ていうかそれ以前に少年漫画じゃねえんだよ! オリヴィアの教育はどうなっとんじゃ!

「でもでも、2-Bの戦力が10でCD同盟が7でしょ? それなら」

 甘いぜネイピア。

「2-Bはローズの他にも武力に秀でた奴が多い。クラス内でしょっちゅう組手だの決闘だの武闘会だのやってるらしいから、連携不足を突くなんて造作もないことさ。そこも踏まえると戦力差が3あればもう勝てないね」

 だからこそ。

 

「2-Aも入れてACDによる2-Bの包囲網を作るんだ!」

 

――名付けて、防火包囲網!

 

 それは、劫火の魔女の炎を封じるための同盟。

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