マーマレードの魔女   作:へきいさむ

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第43話 鉄血政策とポテチの不調和

 防火包囲網の発案に、2-C一座を沈黙が支配した。

 パリ、と乾いた音がした。ネイピアがポテチの袋を開けているのだ。緊張した空気を壊すまいとゆっくり手を入れて取り出そうとしても、アルミの袋が鳴る音は響く。

「防火......包囲網」

 ルイスがゆっくりと繰り返す。バトル漫画の相棒ポジや引き立て役がよくやる演出である。

「そうだ」

 俺は厳かに頷いてみせた。

 ルイスはごくりと生唾を飲み込み、エミリアは口を両手で覆っている。いいねこの雰囲気。バトルものの醍醐味だよね。

 パリ.....と再び乾いた音。

「ネイピア」

「放火......育毛剤」

「繰り返して誤魔化そうとするな! てめーのは単なる猟奇的犯罪者だ!」

 こいつがいるとシリアスな空気が中和されるんだけど! 

 緊張が破れざわざわと丸テーブルの周囲がざわめく。こうなるともうダメだ。映画とかの軍師役って相当な演出家だったんだね。俺なんかじゃあ真似できないよ。てかキャスティングミスだよ。ルイスやエミリアがいる時点でもうダメなんだよ。ましてネイピアだ。

「ピアちゃんって辛みそ味派? ちょっとピーキーね」

 エミリアが赤土のような色味のポテチを咥えながら言う。パリパリパリパリ。はい、明らかにシリアスのBGMじゃありません。サウンドエンジニア、仕事しろ!

「ここはねーにんにく醤油一択すよ」

 ソメカンはにんにく醤油派。あれはうまいね。唐揚げみたいな味でさ。絶対カロリーやばいけど。

「普通に味塩だろ。てかそれ以外食ったことない」

 ルイスは基本に忠実な味塩原理主義者。聖職者らしい正統派の選択である。

「私はキャラメルですねえ......」

「それは異端だろ」

 鶯姫の勇気ある告白は、心ない神父によって異端認定されたのであった。鶯姫が火刑に処せられる日も近い。なお、この点に関しては俺もルイス神父の審判を支持するものである。だいたい平安歌人が何キャラメル食っとんじゃ。戦後の闇市じゃねえんだぞ。

「......博多鶏だしに一票」

「そ、それは鶏ですよねえ......?」

 裳裾御前は鶏だし派。昆布ベースに鶏の旨味が溶けた、通好みの一品である。鶏ガラは鶯ではなかったはずだよ!

 議題はすっかりポテチの味に移った。ネイピアが袋を開けて一分たたず。俺の必勝の作戦をお披露目する機会が、ポテチの袋に破れ去るとは。

「ワサビ味」

「あ、委員長わかってるうー! 豆腐ちゃんは?」

「ブラックペッパー」

「異端」

「なんでだよ! 普通にうまかろうが!」

 ルイスはいつの間にか大審問官に出世したらしい。こういう迫害の仕方はよくないよ!

「ですよねえ! 木枯さんはキャラメル味のよさも分かりますよねえ!」

「いやそれは異端」

「なんで!?」

「ちょ......皆さん落ち着いて」

 百家争鳴、議論紛糾。一触即発で宗教戦争の危機が迫る中、人望に厚いソメカンが仲裁を試みる。

「こういうのは多数決で行きましょうよ! キャラメル味が異端だと思う人!」

 俺は手を上げた。ルイスも上げている。ソメカン、裳裾御前、ネイピアも挙手。エミリアは棄権。

「判決。キャラメル味は異端。そこな式神は破門じゃ」

「なんでえええええええええええええ!?」

 裳裾御前の厳かな審判が下った。異議なし!

 正統な教えが守られたことを喜ぶ敬虔なスナック菓子信者たち(メタボ予備軍ともいう)は快哉を叫んだ。これぞ主の裁き。御名は誉むべきかな。主はいませりイイ!

 これにて異端審問会は閉廷しまー

「静粛に! せーしゅくに! 次の議題ですよ!」

「なんだソメカン。もう閉廷だろうが」

「ブラックペッパーは異端だと思う者?」

 くっっっっっっっっっっっっっっっっそ! 鶯姫を生贄に俺は生き残るはずだったのに!

 ルイス、裳裾御前、ネイピア、鶯姫が挙手。ネイピア、お前もか!

「ネイピア......一つ聞いていいか? なんでブラックペッパーはダメなの」

「辛いから!」

「んなもん辛みそも同じだろうがよオオオオオオ! 納得いかねええーー!」

 てなわけで俺も異端認定されて破門されましたとさ。

 ルイスに罪をかぶせたかったが、さすがに味塩を迫害する教理は思いつかなかった。

「しくしく......」

 顔を覆って泣く鶯姫と俺は、世の人がいかに酷薄であろうとも、岩場の陰にて朝までぐっすりと眠ります。無垢なるマリアよ、どうか子の祈りを聞いて下さい。

 

――ポテチくらい好きなの食わせろ!

 

「で、ですよねえ......お菓子の味で喧嘩するなんてダメですよ。皆さん、せっかくですから仲良くしましょうよ」

 祈りは聞き入れられ、聖母の声が天上より注ぐ。庭園の魔女エミリアだ。

 

「エミリアさんは......何味派なのでえ......?」

 鶯姫が泣きはらした顔を上げて聖母に問う。あ、それは俺も気になるかも。

 

「......へ? わ、私ですか?」

 エミリアが少し焦ったような表情になった。

 そういえばエミリアだけは異端審問の時も棄権だった。ははーん分かったぞ! こいつさてはとんでもないゲテモノ食いだな! こいつも異端に引きずり込んでやろ!

 

「エミリアさん、教えてくださいよ。さぞかし趣味の良いポテチを選ばれるのでしょうねえ」

「そうですよ。キャラメル味よりもいいものがあるんなら教えてくださいよ」

 俺と鶯姫の追及に耐えかね、聖母エミリアは少し顔を赤らめて答えた。

 

「そ、その......コンビニのポテトチップス食べたことなくて......」

 少しそっぽを向いて、気になる男の子を打ち明け合う乙女のようにエミリアの声がくぐもった。

「いつもオリヴィアが作ってくれるから......おいしいけど何味なのかは分からないの......多分、スパイスとコンソメ? にテイルスープも漬け込む感じ......」

 判決は全会一致であった。

 オリヴィア味(?)は異端!

 

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