「それで皆様に魔導書を回収して頂きたいのです!」
えへん、と咳払いするエミリア。立ち直りが早いのはいいけど、なんでそんな自慢気なの?
「魔導書はとても危険な代物です。悪魔の魂が封印されており、それを読む者を悪の道に誘います」
オリヴィアが続ける。
「私はお嬢様と話し合い、魔導書の回収に最適な人選を考えていたのです。まずルイスさん。あなたは神父ですから悪魔の技には耐性があります」
「へへん......わかってるじゃねえか!」
なるほどな。ちと腹立たしいが、妥当な理由である。
「ていうか、神父で悪魔に耐性なかったら転職しろよって話ですが」
妙に毒のある言い方をするメイドである。
「残るお二人は......お嬢様の推薦です」
何? ルイスはわかるとして、エミリアが俺とネイピアを? 俺を選ぶのは分かるが、なぜネイピアを......?
「ピアちゃんを選んだのはね......ピアちゃんなら決して魔導書に汚染されないから!」
「なるほど! ボクみたいな純粋な魔女なら悪魔の誘惑にも負けないもんね!」
どうだか。
「というよりね......ピアちゃんなら魔導書1ページも読まずに寝ちゃうから、いくら悪魔でも誘惑のしようがないなって思ったの! 妥当な人選でしょ。ピアちゃん引き受けてくれる!?」
「......」
「さすがエミリアお嬢様! 人を見る目をお持ちでいらっしゃる!」
「でしょう。まさかお嬢様からこんな名案が飛び出すとは......オリヴィアも鼻が高いです」
「えへへ......そうかなあ......」
そうですとも! お嬢様の人物眼は確かです!
「東風......ボクって褒められてるの? なんだかすごく悲しいんだけど......」
「まったく、頼りにされてるじゃないかネイピア!」
で、俺を選んだ理由は? エミリアのことだ、俺の秘めたる能力を見抜いたとか......
「木枯さんは......もとから腐っているから悪魔に誘惑されても大して変わらないかなって」
んだとコラ。
「さすがはお嬢様。私などには思いもよらない深慮をお持ちでいらっしゃいます。このオリヴィア、今更ながら感心いたしました」
こらメイド。
「というわけで職業柄やむをえず消去法によって選んだルイスさん。魔導書がどのみち読めないので悪魔に誘惑される心配のないネイピアさん。そして、闇に落ちたところでもとより何も変わらない木枯さん」
びし! と人差し指をこちらに向けるオリヴィア。主従そろって失礼な連中である。
「魔導書の回収、よろしくお願いいたします!」
「つってもよー、魔導書のありかなんて心当たりねえぜ」
昼休み、校庭を歩きながらルイスがぼやく。
「魔導書はそれを読む者を闇に落とす。読んだ奴は何かやらかすさ。そのうち事件が起きたら回収すりゃあいい」
俺の提案に
「いや、事件起きる前に動けよ!」
と正論をぶつルイスであった。これだから神父様は。
「分かっとらんな! 警察は事件性がないと動けねえの!」
「そうだよー! これが宮仕えの苦しさってやつ」
ネイピアも同調する。うんうん。マーマレードの魔女は物わかりが早くて助かる。
「てめえら......さてはやる気ねえな?」
あたりまえでしょう。
「なんでだよ!? エミリアさんに腕見込まれて、やる気にならねえってのか‼」
「......」
俺とネイピアは目配せをしあった。
そういやこいつだけは神父ゆえの悪魔耐性を買われてるんだった。なんかむかつくな。
「いやあさすがはルイスだな。もとより闇に落ちてる俺と違って正義感が強いことよ」
「うんうん、さすがは神父様! 難しい本も読めるんでしょ、ボクと違って」
「え? ああ......まあ、ラテン語は少し読めるかな」
イラ......
「ルイスって神父なんだよな? やっぱ信仰って持ってんの?」
「お? まあ......多少はそういうのも信じてたりするぜ。一応神父だからな、よくわかんねえけどよ、道徳とか正義とかって大事じゃねえのかな」
「いんやあー、さすがはルイスうー」
俺とネイピアによる包囲網が着々と狭まっていることにも気づかず、照れくさそうに頭を搔くルイス。
「芥子粒ほどの信仰があれば山をも動かせるってほんと?」
「お? ああ、そういう教えもあるかな」
「そういう教えもあるかな、とかじゃなくってさあー、ボク、ルイス君の口から聞きたいよー! 1ミクロンの信仰があれば荒波を鎮めることも木に地面を歩かせることもできるんでしょ?」
教えてよ、神父様あ......と三日月のような気だるい流し目に甘い声(多分ジャムの食べ過ぎ)ですり寄るマーマレードの魔女。ベニクラゲのくせに変な色仕掛けを覚えおって。だが今回に限ってはよくやった!
「お、おう! わずかな信仰があればなんでもできるってことさ! 俺はそう信じてるぜ!」
悪魔の誘惑に負ける神父も神父である。こいつ、修行しなおした方がよくない?
まあ、後は刈り取るだけですが。
「へえ......ルイスは信仰があれば何でもできるって信じてるんだな。やっぱ聖職者は違うね、人間としての器ってやつがさ」
「お? おう......」
エミリアに腕を買われただけはありますねえ。俺は闇に落ちようがないって評価だったけど。
「いやあー、勉強になったよー! ちゃんと本読んでる人は違うねえー! 僕は1ページで寝ちゃうけど」
「い、いやあ......まあ、な」
ネイピアの言い草でわかった。こいつ根に持ってるな。
「じゃあさ、ルイス君......」
「芥子粒ほどの信仰の力で魔導書の在りかを探し出してくれ」
「おう......ブフォッ!!」
ハメられたことに気づいてせき込むルイス。
「て、てめえら卑怯だぞ! 妙にしおらしい態度ですり寄ってくると思ったら!」
「何が卑怯なものか。てめーは神父だろうが」
「そうだよ! でさー、信仰があれば何でもできるんでしょ!?」
「ぐ......く......」
何も言い返せず、歯を食いしばるルイス。これが闇に落ちた男、木枯東風の策略よ。
「じゃあ頑張れよー!」
「後はよろしくね、神父さまー!」
俺とネイピアはルイスを置き去りにして売店に向かう。魔導書の件は神聖不可侵の神父様に任せて、購買のメロンパンを買いに行くとしよう! 薄情じゃないかって? ルイス様は心が広く寛容な聖者様。きっとお許しくださる。
「こ、こら待てえええ!」