凶報は頭痛と共に訪れた。
凪乃と別れた5分後、頭蓋を刻むが如き激痛が兎を襲った。これは碧のGPS端末を見つけた時と同じものであった。
「つっ……!クソッ!」
「だっ、大丈夫!?」
廻琉の介抱を受けつつ、痛みの去らぬ頭を抱えながらも縋る思いでGPSを確認する兎。
液晶には重なる赤点が2つ。離れに点滅する赤点が1つ映し出されている。ただその場に留まり、いくら見つめても動くことはなかった。
「……廻琉!凪乃んとこ行くぞ!」
「うっ、うん!わかった!」
きっと立ち尽くしているだけ。先に喉を潤しているだけ。彼女は自身にそう言い聞かせた。そうする事で保つよう努めた。
しかし、
「ね…ねぇ、あれ、さ。凪乃…の?」
残念ながら彼女の思いは届かない。厄事とは、往々にして甘美な期待を打ち砕く。
裏路地に続く細道の前に、GPS端末が1つ落ちていた。置いていった、ではない。液晶はひび割れ、角は凹み、その機能を喪いかけていた。
「凪乃……?どっか隠れてるんでしょ?
ねぇ、凪乃!?ねぇっ!どこ!!?」
半狂乱ともいえる程に取り乱した廻琉が悲鳴にも似た声をあげる。兎はただ立ち尽くしていた。
2人の親友のいない現実に打ちのめされていた。
(…どこで間違えた?なにがあった?2人はどこに消えた?……どうしてあいつらが?)
能力が故、2人の死を否定する解は得ていた。
ただし兎の得られたものはそれだけであった。
生きているのであれば2人は何処に行ったのか。
何者かの手によるものなのか。
であれば何が目的なのか。
身代金か、はたまた趣向故の犯行か。
あらゆる情報が不足している今、全ては霧の中に包まれていた。
「は、……ひゅっ、はぁっ、は……はっ、なっ、凪乃……はっ、……うっぁ」
「廻琉っ!落ち着け!ゆっくりだ、ゆっくり吐け!……クソッ、卜部ぇっ!オイ!いねぇのか!」
ショックのあまり、過呼吸となった廻琉が膝をつく。背を摩る手の震えは止まず、藁にもすがる思いで叫ぶ声は届かない。
「誰か…、誰でもいい……!
なんなんだよ……っ!どうなってんだ!」
残されたのは齢16の少女2人。
意味も、目的も、解決策も闇に包まれた現実は絶望に染まる。
「1人に……したからか?あたしが…」
絶望は後悔に姿を変える。
善良な心は自責の念を産む。
膿んだ心はやがて、
「……もうっ、独りに…独りは……っ」
悲観、のちに崩壊へ至る。
膝から崩れ落ちて、肩を落とす。
兎の頭の中を疑問だけが泳ぎ続ける。いくら思考を巡らせたところで解は出ない。
「クソッ!クソッ、クソが!…返せよ!
返せっ!返せよぉっ!」
行き場のない怒りを乗せて地を叩く。痛みすらどうでもいい程に彼女の心は崩れかけていた。
希望の見えない現実に、肝心な時に限って役に立たない己が能力に。
失意と憤りの混じる赤黒い血がタイルの継ぎ目に沿って広がる。
兎が導き出した解、無情な現実。
己が内に、希望はない。
──がちゃ。
ただ1つ、変数を除いて。
叩き続けた反動により、懐から黒い板が地に落ちる。卜部から受け取った用途、名称共に不明の板。
「緊急時に使え」と。卜部の言葉を思い出す。
「…っ!頼む!誰でもいい!誰でも…いい、だから……っ!」
──こんこん。
ノックは2回。
地に伏す板を、血の滲んだ震える拳で叩く。
路地に静寂が落ちる。
遠くに聞こえる花火と歓呼の声がまるで別世界の出来事のようで、地に伏した2人の少女の姿をより残酷なものにした。
「な…にも、おきねえのか?」
着信音などもなく、光を放つでもなく、ただ沈黙を守るその板に、兎の中で徐々に怒りが募っていく。
「っっざけるなよ!クソの役にも立たねぇゴミ寄越しやが───」
怒号。そして、
──がちゃり。
開扉。
路地の壁に映し出された鉄扉が開き、少女と見紛う人影が姿を現す。
晴れているというのに傘をさし、腰まで伸びるブロンドの長髪をはためかせて。
場違いなまでに軽い調子で、ただ一言。
「SSRっスねぇ」