第1話 桜の下で、ギャルは恋をした
余命三年。
その言葉は、春の陽射しには似合わないほど冷たかった。
窓の外では、満開の桜が風に揺れている。淡い花びらが病院の駐車場へと舞い落ち、白い車の屋根を薄桃色に染めていた。
世界はこんなにも春らしく浮かれているというのに、診察室だけは季節から切り離されたように静かだった。
「……三年、ですか」
朝倉悠真は、医師の顔を見ながら聞き返した。
自分の声とは思えないほど、落ち着いていた。
目の前に座る医師は、難しい表情を崩さないまま、ゆっくりとうなずいた。
「もちろん、あくまで現時点での見立てだ。治療によって前後する可能性はある。新しい治療法が見つかる可能性だって、ゼロではない」
慰めるような言葉だった。
けれど悠真には、その言葉がかえって残酷に思えた。
可能性がゼロではない。
つまり、ほとんどないという意味だ。
「激しい運動は避けること。息苦しさや強い動悸が出たら、すぐに休むように。それと――」
医師の説明は続いていたが、悠真の耳には半分も入っていなかった。
三年。
高校に入学して、卒業するまで。
それだけだった。
自分の人生は、ちょうど高校生活と一緒に終わるらしい。
ずいぶんと出来すぎた話だ、と悠真は思った。
物語なら、主人公が高校三年間を駆け抜けて、卒業式で大団円を迎える。
けれど現実の自分に待っているのは、エンドロールでも感動的な主題歌でもない。
ただ、終わるだけだ。
その日の夜、悠真は自室のベッドに寝転がり、スマートフォンでアニメを見ていた。
画面の中では、主人公が仲間を守るために立ち上がっている。
絶望的な状況。
残り少ない時間。
それでも諦めずに戦う主人公。
「……アニメなら、ここから覚醒するんだけどな」
ぽつりと呟いて、悠真は自嘲するように笑った。
自室には漫画とライトノベルがぎっしりと並んでいる。
壁際にはアニメのタペストリー。
机の上にはお気に入りのヒロインのフィギュア。
いわゆる、立派なオタク部屋だった。
悠真は昔からアニメが好きだった。
現実では起こりえない奇跡が起こるから。
努力が報われるから。
失ったものを取り戻せるから。
そして何より、どれほど苦しくても物語の中の登場人物たちは、最後まで生きようとするから。
悠真は再生を止め、天井を見つめた。
「高校、行くか」
誰に聞かせるでもなく呟く。
病気を理由に閉じこもることもできた。
家族も、無理に学校へ通えとは言わなかった。
けれど悠真は、普通に高校へ行きたかった。
授業を受けて、友達を作って、文化祭や体育祭を経験して。
放課後には寄り道をして、くだらない話で笑って。
普通の高校生として過ごしたかった。
たとえ、それが最後の三年間だとしても。
だから悠真は決めた。
誰にも病気のことは言わない。
余命のことも話さない。
同情されるためではなく、普通に笑うために高校へ行くのだ。
そして迎えた、入学式当日。
私立星陵高校の正門前は、新入生と保護者で混み合っていた。
青空の下、桜並木が校舎まで続いている。
新品の制服に身を包んだ生徒たちは、期待と緊張を顔に浮かべながら、次々に校門をくぐっていった。
悠真もその中の一人だった。
黒髪はやや長めで、前髪が目元にかかっている。
整った顔立ちではあるが、本人に目立つ気はまったくない。
むしろ、なるべく人混みに紛れて静かに過ごしたいと思っていた。
「一年三組か」
掲示板に張り出されたクラス分けを確認し、悠真は小さく息を吐いた。
知り合いの名前は見当たらない。
中学時代の友人たちとは別々の高校になったため、完全な一からのスタートだった。
それは悠真にとって、都合がよかった。
病気のことを知っている人間は、この学校にはいない。
「よし。目指せ、平穏な高校生活」
気合を入れるように、小声で呟く。
だが、その直後だった。
「ちょ、待って! 髪、引っかかったんだけど!」
背後から、焦った女子の声が聞こえた。
振り向くと、正門脇の桜の枝に髪飾りを引っかけた少女がいた。
金色の長い髪に、白いメッシュ。
スカートは校則の範囲内で少し短く、胸元には大きめのリボン。
薄いメイクと、桜色のネイル。
腕には可愛らしいシュシュをつけている。
どこからどう見ても、ギャルだった。
「え、うそ。マジ取れないんだけど。初日から詰んだ?」
少女は枝から髪を外そうとするが、動けば動くほど絡まっていく。
周囲の生徒たちは気づいているものの、遠巻きに見ているだけだった。
悠真は少し迷ったあと、少女のもとへ近づいた。
「動かないほうがいいよ」
「え?」
「余計に絡まるから」
悠真は少女の背後に立ち、枝に引っかかった髪飾りを確認した。
複雑に見えたが、実際には留め具が小枝に挟まっているだけだった。
「髪、触るけどいい?」
「え、あ……うん」
少女の声が、少しだけ小さくなった。
悠真は丁寧に髪をよけ、留め具を枝から外した。
無理に引っ張らないよう注意しながら、数秒で解放する。
「はい。取れた」
「うわ、マジで!? ありがと!」
少女が勢いよく振り向く。
その瞬間、春風が吹いた。
桜の花びらが舞い上がり、二人の間を横切る。
少女の長い金髪も風に揺れ、白いメッシュが陽射しを受けて輝いた。
「髪、大丈夫?」
「うん、全然へーき!」
少女は髪を手で整えたあと、悠真の顔をじっと見た。
大きな紫色の瞳。
頬がほんのりと赤くなっている。
「……ねえ、同じ新入生?」
「そうだけど」
「クラスどこ?」
「一年三組」
「えっ、マジ!?」
少女の表情が一瞬で明るくなる。
「ウチも三組! やば、運命じゃん!」
「髪が引っかかった相手と同じクラスなだけで、運命判定は早すぎない?」
「細かいこと気にすんなし!」
少女は楽しそうに笑った。
その笑顔は、桜よりもずっと明るかった。
「ウチ、白雪レイナ。レイナでいいよ」
「朝倉悠真」
「悠真ね!」
「初対面で下の名前?」
「同じクラスじゃん。もう友達っしょ?」
「友達になる速度が通信回線並みに速いな」
「何それ、ウケる」
レイナは口元を手で隠して笑う。
悠真は少し困ったように眉を下げた。
ギャル。
しかも、かなり距離が近い。
悠真がもっとも接点を持たないと思っていた人種だった。
「じゃ、一緒に教室行こ!」
「いや、別に一人で――」
「ほら、早く!」
レイナは悠真の袖をつかみ、そのまま歩き出した。
「ちょっと待って。引っ張るなって」
「いいじゃん、いいじゃん。知り合いいなくて心細かったし」
「さっきまで全然心細そうに見えなかったけど」
「ウチ、繊細な乙女だから」
「桜の枝に髪を引っかけて騒いでた繊細な乙女か」
「そこは忘れて!」
二人は並んで校舎へ向かった。
入学式の日。
余命三年の少年と、金髪ギャルの少女。
二人の出会いは、そんな些細な出来事から始まった。
一年三組の教室に入ると、すでに半分ほどの生徒が席についていた。
黒板には座席表が貼られている。
「えーっと、ウチは……あった!」
レイナが座席表を指差す。
続いて悠真も自分の名前を探し、思わず目を細めた。
「隣かよ」
「やば! やっぱ運命じゃん!」
「だから判定が早いんだって」
窓側から二列目。
悠真の右隣がレイナの席だった。
レイナは嬉しそうに鞄を置き、椅子に座る。
そのまま机に頬杖をつき、悠真を見上げた。
「ねえ、悠真って趣味とかあんの?」
「急だな」
「だって友達になったんだし、知りたいじゃん」
「……アニメとか」
悠真は少しだけ警戒しながら答えた。
オタク趣味を隠すつもりはなかったが、堂々と言うほどの勇気もない。
中学時代、アニメ好きだと話したことで、からかわれた経験もあった。
「あと漫画とゲーム。まあ、普通にオタク」
するとレイナは目を大きく見開いた。
「マジで!?」
声が大きく、教室の何人かがこちらを振り返る。
悠真は小さく肩をすくめた。
「ああ。引いた?」
「引くわけなくない!?」
レイナは勢いよく身を乗り出した。
「今期、何見てる!?」
「え?」
「今期アニメ! 何見てるの!?」
「えっと……『転生剣士のダンジョン攻略』とか」
「ウチも見てる!」
レイナの目が輝いた。
「十二話の作画、神じゃなかった!? 主人公が魔剣を抜くシーン!」
「わかる。演出もよかった。原作だともう少し淡々としてたけど、アニメは音楽の使い方がすごかった」
「それな!」
レイナは机を軽く叩いた。
「あとさ、ヒロインのルミナ! めっちゃ可愛くない?」
「可愛い。個人的には幼なじみのセラ派だけど」
「えー! 絶対ルミナっしょ!」
「セラの一途さを侮るなよ」
「でも出番少ないじゃん」
「出番の多さがヒロインの価値じゃない」
「急にオタクの顔になるじゃん!」
「そっちが話を振ったんだろ」
二人は顔を見合わせ、同時に笑った。
悠真は驚いていた。
見た目からは想像もできないほど、レイナはアニメに詳しかった。
しかも、流行作品だけではない。
少し前の名作や、知る人ぞ知る深夜アニメの話にもついてくる。
「白雪って、かなり見てるんだな」
「レイナでいいって言ったじゃん」
「まだ慣れない」
「じゃあ早く慣れて」
「強引だな」
「でしょ?」
レイナは得意げに胸を張った。
その仕草が妙に可愛らしく、悠真は思わず視線を逸らした。
「ウチさ、見た目でアニメとか興味なさそうって言われること多いんだよね」
「まあ、それは少しわかる」
「えー、ひど!」
「正直に言っただけだって」
「でも、オタクだからって馬鹿にするやつ、ウチ嫌い」
それまで明るかったレイナの声が、少しだけ真面目になる。
「好きなものがあるって、めっちゃいいことじゃん。それを笑うほうがダサくない?」
「……そうだな」
「だから悠真も、堂々としてていいと思う」
レイナは笑った。
まっすぐで、優しい笑顔だった。
悠真の胸が、わずかに温かくなる。
入学初日からこんなふうに趣味の話ができる相手が見つかるとは思っていなかった。
少しだけ、この高校を選んでよかったと思えた。
やがて担任教師が教室へ入ってきて、ホームルームが始まった。
入学式は滞りなく進んだ。
校長の長い話。
在校生代表の祝辞。
新入生代表の挨拶。
悠真は椅子に座りながら、時折胸の奥に走る違和感を意識していた。
痛みというほどではない。
だが、心臓が普段より速く鼓動している。
緊張のせいかもしれない。
そう自分に言い聞かせ、ゆっくりと呼吸を整えた。
隣に座るレイナが、ちらりとこちらを見る。
「大丈夫?」
小声で尋ねられ、悠真はうなずいた。
「平気」
「顔、ちょっと白くない?」
「入学式で緊張してるだけ」
「え、可愛いとこあんじゃん」
「からかうな」
「だって悠真、ずっと冷静そうだし」
レイナは口元を緩める。
「でも、緊張してんのウチだけじゃなくて安心した」
「白雪が緊張?」
「レイナ」
「……レイナが緊張?」
「うん。実は朝から心臓バクバク」
「そうは見えないけど」
「ギャルは強がる生き物なの」
「初めて聞いた」
「今作った」
「だと思ったよ」
悠真が小さく笑うと、レイナも嬉しそうに笑った。
入学式を終え、再び教室へ戻る。
担任から学校生活についての説明があり、昼前には解散となった。
「悠真、このあと暇?」
鞄を肩にかけながら、レイナが尋ねた。
「まあ、暇だけど」
「じゃあ駅前寄ろ!」
「なんで?」
「アニメショップあるんだよ!」
「入学初日から?」
「入学初日だから!」
「その理屈はわからない」
「新生活記念! ほら、行こ!」
断る理由はなかった。
それに、悠真自身も駅前のアニメショップには少し興味があった。
二人は校門を出て、桜並木を歩いた。
レイナはよく喋った。
好きなアニメ。
推しキャラ。
最近買ったフィギュア。
スマートフォンの待ち受けにしているキャラクター。
話している間、表情がころころと変わる。
嬉しそうに笑ったかと思えば、好きなキャラの退場シーンを思い出して本気で落ち込む。
「ウチさ、あの回見たあと三日くらい立ち直れなかったんだよね」
「わかる。あれはきつかった」
「朝起きても、あの子もういないんだ……って」
「現実に戻ってこい」
「いや、推しの死は現実より重いから」
「名言っぽく言うな」
「でも悠真、わかってくれるじゃん」
「まあ、気持ちはわかる」
「やっぱウチら相性いいよね!」
レイナは嬉しそうに笑い、悠真の腕に軽く肩を寄せた。
「近いって」
「え、照れてる?」
「歩きにくいだけ」
「耳、赤いけど?」
「春だから」
「春って耳赤くなる季節だっけ?」
「なる人もいる」
「絶対嘘じゃん!」
レイナは楽しそうに笑った。
その笑い声を聞きながら、悠真は不思議な感覚を覚えていた。
今日、初めて会ったばかりなのに。
なぜか昔から知っているような気がする。
沈黙が気まずくない。
会話も無理に続けなくていい。
レイナが隣にいるだけで、春の景色が少し明るく見えた。
駅前のアニメショップに到着すると、レイナはさらに元気になった。
「見て悠真! 新作グッズ出てる!」
「走るなって」
「だって限定アクスタ!」
「店は逃げない」
「限定商品は逃げるの!」
レイナは売り場へ駆けていく。
悠真は苦笑しながら、そのあとを追った。
店内では、レイナは完全にオタクの顔になっていた。
商品棚の前で真剣に悩み、グッズを手に取っては戻し、また手に取る。
「ねえ悠真。こっちのアクスタと缶バッジ、どっちがいいと思う?」
「好きなほう買えば?」
「それが決められないから聞いてんじゃん!」
「両方買えばいいだろ」
「天才?」
「いや、普通の解決法だろ」
「でも今月、コスメ買いすぎたし……」
「ギャルとオタクの出費が両方あるの大変そうだな」
「そうなの! マジでお金足りない!」
レイナは真剣な顔で財布の中身を確認する。
「よし。お昼代削る」
「やめろ」
「推しのためなら二日くらいパンでいける」
「健康を犠牲にするな」
「悠真、お母さんみたい」
「せめて父親にしてくれ」
「じゃあ将来、旦那さん?」
「話が飛びすぎだろ!」
思わず声を上げると、レイナは顔を赤くしながら笑った。
「冗談じゃん」
「入学初日から心臓に悪いこと言うなよ」
その言葉を口にした瞬間、悠真の胸の奥が鋭く痛んだ。
「……っ」
息が止まりそうになる。
悠真は咄嗟に胸元を押さえた。
「悠真?」
レイナの表情が変わる。
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
「何でもなくないじゃん」
「ちょっと息が詰まっただけ」
「大丈夫? 座る?」
先ほどまで楽しそうに笑っていたのが嘘のように、レイナは心配そうな顔をしていた。
悠真は近くの壁に軽く手をつき、呼吸を整える。
数秒すると痛みは引いていった。
「もう平気」
「ほんと?」
「ああ」
「病院とか行かなくていい?」
「大げさだって」
悠真は笑ってごまかした。
「人混みで疲れただけ」
「……無理してない?」
「してない」
レイナはしばらく悠真の顔を見つめていた。
疑っているようだったが、それ以上は聞かなかった。
「じゃあ、今日はもう帰ろっか」
「グッズは?」
「また今度でいいよ」
「限定なんだろ?」
「悠真のほうが大事だし」
あまりにも自然に言われて、悠真は返事に詰まった。
「……そういうこと、簡単に言うなよ」
「え?」
「勘違いするやついるから」
「勘違いじゃないかもよ?」
レイナは少しだけ頬を赤くしながら、悠真を見た。
紫色の瞳が、まっすぐにこちらを映している。
悠真の鼓動が大きくなる。
今度は病気のせいではない。
そんな気がした。
「ほら、帰ろ」
レイナは照れ隠しをするように笑い、先に歩き出した。
店を出ると、春の空は夕方の色に変わり始めていた。
駅へ向かう途中、二人は公園の前を通った。
桜が見事に咲き誇り、風が吹くたびに花びらが舞っている。
「ねえ悠真」
「何?」
「写真撮ろ」
「桜の?」
「違う。二人で」
「今日会ったばかりだろ」
「今日会った記念じゃん」
「何でも記念日にするな」
「いいから!」
レイナはスマートフォンを取り出し、悠真の隣へ並んだ。
肩が触れる。
甘い香りが近くなる。
「もっと寄って」
「近すぎない?」
「写真入んないし」
「絶対入るだろ」
「はい、笑って!」
レイナがシャッターを押す。
画面には、満開の桜を背にした二人が写っていた。
レイナは満面の笑み。
悠真は少し困ったような、それでも穏やかな表情。
「いい感じ!」
レイナは写真を見ながら嬉しそうに笑った。
「送るから連絡先教えて」
「ああ」
二人は連絡先を交換した。
すぐに写真が送られてくる。
悠真は画面を見つめた。
高校生活初日。
初めてできた友達。
桜の下で撮った、一枚の写真。
それはきっと、普通の高校生にとっては何でもない日常だった。
けれど悠真には、ひどく眩しく見えた。
「じゃあ、また明日ね」
駅の改札前で、レイナが手を振る。
「また明日」
悠真も手を上げる。
その言葉を口にして、胸の奥が少し痛くなった。
また明日。
当然のように約束される未来。
けれど自分には、その明日があと何回残されているのだろう。
三年。
千日と少し。
長いようで、きっと短い。
それでも今日という一日は、確かに楽しかった。
レイナと話して、笑って、アニメショップに行って。
余命を告げられて以来、初めて心から笑えた気がした。
「白雪レイナ、か」
悠真はスマートフォンに表示された名前を見つめる。
画面の中では、レイナが桜の下で笑っていた。
一方、反対側のホームへ向かったレイナは、電車に乗るなり座席へ腰を下ろした。
そして両手で顔を覆った。
「無理……」
顔が熱い。
自分でもわかるほど、頬が真っ赤になっている。
入学式の朝。
桜の枝に髪を引っかけるという、人生最大級の恥ずかしい失敗。
そこを助けてくれた少年。
黒髪で、優しい目をしていて。
無愛想に見えるのに、困っている人を放っておけなくて。
しかもアニメ好き。
話も合う。
笑うと少しだけ子どもっぽくなる。
「好きになるに決まってんじゃん……」
レイナはスマートフォンを開き、先ほど撮った写真を見る。
悠真の隣で笑っている自分。
たった数時間前に出会ったばかり。
それなのに、もうずっと前から好きだったような気がした。
「絶対、仲良くなる」
レイナは小さく呟いた。
「てか、絶対付き合う」
決意するように拳を握る。
だが、すぐに恥ずかしくなって顔を覆う。
「うわ、ウチ何言ってんの!?」
周囲の乗客がちらりと見る。
レイナは慌てて姿勢を正し、窓の外へ視線を向けた。
夕暮れの街が流れていく。
車窓に映った自分は、今まで見たことがないくらい幸せそうな顔をしていた。
「明日、何話そっかな」
レイナは悠真とのトーク画面を開く。
文字を打っては消し、また打っては消す。
迷った末に、短いメッセージを送った。
『今日はありがと! 明日もいっぱい話そーね!』
すぐに既読がつく。
『こちらこそ。また明日』
その返信を見た瞬間、レイナは口元を緩めた。
桜が三度咲くまで。
悠真に残された時間は、あと三年。
けれどこの時のレイナは、まだ何も知らなかった。
悠真が胸の奥に隠している秘密も。
二人に残された時間が、決して永遠ではないことも。
ただ一つ確かなのは――
この日、桜の下で。
金髪のギャルは、一人の少年に恋をした。
そして余命三年の少年もまた、止まっていた時間を少しずつ動かし始めたのだった。
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