透き通る世界と魔法使い
「ん…?ここは…。」
晴人は気が付くとなぜか電車の中にいた。
「電車…?なんで?」
困惑する晴人が辺りを見回すと、目の前に座る血だらけの青い髪の少女が目に入る。
「おい!あんた大丈夫か!?」
晴人は血を流す少女に駆け寄ろうとするが、少女が口を開いたことで動きを止める。
「……ごめんなさい。私が間違っていました。」
その言葉には、途方もない後悔と絶望が滲んでいた。
「私の選択が……すべてをこの結末へと導いてしまいました。あなたにすべての責任を押し付け、キヴォトスを……生徒たちを、こんな状況にしてしまった……。」
少女の肩が小さく震える。
だが、晴人は咎めるような視線を向けることもなく、静かに彼女の言葉を聞いていた。
「……私の言葉も、私自身の存在すらも、今のあなたには届かないかもしれない。それでも……厚かましいお願いだと分かっていても、あなたに頼るしかありません。」
少女は晴人の目を見つめ返し、必死に言葉を絞り出す。
「どうか……彼女たちを……キヴォトスの生徒たちを守ってください。私にはできなかった……『絶望』から、彼女たちの『希望』を守る存在に……あなたになってほしいのです。」
晴人はふっと息を漏らし、頭を掻いた。
「希望、ね……。」
晴人の脳裏に、かつて自分が歩んできた過酷な戦いがよぎる。
サバトの絶望、体の中のドラゴン、失ってしまった大切な人、そして自らが「最後の希望」になると誓ったあの日のこと。
絶望の深さを知っているからこそ、晴人は目の前の少女が背負わされた重圧の痛みが痛いほど分かった。
「謝るなよ。誰だって間違えることはある。……それにさ。」
「絶望に落ちそうな人がいるなら、その人たちの希望になってやるのが魔法使いってもんだ。」
「約束する。俺が……『最後の希望』だ。」
晴人が静かに、しかし力強く微笑むと、少女の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。だが、その顔にはどこか安心したような、かすかな笑みが浮かんでいた。
「……ありがとうございます。先生……操真晴人さん。あとのことは……すべて、あなたに託します。」
少女の姿が、眩い光の中に溶けていく。
最後に残された彼女の言葉が、白の世界に優しく響いた。
◆
「…生。お……て……さい。」
誰かの声が聞こえる。自分はさっきまで電車の中で青髪の少女と喋っていたはずだ。いつの間に眠ってしまったのだろうか。
晴人は、はっきりしない意識の中先ほどの会話を思い浮かべる。
『どうか……彼女たちを……キヴォトスの生徒たちを守ってください。私にはできなかった……『絶望』から、彼女たちの『希望』を守る存在に……あなたになってほしいのです』
(そうだ、俺は彼女と約束をして…)
「おき……さい。先…。」
(ところでさっきから声をかけてきているのは誰だ?)
そうして、晴人が目を開けようとした時、
「いい加減起きてください!先生!」
「おわっ!?」
突然の大声に晴人は驚いて椅子から転げ落ちる。
「痛っ……! え、何…?だれ……?」
晴人は尻もちをつきながら周りを見ると、どうやらどこかのオフィスのような場所だった。
「やっと起きましたか…。相当お疲れだったみたいですね。なかなか起きないほど熟睡されるとは。」
声をかけてきたのは、黒の長髪に眼鏡をかけたエルフ耳の少女。どこかキツそうな雰囲気の彼女だが、何よりも目を引くのは頭の上で輝く『ヘイロー』だった。
「君は…?」
「私は
「学園都市『キヴォトス』…」
晴人が元いた世界では聞いたことのない地名だった。しかし腑に落ちたところもあった。
「そうか、先生ってのはそういうことか。」
あの青髪の少女が自分を呼ぶ時に言っていた言葉、『先生』。疑問に思う前に意識が落ちてしまったが、改めて思い出すと自分を指す言葉にしては確かに妙であった。
そして目の前の少女から聞いた『学園都市』という単語。どうやら自分はここで教師の真似事をしなくてはいけないようだ。
「おや、意外と冷静ですね。もっと混乱していると思いましたが。」
「いや混乱はしてるけど、俺がやらなきゃいけないことは分かっているつもりだよ。」
「…そうですか。」
そう短く言うと、リンは扉の方へ歩き出す。
「どこへ行くんだ?」
「どうしても、先生にやっていただかなくてはいけないことがあります。」
「やっていただかなくてはいけないこと…?」
「今はとりあえず、私についてきてください。」
そう言うとリンは扉を開け、さっさと行ってしまう。
「お、おい!」
晴人は置いて行かれないように慌ててついて行くのだった。
◆
そこそこ歩いた後、二人はエレベーターに乗り目的地へ向かう。といっても、晴人はどこへ向かっているのかまるで分からない訳だが。
どうしたもんかと晴人が考えていると、リンはキヴォトスについて説明を始めた。
曰く、キヴォトスは数千の学園が集まってできた巨大な学園都市であること、晴人がいた世界とは色々なことが違っていて、最初は慣れるのに苦労するかもしれないこと、自分は『連邦生徒会長』という存在に選ばれてここにいるらしいことを説明したところで、リンの説明が途切れる。
「ん?どうした、リンちゃん?」
「誰がリンちゃんですか。…その、先生は魔法使いと伺っていますが本当なのでしょうか…?」
恐る恐る質問するリンに、晴人は何でもないように答える。
「なんだ、そんなこと。そうだよ、俺は魔法使いだ。」
そう言うと、晴人は右手の指輪を付け替える。
「先生…?」
怪訝な表情でこちらを見るリンを他所に、晴人は指輪を付け替えた右手を腰にある手の形をしたバックルにかざす。
『”ガルーダ“!プリーズ!』
すると、リンの目の前に魔法陣が現れ、そこから赤い鳥のようなものが出てくる。晴人は出てきた鳥に、右手の指輪をはめると鳥はまるで意志を持ったように動き出す。
「これは…」
「俺の使い魔、ガルーダ。あだ名はガルちゃん。仲良くしてやってくれ。」
赤い鳥、もといガルーダはリンの周りをくるくると楽しそうに飛んでいる。少しの間放心していたリンは、自分の周りを飛ぶガルーダを見て楽しそうに笑っていた。
「どう?信じてくれた?」
「ええ、このようなものを見せられては信じるしかないですね。」
苦笑するリン。そんなリンの肩にガルーダが止まると、リンは微笑みながらガルーダの頭をなでていた。
やがて、エレベーターが止まるとチンッという音と共に扉が開く。やっと着いたかと思いながら晴人とリンが歩いて行くと、何やら揉めているような声が聞こえてくるのだった。
時系列は戦国MOVIE大合戦の前を想定しています。
晴人の口調これでいいのか……?
追記:ごめんなさい最終話でインフィニティーリング手放したのすっかり忘れてたので、時系列は魔宝石の世界に行く前に変更させてください。