コユキ「ユウカ先輩とノア先輩って凄いですよね!!」 作:世界一雑な男(ハーメルン垢)
数日後。ミレニアムサイエンススクールの一室にて。
コユキ「……今日も、ユウカ先輩たちに仕事はもらえませんでした」
私は自分の部屋のベッドの上で、膝を抱え込んでいた。あれから何日か経つけれど、私に任されるのは相変わらず簡単な雑用ばかり。大きな作戦や、重要なデータの整理なんて任せてもらえない。そりゃあ当然だ。今までしでかした悪行の数々を思えば、いきなり信用されるなんて虫のいい話なのだから。
コユキ「でも、めげませんよ……! 私は変わったんですから!」
自分を奮い立たせるように頬を叩き、私は部屋を飛び出した。
今日の目的は決まっている。いつものように私がトラブルを起こすのではなく、ユウカ先輩やノア先輩の役に立つこと、そして万が一の時は――あの時誓った通り、彼女たちの盾になることだ。
……だが、現実はそう甘くはなかった。
廊下を歩いていると、前方から生徒たちの話し声が聞こえてきた。
「ねえ、聞いた? 黒崎コユキ、最近おとなしいけど、どうせまた何か裏であくどいこと企んでるに決まってるわよ」
「間違いないわ。反省部室にこもってたって、どうせ次のイタズラのネタを考えてただけよ」
「本当に迷惑な話よね。ミレニアムの恥だわ……」
トゲのある言葉が、容赦なく私の耳に突き刺さる。
あの日、モブの生徒たちから浴びせられた罵声がフラッシュバックする。心がキュッと締め付けられ、足がすくみそうになった。
コユキ「……ううん、違う、私は……」
反論しようとして、しかし口ごもる。私がこれまで積み上げてきた「実績」が、今の私を縛り付けている。どれだけ心を入替えても、周囲の目は簡単に変わらない。それが少しだけ、……いや、結構、堪えた。
ノア「あら、コユキちゃん?」
柔らかく、聞き慣れた声が響いた。
顔を上げると、そこにはノア先輩が優しげな笑みを浮かべて立っていた。その隣には、資料を抱えたユウカ先輩の姿もある。
ノア「こんなところでどうしたんですか? お散歩ですか?」
ユウカ「コユキ。ぼーっとしてどうしたの? まさか、また何かやらかそうとしてるわけじゃないでしょうね?」
コユキ「ゆ、ユウカ先輩! ノア先輩! いえ、そんなんじゃありませんよ〜! にはは……」
慌てて取り繕う私に、ユウカ先輩はいつものように呆れたような、でも少し心配そうな視線を向ける。
ユウカ「……本当に、最近変よ。おとなしすぎるというか、なんだか元気がないというか。反省のしすぎで回路でも焼き切れた?」
コユキ「そ、そんなことありません! 私はいつでも元気いっぱいの黒崎コユキです!」
ノア「ふふ、そうですね。でも、無理をしているなら教えてくださいね? コユキちゃんの心の機微、私は何でもお見通しですから♪」
ノア先輩の含みのある瞳に、私は思わずドキリとした。この人は、私の心の奥底を見透かしているようで、時々すごく怖い。でも、同時に――温かい。
ユウカ「まあいいわ。ちょうどいいところにいたのよ、コユキ。これ、C&Cのエリアで回収してきたデータチップなんだけど、セミナーの端末まで持って行ってくれる? 私は別の用事があるから」
コユキ「え……私が、ですか?」
ユウカ「ええ。重要なデータだから、途中で落としたり、変なイタズラに使ったりしないでよね?」
コユキ「……はいっ! 任せてください!」
私の胸が、小さく跳ねた。
「重要」なデータ。私にそれを任せてくれた。
疑われているのは分かっている。でも、ユウカ先輩が私に仕事を振ってくれた。それがたまらなく嬉しかった。
コユキ「行ってきます!」
私はデータチップをしっかりと両手で抱え、いつになく真剣な足取りで廊下を駆け出した。
見ていてください、ユウカ先輩、ノア先輩。私はもう、ただの迷惑な問題児じゃないんですから!
――だが、運命とは時に残酷なものだ。
私が意気揚々と廊下を曲がったその瞬間、背後から聞き覚えのある、しかし今の私にとっては最悪の音が響いた。
『警報。ミレニアム本館エリアに、未確認の侵入者を確認。防衛プログラム、およびオートマトンが暴走を開始しました』
コユキ「……え?」
ガウン、と揺れる床。
廊下の向こうから、制御を失ったミレニアムの警備ロボットたちが、赤い目を光らせて押し寄せてきた。
「「「ガガガ……排除、排除……!」」」
コユキ「うそ……なんでこのタイミングなんですか〜っ!?」
手元のデータチップを守るように抱え込みながら、私は後ずさった。
逃げ道はない。後ろには、今まさにこちらへ歩いてきているユウカ先輩とノア先輩がいる。
ユウカ「ちょっと、コユキ!? 何の騒ぎ――って、あれは警備ロボット……!?」
ノア「あらあら、大変なことになりましたね……コユキちゃん、危ない!」
ロボットの砲口が、真っ直ぐに私――いや、私の背後にいるユウカ先輩たちを捉えた。
(――来たんだ)
頭の中で、あの日反省部室で誓った覚悟が鮮やかに蘇る。
私が迷惑をかけた分を取り戻す。私がユウカ先輩たちの盾になる。
コユキ「にはは……私、こういう役回り、実は結構得意なんですよ!」
私は持っていたデータチップを安全な隅っこに放り投げ、あろうことか、暴走したロボットたちの群れに向かって飛び出した。
ユウカ「ちょっと、コユキ!? 何バカなことやってるの、戻りなさいっ!」
ノア「コユキちゃん……っ!?」
二人の叫び声を背に聞きながら、私は笑顔を作る。
ああ、やっと役に立った。