稲荷崎高校排球部背番号6番   作:静弥〜ただの凡人〜

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おにぎり宮のおにぎりを食べてみたい。



稲荷崎高校2年2組

 

 

 

キーンコーン、と朝のホームルームが始まる予鈴が鳴り響く、わずか五分前。

 

 

2年2組の教室の前のドアが、勢いよく跳ね上がった。滑り込んできたのは、バレー部の3人──久留部、銀島、そして侑だ。

 

 

「あ、おはよー」 

「おつかれ、おはよう!」 

 

クラスメイトののんびりとした挨拶で迎えられるが、当の3人は制服のネクタイを歪ませたまま、壁に手をついて肩で激しく息を切らしている。まさに息も絶え絶え、といった風だった。

 

「っ、ほんまに、遅刻するかと思った……!」

侑が鞄を下ろしながら言う。

「鍵返しておけって、昨日あれほど言われてたやろ。忘れてた久留部が悪いわ……!」 

銀島が胸を押さえながら、恨めしそうな目を隣に向ける。

「それを加味しても、ギリギリまで自主練する自分らが悪いって。俺は完全に巻き込まれただけや」

久留部が額の汗を手の甲で拭いながら、けろりと言い返す。

「なぁ、そもそも鍵返しに行くだけなら1人で良かったんちゃうん? わざわざ2年レギュラー5人総出で行く必要、どこにあったんや……?」

ついさっき、5人で職員室前の廊下をドタドタと走った光景を思い出し、銀島は深くため息をついた。 

「それは、まぁええんや。職員室の前で教頭に捕まったのが、俺ら3人だけっちゅうのが許せん。角名とサム、後で絶対覚悟しとけよ……。あの引き際の鮮やかさ、絶対初犯ちゃうぞ」 

 

3人の愚痴は止まらない。

話の矛先は、久留部の鍵紛失(未遂)問題から、教頭の視線を察知した瞬間に音もなく人混みに消えた角名と治の鮮やかな逃走劇へと変わっていった。 

 

 

その様子を、少し離れた席からクラスメイトたちが苦笑交じりに見守っている。

 

 

 

「あいつら、朝からどうしたん?」

「いつものことやろ。気にするだけ損やで」 

 

ひとしきり文句を言い合ってようやく呼吸が落ち着いた頃、クラスメイトの一人が興味津々に身を乗り出してきた。 

 

「てか、バレー部、週末の試合どうやったん? 県予選の決勝やったんやろ?」 

「もちろんインターハイ出場やで。全国も応援来てな」

サッと前髪を払った久留部が、誇らしげに胸を張る。 

「へぇ、すごいやん! どこでやんの?」

「銀、どこでやんのー?」

まるで他人事のように隣の肩を叩く久留部に、銀島が鋭いツッコミを入れた。

「自分たちの大会の場所くらい把握しとけや……! 富山や、富山」

「さんきゅー!」

悪びれる様子もなくピースサインを作る久留部に、周りの生徒たちからもどっと笑いが起きる。

 

「テレビ映る?」

「まあ、映るんちゃうん?大きい大会やし」

「今のうちにサイン貰っといた方がいい感じ?」

「おぉ、今なら無料(タダ)やで!」

 

そう言うが早いか、お気楽者・久留部は自分の鞄からルーズリーフを出して破り、豪快にペンを走らせ始めた。

 

悪ノリのスイッチが入った久留部は止められない。いつの間にか銀島が悪ノリをして、久留部の席の前に並ぶクラスメイトの列を整列されいるし、侑はできあがった「久留部のサイン(笑)」をドヤ顔でクラスメイトに配る係になっていた。

関西の高校生特有の、一度始まったら止まらないノリが恐ろしい。

 

普段は2年レギュラーの中でも「まともで冷静な部類」に入る(と周囲から思われている)久留部がこうしてふざけ始めたら、もう終わりが見えなかった。──それこそ、彼らの厳格な主将でも連れてこない限り。

 

 

「近い未来にプレミアついてるかもしれんなぁ」

 

破り損ねてガタガタになったルーズリーフの切れ端に、殴り書きされた『久留部』の文字。それを渡された生徒が、妙に感心したように呟いた。

 

その平和で騒がしいお祭り騒ぎの教室に、ガラリと前扉が開く音が響く。入ってきた担任教師の手に握られているのは、出席簿と、見るからに怒りで青筋の浮かんだお説教の準備。誰も自席についていない光景を見た瞬間、雷が落ちるのは一目瞭然だった。

 

 

 

 

「全員席着けぇぇぇ!!」

 

 

 

 

 

*                 

 

 

 

 

 

何事もなく午前中の授業が終わり、待ちに待った昼休み。

 

 

 

だが、2年2組のバレー部ゾーンには、どこかどんよりとした空気が漂っていた。 

「あーー……小テストやばいわ。なんで国語って毎回毎回、小テストあんねん」 

ボロボロの単語帳を片手に、購買の焼きそばパンを口に押し込みながら久留部がぼやく。

「百人一首はなんとかなるって。今回は71番から80番やろ? 半分完璧に覚えとけば、追試は回避できるはずや」

銀島が梅干しのおにぎりを頬張りながら、ボロボロの『百人一首辞典』を血眼になって眺めている。そこへ、隣の席の侑がニヤリと不敵な笑みを浮かべた。 

「『瀬をはやみ』は出る。絶対出る」

根拠は一切ない。ただ、侑は妙な自信とともにそう言い切った。

「確かに? 掛詞とか係り結びもあるしな。問題は作りやすいんちゃう? なんせ一字決まりやし」

久留部が「一理あるな」と頷く。

「暗記はええねんけど、格助詞の見分け方とか裏面の問題に出てきたら俺マジで終わりなんやけど……」

辞典から一切目を離さずに、銀島がブツブツと呪文のように呟く。

「そんなん、最後は勘や、勘!」

「お前のバレー以外の勘は、一ミリも参考にならへんから黙っとけ」

 

 

 

 

 ──キーンコーンカーンコーン。

  

 

 

容赦のないチャイムの音が、教室に残酷に鳴り響いた。高校生のテスト直前特有の「悪あがき」が始まり、クラスの全員がギリギリまでテキストにしがみつく。 

5限の始まりとともに無慈悲に配られた小テスト。

それを終えた後の時間は、まさに地獄のような眠気との戦いだった。国語の授業は、他の教科に比べてなぜか格段に心地よい催眠効果がある。

もちろん、午前中の授業と激しい部活の疲労を溜め込んだバレー男子たちが、その魔力から逃れられるはずもなかった。 

 

やがて授業終了のチャイムが鳴ると、教室のあちこちで「テストの感想戦」という名の傷の舐め合いが始まった。バレー部3人の席も、例に漏れず死屍累々といった様子だ。  

「終わったぁぁ……」

侑が完全に机と一体化するように、べったりと顔を伏せたまま消え入るような声を出す。 

「古文、完全に終わったわ……」

銀島が、頭を抱えていかにも絶望といった表情で天井を見上げた。

「『瀬をはやみ』の縁語、結局分からんかったわ。岩にせき止められたのは俺らの点数や」

久留部が力なくシャープペンを置く。すると、その言葉に侑ががばっと勢いよく顔を上げた。

「あ! 出てきてたな、それ! ほら見ろ、やっぱり俺の勘当たったやん!」

「……で、侑はそれ解けたんか?」

銀島の冷ややかなツッコミに、侑は一瞬で真顔に戻る。

「いや、白紙」

「解けてないんかい。当たったの出題予想だけか」

「まぁ、10点満点中2点くらい取れてればええかなって……」

「なめんな、俺なんか前回の小テスト範囲間違えて、ガチで2点やぞ?」

久留部の謎の自慢に、銀島が「どっちもどっちや」と深くため息をついた。

 

 

 

──その後、6限、7限と、容赦なく通常の授業が続く。

昼下がりの教室内は、まさに睡魔の巣窟だった。

侑は1分と持たずに夢の住人となり、机の上によだれの池を作りかねない勢いで爆睡している。銀島は必死にまぶたをこじ開けて先生の方を睨みつけているが、頭がガクガクと不自然に揺れており、ノートの上にはまるでミミズがのたうち回ったかのような謎の黒い線がのびのびと走っていた。そんな中、久留部だけは淡々とシャープペンを動かし、黒板の文字をノートに書き写している。……ただし、本人の魂がここに残っているか、内容を理解できているかは、また完全に別のお話。

 

テスト本番の直前、この久留部の「意識を失いながらも書き上げた奇跡のノート」を、宮兄弟と銀島が必死の形相で丸写しすることになるのを、今の彼らはまだ知らない。

 

 

 

 

 

**

 

 

 

 

「角名、治、部活行くぞー」  

 

放課後、2年1組の後ろのドアから、2組の3人がガタガタと顔を出す。廊下で合流するなり、スポーツバッグを肩に担ぎ直した侑が、ジロリと2人を睨みつけた。

 

「朝のこと、俺は一ミリも忘れてへんからな?」

「今さら、何言うてんねん」

「過ぎたことは、もういいでしょ」

 

治の素っ気ない返しと、角名の淡々としたシャットアウト。見事なコンボである。

 

「なぁ、なんでお前らは教頭に見逃されて、俺ら3人だけガッツリ怒られたん? 納得いかんのやけど」

久留部が心底不思議そうに首を傾げると、角名がフッと目を逸らした。

「それは、日頃の行いと危機察知能力の差」 

「おい角名!!」 

「まぁまぁ、もうええやろ。それより、このままやと今度は部活の開始時刻に遅れて北さんにドヤされるぞ。そっちの方が何倍もやばいやろ」

銀島が時計を指差しながら焦った声を出す。

 

その通り、時計の針は刻一刻とタイムリミットに迫っていた。5人は顔を見合わせると、今度は教頭ではなく「主将の影」から逃れるように、一斉に更衣室へと走り出した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

──ギュッ、キュッ、とフロアに響くシューズの摩擦音。

コートに足を踏み入れた瞬間、久留部の纏う空気がガラリと変わった。教室で見せていたお気楽な姿はどこへやら、ネットを挟んで向かい合う久留部は、恐ろしいほどバレーを楽しんでいる。

その瞳には、獲物の動きをじっと観察するような冷徹さと、純粋な高揚感が同居していた。

 

 

 

「チッ、またか……!」

 

今日の紅白戦、治が不満げに顔を歪めた。 

宮兄弟の息ぴったりの早い速攻。侑の寸分狂わぬトスから放たれるバックアタックが、ネット際で完全に「壁」に阻まれた。

 

ドンッ! と重い音を立てて自陣の床に落ちるボール。その向こう側で、高い打点から綺麗に手を引いた久留部が、ニカッと白い歯を見せて笑う。

「どんまいツインズ。次どこ打つか、助走の角度でバレバレやで」

「久留部お前、ほんま嫌なブロック跳ぶなぁ……!」

侑が悔しそうに髪を掻きむしる。

そもそも、宮兄弟を同じチームにして戦わせている監督の意図もエグいが、それを真っ向から、しかも何度もドンピシャで止めまくっている久留部の読みと高さは異常だった。相手の選択肢を一本ずつ、丁寧に、楽しそうに潰していく。

 

激しい練習が終わり、各自でクールダウンのストレッチをこなす。北さんの「さっさと帰って休め」という言葉が頭をよぎりつつも、バレー馬鹿たちの身体はそう簡単に動かなくはならない。

モップがけが終わり、各自がパラパラと帰り支度を始める中、久留部はボールを一つ拾い上げ、コートの端でトスの感触を確かめていた。そこへ、トコトコと足音を響かせて歩み寄ってくる影があった。

 

「なぁ、久留部」

 

振り返ると、スポーツバッグを床に置いた侑が、珍しく神妙な、どこかギラギラとした目でこちらを見つめていた。

 

「……何や、気味悪い顔して」

 

 

「誰が気味悪い顔や! ……なぁ、お前のあの、ジャンプフローター。ちょっと俺に教えてくれん?」

 

 

 

 

 

 

 

 




 



ハイキューの世界線の国体(国スポって言うべき?でも、ハイキューの時代的に国体かな。)見てみたい。絶対楽しい。 


1番好きな横断幕は「思い出なんかいらん」 
口語いいよね。溢れ出る強者感。


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