稲荷崎高校応援曲を聞くとテンションが上がる。
日常回。6月下旬くらいかな。
「おーい。角名、治、おる?」
昼休み終了を告げるチャイムまでは、まだたっぷりと時間がある。賑やかな喧騒に包まれた2年1組の前のドアから、久留部がひょっこりと顔を出した。
その右手には、ホチキスでパチンと留められた、少し厚みのあるプリントの束が握られている。
「どうしたの?」
窓際の席で、頬杖をつきながら器用にスマホをいじっていた角名が、音もなく視線を向けた。隣の席で、机の上に巨大な3段弁当を広げていた治も、もぐもぐと口を忙しく動かしながら、怪訝そうに眉をひそめる。
「これ、部活のプリント。北さんに『昼休みのうちに2年全員に回しとけ』って言われてん」
久留部は一度教室を見渡すと、自分の教室であるかのようにズカズカと中へ入ってきた。そして、治の前の席に座っている生徒が不在なのをいいことに、その椅子を反対向きにして、背もたれを胸の前に抱え込む形でまたがった。手元にあったプリントの束が、2人の机が合わさっている隙間にパサッと置かれる。
「あ、遠征関連の書類か。ありがとう」
角名がスマホを机に置き、プリントの一番上の束を指先で引き寄せた。
「……なぁ、こんなん部活の時でよかったんちゃうん?」
治が、箸を持ったまま不満げに首を傾げた。口の中にまだ米が入っているのか、少しこもった声だ。
「それは俺も思った。ぶっちゃけ部室で配った方が一発で済むしな。やけど北さんに『忘れたらあかんから先に渡しとけ』言われたら、その瞬間に『はい!』って動くしかないやろ。主将の命令は絶対や」
久留部は肩をすくめながら、制服のポケットから購買のシールが貼られたコッペパンを取り出した。手慣れた様子で袋をペリペリと開き、香ばしい小麦の匂いと共に口を大きくあけてかぶりつく。
「久留部、いつもパン食べてない?」
呆れたような角名の指摘に、久留部はもぐもぐと咀嚼してから、大真面目な顔で頷いた。
「しゃあないやん、オカンの弁当だけやと6時間目が終わる頃には腹と背中がくっつきそうになるねん……。ちゅうか、毎度のことやけど治の弁当箱、遠目で見てもデカすぎへん? それ、タッパーっていうか、もはやドカティの工具箱やろ」
「アホ言え、これでも部活のとき途中でガス欠になるんや。白米の量は命の量やで」
治がいかにも大食漢らしい、哲学的な回答を口にする。おかずの唐揚げを豪快に口へ放り込む姿を見て、久留部は「さすがやな」とクスッと笑った。
「そういえば、侑と銀は? 一緒にいないの珍しいね。」
「あいつら、文化祭の出し物の話し合いとかで、昼一番に委員会に引っ張られたんよ。今頃、教室の後ろの飾り付けがどうとかで頭抱えてるんちゃう?」
「なるほどね」
すると、角名がプリントをパラパラとめくりながら、確認するように言った。
「……次の遠征ってさ、インハイの前に東京の強豪と練習試合する『関東遠征』って言ってたよね。これ、スケジュール見る限り、最終日に少しだけ自由時間がありそう」
「マジで!? もし押上行けるタイミングあったら、俺スカイツリー行ってみたいわ。今年オープンしたばっかりやし、兵庫の高校生が東京行くなら、まずはそこやろ」
久留部が食べ終えたパンの袋を丸めながら、いかにも男子高校生らしく目を輝かせる。新しくできた巨大タワーへの憧れは、遠く離れた関西の少年であっても変わらないらしい。
「俺は観光より、とにかく東京で美味いもん食いたいわ。本場のもんじゃ焼きとか、江戸前寿司とか。腹一杯食わせてくれる店、今のうちにスマホで調べとこ」
治はすでに、練習試合よりも目の前の食い気に魂を奪われているようで、弁当の隅の卵焼きを愛おしそうに見つめている。
すると、角名が携帯の画面を久留部の視線の先へ差し向けながら、ふっと口元を緩めた。
「久留部、東京はご飯だけじゃなくて、甘いものも美味しいよ。ほら、これ見て。今度東京の原宿に新しくできるパンケーキの店なんだけど、遠征のとき時間あったら一緒に行かない?」
画面に映し出されたのは、これでもかと生クリームがタワーのように盛られた、およそ男子バレー部員が検索するとは思えないオシャレなパンケーキだった。それを見た瞬間、久留部は一秒で目を輝かせた。
「え、めっちゃ美味そう! 行く行く、絶対行くわ! ……あ、そういえばさ、東京関係ないねんけど、こないだ尼崎の駅前に新しくできたクレープ屋、知ってる?」
「あ、SNSで噂になってたところ? 写真見たよ。イチゴとかがいっぱいのってるやつでしょ」
「そうそれ! 昨日の部活帰りに行こうと思ったんやけど、侑らが後ろでギャーギャーうるさくて寄る雰囲気やなかったんよ。……なぁ、今日の部活終わり、2年全員連れて行かへん?」
「いいね、行く。侑と銀も巻き込んでこ。あの2人、甘いもの目の前にするとすぐ大人しくなるし」
2人でスマホの画面を突き合わせるように覗き込み、「このチョコバナナもヤバい」「こっちのトッピング追加しよ」と、完全に女子高生のノリで盛り上がる2人。窓から差し込む昼下がりの柔らかな光も相まって、その空間だけ妙にメルヘンな空気が漂っている。治は、残った白米を口に放り込みながら、限界まで冷え切った視線を2人に送った。
「……なぁ。お前ら2人、さっきから会話のカロリーが完全に女子高生なんやけど。お前らほんまに男バレ部員か? ネット際でゴリゴリにブロック跳んでる奴らの会話とは思えんねんけど」
「ええやんか治、激しい部活の後は糖分が必要不可欠やねん。脳みそフル回転させてブロック跳んどるんやから、これくらい消費しとるわ」
久留部が胸を張る。すかさず角名も、画面から目を離さずに追撃した。
「え? もちろん、治も食べるよね? 期間限定のモンブランクレープとかあったよ」
「……俺はクレープ食うくらいなら、駅前のラーメン屋で替玉するわ。誰がそんな、紙に包まれた小洒落たもん片手に歩くか。似合わんわ」
治は呆れ顔で、空になった3段のお弁当箱をパチパチと手際よく重ね、太いゴムバンドで留めて片付け始めた。
そんなリアクションを他所に、久留部と角名は「今日の放課後のスイーツ計画」を、女子高生さながらの熱量で、楽しそうに練り続けるのだった。
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部活終わり。いつもなら1番最後まで練習をして、主将の「ちゃんと休め」という正論を片耳に自主練をするバレー馬鹿たちが、今日ばかりは別の目的のために素早く行動を開始していた。
「なぁ、ほんまに5人で行くん? 目立ちすぎやろ」
部室で制服に着替えながら、治が上履きの踵をトントンと床に打ち付ける。
「何言うてんねんサム、男に二言はないで。クレープ屋、全員突撃や!」
部活終わり、完全に脳みそが糖分を欲している侑が、髪を雑にセットしながら鼻息を荒くした。隣で銀島が「俺はチョコバナナ一択やな……」とすでに財布を握りしめている。結局、昼休みの計画通り、2年レギュラー5人全員で尼崎駅前のクレープ屋へ向かうことになったのだ。
──夕暮れ時のアスファルトを踏みしめ、5つの影が長く伸びる。スポーツバッグを肩にかけ、制服のネクタイを少し緩めた大柄な男子高校生が5人も連れ立って歩く姿は、ぶっちゃけかなり威圧感がある。さらに、顔が良い。すれ違う他校の女子生徒たちが「モデルかなぁ?背高いね。」とひそひそと視線を送るが、当の本人たちの頭の中は、生クリームとイチゴのことでいっぱいだった。
「あ、あそこじゃない?」
駅から少し外れた路地裏。角名が長い指先で示した先には、新しくオープンしたばかりの、ピンクと白を基調とした小洒落たクレープ屋の看板があった。街灯が灯り始めた駅前で、そこだけが妙にキラキラと浮き上がって見える。
「うわ、ガチで女子高生しかおらんやんけ……」
侑が店の前に群がる女子生徒の制服の波を見て、一瞬だけ気圧されたように足を止めた。普段、何百人もの大歓声が渦巻くコートの真ん中に平然と立つ天才セッターが、女子高生だらけの空間を前にして、あからさまにたじろいでいる。
「何ビビっとんねん侑。ここまで来て敵前逃亡は許されへんで」
久留部が侑の背中をグイと押し、ズカズカと列の最後尾へと並んだ。
「角名、これ。ほら、期間限定のやつ」
「あ、本当だ。実物、写真よりイチゴ大きいね」
久留部と角名はメニューの看板を覗き込み、完全に昼休みの続きのテンポで盛り上がり始める。
その引き際のなさと順応性の高さは、まさにネット際での冷徹なミドルブロッカーのそれだった。
「……侑、俺ら場違い感がすごないか」
「おぅ銀、俺も今、人生で一番アウェイなコートに立っとる気分や……」
銀島と侑が、居心地悪そうに肩を窄めて小さくなっている。そんな中、一人だけ別の意味でギラギラした目をしている男がいた。宮治である。
「……なぁ、久留部」
「ん?」
「あの、メニューの端っこにある『ハムチーズツナマヨクレープ』ってやつ、おかず系やんな? 生地、甘くないやつやんな?」
「あ、うん。それ甘くない惣菜クレープやね。なんで?」
治はごくりと喉を鳴らし、財布から千円札を引っ張り出した。
「俺、それにするわ。あと、デザートに『メガ盛りイチゴチョコ生クリーム』も買う」
「治、お前さっきラーメンの替玉がどうとか言うとったんは何やったんや。結局一番食う気満々やないかい」
久留部の呆れたツッコミに、治は「美味いもんの前に、似合う似合わんは関係ないねん」と大真面目な顔で言い放った。
やがて彼らの順番が回ってきて、小洒落た包装紙に包まれたクレープが5人の大きな手に手渡される。駅のベンチに腰掛け、夕焼け空を見上げながら、5人で一斉にクレープに齧り付いた。口いっぱいに広がる濃厚な甘さと、どこか背徳的な放課後の味。さっきまでの居心地の悪さはどこへやら、侑も「うんま!!」と目を輝かせて口の周りにクリームをつけている。
「美味い。」
「おぅ、やっぱり部活後の糖分は最高やな、角名」
くだらない悪ノリと、お互いの好物を奪い合う静かな戦争。
どこにでもある、ありふれた男子高校生の、愛おしい初夏の日の夕暮れ。
久留部の能力パラメータ(5段階)
パワー:3
バネ:5
スタミナ:4
頭脳:5
スピード:4
テクニック:4
跳躍力と読みを極限まで磨き上げた”頭脳派ミドルブロッカー”。
相手スパイカーの心を折るタイプ。
高い打点から打ち落とすスタイルで、アタッカーとしても一流。
ジャンプフローターサーブの使い手。
攻守ともに高水準を誇る万能型ミドル。
その読みを勉強にも活かせると良いね。
本番で緊張して、普段通りできなくなるけど、直ぐに慣れる。そのため、ややスロースターター
パラメータ書き忘れてた訳ではないです(汗)断じて!!