【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜 作:ペンギンって可愛いですよね
それから二十分後――
近くの病室の扉が静かに開いた。
「ごめんなさい、心配かけちゃったわね」
回復したミヤコが少し照れくさそうに笑いながら戻ってきた。
顔色は先ほどよりもずっと良くなっている。
斎藤は安堵したように笑った。
「もう大丈夫なのか?」
「うん。少し休んだらすっかり良くなった」
「血圧も元に戻ったって」
「よかった……」
ルビーもほっとした表情を浮かべる。
「ミヤコさん、大丈夫?」
「ありがとう、ルビーちゃん」
ミヤコは優しく頭を撫でた。
「もう平気だからね」
再び四人は集中治療室の前に並び、ガラス越しにアイを見守り続けた。
誰も大きな声では話さない。
静かな時間だけが流れていく。
そして、さらに二時間後、悠真と看護師が集中治療室から出てきた。
「皆さん」
四人は一斉に立ち上がる。
「術後の経過は非常に順調です」
「バイタルも安定していますので、一般病棟へ移動します」
その言葉に、四人は顔を見合わせる。
「ありがとうございます!」
斎藤が深く頭を下げた。
ほどなくして、アイはベッドごと一般病棟へ運ばれていく。
点滴こそ付いているものの、表情は穏やかだった。
病室へ入ると、看護師が各種モニターを確認し、最後にカーテンを開ける。
「何かありましたらナースコールを押してください」
そう言って静かに病室をあとにした。
部屋にはアイと四人だけが残る。
アクアはベッドの横へ。
ルビーは反対側へ。
斎藤とミヤコは少し後ろから二人を見守る。
静かな時間が流れる。
誰も言葉を発しなかった。
ただ、アイが目を覚ます瞬間を待っていた。
それから約三十分後――。
アイの指先が小さく動く。
「!」
最初に気付いたのはアクアだった。
「動いた……」
全員が息を呑む。
ゆっくりとまぶたが震える。
何度か瞬きを繰り返しながら、アイは静かに目を開けた。
ぼんやりと天井を見つめる。
まだ麻酔が残っているのか、焦点が合うまで少し時間がかかった。
やがてゆっくりと横へ顔を向ける。
そこにいたのは...
アクア。
ルビー。
斎藤。
ミヤコ。
四人とも涙を流していた。
ルビーは声を押し殺して泣き、ミヤコも涙を拭い続けている。
斎藤も目を真っ赤にし、アクアも必死に涙を堪えていた。
そんな四人を見たアイは、一瞬きょとんとした表情になる。
そして小さく笑った。
「ふふっ」
「こんな光景……生まれて初めて」
その一言に、張り詰めていた空気が一気にほどけた。
ルビーは涙をこぼしながらベッドへ駆け寄る。
「ママぁ!」
「よかったぁ……!」
アクアも安堵したように大きく息を吐いた。
斎藤は目元を押さえながら笑う。
「心配させるなよ……」
ミヤコは涙を流しながら何度も頷いた。
「本当に……よかった」
アイは少し困ったように笑う。
「そんなに泣かれると……」
「私まで泣いちゃうじゃん」
その言葉に、病室には涙と笑顔が入り混じった温かな空気が広がった。
誰もが同じことを思っていた。
――アイが、生きている。
それだけで十分だった。