【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜 作:ペンギンって可愛いですよね
翌日の朝、テレビをつけた全国の人々は、一つのニュースに目を奪われた。
いつもの朝の情報番組は予定を変更し、各局ともトップニュースとして速報を伝えていた。
画面には大きくテロップが映し出される。
『人気アイドルグループB小町・アイさん、自宅で刺される』
『緊急手術の末、一命を取り留める』
病院前には多くの報道陣が集まり、中継車やカメラが並んでいる。
アナウンサーが落ち着いた口調で伝えた。
「昨日早朝、人気アイドルグループB小町のアイさんが、自宅玄関前で男に刃物で刺され、都立大学病院へ緊急搬送されました」
「搬送当初は大量出血による重篤な状態で、一時は命に危険が及ぶ状況でした」
「しかし、病院で緊急手術が行われ、一命を取り留めました」
「現在は意識も回復し、容体は安定しています」
「病院関係者によりますと、経過は非常に良好で、順調に回復へ向かっているとのことです」
画面には病院の外観や、救急車が搬送された際の映像が映し出される。
スタジオでは出演者たちも安堵した表情を浮かべていた。
「本当に助かってよかったですね」
「日本中が安心したと思います」
「まだ若いですし、まずはゆっくり療養していただきたいですね」
そのニュースは瞬く間に日本中へ広がった。
電車の中でも。
会社の休憩室でも。
学校の教室でも。
多くの人がスマートフォンでニュースを確認していた。
SNSには、
『助かって本当によかった』
『朝から泣いた』
『ニュース見て安心した』
『ライブはまたできる』
『まずはゆっくり休んでほしい』
『アイちゃん、生きていてくれてありがとう』
『どうか無理せず回復してください』
そんな投稿が数え切れないほど並び続ける。
「#アイちゃん」
「#B小町」
「#助かってよかった」
といったハッシュタグは、瞬く間にトレンド上位を埋め尽くした。
全国民が衝撃を受けると同時に、アイが助かったという事実に胸をなで下ろしていた。
一方、病院前では朝から報道陣による取材が続いていた。
その後、苺プロダクション社長・斎藤壱護が報道陣の前へ姿を現す。
無数のカメラが一斉に向けられた。
「社長!」
「アイさんの容体はいかがですか!」
「意識は戻られたのでしょうか!」
矢継ぎ早に質問が飛ぶ。
斎藤は一度深呼吸すると、静かに口を開いた。
「現在、容体は安定しています」
「医師からも順調に回復していると聞いています」
その言葉に、その場の空気が少し和らいだ。
続けて記者が質問する。
「アイさんを助けた先生について教えてください」
斎藤は静かに頷いた。
「聞いた話ですが、たまたま隣に住んでいた医師が、すぐに応急処置をしてくださいました」
「そのまま救急車にも同乗し、病院へ搬送されたあとも、緊急手術を担当してくださいました」
少しだけ言葉を詰まらせる。
「…その先生がいなければ…アイは助からなかったかもしれません」
「私たちは、本当に感謝しています」
そう言って深く頭を下げた。
その映像が全国へ生中継される。
各局は一斉に、その医師について報じ始めた。
『アイドル・アイを救った天才外科医』
『都立大学病院外科・神崎悠真医師』
『現場で応急処置、そのまま緊急手術を執刀』
『迅速な判断が命を救う』
『アイの命を救った救世主』
テレビだけではない...新聞各紙やネットニュースも一斉に特集記事を掲載した。
「現場での冷静な止血処置」
「搬送中の適切な判断」
「手術開始までの迅速な対応」
医療関係者からも、
「極めて的確な救命活動だった」
「現場から手術まで一人で担当するのは非常に珍しい」
と高く評価される。
神崎悠真という名前は、一夜にして全国へ知れ渡っていった。
しかし、当の本人は、都立大学病院の医局で、いつもと変わらない朝を迎えていた。
コーヒーを片手にテレビを見つめる。
画面には自分の写真と名前が映っていた。
悠真は思わず苦笑する。
「これは……完全に予想外だな」
その様子を見ていた同僚医師が笑う。
「先生、一躍ヒーローじゃないですか」
「今日からサインの練習でもします?」
別の医師も冗談交じりに言う。
「病院にファンが押しかけるんじゃないですか?」
看護師たちも笑いながら集まってきた。
「神崎先生!」
「ニュース見ました!」
「救世主なんて呼ばれてますよ!」
「病院のヒーローですね!」
「私たちまで誇らしくなりました!」
普段は静かな医局も、この日ばかりは明るい笑い声に包まれていた。
悠真は照れくさそうに頭をかく。
「勘弁してください。私は医者です」
「患者さんを助けるのが仕事ですから」
「特別なことをしたつもりはありません」
その言葉に、同僚たちは顔を見合わせて笑う。
「そういうところが先生らしいですね」
数日後、悠真のもとへ一本の電話が入る。
相手は警察だった。
「神崎先生、このたびは迅速な救命活動により尊い命を救われました」
「人命救助への多大な貢献を称え、感謝状を贈呈したいと考えております」
悠真は少し困ったような表情になる。
「お気持ちはありがたいのですが……」
「私は医師として当然のことをしただけですので」
辞退しようとした。
しかし病院長や同僚たちは笑顔で背中を押した。
「これは先生個人だけじゃない」
「医療従事者全体への評価にもつながる」
「受け取ってきてください」
そこまで言われ、悠真も断り切れなかった。
「……分かりました」
後日、警察署で感謝状贈呈式が行われた。
式典は多くの報道陣が見守る中で進められた。
警察署長から感謝状を受け取る。
会場には拍手が響いた。
式が終わると、待ち構えていた報道陣が一斉に集まる。
「神崎先生!」
「今のお気持ちは!」
「アイさんを救ったことについて一言お願いします!」
「全国から称賛の声が寄せられていますが!」
何本ものマイクが向けられる。
フラッシュが何度も光った。
しかし悠真は騒がず、ゆっくりと立ち止まる。
そして静かに口を開いた。
「私は、たまたまその場に居合わせて、医師として仕事をしただけです」
「現場に医師がいたなら、誰でも同じことをしたと思います」
少し間を置いて続ける。
「本当に頑張ったのはアイさんです」
「重傷を負いながらも、生きようと最後まで頑張ってくれました」
「私は、その力を少しお手伝いしただけです」
「これからも一人でも多くの患者さんを救えるよう、医師として努力を続けていきます」
それだけ話すと、深く一礼する。
それ以上は何も語らず、その場をあとにした。
翌日の新聞やニュースでは、そのコメントが大きく取り上げられる。
『神崎医師「頑張ったのはアイさん」』
『救世主の謙虚すぎるコメント』
『患者を称え、自らを語らない天才外科医』
『医師として当然のことをしただけ』
SNSでも、
『かっこよすぎる』
『本物の医者だ』
『こんな先生に診てもらいたい』
『技術だけじゃなく人格まで一流』
『だから患者さんから信頼されるんだろうな』
『こういう人が本当のヒーローなんだ』
と称賛の声が相次いだ。
都立大学病院にも、
「神崎先生にお礼を伝えたい」
「応援しています」
「先生に診てもらいたい」
という手紙やメッセージが全国から届くようになる。
だが、悠真はそれらにも特別な反応を示さなかった。
いつもと変わらず白衣に袖を通し、外来へ向かう。
目の前にいる患者を診ること...
それが自分にできる唯一のことだと信じていたからである。
こうして神崎悠真は、一夜にして全国が知る天才外科医となった。
しかし本人は最後まで、自分を英雄だと思うことは一度もなかった。