【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜 作:ペンギンって可愛いですよね
前書き
※本作では、公式で言及されていない設定について、一部独自解釈を含んでいます。
公式では「めいめい」と「渡辺」が同一人物であることは言及されていませんが、本作では「めいめい」を「渡辺」として扱っています。また、旧B小町7人目のメンバーにはオリジナルキャラクター「みーちゃん」を設定しています。
翌日、星野アイが入院している病室。
朝の柔らかな日差しが病室へ差し込む中、扉が静かにノックされた。
コンコン。
「失礼します」
病室へ入ってきたのは、B小町のメンバー六人だった。
高峯こと、たかみー。
新野冬子こと、ニノ。
渡辺こと、めいめい。
そして、ありぴゃん、きゅんぱん、みーちゃん。
ニュースでアイが一命を取り留めたことを知り、仕事の合間を縫って全員でお見舞いにやって来たのだ。
「アイ!」
「大丈夫なの!?」
「本当に無事だったんだ……」
「ニュースを見た時、心臓止まるかと思ったよ」
「みんな仕事どころじゃなかったんだからね」
「本当に……良かった」
六人は一斉にベッドへ駆け寄る。
しかし、その直後だった。
「みんなー!」
「来てくれてありがとー!」
ベッドの上で満面の笑みを浮かべ、元気いっぱいに手を振るアイ。
その姿を見た六人は、ぴたりと足を止めた。
「…………」
「…………」
「…………」
全員が顔を見合わせる。
最初に口を開いたのは、たかみーだった。
「えっと……」
「元気すぎない?」
「私もそう思った」
ニノが苦笑する。
「ニュースでは重体って言ってたよね?」
めいめいも首を傾げた。
「もっと弱ってると思ってたんだけど……」
ありぴゃんがぽつりと呟く。
「いつものアイじゃん」
「お見舞いに来た意味ある?」
きゅんぱんが笑う。
みーちゃんも安心したように胸をなで下ろした。
「でも、その笑顔が見られて良かった」
アイは嬉しそうに笑った。
「もう大丈夫!」
「先生が助けてくれたから!」
「だから心配しなくていいよ!」
その笑顔は、いつもテレビで見せる笑顔と何一つ変わらなかった。
だからこそ、六人は少しだけ違和感を覚えていた。
本当に、大丈夫なのだろうか。
命を落としかけた人が、すぐにこんな笑顔を見せられるものなのだろうか......
しかし誰も、その違和感を口にはしなかった。
アイは昔から、弱音を吐かない人だった。
その時だった。
コンコン。
再び病室の扉がノックされる。
「失礼します」
朝の回診に訪れた悠真だった。
「おはようございます」
「おはよう、先生!」
アイは元気よく手を振る。
悠真も穏やかに笑みを返した。
「おはようございます」
そして病室を見回し、少し驚いたように目を細める。
「今日は賑やかですね」
「B小町のみんながお見舞いに来てくれたの!」
「なるほど」
悠真が頷くと、六人が自然と彼の方へ集まった。
「あの、先生」
たかみーが代表して尋ねる。
「はい」
「本当にアイ、この前まで重症だったんですか?」
「正直、信じられなくて……」
ニノも続ける。
「ニュースを見た時は、本当に危ない状態だって報道されてたんです」
「でも今は……」
「普通に元気すぎて」
めいめいも苦笑する。
悠真は六人の表情を見て、小さく笑った。
「皆さんが驚くのも無理はありません」
「搬送された時は、本当に命に関わる状態でした」
「あと少し処置が遅れていたら、助からなかった可能性もあります」
その一言で病室の空気が静まる。
六人の表情から笑みが消えた。
「そんなに……」
誰かが小さく呟く。
悠真はベッドのアイへ視線を向けた。
「私も驚いています」
「アイさんの回復力には」
「術後とは思えないほど順調です」
「ここまで早く元気になるとは、正直予想していませんでした」
「すごい生命力……」
「アイらしいね」
「昔から丈夫だったし」
その言葉に、アイは得意げに胸を張る。
「えへへ!」
「昔から丈夫なんだよ、私!」
すると悠真は真顔で言った。
「丈夫とか言う前に、刺されないのが一番ですね」
一瞬だけ病室が静まり返る。
そして...
「あはははは!」
真っ先に笑い出したのはアイだった。
「先生、それ正論!」
「その返しは反則ですよ!」
「アイが何も言い返せてない!」
「確かに!」
病室は笑い声に包まれる。
悠真も少し照れたように笑った。
「笑えるくらい元気なのは良いことです」
「ですが、傷口はまだ治療中です」
「急に体を動かしたり、無理をしたりしないでください」
「はーい!」
アイは子どものように元気よく返事をする。
悠真は小さくため息をついた。
「返事だけは満点ですね」
また笑いが起きる。
その笑顔を見ながら、六人は胸を撫で下ろした。
アイが生きていて、本当に良かった。
その気持ちに嘘はない。
けれど、誰もが同じことを感じていた。
アイは笑っている。
笑いすぎるくらい笑っている。
それなのに、どこか遠い。
昔からそうだった。
辛いことも、苦しいことも、誰にも話さず一人で抱え込む。
だからこそ、今も「大丈夫」という言葉を、そのまま信じ切ることができなかった。
「ねえ、みんな」
アイが笑顔で口を開く。
「私が休んでる間、B小町よろしくね!」
「……うん」
たかみーが静かに頷く。
「任せて」
「だから焦って戻ってこないで」
「ちゃんと治してからね」
「先生の言うこともちゃんと聞くんだよ」
「みんなまで先生みたいなこと言う~」
アイは頬を膨らませる。
その様子に、また小さな笑いが起きた。
けれど、その笑顔の奥にある本当の気持ちを知る者は、まだ誰もいなかった。
病室には温かな空気が流れていた。
それでも、アイと六人の間には、目には見えない小さな壁が残ったままだった。
その壁が取り払われるのは、もう少し先の話である。