【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜 作:ペンギンって可愛いですよね
大学病院に移り、しばらく経った。
手術を中心に数をこなし、偉い人にも認められる様になってきた。
「失礼します」
朝七時、悠真は白衣に袖を通し、大学病院の医局へ入った。
「おはようございます!」
「先生、おはようございます!」
若い医師や看護師たちが次々と頭を下げる。
悠真も軽く会釈を返した。
「今日のオペは?」
「午前が胃がん、午後が肝切除です」
「了解」
カルテに目を通しながら歩く。
二度目の人生。
再び選んだ外科医という道。
大変な仕事なのは前世で嫌というほど知っている。
それでも、後悔したことは一度もなかった。
命を救える。
その喜びは何度経験しても変わらない。
「先生」
研修医の一人が声を掛ける。
「どうしてそんなに落ち着いていられるんですか?」
「慣れかな」
悠真は笑った。
「焦っても患者さんは助からないからね」
その一言だけだった。
しかし、その言葉に研修医たちは真剣な表情で頷く。
彼らにとって悠真は、憧れの存在だった。
世界的な論文。
数々の難手術。
海外の医療学会からも招待される若き天才外科医。
それでいて驕ることもない。
だからこそ、多くの人から尊敬されていた。
その日も手術は無事成功した。
患者の家族は涙を流して何度も頭を下げる。
「ありがとうございました……!」
「先生のおかげです!」
悠真は穏やかに微笑んだ。
「頑張ったのは患者さん本人です。」
それだけ言って病室を後にする。
感謝されるために医者になったわけではない。
ただ、生きてほしい。
その思いだけだった。
夜。
マンションへ帰宅する。
「ただいま……と言っても、一人だけど」
少し苦笑しながら鍵を開ける。
その時だった。
隣の部屋から楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
「ママー!」
「わぁー!」
幼い子どもの声。
続いて、若い女性の優しい声が聞こえる。
「こらこら、走っちゃダメだよ?」
穏やかな声だった。
悠真は思わず笑みを浮かべる。
「仲の良い家族だな」
一人暮らしの部屋は静かだ。
だからこそ、その温かい声が少しだけ羨ましく感じた。
数日後...
休日、スーパーで買い物を終え、マンションへ戻る。
エレベーターの扉が開いた。
そこには帽子とマスクを付けた若い女性が立っていた。
大きなサングラスまで掛けている。
「どうぞ」
悠真が先に譲る。
「あ、ありがとうございます」
どこか聞き覚えのある声。
だが、悠真は特に気にしなかった。
芸能人なのだろうか。
そう思った程度だった。
エレベーターは同じ階で止まる。
女性は悠真の隣の部屋へ。
悠真はそのさらに隣の自室へ向かった。
「お隣さんだったのか」
女性も軽く会釈をする。
「これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ」
それだけ。
名前も知らない。
職業も知らない。
もちろん、その女性が日本中を熱狂させる人気アイドルだということも知らない。
部屋へ戻った悠真は、コーヒーを淹れながら窓の外を眺める。
夕焼けが街を赤く染めていた。
「平和だな……」
そう呟く。
この穏やかな日常が、いつまでも続く。
そんな錯覚を抱いていた。
しかし、その運命は数日後、一人の男がこのマンションを訪れたことで、大きく変わることになる。
その時の悠真は、まだ知る由もなかった。