【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜 作:ペンギンって可愛いですよね
アイが車いすを卒業してから数日後――。
苺プロダクションの事務所。
応接室にはアイ、アクア、ルビー、そして斉藤壱護とミヤコが集まっていた。
テーブルの上には、分厚い住宅情報誌や間取り図、不動産会社の資料が何冊も並んでいる。
「今日はどうしたの?」
アイが不思議そうに資料を見つめる。
「こんなに家の資料があるけど」
壱護は腕を組みながら口を開いた。
「今日は、お前たちの新しい家を探そうと思ってな」
「新しい家?」
アイは目を丸くした。
「今の仮社宅を出る時期だと思う」
その一言に、アイも表情を少し真剣にする。
現在三人が暮らしているのは、事件のあと苺プロダクションが急遽用意した仮社宅だった。
退院したばかりのアイは車いす生活で、一人ではほとんど動けなかった。
そのため、事務所から近く、壱護やミヤコがすぐ駆け付けられる場所を優先して決めた住まいだった。
生活するには十分だったが、あくまで療養のための仮住まい。
長く暮らすことを前提とした家ではない。
「アイも今はある程度一人で歩けるようになった」
壱護は続ける。
「だから、そろそろ本格的に住む家を探してもいい頃だ」
「確かに……」
アイも頷いた。
「今のお家には感謝してるけど、ずっと住むには少し狭いかなって思ってた」
ミヤコも優しく微笑む。
「私もそう思ってたの」
「それに、今度はもっと安全な家にしたいわ」
その言葉に、部屋の空気が少しだけ静かになる。
事件のことを忘れた者は、この場には誰もいなかった。
「今度はセキュリティを最優先にしましょう」
ミヤコは資料を一枚広げる。
「防犯カメラや警備会社との契約はもちろんだけど……」
少し考えてから壱護を見る。
「社長」
「ああ、俺も同じことを考えてた」
壱護は住宅情報誌を閉じた。
「マンションも悪くない」
「ただな……」
壱護はアクアとルビーを見る。
「子どものことを考えるなら、一軒家の方がいいと思う」
「一軒家?」
アイが聞き返す。
「ああ」
「庭があれば二人も遊べる」
「周りに気を遣わずに生活できる」
「走り回っても、下の階に迷惑を掛ける心配もない」
「将来、子ども部屋も十分確保できる」
「確かに……」
アイは納得したように頷いた。
「二人ものびのび育ててあげたいもんね」
ミヤコも笑顔で続ける。
「もちろん、防犯面もしっかり考えた一軒家よ」
「塀や門、監視カメラも設置できるし、マンションより自由に対策できる部分もあるわ」
アクアも静かに頷く。
「僕も一軒家の方がいいと思う」
「理由は?」
アイが尋ねる。
「人目につきにくい」
「お母さんは芸能人だから」
「マンションだと出入りを見られる可能性が高い」
「なるほど……」
壱護も感心したように笑う。
「そこまで考えてたか」
「確かにアクアの言う通りだ」
「じゃあ、一軒家を中心に探してみようかな」
アイも笑顔になった。
「うん!」
ルビーも元気よく手を挙げる。
「ルビー、お庭ほしい!」
「ブランコ置きたい!」
「あと、お花も育てたい!」
「いいわね」
ミヤコが微笑む。
「家庭菜園なんかも楽しそう」
「トマト!」
「いちご!」
「スイカ!」
ルビーの夢はどんどん広がっていく。
アクアは横で小さくため息をついた。
「最後は畑になりそうだね」
「いいじゃん!」
「いっぱい採れたら楽しそう!」
みんなが笑った。
そんな和やかな空気の中、壱護は別の資料を取り出した。
「ちなみに資金面だが」
「そこまで心配する必要はない」
アイは首を傾げる。
「なんで?」
壱護は売上資料をテーブルへ置いた。
「この前の記者会見の影響だ」
「記者会見?」
「ああ」
「七人全員で記者会見に臨んだだろ」
「その姿が世間でかなり評価された」
「B小町全員がお前を支え続ける姿に、多くの人が心を打たれたらしい」
「その結果――」
壱護は数字を指差す。
「CDの売り上げは以前の約四倍」
「仕事の依頼も倍以上になった」
「えぇ!?」
アイは驚いて資料を見つめた。
「四倍!?」
「そんなに?」
「ああ」
「正直、俺もここまで伸びるとは思ってなかった」
「今は給料を上げる方向で検討してる」
「もちろん、お前も復帰したら同じだ」
アイは嬉しそうに微笑んだ。
「みんな頑張ってくれたんだ……」
その横で、資料を見ていたルビーが腕を組み、大きく頷く。
「ようやく世界がB小町の魅力に気付いたみたいね」
どこか誇らしげな表情だった。
「今まで気付くのが遅すぎたのよ」
「ママたちは、ずっと最高だったんだから」
アクアは妹を見て、小さくため息をつく。
「いや、お前は関係ないだろ」
「え?」
ルビーは目を丸くした。
「関係あるもん!」
「どこが?」
「ずっとB小町を応援してたし!」
「ただのファンだろ」
「一番近くのファンだもん!」
「それで売り上げが四倍になったわけじゃない」
「なったかもしれないじゃん!」
「なってない」
「アクア、夢がない!」
「現実を言ってるだけ」
「もう!」
ルビーは頬を膨らませる。
その様子を見て、アイは思わず吹き出した。
「ふふっ」
「ルビーらしいね」
壱護も苦笑する。
「自分の手柄みたいな顔をしてるから笑ったぞ」
「だって嬉しかったんだもん!」
ルビーは照れ笑いを浮かべた。
「それだけB小町が大好きなんだね」
ミヤコが優しく言うと、ルビーは元気よく頷く。
「うん!」
「世界一好き!」
その言葉に、アイの表情が柔らかくなる。
「ありがとう、ルビー」
壱護は資料をまとめながら立ち上がった。
「じゃあ候補を絞るぞ」
「一軒家を中心に、安全第一で探す」
「今度こそ、三人が安心して暮らせる家を見つけよう」
こうして、アイたちの新しい家探しが本格的に始まった。
それは仮住まいを卒業し、新たな家族の思い出を積み重ねていくための、大切な第一歩だった。