【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第二十七話「新しい我が家の報告」

 

引っ越しが終わり、新しい生活にも少しずつ慣れ始めた数日後――。

 

今日は、アイの定期診察の日だった。

 

都立大学病院。

 

受付を済ませたアイは診察室のドアをノックする。

 

「失礼します」

 

「どうぞ」

 

中から聞こえてきた穏やかな声に、アイはドアを開けた。

 

「こんにちは、先生!」

 

「こんにちは、アイさん」

 

悠真はいつものように微笑みながら迎える。

 

「体調はいかがですか?」

 

「元気です!」

 

「それは良かったです」

 

アイは椅子へ座ると、どこか嬉しそうな表情を浮かべた。

 

「先生、実は報告があります!」

 

「何でしょうか?」

 

「引っ越しました!」

 

悠真は少し驚いたように目を瞬かせた。

 

「そうだったのですか」

 

「はい!」

 

「事件のあとに住んでた仮社宅を出て、新しい一軒家に引っ越したんです!」

 

「それは良かったですね」

 

悠真は素直に微笑んだ。

 

「安心して生活できる環境は、とても大切です」

 

「防犯カメラも付いてるし、センサーライトもあるし、玄関はツーロックで鍵もすごいらしいです!」

 

「警備会社とも契約しました!」

 

「それなら、以前より安心できますね」

 

悠真は満足そうに頷く。

 

「アクア君も安心してくれたのではないですか?」

 

「はい!」

 

アイは笑った。

 

「すっごく細かく確認してました」

 

「さすがアクア君ですね」

 

「四歳児とは思えない確認の仕方でした」

 

「ですよね!」

 

アイも苦笑する。

 

「でも、そのおかげで安心できました」

 

「それは何よりです」

 

悠真はカルテへ簡単にメモを書き込んだ。

 

するとアイは、少し申し訳なさそうな表情になる。

 

「あの……先生」

 

「はい」

 

「実は、ちょっと申し訳ないことがあって……」

 

「何でしょう?」

 

「先生に挨拶もしないまま、あのマンションを出ちゃったんです」

 

「ちゃんと『ありがとうございました』って言いたかったのに……」

 

そう言って肩を落とす。

 

悠真は穏やかに首を横へ振った。

 

「あんな事件があったのですから、それは仕方ありません」

 

「え?」

 

「私としては、こうして元気な姿を見せていただけるだけで十分です」

 

「それに、今こうして引っ越しの報告もしてくださいました」

 

「それで何も問題ありません」

 

「でも……」

 

アイは少し納得できないような顔をする。

 

悠真は優しく続けた。

 

「別に、あのマンションでご挨拶するのと、今ここでご報告いただくのと、大きな違いはないでしょう」

 

「それは……そうですけど」

 

アイは腕を組みながら考え込む。

 

「でも、住んでるところで挨拶したいじゃないですか」

 

「そういうものです!」

 

きっぱりと言い切る。

 

悠真は一瞬だけ考えた。

 

「……何となくお気持ちは分かるような気もします」

 

「ですよね!」

 

「ですが、やはり理屈はよく分かりません」

 

「えぇ!?」

 

アイは思わず声を上げた。

 

「分かりそうって言ったのに!」

 

「雰囲気は分かります」

 

「ですが、『住んでいた場所だからそこで挨拶したい』という理論は、私には少し難しいですね」

 

「そんなぁ……」

 

アイは机へ突っ伏しそうになる。

 

「先生、理系だからかなぁ」

 

「関係ありますか?」

 

「あります!」

 

「何となく!」

 

「何となくですか」

 

悠真は苦笑した。

 

「はい!」

 

アイは満面の笑みで頷く。

 

「先生って、何でも理屈で考えるタイプじゃないですか」

 

「否定はできません」

 

「だからです!」

 

「私は気持ちで動くタイプなんです!」

 

「なるほど」

 

悠真は静かに頷く。

 

「だから、私には理解しきれないわけですね」

 

「そういうことです!」

 

アイは満足そうに胸を張る。

 

悠真は思わず笑みを浮かべた。

 

「勉強になりました」

 

「えへへ」

 

診察室には穏やかな笑い声が響く。

 

事件から数か月。

 

ようやくアイは、新しい家で新しい生活を歩み始めた。

 

その笑顔を見ながら悠真は心の中で静かに安堵する。

 

――本当に元気になりましたね。

 

その一言を口には出さず、優しく微笑むだけだった。

 

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