【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜 作:ペンギンって可愛いですよね
アイがちょっと買い物へ出掛けた午後。
新しい家のリビングには、アクアとルビーだけが残っていた。
ルビーはソファで寝転びながらテレビを眺めている。
一方、アクアは相変わらず分厚い本を真剣な表情で読んでいた。
ページをめくる音だけが静かに響く。
ルビーは何気なく本の表紙を見る。
**『大学生のための線形代数学』**
その瞬間、大きなため息をついた。
「お兄ちゃん」
「何だ?」
「少しは隠しなよ」
アクアは本から目を離さない。
「何を?」
「頭の良さ」
ルビーは呆れたように言う。
「そんなことしてたら、いつか転生したことバレちゃうよ」
アクアは一枚ページをめくる。
「考えすぎだ」
「考えすぎじゃないよ」
「四歳児が大学数学読んでるんだよ?」
「普通じゃないもん」
アクアは落ち着いた口調で答える。
「世の中には小学生で大学へ進学する人間もいる」
「多少頭が良くても、そこまで不自然じゃない」
ルビーは思わずツッコむ。
「いやいやいや」
「お兄ちゃん四歳だからね?」
「小学生じゃないからね?」
「それに、『多少』じゃないから!」
アクアは肩をすくめた。
「別に外へ持って行くわけでもない」
「家で読んでいるだけだ」
「それでも十分すごいよ……」
ルビーは苦笑する。
「もし誰かに見られたら?」
「天才児だと思われるだけだ」
「転生者だなんて普通は考えない」
「それは……まあそうだけど」
ルビーは腕を組んで考え込む。
「でも、お兄ちゃんって加減知らないじゃん」
「気付いたら何でもできちゃうし」
「そのうち絶対、『何者!?』ってなるよ」
「その時はその時だ」
「軽いなぁ……」
ルビーは呆れながら笑った。
「それより」
アクアは本を閉じ、ルビーを見る。
「お前も少しは勉強しろ」
「…………」
ルビーは数秒固まった。
そして思わず吹き出す。
「四歳児に『勉強しろ』って言う人、普通いないと思うよ!」
「そうか?」
「そうだよ!」
ルビーは笑いながら肩を震わせる。
「でもさ」
「何だ?」
「確かに、お兄ちゃんはちょっとうらやましいかも」
「何が?」
「頭の良さ」
ルビーは照れくさそうに笑う。
「ちょっとでいいから、その頭分けてほしいよ」
アクアは真顔で答えた。
「頭は分けられない」
「そこは『いいよ』って言うところでしょ!」
「無理なものは無理だ」
「夢がないなぁ」
「現実的なだけだ」
ルビーは苦笑しながらソファへ寝転がる。
「でも、お兄ちゃんがいてくれて助かるよ」
「何だかんだ頼りになるし」
アクアは少しだけ視線をルビーへ向けた。
「お前はもう少し危機感を持て」
「転生者が二人いるなんて、普通じゃないんだから」
「分かってるよ」
ルビーは天井を見つめながら答えた。
「だからこそ、お兄ちゃんにも気を付けてほしいの」
「うっかり目立ちすぎて、変な人たちに目を付けられたら嫌だもん」
アクアは静かに本を開き直す。
「善処する」
「その返事、一番信用できないんだけど……」
ルビーは苦笑し、アクアは何事もなかったかのように再び大学数学の本へ視線を戻した。
静かなリビングには、再びページをめくる音だけが響いていた。