【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第三話「運命の朝」

 

休日の朝。

 

窓から差し込む柔らかな陽射しが部屋を照らしていた。

 

悠真はゆっくりと目を覚まし、大きく伸びをする。

 

「久しぶりによく寝たな」

 

大学病院に勤める外科医である彼にとって、休日は何よりも貴重だった。

 

コーヒーを淹れ、ベランダへ出る。

 

心地よい風が頬を撫でる。

 

「こういう朝も悪くない」

 

しばらく景色を眺めたあと部屋へ戻り、ソファへ腰を下ろす。

 

読みかけの医学雑誌を開く。

 

その時、隣の部屋から元気な声が聞こえてきた。

 

「ママー!」

 

「今日がんばってね!」

 

思わず笑みがこぼれる。

 

「元気だな」

 

続いて若い女性の優しい声が聞こえた。

 

「ありがとう。ママ、頑張ってくるね」

 

聞こえた声は以前エレベーターで会った隣人の声だ。

 

その時は帽子にマスク、サングラス姿だったため顔は分からなかったが、芸能関係の仕事をしているのだろうと勝手に思っていた。

 

しばらくすると、隣の部屋でインターホンが鳴る。

 

「ピンポーン」

 

玄関へ向かう足音が聞こえた。

 

悠真は気にすることなく雑誌へ目を落とす。

 

玄関先では何か話しているようだった。

 

会話の内容までは聞こえない。

 

だが、妙に長い。

 

「知り合いかな」

 

そう思った次の瞬間だった。

 

ドンッ――

 

何かが倒れるような音が響く。

 

続いて悲鳴。

 

「きゃあっ!」

 

悠真は勢いよく立ち上がる。

 

「何だ!?」

 

玄関を開け、廊下へ飛び出した。

 

目の前では、一人の男が走り去っていく。

 

悠真は一瞬だけ男を見る。

 

しかし、すぐに視線を倒れている女性へ向けた。

 

その横では、小さな少年が必死に女性の腹部を押さえている。

 

「お母さん!」

 

少年の両手は血で真っ赤だった。

 

圧迫止血。

 

しかも押さえる位置が正確だった。

 

悠真は一瞬だけ驚く。

 

(この子……応急処置を知っている?)

 

だが考えている時間はない。

 

女性のそばへ駆け寄る。

 

腹部刺創。

 

大量出血。

 

しかし、まだ意識はある。

 

「まだ助かる」

 

悠真はすぐ少年へ声を掛けた。

 

「君」

 

少年が顔を上げる。

 

「俺は医者だ」

 

「このまま手伝えるか」

 

少年は驚いた表情を見せたが、すぐに頷く。

 

「できます」

 

迷いのない返事だった。

 

悠真は内心驚く。

 

(普通の子どもならこんな返事はしない)

 

「そのまま傷口を強く押さえて」

 

「力は絶対に緩めない」

 

「分かりました」

 

少年は迷わず従う。

 

悠真は自分の上着を丸め、傷口へ当てる。

 

「これを当てろ」

 

「その上から押さえてくれ」

 

「はい」

 

少年は手際よく圧迫を続けた。

 

手の位置。

 

力の掛け方。

 

どれも正確だった。

 

悠真は確信する。

 

(やっぱり知識がある)

 

(この子は只者じゃない)

 

悠真はスマートフォンを取り出す。

 

「119番ですか!」

 

「女性が刺されました!」

 

「腹部刺創、大量出血!」

 

「意識はあります!」

 

住所を伝えながらも処置は止めない。

 

その時、部屋の奥から泣きそうな声が響いた。

 

「ママー!」

 

「お兄ちゃん!」

 

「どうしたの!?」

 

ルビーだった。

 

リビングにいるため、何が起きたのか分かっていない。

 

少年は振り返る。

 

「ルビー!」

 

「こっちへ来ちゃ駄目だ!」

 

「でも!」

 

「お願いだから部屋にいて!」

 

ルビーは泣きながら返事をする。

 

「うん……」

 

やがて近所の住人も集まり始める。

 

「救急車を入口まで誘導してください!」

 

「清潔なタオルがあれば持ってきてください!」

 

悠真の指示で住人たちが動き出した。

 

数分後、救急車のサイレンが近付いてくる。

 

救急隊が到着し、ストレッチャーが運ばれてきた。

 

「処置されていた先生ですか」

 

「大学病院勤務の外科医です」

 

「受傷直後から圧迫止血を継続しています」

 

救急隊へ簡潔に申し送りを行う。

 

その時だった。

 

悠真は改めて女性の顔を見た。

 

長い紫色の髪。

 

吸い込まれそうな星の宿った瞳。

 

整った顔立ち。

 

「……え」

 

どこかで見たことがある。

 

テレビ。

 

雑誌。

 

ネットニュース。

 

何度も目にした顔だった。

 

「……星野アイ?」

 

悠真の鼓動が大きく跳ねる。

 

その隣では、少年が必死に女性の手を握りながら叫んでいた。

 

「お母さん!」

 

その一言で、すべてが繋がった。

 

(この子がアクア……)

 

(部屋の中にいるのがルビー……)

 

(星野アイ……)

 

人気アイドル。

 

双子の子ども。

 

東京ドーム公演の日。

 

そして――この事件。

 

忘れていた記憶が、一気によみがえった。

 

悠真は信じられないという表情でアイを見つめる。

 

「まさか……」

 

「ここは……『【推しの子】』の世界だったのか……」

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